呼吸ケア

呼吸ケアの基礎2  低酸素血症の原因と対策を考える!(拡散障害)

呼吸ケアの基礎2  低酸素血症の原因と対策を考える!(拡散障害)

 

『この呼吸ケアのコーナーは呼吸ケアを学ぶ看護師・理学療法士などを対象に書かれています』

 

はじめに

前回は呼吸ケアの基礎 第一回目として動脈血酸素分圧と呼吸不全の定義について解説しました。

これからは呼吸不全の定義となる動脈血酸素分圧の低下(低酸素血症)の原因とそのケア方法の基本的な考え方について解説したいと思います。

 

今回は「拡散障害」について解説します。

 

低酸素血症の原因について!

低酸素血症の原因としては主に以下の4点が挙げられます。

  1. 拡散障害
  2. 肺内シャント
  3. 換気血流比不均等分布
  4. 肺胞低換気による高炭酸ガス血症

これからはこれらの問題点について順番に解説していきます。

 

拡散障害

「拡散」とは、その気体の濃度が高い(分圧が高い)ところから、濃度の低い(分圧が低い)ところに、その気体の分子が移動していく現象を言います。

この「拡散」という言葉を辞書で調べると

  1. 広がり散ること
  2. 一つの液体に他の液体を、あるいは一つの気体に他の気体を入れた時、二つの物体がだんだんと混ざり、全体が等質となる現象。

拡散1

呼吸ケアの領域での拡散で一番重要なのは、もちろん肺胞気と周囲の毛細血管の血液の間で起こる拡散で、肺胞気 → 毛細血管血 に酸素が移動し、毛細血管血 → 肺胞気 に二酸化炭素が移動し、それぞれの気体の濃度が均等になっていきます。

つまりは肺胞での拡散によるガス交換は、酸素濃度の高い肺胞気から酸素濃度の低い周囲の毛細血管血に対して酸素が移動して血液の酸素分圧を高め、二酸化炭素濃度の高い周囲の毛細血管血から二酸化炭素濃度の低い肺胞気に二酸化炭素が移動して、体外への二酸化炭素の排出を行うことになります。

肺胞での拡散1

 

肺胞気と周囲の毛細血管血の間での拡散は、肺胞上皮細胞と血管内皮細胞の膜を通して行われますから、何も遮るものがない空間での拡散と異なり、拡散にロスが生じます。

 

『肺胞気動脈血酸素分圧格差(a-ADO2)』

この時の酸素分子が2枚の膜を通過した時に起きるロスで生じる肺胞気と動脈血の酸素分圧の差を、「肺胞気動脈血酸素分圧格差(A-aDO2)」と呼びます。

A-aDO2 1

『肺胞気動脈血酸素分圧格差(a-ADO2)』の正常値

A-aDO2: 5 ~ 15 mmHg (正常値)

 

『肺胞気動脈血酸素分圧格差(A-aDO2)』の計算式

A-aDO2 = PAO2 – PaO2    (単位: mmHg )

PAO2 = (760-47)×0.21-PaCO2/0.8

 

この酸素分圧格差が拡がることは、肺胞と周囲の毛細血管の膜を通した酸素の拡散が障害され、拡散障害となり、動脈血酸素分圧が低下して、低酸素血症に陥ることを意味しています。

 

拡散障害の原因は?

では肺胞での酸素分子の拡散障害はどの様な原因で起きるのでしょうか?

 

拡散障害の原因

① 拡散膜面積の減少

② 拡散膜の肥厚

③ 肺毛細血管での肺胞気と血液の接触時間の減少

 

以上の3点が主な拡散障害の原因となります。

 

① 拡散膜面積の減少

肺でのガス交換は、呼吸細気管支と肺胞の膜で行われています。 この肺胞の膜面積は約70㎡でテニスコート1面分に匹敵します。

ではこの肺胞の膜面積が減少するのはどういった疾患によるのでしょう?

一番わかりやすい例をご紹介すると、それは『肺気腫』です。

『肺気腫』というのは、肺胞が破壊されて肺が気腫化する病気ですから、当然の事に肺胞の膜面積が減少します。

拡散膜面積減少1

肺気腫 2

 

② 拡散膜の肥厚

肺の拡散膜である肺胞上皮と血管内皮の膜が肥厚した場合も、その膜を酸素分子が通過しにくくなり、拡散障害が起こります。

この拡散膜が肥厚する疾患にはどんなものがあるでしょう?

一般的なものでは、『間質性肺炎』と『肺水腫』です。

『間質性肺炎』は文字どおり、肺胞上皮と血管内皮の間の間質に炎症が起こり、壁が厚く硬くなり(線維化)ガス交換をじゃまするようになります。

拡散膜の肥厚 1

また『肺水腫』は左心不全や急性呼吸促迫症候群(ARDS)などで見られる症状です。

この場合は、肺水腫が重度に進行した場合は、肺胞内が水で満たされて、肺内シャントになり重度の低酸素血を引き起こします。

しかし肺水腫が軽度の場合は、水が肺胞の膜の内側に、水の膜を薄く作る程度になります。

酸素は水には溶けにくい性質を持っているため、この薄い水の膜が酸素の拡散を妨げてしまうのです。

 

※ ARDSによる肺水腫のケアは、重症化した呼吸不全のケアをしなければならないために、非常に難しいものとなり、その呼吸状態も病態や重症度でクルクルと変化するので、それをしっかりと捉えてケアする知識が大切になります。

 

③ 肺毛細血管での肺胞気と血液の接触時間の減少

一般的に肺胞の周囲の毛細血管の中を血液が通過する時間は 0.75秒と言われています。 そして酸素分子が肺胞の膜を通過するのに必要な時間は 0.25秒と言われています。

正常な場合は、肺胞で酸素のガス交換を行うには、十分な時間的余裕があります。

しかし心拍数や血圧が上昇して血流が早くなると、肺毛細血管の中を血液が通過する時間が短くなり、肺胞で酸素のガス交換を行う時間的な余裕が失われます。

 

※『間質性肺炎』の酸素分子が膜を通過する時間は 0.5秒程度になると言われています。 ですから安静時には肺胞で酸素のガス交換を行う時間的な余裕がありますが、運動時には、肺胞の毛細血管内を流れる血流の速度が上昇して、ガス交換が十分にできなくなります。 これが『間質性肺炎』の患者さんが歩行時に急激に低酸素になる原因と考えられています。

 

 

拡散障害への対応方法

 

拡散障害への対処法方は「酸素療法」が基本です!

 

拡散の効果を高める方法として唯一有効なのが、拡散圧格差を高めるということです。

つまりは肺胞内の酸素分圧を高めてやれば、膜に拡散障害があっても、酸素分子を多めに毛細血管血に移動させることができます。

そのためには肺胞に吸い込む酸素の濃度を高めてやれば良いのです。

ですから拡散障害による低酸素血症への対応方法は「酸素療法」が一番の選択肢になります。

拡散障害に対する呼吸理学療法(スクィージング+スプリンギング)などはほとんど効果がありません。

 

ケアポイント

※『肺気腫』に対する呼吸理学療法は、肺の酸素化能を高めるためではなく、呼吸補助筋のコンディショニングや胸郭の可動性を改善(胸郭コンプライアンス改善)により、呼吸困難感を軽減して運動回避傾向を解消するために行います。

 

ケアプイント

※『急性呼吸促迫症候群』の肺水腫に対する呼吸理学療法(スクィージング+スプリンギング)は基本的には禁忌となります。 呼吸理学療法(スクィージング+スプリンギング)による肺胞内の水種の除去はできませんし、胸啌内を陰圧にすることで、肺胞内にさらに水を引き込んで、肺水腫を悪化させてしまいます。

 

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

 

次回は

「呼吸ケアの基礎3 低酸素血症の原因と対策を考える!(肺内シャント)」

の解説を行います。

 

注意

この『呼吸ケア』カテゴリの記事は一般の方でなく理学療法士などの専門職に向けて書かれておりますので、一般の方には少し難しい内容になっております。

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