小児リハビリ

脳の神経構造から考える『子供のやる気を引き出す』方法論!

脳の神経構造から考える『子供のやる気を引き出す』方法論!

 

はじめに

子供のリハビリテーションを行っていて、一番苦労するのが「子供のやる気をどう引き出していけばいいのか?」ということではないでしょうか。

子供がリハビリテーションを自分から積極的に行うか、いやいや行うかは、その後の回復に大きな差を生んでしまいます。

なんとか子供にやる気を持たせたいというのは、すべての親御さんやセラピストの悩みなのではないでしょうか?

 

今回は子供のやる気を戦略的に引き出すための、脳の神経構造から考えるアプローチについて解説したいと思います。

 

 

脳の可塑性について!

一次運動野・内包L2 一次運動野・内包L1

近年の脳科学の発展に伴い、脳の「可塑性(Plasticity)」というものが注目されてきています。

この脳の可塑性(Plasticity)というのは、脳の働きがどんどん成長し変化することを意味しています。

そして一旦は障害された脳神経のネットワークも、脳に新たな知識や経験を蓄積することで、脳神経の新たなネットワークを構築したり、ネットワークを太くしたり拡大したりして、脳の機能自体をカスタマイズできるということが分かってきたのです。

 

そしてこの神経ネットワーク回路を新たに形成する機構が脳の錐体細胞(実際の脳神経としての機能を持つ細胞)にあることが分かってきています。

 

脳の錐体細胞(神経細胞)は、その細胞体から「樹状突起」と呼ばれる情報を集めるための枝と、「軸索」という他の神経細胞へ情報を伝えるための枝を持っており、お互いの神経細胞同士を「シナプス」という接続を作って、情報のやり取りをしています。

そして『指で物をつかむ』などの特定のイベントのコードを、多数の神経細胞が同期して活動することで、実現しています。

それはあたかもコンピューターが16個の「0」と「1」組み合わせてでアルファベットを表示し、そのアルファベットの組み合わせで、プログラムを書き上げていく様子と似ています。

 

この神経細胞集団の機能的結合様式が上手く機能していなかったり、障害されてしまっている場合に、リハビリテーションにより、個々のシナプス形成を促すことで、新たなイベントコードを行う新たな神経細胞集団を再形成する作業が、いわゆる脳の「可塑性(Plasticity)」に働きかけることになります。

 

神経ネットワーク回路の再形成をもたらす機構

この神経再生機構には以下の4種類があります。

  1. シナプス顕在化
  2. 神経発芽・側芽形成
  3. シナプス増強
  4. 神経新生

この神経機構に対する詳しい説明は、今回は省略しますが、失われたあるいは不足している、神経活動のイベントコードを補足するような、新たな神経細胞の活動が生成されるシステムがあることが分かってきています。

 

ですからリハビリテーションのやり方自体が、『いかにして新たな脳神経ネットワークを作り、残された正常な機能を活用して、障害された機能を補足していくのか』という神経の機能を改善しようとするものに変わってきています。

 

つまりは子供の手足をコンピュータの端末キーボードの様に使って、脳内に新しいプログラムを書いていく様なリハビリテーションになってきています。

この最新の脳科学に基づくリハビリテーション方法を「ニューロリハビリテーション」と言います。

 

 

小児ニューロリハビリテーションでは子供の自主性が何より大切です!

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しかしこのニューロリハビリテーションを進める上で、とても大切な事が1つあるのです。

それは脳の中に効果的にネットワークを構築するために「子供が自分から意識して動作をしなくてはならない」ということです。

 

ニューロリハビリテーションでは、脳に新たなネットワークを作ったり、そのネットワークを強化するために、子供が自分から強く意識して動作を行っていかなくてはならないのです。

 

大人であれば「このニューロリハビリテーションの仕組み」を本人に説明するだけで、後は本人に任せて、こちらは正しい運動刺激をインプットすることに専念すればいいのです。

 

でも子供の場合はそうはいきません。

子供に対して言葉で言っても理解してもらうことはまず不可能でしょう!

 

ではどうすればいいのか?

 

実は脳科学ではある運動を繰り返し行うことで「子供のやる気を育てる方法」が分かってきているのです。

その仕組みは脳の神経構造ですでに証明されてきています。

 

それでは「子供のやる気を育てるための脳の神経の機能」について解説していきましょう。

 

 

子供のやる気に関わる脳の神経構造

 

側頭葉と大脳辺縁系による情動(感情)コントロール

実は感情と実際の行動は強く結びついています。

これは今までの経験や記憶から、それが自分に害があると判断すれば、「不快」な感情を持ち、その行動を回避するようになります。

それが今までの経験や記憶から、例えばその動作ができた時に、両親や家族みんなからとても褒められた、などの報酬系の刺激が受けられた場合など、自分にとって良いと判断すれば「うれしい」などの感情を持ち、その行動をドンドン行うようになります。

感情は行動を制御してリハビリテーションの成果に直接的に大きな影響を与えます。

ですから小児のリハビリテーションを行う上では、この感情のコントロールシステムをよく理解した上で、子供の運動とやる気を引き出していかなければなりません。

 

運動コントロールの頭頂葉ラインと感情コントロールの側頭葉ライン

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側頭葉の内側には、『海馬』と『扁桃体』と呼ばれる大脳辺縁系に属する神経核があります。

『海馬』は「記憶の書き込み」や「記憶の想起」に関わっており、海馬の先にある『扁桃体』はその記憶に関連した「感情」をコントロールしています。

この記憶と感情の回路は、様々な感覚情報を受け取っており、後頭葉からの視覚情報や、視床などからの体性感覚を受け取っています。

またこの回路は運動制御に関わる『高次運動野』や『大脳基底核』などの回路とも連携しており、感情と行動の連携を図っています。

例を挙げると、「模様のついた縄を見たら、ヘビかと思って、びっくりして飛び上がって逃げた」とか、「道の反対側から歩いてくる人が、仲の良い友達だと気がついて、走って近寄った」などの行動はこれらの回路がコントロールしているのです。

この感情コントロールの側頭葉ラインに対して、頭頂葉と前頭葉、後頭葉のラインは、運動をコントロールするためのラインであることが知られていて、この二つのラインは密接に連携しています。

 

報酬系による情動行動の制御

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例えばセラピストから、何らかの運動刺激が子供の体に与えられたとします。

この時に子供は、この与えられた動作に対して「気持ちがいい」「痛い」「怖い」などの感情的な判断を下します。

これらの情報は『前島皮質』や『眼窩前頭皮質』『前帯状皮質』などで、自分にとっての驚異となるか、報酬となるかの判断を行い行動が制御されます。

特に『前帯状皮質』では「報酬予測誤差」の修正により、行動の切り替えが行われます。

これはある行動を行った時の結果が、自分の予測に反していた時に、予想外の結果に驚くと同時に、その他の行動により報酬を得ようとして、行動を切り替えていく反応です。

例としては、「立つ練習を一生懸命にやったのに、短時間ではあまり上達しなかったが、自分ではもっと早く立てるようになると思っていたので、立つ練習にやる気が出なくなって、他の運動を好むようになる」などのケースです。

子供にリハビリテーションとして、ある動作を行わせた場合、子供がその動作を「楽しい」「面白い」と感じるのか、「怖い」「痛い」と感じるのかでは、その後の練習に大きな影響を与えます。

また報酬系に注目すると、たとえ「楽しい」運動であったとしても、その後に「自分の運動機能が高まる」などの報酬が無い場合は、練習が長続きしない場合がありますし、たとえ「痛い」ケアであったとしても、その後の体が「楽になる」などの報酬が働けば、たとえ「痛い」ケアで会っても子供の協力が得られる場合があります。

 

これらの感情コントロールのシステムをよく理解した上で、上手に子供のやる気を引き出すためのアプローチを行うことが大切になります。

 

これをリハビリテーションに置き換えて考えてみると

  1. 楽しく遊びながら体を動かしていたら寝返りが自分でできるようになった!
  2. 痛い手足を無理動かされて怖い動作を無理強いされたら悲しくなった!

この2つの動作をそれぞれ繰り返していくと、① ではリハビリテーションに対する意欲はドンドン高まっていき ② ではリハビリテーション自体が嫌いになってしまうでしょう。

 

実は後々怖い『早い行動制御系』

じつは感情などに関連した行動制御には『早い行動制御系』と『遅い行動制御系』が存在します。

『遅い行動制御』には感情と行動を制御する多くの大脳皮質が関わって、「じっくり吟味して行動を制御」しています。

しかし世の中には急いで決断しなければ、怪我をしたり命に関わる場合もあります。

そんな時には『早い行動制御』が必要になります。

これは大脳皮質を介さずに、視覚や体性感覚、嗅覚などの感覚情報と、記憶と感情の中枢で、瞬間的に判断します。

先にお話しした「模様のついた縄を見たら、ヘビかと思って、びっくりして飛び上がって逃げた」が良い例でしょう!

 

そしてこの『早い行動制御』は嫌いなこと、嫌なことほど素早く回路が作られます。

子供の神経回路に、この『嫌いな早い行動制御』を作ってしまうと、本当に厄介です。

子供は嫌な運動をさせるセラピストの顔を見ただけで、思考停止して拒絶するようになってしまいます。

こうなるともうニューロリハビリテーションはできません。

 

扁桃体や海馬では過去の感情記憶に基づいて運動を選択していますから、② の無理強いされた動作を自分からはやらなくなってしまいます。 でもセラピストや親が無理強いしてでもやらせたい動作は「本来はとても本人のためになる大切な動作」なのです。

 

でもニューロリハビリテーションは本人が意識して(やる気を持って)動作を練習しないと、脳神経ネットワークが強化されないのです。

 

これはどうしたらいいのでしょう?

 

この場合に大切なのは「まずはじめに自主性とやる気を育てておき」その後に「難しいが必要な練習動作に誘導していく」ことなのです。

 

でもリハビリテーションアプローチで子供の自主性を育てるなんて、そんなことが本当に可能なのでしょうか?

障害を持った子供の自主性とやる気を育てるなんて、本当にできるのでしょうか?

 

実はそれに関しても脳の神経構造の特性から、ある法則が見つかっているのです。

それはどんな神経構造の特性なのでしょうか?

 

 

運動コントロールネットワークと感情コントロールネットワークの相互作用!

 

皆さんはこんな経験はありませんか?

体育の授業で、はじめはやる気が出なくて「面倒くさいな~」と思いながらやっていたバレーボールにいつしか夢中になって真剣にやってしまっていた。

別に競技はバスケットボールでも水泳でもなんでもいいのです。

 

ありますよね!

 

実はこれには種明かしがあるのです。

 

運動コントロールネットワークである大脳基底核と間脳

 

大脳基底核にある「被殻(淡蒼球)」とその隣の間脳に含まれる「視床」は運動コントロールに重要な働きをしており、この部分の運動コントロールが障害されると、すくみ足やリズム障害や姿勢制御の異常(姿勢反射障害)などのパーキンソン症候と呼ばれる症状が出ます。

 

この「被殻(淡蒼球)」と「視床」の運動コントロールは「小脳」と連携して、大脳皮質から指示された動作に基づく、正しい動作の選択や微調整、熟練したスムースな動作などを生み出すためのコントロールを常に行っているのです。

 

そしてこの「被殻(淡蒼球)」と「視床」の運動コントロールのための神経伝達に使われる物質(神経伝達物質)はドーパミンと呼ばれるものが使われています。

実はこの神経伝達物質「ドーパミン」は「欲求」を引き起こす物質と言われており、このドーパミンを使う神経ネットワークは「報酬系」と呼ばれています。

 

そしてこの「報酬系」の「被殻(淡蒼球)」と「視床」の運動コントロールネットワークは、先にご説明した扁桃体とも密接な連携を持っているようなのです。

それは感情が心の変化だけでなく、行動や体内の変化にも影響しているからです。

つまりは「喜びのあまり大声をあげたり」「感情が高ぶって泣いてしまったり」「緊張して冷や汗をかいたり」という様々な行動や体の変化が、感情と密接に関係しているのです。

 

例えば美味しいものを食べた時、「被殻」を含む大脳基底核にある「側坐核」がドーパミンに反応して、「もっと食べたい」という欲求を生みだします。

これと同じように繰り返しの運動練習で、その運動が上手にできると感じた時に、喜びを感じるとともに、「もっと運動したい」という欲求が生じるのです。

 

「被殻(淡蒼球)」と「視床」の運動コントロールネットワークは、熟練動作にも関係しているので、おそらくは動作が上手になって熟練していくことを楽しいと考えて、「もっと練習したい」と考えることが我々にとってとても大切なことだからなのでしょう。

 

ですからこの脳の運動コントロールネットワーク(報酬系)と感情コントロールネットワークの連携を巧みに利用した運動練習方法を取り入れることで、お子さんの脳の中に「運動が楽しい」「もっと練習したい」という報酬系のネットワークを作り上げることができるのです。

 

そうすれば子供は自分から積極的に運動を練習するようになります。

 

はい! 自主性とやる気のある子供の出来上がりです。

 

次回からは自主性とやる気のある子供の育て方の具体的な方法について解説していきます。

 

 

次回は

「我が子をリハビリの達人に育てる! 頭頂葉の運動コントロール系」

について解説いたします。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

 

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたのお子さんの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

 

 

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