呼吸ケア

呼吸ケア 人工呼吸管理 1 人工呼吸器とは何か?

呼吸ケア 人工呼吸管理 1 人工呼吸器とは何か?

 

『この呼吸ケアのコーナーは呼吸ケアを学ぶ看護師・理学療法士などを対象に書かれています』

 

はじめに

日本では人工呼吸器の事を、間違ってRspirator と呼んでいる場合がありますが、正しくは欧米では Ventilator と呼んでいます。

ですから本来であれば人工呼吸器ではなく、人工換気器と訳すのが正しいのですが、そうなるとなんだかピンとこないので、日本では人工呼吸器と呼ばれています。

本来の呼吸とは、肺胞でのガス交換や、細胞レベルでの内呼吸(ミトコンドリアでの酸素利用)を含みますから、人工呼吸器と呼んでしまうと、現代の科学では作れない、非常に高度な装置のことになってしまいます。

ですから本来のVentilator と呼ばれている人工呼吸器とは、患者さんの換気を補助する器械、つまり自動で動くアンビューバッグに酸素ブレンダーを付けて、換気の補助と酸素療法を同時にできるようにした機械と考えると理解しやすいと思います。

今回は様々な人工呼吸器について分かりやすく解説したいと思います。

 

自発呼吸と人工呼吸

 

自発呼吸とはどんな呼吸か?

皆さんが普通に日常でしている呼吸を自発呼吸と呼びます。

この自発呼吸の仕組みは、胸郭の底についている横隔膜を引き下げることで、胸郭の容積を増やし、胸腔内圧を下げ、その陰圧で肺を広げて吸気を肺胞内に引き込みます。

ですから自発呼吸は、マイナスの圧で空気を肺に引き込む、陰圧呼吸ということになります。

それに対して、一般的な人工呼吸器は、気管内にチューブを入れてバルーンで気管とチューブの隙間を密封した状態で、圧をかけて肺に空気を送り込みます。

ですから一般的な人工呼吸は、プラスの圧で肺に吸気を押し込む、陽圧換気ということになります。

 

自発呼吸 = 陰圧換気

人工呼吸 = 陽圧換気

 

これをまず最初にしっかり覚えておいてください。

 

なぜ人工呼吸器が必要になるのか?

まず最初に人工呼吸器の前に立った時の皆さんのお仕事は、呼吸理学療法を適切に行って人工呼吸器からのウィーニングを行うことだと思います。

ですからなぜこの患者さんに人工呼吸器をつける必要があったのかを、しっかり理解しておかないと、どうやって人工呼吸器を外すかが分からなくなってしまいます。

人工呼吸器はたいそう複雑な外見をしていて、生命維持装置の仲間に入れられていますから、ついついその仕組みを難しく考えてしまいがちです。

しかし最初にお話ししたように、人工呼吸器とは「単なる自動で動くアンビューバッグ」にすぎません。

ですからその仕事も「換気の補助」ということになります。

 

ではどんな時に「換気の補助」を人工呼吸器にお願いしなければならないのでしょうか?

 

それはズバリ「患者さんが自力で自発呼吸を維持できなくなった」から人工呼吸器で換気補助を行うことになったのです。

 

なぜ患者さんは自発呼吸を維持できなくなったのでしょう?

 

自発呼吸が困難になる原因とは!

自発呼吸(つまり自力で肺を動かして息を吸ったり吐いたりすること)は、横隔膜のドームを引き下げることで、胸郭の容積を増やし、肺を下に引き下げるように拡げて、空気を肺に吸い込みます。

ですから自発呼吸ができなくなるとは、「横隔膜(呼吸筋)が動かなくなって、肺を拡げられなくなったから!」ということができます。

 

ではなぜ呼吸筋が動かなくなってしまうのでしょう?

 

呼吸筋が動かなくなる原因

⑴ 呼吸筋を動かす中枢神経が麻痺したから

⑵ 呼吸筋を動かす末梢神経が麻痺したから

⑶ 呼吸筋が障害されたから

⑷ 呼吸筋が疲労したから

 

⑴ の呼吸筋を動かす中枢神経の麻痺は、脳卒中などで呼吸中枢を障害された場合を考えていただけば良いと思います。 脳幹部出血などで呼吸中枢が障害されると、自発呼吸ができなくなり、人工呼吸管理になります。

⑵ の呼吸筋を動かす末梢神経の麻痺は、消化器外科の手術などで横隔神経を切断することになった場合などが挙げられます。

⑶ の呼吸筋が障害されるケースとは、事故などで横隔膜に損傷があった場合や、筋線維の変性疾患などが挙げられます。

⑷ 呼吸筋が疲労した場合は、呼吸筋の疲労が蓄積してくると、呼吸自体が浅く速い呼吸となり、換気効率が低下し、身体に大きく負担をかけてしまい、全身状態を悪化させる原因となり、放置すれば呼吸停止して死亡します。

 

臨床的に一番よく見られて、重要なのが、呼吸筋疲労に対する人工呼吸管理です。

 

なぜ患者さんは呼吸筋疲労に陥るのでしょうか?

 

呼吸筋疲労の原因

自発呼吸を安定的に継続するためには、横隔膜(呼吸筋)の出力が十分にあって、余裕を持って呼吸運動を継続できることが必要になります。

逆に横隔膜(呼吸筋)の出力に余裕がなくなると、呼吸運動を継続することができなくなります。

呼吸運動は横隔膜(呼吸筋)が胸郭と肺を動かして、息を吸ったり吐いたりします。 そしてその息は気道と気管支を通って肺胞に送られます。

つまり自発呼吸は胸郭の硬さや、気管支の抵抗に対して、横隔膜が十分な余力があるのかどうかが重要なのです。

 

呼吸運動における抵抗因子

⑴ 気道抵抗

⑵ 胸郭の硬さ(胸郭コンプライアンス)

⑶ 肺の硬さ (肺コンプライアンス)

 

呼吸運動における出力

⑴ 横隔膜筋力(主呼吸筋)

⑵ 胸郭の筋群(呼吸補助筋)

⑶ 頸部周囲の筋群(呼吸補助筋)

 

初めに呼吸運動に対する抵抗因子について考えてみましょう

 

気道抵抗が増加する原因

⑴ 気管支の炎症

⑵ 気管支平滑筋の攣縮

⑶ 気道内分泌物の増加

⑷ 気道内の異物(腫瘍や誤飲)

 

気道抵抗が増加する一般的なケースとは、主に慢性気管支炎や気管支喘息などにより、気管支炎症、気道内分泌物の増加、気管支平滑筋の攣縮などが起こっている場合です。

 

この気道抵抗の増加により起きる問題は、吸気の時に呼吸筋に対する抵抗が増えて呼吸筋疲労を起こしやすいことは当然ですが、もう一つ問題があります。

 

実は人工呼吸器は吸気をサポートしてくれますが、呼気をサポートすることが出来ません。

 

もし人工呼吸器が患者さんの呼気をサポートしようとして、肺から空気を吸い出したとしたら、患者さんの肺はあっという間に無気肺だらけになってしまいます。

ですから一般的な人工呼吸器は吸気のサポートしか出来ないので、患者さんは呼気に関しては自力で行わなければなりません。

 

もし患者さんの気道抵抗が高まっていた場合には、呼気延長に注意して呼吸を観察してください。

そして人工呼吸管理中に呼気延長が観察された場合には、呼吸筋疲労だけでなく、『圧損傷(バロトラウマ)』に細心の注意を払う必要があります。

『圧損傷(バロトラウマ)』とは人工呼吸器の圧で肺胞が破れ、「気胸」「縦隔気腫」「皮下気腫」などになることを言います。

気道抵抗が高いと、十分な呼気ができず、「エアトラップ」が起こり、『圧損傷(バロトラウマ)』が発生します。

この場合は、速やかに気道抵抗を落とすためのアプローチを行うか、人工呼吸器の呼気時間を延長するか、Auto-PEEPに対する Counter-PEEP を施行します。

※これらのアプローチに関しては別の記事でご紹介します。

 

胸郭の硬さが増加する原因(胸郭コンプライアンスが低下する原因)

⑴ 外・内肋間筋の呼吸筋ミスマッチ

⑵ 胸膜癒着・胸膜炎症・胸膜肥厚など

⑶ 胸肋関節、肋椎関節の障害

⑷ 円背などの脊柱の変形

⑸ 胸郭の変形

 

胸郭コンプライアンスが低下して胸郭が硬くなると、拘束性に肺の拡がりが障害されることになります。

 

ここで注目したいのは外・内肋間筋の働きについてです。

外・内肋間筋は呼吸補助筋として、外肋間筋は肋骨を引き上げて胸郭を拡げて吸気に働き、内肋間筋は肋骨を引き下げて胸郭をすぼめて呼気に働きます。

しかしこの外・内肋間筋の筋コンディションが悪化すると、呼気には外肋間筋の強張りが抵抗となり、吸気には内肋間筋の強張りが抵抗となって呼吸を阻害します。

そして外・内肋間筋が併せて強張ることで胸郭コンプライアンスが低下します。

 

つまりは外・内肋間筋の性質として、筋のコンディションが良好な場合には、呼吸補助筋として横隔膜のサポートを行いますが、筋コンディションが悪化すると、呼吸筋ミスマッチを引き起こして、胸郭コンプライアンスを低下させ、呼吸に対する抵抗勢力に鞍替えしてしまいます。

呼吸理学療法を行うときには、この外・内肋間筋の性質に注意して、しっかりとケアを行ってください。

 

肺の硬さが増加する原因(肺コンプライアンスが低下する原因)

⑴ 無気肺による全肺量の低下

⑵ 肺炎による肺硬化

⑶ 肺線維症(間質性肺炎)

⑷ 肺水腫

⑸ 肺気腫(進行した状態)

 

臨床的によく出会うのは、無気肺による肺コンプライアンスの低下だと思います。

気道内分泌物の増加や咳嗽能力の低下に長期臥床などが合わさると、区域気管支の閉塞から肺区域ごとの無気肺「区域性無気肺」になることがありますし、呼吸が弱く浅い状態が続くことで、肺全体に小さな無気肺がたくさんできる「びまん性無気肺」になります。

無気肺ができることで、肺の容量が低下しますから、相対的に肺が硬くなり、肺コンプライアンスの低下が起こります。

区域性無気肺になると、無気肺ができている肺区域の肺胞呼吸音が低下し、打診音での反響が鈍くなりますので、聴診と打診によって簡単に見つけることが可能です。

また人工呼吸管理中に無気肺ができ、それを呼吸理学療法で改善した場合は、VCV(従量式換気)であれば、プラトー気道内圧が低下しますし、PCV(従圧式換気)の場合には、一回換気量が増加するので、改善したかどうかの評価が容易に行なえます。

 

次いで呼吸運動における出力について考えてみましょう!

 

呼吸運動における出力

⑴ 横隔膜筋力(主呼吸筋)

⑵ 胸郭の筋群(呼吸補助筋)

⑶ 頸部周囲の筋群(呼吸補助筋)

 

主呼吸筋である横隔膜のコンディションを考える

横隔膜は大きな膜型のドーム形状の筋肉で、筋収縮することで肺を引き下げて吸気を行います。

この横隔膜の出力が低下する原因としては様々なものがありますが、特に臨床的に一般的なものに筋疲労状態があります。

この筋疲労状態は2段階に分けられ、① 筋疲労状態: 筋への酸素やエネルギーの供給が不足した状態 と ② 筋消耗状態: 筋疲労が進行して筋線維であるミオシンモーターが損傷された状態 があります。

特に問題となるのは、筋疲労が進行した筋消耗状態で、この筋消耗状態に陥った場合は、きっちり24時間から48時間程度、横隔膜を休ませて、筋線維の損傷を修復させなければなりません。

つまり横隔膜が筋消耗状態に陥った場合には、必ずと言っていいほど、人工呼吸管理による呼吸筋の休息が必要になります。

 

これを肺炎による人工呼吸管理を例にとって分かりやすく説明しますね

 

まずは75歳の肺結核後遺症のお年寄りを想像してください。

この方が肺炎になりました。

肺炎になると、肺炎の肺硬化が起こり肺コンプライアンスが低下します。

また肺内シャントが増加して低酸素血症になるので、それを代償するために呼吸回数と一回換気量を増やします。

しかし肺結核後遺症のため、肺活量が低下しているために、呼吸予備力が低下しています。

その状態で横隔膜は呼吸努力を行います。

肺炎が改善するためには、抗生剤が効かなくてはなりませんが、抗生剤の効果が出るまでには数日はかかるでしょう。

肺炎による急性気管支炎も認められており、気道内の喀痰も増加して、気道抵抗も高まってきて、さらに横隔膜への負荷が増えます。

患者さんは徐々に呼吸筋疲労状態が進み、横隔膜の出力が低下したため、一回換気量が少なくなってしまい、それを補うために呼吸回数を増やすという悪循環に陥って、さらに呼吸筋疲労が進行します。

そして抗生剤が効果を出す前に、筋消耗状態に陥り、人工呼吸管理が始まりました。

 

つまり

 

自発呼吸が継続可能な状態

横隔膜の呼吸筋力 > 気道抵抗 + 肺の硬さ + 胸郭の硬さ

 

呼吸筋疲労状態

横隔膜の呼吸筋力 < 気道抵抗 + 肺の硬さ + 胸郭の硬さ

 

人工呼吸管理

人工呼吸器の補助 + 横隔膜の呼吸筋力 > 気道抵抗 + 肺の硬さ + 胸郭の硬さ

 

という感じになります。

 

人工呼吸器の補助は、気道抵抗の増加や肺や胸郭のコンプライアンス低下に対して、横隔膜の呼吸筋力の不足を補って、横隔膜を筋消耗状態から回復させるために行います。

 

頸部周囲の呼吸補助筋のコンディションを考える

先ほど胸郭にある呼吸補助筋である外・内肋間筋の筋コンディションの悪化により胸郭のコンプライアンスが低下することをご説明しました。

実は頸部の呼吸補助筋の筋コンディションの悪化によっては、横隔膜の呼吸筋出力が低下してしまうのです。

 

これはどういう事かと言うと、頸部の呼吸補助筋群は胸郭を上に引き上げることで吸気を行います。

この頸部の呼吸補助筋群は安静呼吸時にはほとんど活動していません。

しかし努力性呼吸時に活動し、その筋群のコンディションが悪化すると、常に頸部の呼吸補助筋群が強張って、胸郭を上に引き上げ続けるようになります。

 

横隔膜の吸気に合わせて胸郭を引き上げるのなら、呼吸補助筋として作用していますが、常に強張って胸郭を引き上げ続ける場合は、逆に機能的残機量(FRC)を増やして、横隔膜のドームが平べったくなり、相対的な横隔膜筋力の低下を招きます。

 

皆さんも自分で肩をすくめた状態で腹式呼吸をしてみてください。

あまり深く吸えなくなっていませんか?

胸郭の呼吸補助筋も、頸部の呼吸補助筋も、努力性呼吸の初期には働いてくれます。

しかし努力性呼吸が長期間になり、呼吸筋疲労が起きてくると、呼吸補助筋たちは、途端に横隔膜の足を引っ張り始めます。

ですからある一定ラインを超えると人工呼吸器による呼吸の補助が必要になるのです。

 

まとめ

今回は色々と脱線しながら、人工呼吸器についてご説明してきました。

基本的に人工呼吸器は自動で動くアンビューバッグのようなもので、自発呼吸の呼吸筋力の不足を補って、呼吸筋疲労の進行を回避するために使われます。

また自発呼吸がない場合にも、生命を維持するために使用されます。

人工呼吸器はあくまでも「人工換気器」です。

そのことを念頭に置いて、自発呼吸のシステムをよく理解すると、人工呼吸器に対する正しい認識が生まれます。

今回は陽圧換気による一般的な人工呼吸器の基本的なお話をしました。

 

次回以降で、陽圧換気の生体に与える影響や、人工呼吸器のモード、具体的なセッティング方法、バロトラウマの回避方法、自発呼吸のデマンドに合わせた自発呼吸を生かしたファイティングしない換気方法などの解説を行います。

よろしくお願いします。

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

次回は

「陽圧換気の人工呼吸器が生体に与える影響」

について解説します。

 

注意

この『呼吸ケア』カテゴリの記事は一般の方でなく理学療法士などの専門職に向けて書かれておりますので、一般の方には少し難しい内容になっております。

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