脳卒中リハビリ

脳卒中の麻痺側の手足の筋肉の強張りや痛みを放置すると麻痺が治らないって本当?

脳卒中の麻痺側の手足の筋肉の強張りや痛みを放置すると麻痺が治らないって本当?

 

はじめに

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脳卒中による麻痺は中枢神経性の痙性麻痺(筋肉が強張る麻痺)であり、末梢神経性の弛緩性麻痺(ダラダラに力が抜ける)と違って、筋緊張の高まりが特徴です。

なので脳卒中になると麻痺側の手足が強張ることが当たり前のことと考えられています。

しかし脳卒中片麻痺での麻痺側の手足の筋肉の強張りは、痙性麻痺だけが原因とは言えません。

つまりは脳の運動神経の障害が原因となって起きている、筋肉の強張りばかりではないのです。

そしてそれらの強張りは、脳神経の障害が原因ではありませんから、改善が可能です。

また麻痺側の筋肉が強張ったままの状態では、筋肉の中の筋紡錘などの感覚センサーがうまく作動しないため、運動制御に問題が起こります。

この脳が運動を指示したことに対する、感覚情報のフィードバックが起こらない状態では、運動制御のコントロールがうまく働かず、運動学習による麻痺の改善(運動神経の再生)も起こりにくくなってしまいます。

今回の記事では、これらの脳卒中片麻痺に関連して起こる、麻痺側の筋肉の強張りの原因とその改善方法を解説します。

さらには筋肉の強張りを改善して、運動神経への運動学習効果を高めて、麻痺の回復(運動神経の再生)を図る方法についても分かり易く解説して見たいと思います。

 

脳卒中片麻痺による麻痺側の筋肉が強張る原因について!

脳の運動神経の障害による筋肉の強張り

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脳卒中になると痙性麻痺により麻痺側の手足の筋肉が強張ります。

それは当たり前のこととして知っていますが、実際のところは脳の運動神経のどんな仕組みと障害が関与して、麻痺側の手足の筋肉が強張るのでしょうか?

それには脳の運動神経細胞を制御する仕組みについて考える必要があります。

脳の運動神経細胞には興奮性の活動を示す細胞と、抑制性の活動をする細胞があります。

興奮性細胞の活動が過剰になると、制御されている筋肉が強張ってかえって動かしにくくなってしまうため、それを抑えて運動を適切に調節するために抑制性細胞が活動しています。

脳卒中の超急性期には、この興奮性細胞と抑制性細胞の両方とも活動が低下します。

その結果、脳卒中で倒れた直後には麻痺側の手足の筋肉は力が抜けてブラブラになっています。

しかし時間が経過すると、徐々に死滅した脳神経細胞の周囲の生き残った細胞が活動を再開し始めます。

この時にまず始めに興奮性神経細胞の活動が先に再開され始めます。

そして抑制性細胞の活動が再開され始めるのは、それよりもかなり後になるのです。

このために脳卒中片麻痺の回復期には、興奮性細胞が抑制性細胞に対して優位になるために、麻痺側の筋緊張が高まる傾向があるのです。

 

脳卒中の急性期の自律神経機能の障害による筋肉の浮腫による強張り

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脳卒中の急性期には脳神経の様々な機能が障害されます。

その中で自律神経機能も障害されてしまいます。

自律神経系の機能は、血圧を調節したり、呼吸や心臓の働きを調節したり、消化器の機能を調節したりして、身体の様々な機能を安定させる働きを持っています。

脳卒中の急性期には、この自律神経機能も混乱してしまい、血圧などが不安定になったりしますし、慢性期にも消化器の機能が不安定で、便秘や下痢が起きやすかったり体温調節が下手になったりします。

その脳卒中急性期の自律神経機能の障害の一つに、筋肉の血流が滞って浮腫んでしまい、それが原因で後々手足の筋肉が強張ることが挙げられます。

さらには脳卒中の急性期には全身状態が不安定なため、長期間の安静を取ることで、手足の筋肉を動かさなくなり、それが原因で筋肉が強張ることもあります。

これらの原因で麻痺側だけでなく健側の手足の筋肉や体幹の筋肉も強張っているのです。

実は脳卒中の手足の強張りのほとんどは、この浮腫と運動制限による筋肉のコンディションの障害が多くを占めているのです。

これらの筋肉のコンディション障害による強張りは、適切なマッサージやストレッチなどにより十分に改善が可能です。

ですが「脳卒中は痙性麻痺だから筋肉が強張っているのは仕方がない」と最初から諦めてしまい、これらの問題を放置してしまう場合がとても多いように感じます。

 

脳卒中の回復期に手足の筋肉が強張っているとどうなるか?

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脳卒中の片麻痺へのアプローチの中に神経促通(ファシリテーション)と呼ばれるアプローチ方法があります。

これは主に麻痺側の手足を動かして、失われた運動神経の機能を回復させるアプローチで、一般的にはセラピストによる専門的な手技によって行われます。

しかし麻痺側の手足の筋肉が強張っていると、このファシリテーションなどによる運動神経の機能の回復効果がほとんど得られなくなってしまうのです。

これはどうしてなのでしょう。

指動かない1

実は筋肉がカチカチに強張っていると、筋線維内にある筋紡錘などの感覚センサーが働かなくなってしまいます。

この感覚センサーは固有受容感覚といって、筋肉や関節の動きや、筋肉の緊張の程度などを脳の感覚神経と運動神経に伝える、大切なセンサーなのです。

この感覚センサーが働かなくなることで、麻痺側の手足の固有受容感覚が障害されます。

これがこれから説明するような問題を引き起こすのです。

 

運動神経による運動制御が障害される!

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麻痺側の手足をキチンと動かすには、脳の運動神経による運動制御がうまく働かなくてはなりません。

では「なぜ筋肉の強張りが運動制御を障害するのか?」について説明するために、まずは正常な運動制御について簡単にご説明しますね。

運動神経による運動制御の仕組み

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何か目的を持った動作、例えば「テーブルの上のボールペンをとる」などの動作をする場合、まずは目的とする動作プログラムを高次運動野で作成します。

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そしてその運動プログラムをすぐ後ろの一次運動野に送り、そこで具体的な手の動きを筋肉に指示するプログラムに作り変えます。

一次運動野と遠心性コピー1

そしてその指示を手の筋肉に送るのですが、この時にその「具体的な手の運動を指示するプログラム」のコピー(遠心性コピー)が作られます。

この遠心性コピーはまたすぐ後ろの一次体性感覚野に送られます。

一次体性感覚野と再帰性入力1

そして運動指示に従って手の運動が行われると、その運動の結果が感覚情報として一次体性感覚野にフィードバックされます。

運動感覚照合1

そして遠心性コピーによる運動の予測値と実際の運動から得られた感覚フィードバックが照合されます。

動作の最適化1

その照合の結果によって再び手の運動を調節し直します(運動の最適化)。

これが一般的な運動制御の流れです。

 

筋肉が強張っていて感覚情報フィードバックがないとどうなるか?

指動かない1

もしこの時に脳卒中によって手の筋肉が強張っていて、筋肉の感覚センサーが働いていなかったらどうなるでしょう?

求心性入力なし1

一次運動野からの運動指示に対して、感覚フィードバックがなくなってしまいます。

照合なし2

つまり脳は手を動かすように指示したけれども、実際にはどう動いたのか返事がないから分からない状態に陥ります。

こなると脳は混乱してしまいます。

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その結果、さらに手を強く動かすように滅茶苦茶な指示を出したりして、手をさらに硬く強張らせてしまいます。

こうして運動制御が混乱してしまい、結果として運動神経の再教育も再生も起こらず、現存の運動神経の活動も混乱させることになってしまいます。

これではいくら手を動かす練習をしても意味がありませんよね。

 

運動制御を正しく行うための『身体図式』の生成が障害される!

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皆さんは『身体図式』って聞いたことがありますか?

「身体イメージ」ではなく、あくまで『身体図式』です。

あまり馴染みのない言葉ですよね。

「身体イメージ」というのは、「太っている」とか「背が高い」とは「顔が面長だ」とか「手足が短い」などの客観的なイメージです。

でも『身体図式』はそうではありません。

もっと主観的で無意識的な運動制御のために生成されるものなのです。

 

『身体図式』を一言で説明するのが難しいので、いくつかの『身体図式』に関する例を示して説明したいと思います

⑴ 遠くのものに手を伸ばす

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あなたが少し離れた所にあるハサミを取ろうと手を伸ばしています。

もう少しで取れそうですが、これ以上手を伸ばすとバランスを失って転んでしまいます。

あなたには「これは手が届かない」「無理だ」と分かります。

 

⑵ 段差を乗り越える

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目の前に段差があります。

あなたはこれを乗り越えて、さらに前に進みたいのです。

でもその段差が一跨ぎで越えられるかどうか。

あなたは段差を見ただけで「出来るか出来ないか」が大体わかります。

また背の高い人はより高い段差を乗り越えられると感じますし、背の低い人はより低い段差でも無理だと感じます。

 

⑶ 柿の実をとる

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あなたは柿の木の下に立っています。

そして枝には柿の実がなっています。

その実を取ろうとした時に、手を伸ばせば届くのか、ジャンプすれば届くのか、脚立が必要なのか。

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あなたは枝ぶりを見ただけで大体分かりますね。

これらの判断を可能にしているのが『身体図式』です。

 

目の前に切り立った崖があります

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あなたはこんな崖を登ったことがないので、出来るかどうか分かりません。

もしあなたが勇敢な若者なら、私は「大丈夫だから挑戦してみなさい」と言うでしょう。

もしあなたがリハビリ患者さんなら、私は「転倒するといけないので無理はしないでくださいね」と言うでしょう。

これは身体図式とは関係ありませんね!

 

脱線した話を元に戻します。

 

筋肉が強張るとなぜ『身体図式』の生成が障害されてしまうのでしょう?

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実は身体図式の生成には「視覚情報」と「体性感覚情報」が必要なのです。

ですから手足の筋肉が強張って感覚センサーが働かないと、体性感覚情報が作られないので、身体図式が生成されないのです。

身体図式が生成されないと、正確な運動制御も出来なくなってしまいます。

このように手足の筋肉の強張りを解消しておくことは、脳卒中リハビリテーションにおいて、麻痺の回復を少しでも目指す上でとても大切なことなのです。

 

 

脳卒中片麻痺の筋肉の強張りを改善する方法

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それでは実際に脳卒中片麻痺の手足や体幹の筋肉の強張りを解消する方法について解説していきたいと思います。

脳卒中の筋肉の強張りの原因は、先ほどご説明したように、脳の運動を制御する興奮性神経細胞の活動が優位になることと、自律神経系の障害で手足の筋肉が浮腫んで強張ることの2点で起こっています。

ですからこの2点について科学的にアプローチを行い、強張りを解消していきたいと思います。

 

筋肉の浮腫による強張りの解消方法

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脳卒中急性期の筋肉の浮腫や長期の運動制限による筋肉の強張りは、脳神経からの影響を受けた痙性麻痺ではなく、いわば筋肉のコリの非常に協力なものと考えられます。

ですからアプローチの方法としては、強張った筋肉に対するマッサージをていねいに行うことが基本となります。

一般的なマッサージと呼ばれる手技は、筋肉の表面をこするように刺激して、筋肉への血流を改善するアプローチになります。

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しかし脳卒中による筋肉の強張りは、単に疲労によって凝ったような状態ではなく、長期間の運動制限と非生理的な浮腫が原因で起こっているのです。

その脳卒中による筋肉の強張りの特徴として『筋硬結』が挙げられます。

これは筋線維の一部が、極度の血流不全により線維化して固く固まってしまった状態です。

筋肉の強張った部分を深く揉み込むようにすると、強張った筋線維のさらに奥に、豆粒大~唐辛子くらいの大きさの骨のように固くなった強張りを見つけることができます。

これが筋硬結です。

これを揉みほぐさなければならないのです。

本来であればセラピストによる専門的なマイオセラピー(深部筋マッサージ)が必要となります。

でも在宅では難しいと思いますので、今回はご自分でも可能な別の方法をご紹介したいと思います。

 

脳の興奮性細胞が優位になることによる強張りの解消方法

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この脳の興奮性細胞が優位になった強張りの場合は、脳からの興奮性信号を調節してやる必要がありますね。

要するに過剰になった、筋肉に力を入れさせようとする運動神経の活動を、落ち着かせてやる必要があります。

実は脳卒中の回復期に興奮性細胞の活動が、抑制性細胞より先に回復する理由としては、健康な時には抑制されて活動していなかった、予備の運動神経細胞の活動を促す意味もあるようなのです。

ですからこの場合の筋肉の強張りを調節するためのアプローチとしては、活動を促されている予備の運動神経細胞に対して、正しい筋活動をさせる信号の出し方を学習させる必要があります。

要は活動を始めたまっさらな予備の神経細胞に対して、神経促通(ファシリテーション)を行なって、筋活動のコントロールの仕方を教えてやる必要があります。

 

 

具体的な筋肉の強張りを解消するアプローチ方法について!

では具体的な方法としてはどんなことをすれ場合のでしょうか?

今回は筋肉のコンデイションを整えて筋硬結を解消する方法と、運動神経に対して筋緊張のコントロール方法を学習させる方法を同時に行えるアプローチをご紹介します。

 

EMS療法による脳卒中片麻痺の筋肉の強張りの解消

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EMS療法は電気的な刺激によって筋肉に刺激を与えることで、筋活動や神経促通を行う方法です。

具体的な内容としては、市販の「中周波治療器」を用意して、それでターゲットとなる麻痺側の強張った筋肉に運動を起こさせます。

中周波とは一般的な低周波治療器よりも、やや周波数が細くなります。

低周波が 50Hz とか 100Hz くらいの周波数の刺激なのに対して、中周波は 3000 ~ 5000Hz あるいはそれ以上の周波数を利用します。

中周波は低周波に比べて、電気刺激による痛みが少なく、より深い筋肉に対して電流が届くため、より深部のコアマッスルなどに対して、効果的に強い刺激を与えることができます。

中周波による電気刺激によって動かされた筋肉の運動に合わせて自分でもその部分を動かすようにします。

これを強張った筋肉に順番に行なっていきます。

一回の刺激部位に対して、だいたい10分程度の電気刺激を行います。

刺激の強さは、強い痛みを感じずに筋肉がある程度しっかり動くくらいの強度に調節します。

これを毎日繰り返すことで、筋硬結がほぐれると同時に、脳の運動神経細胞に対するファシリテーションも同時に行うことが可能になります。

これで筋肉の強張りをほぐすことが可能です。

 

オススメのEMS治療器

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中周波を出せる治療器としてはかなりリーズナブルな価格です。 周波数も5000Hz出せますから効果はバッチリです。

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まとめ

脳卒中の筋肉の強張りは、単に痙性麻痺による筋緊張の亢進だけでなく、急性期の浮腫や運動制限による筋肉の強張りも合わせて起こっています。

麻痺側の筋肉がこわばったままだと、筋線維の中の感覚センサーが働かないために、体性感覚が障害され、そのために運動制御や身体図式の生成が障害されます。

脳卒中による麻痺の回復を目指すためには、筋肉の強張りを解消しておくことが必須となります。

筋肉の強張りの解消方法として、本来であれば専門のセラピストによるマイオセラピーが必須となります。

しかし在宅でご自分で行える簡単で効果的な筋肉強張りを解消する方法としてEMS療法(中周波電気刺激)によるケアがあります。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

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