脳卒中リハビリ

脳卒中歩行障害の大脳基底核と視床による半自動的な歩行制御機能の改善を図る

脳卒中歩行障害の大脳基底核と視床による半自動的な歩行制御機能の改善を図る

 

はじめに

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私たちが歩き始めるために、片足を挙げて一歩を踏み出そうとするときの歩行動作の制御は大脳皮質の運動野が関与して行われています。

しかしその一歩を踏み出す動作をよく考えてみましょう。

私たちが歩くときには「あの辺に右足を踏み出して、しっかり踏ん張ろう」などといちいち考えませんよね。

すなわち意識的に足をコントロールする大脳皮質の運動野以外に、歩行時の足の振り出しを無意識的に制御する神経回路が存在するのです。

それが大脳基底核と視床による運動コントロール回路です。

大脳基底核と視床は大脳皮質の一次運動野と運動コンロトールのための閉鎖回路を形成していて、これが歩行などの動作をあまり細かく意識しなくても安定的に制御できる仕組みになっています。

また視床は様々な感覚情報の中継核となっており、感覚情報と運動指令を統合して、運動の制御を行う中枢ともなっています。

また繰り返し行われる運動制御のデータを視床に蓄積することで、視床は動作を熟練するための中枢ともなっています。

脳卒中になると、この大脳基底核と視床の運動コントロール回路の障害による運動不全が問題になることがしばしばあります。

今回はこの大脳基底核と視床による運動コントロール回路に注目して、脳卒中片麻痺における問題点と歩行に与える影響を考えてみたいと思います。

また大脳基底核と視床による運動コントロール回路の機能を改善して歩行能力を高めるリハビリテーション方法もご紹介したいと思います。

どうぞ宜しくお願いいたします。

 

大脳基底核と視床による運動コントロール回路について

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私たちの手足を意識的に動かして「ボールペンで字を書いたり」「食事をしたり」「歩いて買い物にいったり」と言った動作を制御しているのは「大脳皮質の運動野」です。

しかし動作の全てを大脳皮質で制御している訳ではありません。

例えばテーブルの上のコーヒーカップに手を伸ばす時にも、「まずは手を胸の高さに上げてからカップに向かって手のひらを横に向けながら指を少し伸ばし気味にして手を伸ばそう」なんて考えながら手を出しませんよね。

私たちの身体の運動制御システムには、大脳皮質で「テーブルのカップに手を伸ばそう」と意識するだけで、半自動的にカップを上手につかめる仕組みがあるのです。

それが「大脳基底核と視床」による運動コントロール回路になります。

この「大脳基底核と視床」は一次運動野と閉鎖的な運動コントロール回路を形成しています。

それはこんな感じです

 

『一次運動野』→『大脳基底核』→『視床』→『一次運動野』→「皮質脊髄路」→手足の運動

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一次運動野で作られた手足を動かすプログラムは、いったん大脳基底核に送られ、さらに視床にいき、視床で様々な感覚情報などと統合され調節されたモノが再び一次運動野に戻され、そこから皮質脊髄路となって脊髄を下行して手足を動かします。

 

要するに大脳基底核と視床は一次運動野の下請けみたいな感じで、運動プログラムの細かな調節(仕上げ作業みたいな感じ?)を行なっています。

具体的には『脊髄視床路』などの様々な感覚情報が集まる「視床」で感覚情報と運動プログラムが統合されて調整されます。

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そして興奮性の運動制御を行う視床に対して、主に抑制性(一部興奮性)の制御をする大脳基底核がその活動を制御することで運動コントロールが行われています。

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例えば歩き始めの一歩を踏み出す時には、大脳皮質の運動野がその歩きだしの動作を指示します。

しかし一歩めの足を右足を出すのか、左足を出すのか、またその足をどの辺りに着くのか等を細かく意識してはいませんね。

その辺りは自然と勝手に身体が動いて、なんとなくうまく歩けています。

この自然に勝手に身体が動く部分を「大脳基底核と視床」がコントロールしているのです。

でも子供が初めてヨチヨチ歩きを始めた時はどうでしょう?

なんか一生懸命に考えながらぎこちなく歩いていますよね。

初めて歩く子供は一生懸命に真剣に歩いています。

これはまだ「大脳基底核と視床」の運動コントロール回路に経験値が蓄積されていないからなのです。

大人であれば視床の中に沢山の経験した運動制御データがあって、それを参考にスムースに歩くことができます。

ガタガタの砂利道や急な坂道も以前に経験済みです。

でも子供はそれらの経験がないため、視床の中の経験データは空っぽです。

ですから半自動で制御できずに、頭(大脳皮質)で必死に考えながら歩いて、データを視床に溜め込んでいるのです。

実は「大脳基底核と視床」の回路は「動作の熟練」にも関係しているのです。

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しかし脳卒中になると、この「大脳基底核と視床」に蓄積された運動制御データが障害されてパーになってしまいます。

ですから脳卒中になってからのあなたはスムースに動けなくて、歩く時にも常にどう歩くか考えながら歩かなくてはならないのです。

では次に脳卒中になると「大脳基底核と視床」の運動コントロール回路にどんな問題が起こるのかをご説明します。

 

脳卒中で大脳基底核と視床の運動コントロール回路に起こる問題

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脳卒中には脳出血と脳梗塞があります

脳出血と脳梗塞でそれぞれに「大脳基底核と視床」の神経回路に対して障害を与える場合があります。

また脳卒中によって運動機能自体に変化が起こることで、視床に蓄えられていた「運動制御データ」が役に立たなくなるという現象も起こってしまいます。

これらの問題についてなるべく分かり易くご説明したいと思います。

 

脳出血による大脳基底核と視床に対する神経障害

脳出血の中で特に脳卒中片麻痺と呼ばれる麻痺を引き起こすメジャーな脳出血に「被殻出血」と「視床出血」があります。

この2つの出血で脳出血全体の7割から8割を占めています。

この辺りに血液を送っている「レンズ核線条体動脈」などが細く折れ曲がっているため、高血圧などによって動脈瘤ができやすいため、この部位での脳出血が多くなっています。

それ以外の小脳性失調などを引き起こす、小脳出血や脳幹部出血などはそれぞれ10%程度になります。

ですから脳出血で片麻痺になっている方のほとんどは、この「被殻出血」か「視床出血」である場合がほとんどです。

 

被殻出血

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さてこの「被殻出血」の『被殻』ですが、どこにあるかというと、これが「大脳基底核」の一部なのです。

なんと「被殻出血」とは大脳基底核の中で出血していたのです。

ですから麻痺側の手足が極端に緊張して強張っている場合や、すくみ足が起きて足が前に進まない等の症状がある場合は、大脳基底核の機能が出血によって障害されている可能性があるのです。

 

視床出血

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また「視床出血」がどこで出血しているかといえば、もちろん『視床』ですね。

ですから「視床出血」によって視床の神経回路が障害された場合、視床に蓄積された運動制御データが失われてしまう場合があります。

この場合には動作を常に大脳皮質の運動野で調整しなくてはならないため、常に動作を意識しながら行うぎこちない動きになってしまう場合があります。

 

脳梗塞による大脳基底核と視床に対する神経障害

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脳梗塞の場合にも大脳基底核や視床に対する血流が障害されてこれらの神経核の機能が低下する場合があります。

中大脳動脈の枝が広範囲に大脳基底核に血液を送っていますし、前大脳動脈の枝も大脳基底核の一部の血流を担っています。

また後大脳動脈の穿通枝が視床への血流を行なっています。

これらの主要な動脈が詰まって血流が阻害された場合に、それが大脳基底核や視床への血流を行う動脈の枝を含んでいた場合には「大脳基底核と視床」による運動コントロールが障害される場合があります。

 

脳卒中による麻痺側手足の麻痺によって運動制御データが役立たなくなる

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脳卒中になると皮質脊髄路や網様体脊髄路などの運動神経路が障害されて、片麻痺が起こります。

また自律神経機能の混乱などから、手足の浮腫が起こり、そこから手足の筋肉のコンディションが悪化して強張ったりもします。

これらの問題によりこれまで健康な時に視床に蓄積していた膨大な運動経験からの運動制御データが役に立たなくなってしまいます。

ですから脳卒中リハビリテーションとしては、これらの失われた運動制御データを、脳卒中後の身体機能に合わせて、もう一度入力し直す作業が必要になるのです。

でないといつまでたっても大脳皮質で強く意識しながら歩いたり手を動かしたりしなくてはなりませんからね。

また大脳基底核と視床は「網様体脊髄路」での姿勢制御にも関わっている可能性が高いので、姿勢制御機能にも影響を与えていると考えられます。

ですから「大脳基底核と視床」による運動制御機能のリハビリテーションはとても大切なのです。

 

 

大脳基底核と視床の運動制御回路の歩行リハビリテーションの方法

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大脳基底核と視床による運動制御は、いわば大脳皮質運動野で決定された運動プログラムを、大脳皮質への負担を軽減して半自動的に動かすための機能です。

ですからアプローチとしても、意識的に大脳皮質が行う歩行動作を半自動的に行なっていけるように練習することが基本となります。

 

⑴ 一歩前に足を踏み出す動作を自動化する練習

手すりなどにつかまって姿勢良く立った状態で両足を肩幅より少し狭いくらいに開いて立ち、そこから初めは意識しながら麻痺側の足を軽く一歩前に出します。

その後麻痺側の足を元の位置に戻します。

これをひたすら繰り返します。

何ヶ月かこの運動を継続して行います。

無意識のうちに同じ場所に軽く麻痺側の足が振り出せるようになれば成功です。

 

⑵ 足を左右側面に振出す動作を自動化する練習

手すりなどにつかまって姿勢良く立った状態で両足を肩幅より少し狭いくらいに開いて立ち、そこから初めは意識しながら麻痺側の足を軽く一歩横に出します。

その後麻痺側の足を元の位置に戻します。

これをひたすら繰り返します。

何ヶ月かこの運動を継続して行います。

無意識のうちに同じ場所に軽く麻痺側の足が振り出せるようになれば成功です。

 

⑶ 一歩前に踏み出しながら身体の方向を健側に切り替える練習

手すりなどにつかまって姿勢良く立った状態で両足を肩幅より少し狭いくらいに開いて立ち、そこから初めは意識しながら麻痺側の足を軽く一歩前に出します。

この時に一歩前に出した麻痺側の爪先を健側に向けるように着くようにします。

それに合わせて上半身も健側に向けるように捻ります。

その後麻痺側の足を元の位置に戻し、身体も正面に向けます。

これをひたすら繰り返します。

何ヶ月かこの運動を継続して行います。

無意識のうちに同じ場所に軽く麻痺側の足が振り出せるようになれば成功です。

 

 

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これらの練習を繰り返し行なって、とっさの判断で無意識のうちに出来るように練習できれば最高です。

練習の効果については、脳卒中による大脳基底核や視床に対する障害の程度で大きく違ってきます。

また運動制御を行うための感覚情報の処理能力の回復程度によっても効果が大きく違います。

効果は個人差がありますが、継続することが大切です。

 

また立位や踏み出し動作が、ある程度は安定して行えることが、この練習を行う上での基本条件となります。

立位や歩行がある程度安定しないうちから、無理に練習して転倒などしないように注意してください。

よろしくお願いいたします。

 

 

まとめ

大脳基底核と視床による運動コントロール回路の働きにより、歩行動作が半自動化して行えることで、歩行時の大脳皮質への負担が軽減されています。

また大脳基底核と視床による制御において、これらが歩行動作の熟練にも大きく関わっています。

安定したスムースな歩行を獲得するために大脳基底核と視床による運動制御の仕組みを理解して、そのリハビリテーションを進めることは、歩行能力の向上においてとても重要です。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

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