呼吸ケア 人工呼吸器の換気モードの解説 ⑴ 強制換気
はじめに
一般的な陽圧換気による人工呼吸器には様々な換気モードが存在します。
今回はそれらの換気モードについて、基本的な解説とともに臨床における使い方のコツや注意点について解説してみたいと思います。
またそれぞれの換気モードについて、換気のサポートを受けているヒトの身体にどんな反応が起きているのかについても少し解説してみたいと思います。
よろしくお願いします。
強制換気モードと補助換気モード
人工呼吸器の換気サポートは吸気をサポートしています。
この吸気のサポートに関して、換気モードは主に「強制換気モード」と「補助換気モード」に分けられます。
この「強制換気モード」と「補助換気モード」の2つに分ける分類が、一番大雑把な分類となり、これらの分類の中で、それぞれさらに細かい換気モードに分けられます。
強制換気モードと補助換気モードの違い!
この2つの換気モードの違いは、吸気を主に人工呼吸器側が主導して行うのか、ヒトの側が主導して行うのかで分けられています。
当然のことに強制換気モードは人工呼吸器側が主導した換気になりますし、補助換気モードはヒトの側が主導した換気になります。
強制換気モード = コントロールモード
補助換気モード = サポートモード
強制換気モードのことを、一般的にはコントロールモードと呼び、補助換気モードのことはサポートモードと呼びます。
換気を人工呼吸器が強制的にコントロールするからコントロールモード、ヒトが主導して換気するのを人工呼吸器が補助(サポート)するからサポートモードとなります。
プレッシャーコントロール = 従圧式の強制換気モード
プレッシャーサポート = 従圧式の補助換気モード
ですから同じ気道内圧(プレッシャー)を指標に換気を行うモードでも、プレッシャーコントロールは従圧式の強制換気モードですし、プレッシャーサポートは従圧式の補助換気モードになります。
これらは換気の目的が全く違います
プレッシャーコントロールは、ARDS(急性呼吸促迫症候群)などの重症肺炎に対して、圧損傷(バロトラウマ)を回避しながら、ギリギリの生命維持の呼吸管理を行うための換気モードになります。
またプレッシャーサポートは、肺炎などの状態が回復してきたときに、人工呼吸器からの離脱(ウィーニング)を促すために使用されるモードになります。
人工呼吸器の換気モードの設定は医師の仕事になりますが、私たちセラピストもキチンとこれらの換気モードについて理解しておく必要があります。
強制換気モードについて!
人工呼吸器の強制換気モードについては、以下のような主に2つの分類方法があります。
⑴ メカニカルコントロールモードとアシストコントロールモード
⑵ ボリュームコントロールモードとプレッシャーコントロールモード
それぞれについて、なるべく分かり易く解説していきますね。
メカニカルコントロールモードとアシストコントロールモードについて
実を言うとこの分類は実際の臨床ではあまり意識することはありません。
何故ならば、メカニカルコントロールモードは一般的には麻酔器に使われているモードであり、普通の人工呼吸器の場合にはアシストコントロールモード以外は使用されていないからです。
ですが一応これらの概念は大切ですので解説しておきたいと思います。
メカニカルコントロールモード
このモードは強制換気が完全に機械側の制御によって行われます。
つまりこのモードには患者さんの自発吸気の開始を感知する吸気トリガーがないのです。
このモードでは、人工呼吸器は患者さんの自発呼吸には一切感知せず、ひたすら設定された換気を実行し続けます。
ですからもしこのモードで人工呼吸換気を受けている患者さんに、自発呼吸があれば、自発呼吸と人工呼吸の間で、ファイティングが起きてしまいます。
このような理由でメカニカルコントロールモードは、全く自発呼吸のない、麻酔器か昏睡状態にしか使えないのです。
例) 従量式のメカニカルコントロールモード
設定:
一回換気量 500 ml
呼吸回数 10回/分
患者さんの自発呼吸がない場合
→ 一回換気量 500 ml、呼吸回数 10回/分で強制換気を行う
患者さんの自発呼吸がある場合
→ 一回換気量 500 ml、呼吸回数 10回/分で強制換気を行う
※ 患者さんが人工呼吸器の設定以上に吸おうとしても、自分では吸気を行えない。
アシストコントロールモード
アシストコントロールモードが、アシストとついているために、補助換気(サポートモード)と勘違いする方もおられるようですが、アシストの後ろにコントロールとついているので、これは強制換気モード(コントロールモード)になります。
つまりアシストコントロールは、患者さんの自発呼吸をアシストする強制換気(コントロール)モードなのです。
これはどういうことかと言うと、強制換気が患者さんの自発呼吸を感知して、自発呼吸に合わせて強制換気が行われるモードということになります。
例) 従量式のアシストコントロールモード
設定:
一回換気量 500 ml
呼吸回数 10回/分
患者さんの自発呼吸がない場合
→ 一回換気量 500 ml、呼吸回数 10回/分で強制換気を行う
患者さんの自発呼吸がある場合で
自発呼吸の呼吸回数が10回/分以下の場合
→ 一回換気量 500 ml、呼吸回数 10回/分で強制換気を行う
自発呼吸の呼吸回数が10回/分以上の場合
→ 一回換気量 500 ml、呼吸回数は患者さんの呼吸回数に従う
※ この時の一回換気量は常に設定値である 500 ml の換気を強制的に行います。
つまりアシストコントロールモードとは、患者さんの自発呼吸に合わせて(アシストして)、人工呼吸器に設定された換気を強制的に行うモードで、自発呼吸がない場合は、設定された呼吸回数の換気を行い、自発呼吸がある場合は自発呼吸回数に合わせて、換気を行いますが、それらの換気は全て人工呼吸器に設定された、換気量を強制的に行います。
これがアシストコントロールです。
ボリュームコントロールモードとプレッシャーコントロールモードについて!
ボリュームコントロール = 従量式
プレッシャーコントロール = 従圧式
先ほどご説明したように、一般的な臨床で使われる人工呼吸器の強制換気モードはアシストコントロールモードで行われています。
そしてこのアシストコントロールによる強制換気はさらに ⑴ 従量式強制換気と ⑵ 従圧式強制換気に分けることができます。
この従量式と従圧式の換気モードの違いは、人工呼吸器が換気を行う基準が、換気量なのか換気圧なのかの違いによります。
つまり一回にどのくらい換気するかを決める基準が、換気量で何mLと決められているか、換気圧で何cmH2Oと決められているかの違いになります。
従量式と従圧式にはそれぞれに利点と欠点があり、私たちが急性期人工呼吸管理の呼吸ケアを行う場合には、それらの特性をキチンと理解していなくてはなりません。
従量式強制換気(ボリュームコントロール)
従量式強制換気の設定は、⑴ 一回換気量 ⑵ 呼吸回数 ⑶ 吸気流速の3つの設定を行います。
従量式強制換気の設定
⑴ 一回換気量(Tidal Volume)
一回換気量とは安静呼吸において、一回の呼吸で換気される量を言います。
一般的な自発呼吸による一回換気量は 500 ml 程度であることが多いのですが、人工呼吸器で設定される強制換気における一回換気量はそれよりも多めに 700~750 ml 程度に設定される場合が多いです。
これは人工呼吸器による陽圧換気により、肺胞周囲の毛細血管が圧迫されることで、換気血流比が変化してしまい、適正なガス交換を行うために、陰圧呼吸による自発呼吸より多めの換気量が必要となるからです。
⑵ 呼吸回数
安静呼吸時の自発呼吸の呼吸回数は、一般的には 10 ~ 15 bpm程度です。
人工呼吸器で呼吸回数を施呈する場合、人工呼吸器を装着する前の呼吸回数を計測しておいて、それと同じ呼吸回数を設定すると、人工呼吸器の装着時のファイティングを回避することが出来ます。
一回換気量と呼吸回数をかけた値が分時換気量になります。
⑶ 吸気流速
一回換気量と吸気流速の設定によって、吸気時間が決まります。
呼吸回数と吸気時間が決定されることで、さらに呼気時間が決定します。
吸気流速の設定時に注意しなければならないのは、患者さんの気道抵抗が高い場合の圧損傷のリスクです。
吸気流速が早すぎると、高い気道抵抗と早い気流により最高気道内圧(PIP)が上昇します。
しかし気道抵抗が高く最高気道内圧(PIP)が高いからと、吸気流速を下げすぎると、今度は吸気時間が長くなり図着て、呼気時間が短くなり、気道抵抗が高くなった患者さんが、十分な呼気時間を確保できなくなります。
この場合、人工呼吸器による呼気のサポートは出来ませんから、肺胞内に吐ききれない空気が残った状態で、次の吸気が始まってしまいます。
これが続くとエアトラッピングによる圧損傷(バロトラウマ)が発生し、気胸や縦郭気腫や皮下気腫のリスクが高まります。
実施にはPIPが高いことで圧損傷(バロトラウマ)になることは少なく、それよりもプラトー気道内圧(EIP)が 20 cmH2O を超えることで圧損傷のリスクが高まります。
ですから患者さんの気道抵抗が高い場合(喘息や気管支炎症など)、過度に吸気流速を下げるのではなく、ある程度は吸気流速を保って、呼気時間を確保した状態で、気管支拡張薬のネブライザーや呼吸理学療法による気管支平滑筋のリラクセーション、カウンターPEEPの設定などを併用して圧損傷を予防します。
従量式強制換気の特徴
従量式強制換気の利点
⑴ 一回換気量や分時換気量、呼吸回数や吸気流速の設定が正確に行える。
⑵ 血中の酸素量や二酸化炭素量のコントロールをきめ細かく行える。
従量式強制換気の欠点
⑴ 患者の気道抵抗が高い場合には圧損傷(バロトラウマ)のリスクが高まる。
⑵ 呼吸器の換気回路や挿管チューブのカフに空気漏れ(リーク)があると適正な換気が出来ない。
従量式強制換気は、換気量の設定を人工呼吸器によって正確に行えるために、分時換気量のコントロールがしやすく、血中の酸素量や二酸化炭素量のコントロールがやり易くなります。
その反面、一定の換気量を強制的に換気するために、患者の気道抵抗が高い場合には、気道内圧や肺胞内圧のコントロールが難しく、エアトラップも起こりやすいため圧損傷(バロトラウマ)のリスクが高まります。
そのためにハイリスクの患者さんを従量式で人工呼吸管理を行う場合には、専門的な知識を持ったケアが必須になります。
この詳細については別の記事で解説を行います。
従圧式強制換気(プレッシャーコントロール)
従圧式強制肝機能場合は、⑴ 吸気圧 ⑵ 吸気時間 ⑶ 呼吸回数 を設定します。
従圧式強制換気の設定
⑴ 吸気圧(Inspiratory Pressure)
吸気圧の設定は、患者さんの肺の硬さ(肺コンプライアンス)や気道抵抗を考慮して設定します。
吸気圧が低すぎると、肺胞低換気になり、血液中の二酸化炭素量が増えるリスクがあります。
しかしプレッシャーコントロールで吸気圧を 20 cmH2O 以下に設定しておけば、どんなに患者さんの肺内のコンディションが悪くても、肺胞内圧が 20 cmH2O 以上になることはないため、ほぼ確実に圧損傷(バロトラウマ)の発生を予防することが出来ます。
この仕組みを利用して、重症な肺炎やARDS(急性呼吸促迫症候群)などのケースで、圧損傷を予防するために、あえてプレッシャーコントロールで、低い吸気圧で換気を行うことで、高炭酸ガス血症を起こした状態で、圧損傷を回避しながら人工呼吸管理を行う場合があります。
これを『パーミッシブ・ハイパーカプニア・ベンチレーション』(高炭酸ガス血症を容認する換気)と呼びます。
⑵ 吸気時間
吸気時間の設定は、吸気圧と吸気時間によって一回換気量が影響を受けます。
プレッシャーコントロールで一回換気量を正確に設定することは出来ないため、肺コンプライアンスと気道抵抗を考慮しながら、吸気圧と吸気時間で調節するようにします。
⑶ 呼吸回数
呼吸回数を設定すると吸気時間との関係で呼気時間が決定されます。
吸気圧と吸気時間の設定では、一回換気量は正確にコントロールできないため、呼吸回数を設定したのちも分時換気量を確定することは出来ません。
分時換気量はあくまでも実測値で管理する必要があります。
従圧式強制換気の特徴
従圧式強制換気の利点
⑴ 圧損傷(バロトラウマ)のリスクが非常に低い
⑵ 人工呼吸器の回路内のリークを補正して換気を維持できる
従圧式強制換気の欠点
⑴ 分時換気量を正確にコントロール出来ないため血中の二酸化炭素量の調節が難しい
従圧式強制換気では、気道内圧を指標にして強制換気を行うため、患者さんの肺の硬さ(肺コンプライアンス)や気道抵抗、あるいは呼吸に対するデマンド(自発呼吸要求の強さ)によって、一回換気量や分時換気量が逐次変化してしまうため、正確な血中二酸化炭素量のコントロールが難しいという欠点があります。
しかしその反面、人工呼吸器の回路内リークがある程度あっても、換気が正常に維持されるという利点があります。
また吸気圧を 20 cmH2O 以下に設定することで、ほぼ完全に圧損傷(バロトラウマ)を回避できることは、重症な肺炎や小児の呼吸ケアにおいては圧倒的なアドバンテージとなります。
現在の従量式と従圧式の住み分けとしては、軽症な成人の肺炎などの呼吸管理を従量式で行い、正確な血中酸素量や血中二酸化炭素量のコントロールを行い、重症肺炎や小児やARDSなどのケースを従圧式で圧損傷(バロトラウマ)を回避しながら「パーミッシブ・ハイパーカプニア・ベンチレーション」で乗り切るという感じになっています。
最後までお読み頂きありがとうございます。
次回以降で補助換気やSIMV(同期的間歇的強制換気)PEEPなどの解説を行います。