呼吸ケア

呼吸ケア 人工呼吸器の換気モードの解説⑵ 補助換気

呼吸ケア 人工呼吸器の換気モードの解説⑵ 補助換気モード

 

 

はじめに

前回(人工呼吸器の換気モードの解説⑴)は人工呼吸器の強制換気モードについて解説しましたが、今回は補助換気モードについて解説します。

以前の人工呼吸器では補助換気モードと言えば、プレッシャーサポート(PSV)のみでしたが、最近ではボリュームサポートベンチレーション(VSV)やプロポーショナルサポートベンチレーション(PSV)など高度な制御を行う補助換気モードも出てきています。

今回はこれらの補助換気モードの基本の解説と臨床での考え方について解説してみたいと思います。

 

補助換気モードとは

前回は強制換気モードについて解説しました。

強制換気モードは、一言で言えば人工呼吸器の機械の側が主導して呼吸を行う性質のモードであると言えます。

つまり一回換気量をどのくらいにするか、吸気時間や呼吸回数をどうするかを、機械の側で規定することが出来るのが強制換気モードになります。

すなわち人工呼吸器の設定を行なっている医療者側に呼吸管理の主導権を持つことが出来るモードということです。

それに対して補助換気モードは、呼吸に関する主導権が患者さんの側にあるモードと言えるでしょう。

すなわち一回換気量や吸気時間や呼吸回数などは、患者さんが決定することが出来ます。

ですから人工呼吸器の換気は、患者さんの自発呼吸に従って行われることになります。

しかし人工呼吸管理が必要であるということは、自発呼吸筋力(横隔膜筋力)に対して、肺の硬さ(肺コンプライアンス)や気道抵抗が高いため、自力での呼吸継続が困難である訳です。

ですから人工呼吸器による換気は、患者さんの自発呼吸に従いながら、患者さんの呼吸筋力が足りない分だけサポートするように換気します。

これが補助換気モードです。

ですから補助換気モードで呼吸管理を行なっている場合、患者さんが自分で呼吸しなくなると、人工呼吸器の換気も止まってしまいます。

ですからそのまま呼吸停止すると、患者さんは死んでしまいますから、たいていの人工呼吸器には補助換気モードで一定時間呼吸が停止(Apnea)したら、自動的に強制換気モードに変更される緊急システムが装備されています。

無呼吸アラーム(Apnea alarm)と呼ばれるシステムがそれです。

 

 

プレッシャーサポート

プレッシャーサポートがおそらくは一番最初に開発された、補助換気モードになると思います。

プレッシャーサポートの仕組みは非常に単純で、吸気圧を設定するだけです。

 

プレッシャーサポートの設定

⑴ 吸気圧

患者さんの自発呼吸が開始されると、人工呼吸器の吸気トリガーが感知され、それによって人工呼吸器の吸気バルブが開いて、吸気が開始されます。

この時の吸気を設定した吸気圧で行うように人工呼吸器は吸気圧の調節を行います。

ですから一定の吸気圧で換気を行うために、患者さんの肺が柔らかければ、その分多く吸気しますし、気道抵抗が低ければ、その分早い吸気流速で換気を行います。

患者さんの肺が固かったり気道抵抗が高かったりする場合には、この逆になります。

また患者さんは積極的に自発呼吸を行なっていますから、患者さんがたくさん吸おうとして、呼吸努力を行なった場合には、人工呼吸器は気道内圧を設定値に保つために、より多く速く吸気を調節します。

つまり「どれくらい吸うか?」 「何回吸うか?」 「どのくらいの時間吸い込み続けるか?」などは患者さんの希望次第ということになります。

プレッシャーサポートは患者さんが吸気を続ける間だけ、医療者側が設定した吸気圧で吸気をサポートします。

 

プレッシャーサポートはどういう場合に使うのか!

呼吸ケアを行う医療者側がプレッシャーサポートを選択するのは、主に人工呼吸器から患者さんをウィーニングしようとする場合に使用します。

一般的にウィーニングを開始する基準としては「人工呼吸を行うに至った原因疾患が改善あるいは十分な改善傾向に至ったと判断された場合」と定義されています。

例えば重症な肺炎によって人工呼吸器を患者さんに装着することになったとします。

そこで人工呼吸器を装着して換気のサポートを行いますが、初めは強制換気モードを中心にサポートを行います。

これは急性期の人工呼吸を開始する原因として、肺炎による肺コンプライアンスの低下と気道抵抗の上昇により、呼吸筋に対する負荷が増加して、呼吸筋疲労が進行しているため、それらの呼吸筋を十分に休ませる必要があるからです。

そして1日か2日ぐらい人工呼吸器で呼吸筋を休ませると、呼吸状態は安定してきます。

呼吸筋疲労が改善してきたからです。

でもこの段階でうっかり人工呼吸器のモードをプレッシャーサポートに切り替えてしまうと、思わぬトラブルに見舞われる場合があります。

それは1日2日の呼吸管理で呼吸筋疲労は改善しても、肝心の肺炎自体はまだ改善していない場合があるからです。

WBCもCRPも高いままだったりします。

その場合には肺炎はまだ活発ですから、人工呼吸器のサポートを強制換気から補助換気に切り替えるのを焦ると、肺コンプライアンスも気道抵抗も改善していませんから、再び呼吸筋疲労が進行して全身状態が悪化してしまいます。

ヤブなお医者さんはこれを性懲りも無く繰り返して、長期人工呼吸管理に陥らせて、ウィーニング困難を招きますから要注意です!

しかしあまり強制換気モードを長期間行うと、今度は人工呼吸器のサポートに慣れて、呼吸筋自体が弱ってしまいウィーニング困難になります。

ですから強制換気モードからプレッシャーサポートへの切り替えのタイミングは重要です。

元々の呼吸筋力や肺活量が低下して呼吸予備力のない高齢者などのウィーニングは、結構緊張する一発勝負になります。

 

プレッシャーサポートの問題点

プレッシャーサポートは人工呼吸管理を行う医療者側が、だいたい現状で患者さんが必要な換気の補助量はこの位ではないかと予想して、換気圧(サポート圧)を設定します。

しかしもしこの時に、サポート圧が不十分であったら、もしくは急に体調が変化して、肺炎がぶり返し、夜中に気道抵抗が増加してしまったら。

サポート圧が適正ではなくなり、患者さんは呼吸筋疲労に陥るか、分時換気量が適正に維持できなくなり、血液中の二酸化炭素量が増加してしまいます。

そうなるとCO2ナルコーシスから呼吸停止に陥ってしまいますね。

プレッシャーサポートは人工呼吸器からのウィーニングには欠かせないモードですが、様々なリスクもあるのです。

それらのプレッシャーサポートの欠点を補うために開発されたのが、次にあげる2つの補助換気モード、『ボリュームサポート』と『プロポーショナルアシスト』になります。

 

 

ボリュームサポート

強制換気モードに「ボリュームコントロール」と「プレッシャーコントロール」があるように、補助換気モードにも「プレッシャーサポート」以外に「ボリュームサポート」がありました。

ボリュームサポートとは、基本的にはプレッシャーサポートなのですが、一回ごとの呼吸で一回換気量を計測しています。

そしてその時に、換気サポートの指標として、肺コンプライアンス(胸郭コンプライアンスを含む)と気道抵抗を計測し、次の換気をサポートする時に、目標となる一回換気量が達成できるようにサポート圧を調節します。

つまりあらかじめ設定された目標の一回換気量が達成できるように、プレッシャーサポートの圧をその都度調整して一回換気量が達成できるようにするモードが「ボリュームサポート」になります。

 

ボリュームサポートの問題点

ボリュームサポートでは常に一定の一回換気量が維持できるようにサポート圧を人工呼吸器が調節していました。

しかしこの場合にも少し問題が起こります。

ボリュームサポートでは、患者さんの吸気に対するデマンド(要求)が反映されていないのです。

つまりは私たちは、落ち着いている時にはゆっくりとした浅い呼吸をしていますが、興奮したり体調が悪い時には、速く深い呼吸をします。

でもボリュームサポートでは、患者さんが沢山吸いたいのか、少しでいいのかは考慮されていません。

常に一定の一回換気量を保証する仕組みになっています。

 

 

プロポーショナルアシスト

このボリュームサポートの欠点を補うために出てきたのが『プロポーショナルアシスト』です。

『プロポーショナルアシスト』は患者さんの吸気に対するデマンド(要求)を計測します。

これはP1.0(ピーポイントワン)という指標を元にデマンドを計測するのですが、解説が複雑になるので、今回はこのP1.0の解説は行いません。

そして『プロポーショナルアシスト』では、あらかじめ計測しておいた肺コンプライアンスと気道抵抗の値を元に、P1.0の計測によって患者さんがどれくらい息を吸いたがっているかを測ってから、サポート圧を決定します。

ですから患者さんが苦しいからたくさん吸いたいと思っている時には、サポート圧を高くして一回換気量を増やしてやり、落ち着いている時にはサポート圧を低くします。

補助換気モードのサポート圧(アシスト)を、患者さんの要求に従ってプロポーショナルに変更していくのが『プロポーショナルアシスト』になります。

 

プロポーショナルアシストの問題点

しかしこのプロポーショナルアシストにも問題があります。

それは患者さんがはっきりした意識を持って呼吸のデマンドを表している場合はいいのですが、意識が混濁したり、薬剤でぼんやりしている時には当てにならないということです。

さらにあらかじめ設定されている肺コンプライアンスや気道抵抗の値も、肺の病状で変化すると修正や見直しが必要になります。

そしてこの見直しをきちんと行なって、プロポーショナルアシストを安全に使用するためには、呼吸換気力学や中枢性の呼吸制御に対してそれなりの知識が必要になります。

 

人工知能が将棋のプロ棋士を負かす時代になっても、機械にはまだまだ手がかかるのですね。

しかしこれらのモードはキチンと知識を持って活用すれば無限の可能性があります。

ぜひしっかり呼吸ケアを勉強して、これらの高度な補助換気モードを活用していただきたいと思います。

 

 

まとめ

今回は人工呼吸器の補助換気モードについて、代表的な『プレッシャーサポート』『ボリュームサポート』『プロポーショナルアシスト』について解説を行いました。

強制換気モードは急性増悪期に使用され、設定を失敗するとバロトラウマや全身状態の悪化などの問題が起こりやすいため、注意が払われやすいのですが、補助換気モードは回復期に使用されるため、なおざりにされやすい傾向があります。

しかし補助換気モードをキチンと管理することで、ウィーニングを速やかに安全に行い、早期離床を進めることはとても大切です。

ぜひ補助換気モードを注意してみてみてください。

 

 

 

最後までお読み頂きありがとうございます。

 

 

次回は「同期的間歇的強制換気(SIMV)』の解説を行います。

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