脳卒中リハビリ

脳卒中片麻痺の回復がADL練習で妨げられるならどんなリハビリがいいの?

脳卒中片麻痺の回復がADL練習で妨げられるならどんなリハビリがいいの?

 

はじめに

最近の脳科学の発展に伴い、脳卒中のリハビリテーションでは、麻痺の回復の可能性について語られることが多くなりました。

確かに現在の医療のレベルでは、脳卒中の麻痺の回復は限定的ではあります。

しかし全く回復しないわけでもないのです。

ですがその脳卒中の麻痺の回復について、気になることがあります。

日常生活動作練習ばかりしていると、麻痺の回復が妨げられる可能性があるということです。

しかしリハビリテーションとは、日常生活動作を自立させて、生活の質を高めるのが本来の目的なはずです。

しかし日常生活動作練習をしていると、麻痺の回復が妨げられるのも嫌ですよね。

一体どうすれば良いのでしょう?

これからはどんなリハビリテーションを行えば良いのでしょう?

今回は回復期リハビリテーション病院を退院した後に、日常生活動作を自立させながら、脳卒中の麻痺も改善していくためのリハビリテーション方法について解説していきます。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

どうして日常生活動作練習をすると脳卒中の麻痺の回復が妨げられるの?

これまでの脳卒中リハビリテーションでは、日常生活動作練習によって生活を自立させることで、活動性を高めていく方法が主流でした。

しかし最近の脳科学の発達に伴い、日常生活動作練習に偏った脳卒中リハビリテーションでは、麻痺の回復が妨げられる可能性が示唆されています。

それはどういった理由によるものなのでしょうか?

以下にその例をいくつかご紹介しますね。

 

⑴ 健側の手ばかり使うことで麻痺側の大脳半球の活動が抑制される

歩行については片足では歩けませんから、左右の足をある程度は均等に使うことができます。

しかし手の場合は、麻痺側の手がたとえ肩や肘がある程度動かせたとしても、指先がそれなりに実用的に使えないと、日常生活ではほとん麻痺側の手を使わなくなってしまいます。

そして健側の片方の手だけを使って、普段の生活を上手にこなせるようになっていきます。

それはそれで生活を自立させる上では大切なことです。

しかしここに脳卒中の麻痺を回復させるためには重大な落とし穴があったのです。

 

左右の大脳半球は互いに抑制し合う神経制御をおこなっています

脳の神経細胞は、簡単にいうと「興奮性細胞」と「抑制性細胞」の相互の制御で成り立っています。

つまりは何かの動作を行う場合に、まず興奮性細胞が運動を開始させ、いき過ぎた活動を抑制性細胞が抑えることで、スムースな脳の活動を制御しています。

そしてこの興奮と抑制の制御の仕組みは、左右の大脳半球の関係にも存在しています。

 

左右大脳半球の相互抑制の仕組み

左右の大脳半球はお互いに抑制し合う神経制御システムを持っています。

つまりもしあなたが右麻痺である場合、左の大脳半球が右側の手足の運動を制御しています。

そして日常生活で健側である左側の手ばかりを使っている場合、左側の手足を制御している、右の大脳半球の活動性が高まることになります。

すると活動性が高まった右の大脳半球が、左の大脳半球の活動を抑制するようになります。

左の大脳半球は活動が抑制されたことで、麻痺を回復させていくための、神経活動が抑制されてしまうことになります。

ですから本来は健側の手よりも、麻痺側の手を積極的に使うべきなのですが、麻痺側の指先が上手く動かない状態では、なかなか日常生活で使うわけにはいかないですね。

そして日常生活動作練習では、使えない麻痺側の手の機能も、健側の手で補うようにして、日常生活動作を行うために、健側の大脳半球はドンドン活動性が高まり、麻痺側の大脳半球はそれに対してドンドン抑制されていきます。

 

⑵ 異常歩行パターンでの歩行練習は異常歩行パターンを上手にしてしまう

あなたも歩行練習は一生懸命にやっていますか?

脳卒中になると、麻痺側の足を外側にぶん回すように歩いたり(ぶん回し歩行パターン)、健側の手足に極端に偏って体重をかけ、麻痺側の腰を後ろに引いた歩き方(健側依存歩行パターン)などの異常歩行パターンに陥りやすくなります。

そして皆さんなんとか歩き方を良くしようと、一生懸命に歩く練習をされます。

でもただ歩くだけでは、異常歩行パターンを練習することになってしまい、本当は治したい異常歩行パターンがますます強化されてしまいます。

ではどうすれば良いのでしょう?

まずはどうして脳卒中で異常歩行パターンに陥るのかを考えてみましょう。

 

脳卒中片麻痺の異常歩行パターンの原因

脳卒中片麻痺の異常歩行パターンには、様々なものがありますが、それらの異常歩行パターンに陥る原因は、脳卒中の片麻痺による脳神経による運動制御の障害が原因となっています。

例えば意識して手足を動かすための運動制御をおこなっている神経回路を「皮質脊髄路」と呼びます。

この皮質脊髄路は脳卒中になると、強く障害されてしまうため、片側の手足にはっきりした麻痺が出ます。

そのために脳卒中は身体の半身が麻痺する「片麻痺」と呼ばれる麻痺になるのです。

それに対して、手足を動かす時や歩く時にバランスを崩さないように、無意識的に姿勢制御を行う神経回路を「網様体脊髄路」と呼びます。

この神経回路は姿勢制御のために背骨の周囲の筋肉や肩甲骨や骨盤の周囲の筋肉の無意識的な運動を制御しています。

そしてこの網様隊脊髄路は脳卒中による麻痺が出にくい神経回路なのです。

つまり脳卒中片麻痺になると、歩く時に意識的に麻痺側の足を前に振り出そうとする運動は麻痺して動きにくくなっています。

しかし無意識的にバランスを取るために姿勢を制御することは容易に出来ています。

この状態で歩こうとすると、麻痺していて足を前に振り出すのが難しいことに対して、無意識のうちに骨盤などの運動を制御して足の振り出しを補助することになります。

これが「ぶん回し歩行パターン」です。

一生懸命頑張って歩こうとすることで、この皮質脊髄路と網様隊脊髄路の連携による「ぶん回し歩行パターン」が起きています。

ですから歩行を上手く出来るようになろうとして、ただ一生懸命に歩く練習をすると、自然とこの2つの神経回路が連携して、「ぶん回し歩行」を練習することになります。

その他の異常歩行パターンも、多かれ少なかれこんな感じの脳卒中に特有の神経回路の補助的な働きによって生み出されています。

ですからこの神経回路の制御パターンから抜け出す努力をしない限り、ただ歩く練習をしていただけでは、異常歩行パターンから抜け出すことが出来ないのです。

 

脳卒中の異常歩行パターンから抜け出す方法

脳卒中の異常歩行パターンは、脳卒中によって障害された脳の運動制御システムが、歩行動作を代償して、なんとか歩くために無理しているから起きている現象です。

ですから異常歩行パターンから抜け出すためには、障害されている神経回路の機能を回復させるためのアプローチが不可欠になります。

例えば「ぶん回し歩行パターン」に対するリハビリテーションを例にとると、ただ単に歩く練習をしているだけでは、この異常歩行パターンからは抜け出せません。

なぜぶん回しになるのかという基本的な問題に視点を戻す必要があります。

ぶん回しになる原因、それは皮質脊髄路の麻痺によって、麻痺側の足を上手に前に振り出せなく

なっているのが原因ですね。

 

ですからぶん回し歩行パターンから抜け出すためには、皮質脊髄路の麻痺によって障害されている、麻痺側の足を意識的に動かして、股関節や膝関節を曲げたり伸ばしたりする機能を回復するような練習を積極的に行わなければなりません。

まずは足を意識的になるべく思い通りに動かせるようにリハビリを行っていく必要があるのです。

それが出来てきてから、ようやく歩行練習が効果的に行えるようになります。

 

これからの在宅での脳卒中リハビリはどうやるのがオススメ?

これまでの脳卒中リハビリテーションは「基本的には麻痺は良くならないのだから、残された健側の機能を上手に使って日常生活を自立させ、体力を高めましょう」というものでした。

しかし「脳卒中の片麻痺は限定的だが治る可能性があるらしい」と言うことが分かってきました。

それと同時に、先ほどご説明したように、日常生活動作練習(歩行練習もただ歩くだけではADL練習です)を中心としたリハビリテーションは、麻痺の回復を妨げてしまう恐れがあるのです。

しかし脳卒中リハビリテーションの一番の目的は、「日常生活動作を自立させ生活の質を向上する」ことにあります。

ですから麻痺の回復を促すために、日常生活動作練習を行わない、もしくは普段の生活における日常生活動作を行うことを制限するなどのアプローチは本末転倒であり、ナンセンスです。

それでは例え麻痺が回復してきたとしても、運動不足で寝たきりになってしまいます。

これでは意味がありませんね!

ではどうすればいいのでしょう?

麻痺を回復させながら日常生活動作も上手に拡大していく、何か良い方法はないでしょうか?

 

毎日行う麻痺を回復させるための自主トレによるスペシャルメニュー

リハビリテーションの大きな目的は、なるべく日常生活動作を自立させ、生活の活動範囲を拡大していくことで、体力を高め、生活の質を高めていくことです。

ですから基本的には普段の生活での日常生活動作を制限することはしません。

ドンドン積極的に色々なことにチャレンジして、生活を楽しんでいただきたいと思います。

でもただ日常生活をがむしゃらに行うだけでは、身体機能に様々な影響が起きてしまいます。

麻痺の回復も妨げられてしまいます。

ですからこれらの問題を解決するために、毎日の自主トレメニューとして、麻痺を回復させ、歩行パターンを改善し、肩や腰や膝などの痛みを軽減するなどを目的にしたスペシャルメニューを取り入れることをお勧めします。

日常生活動作とは別に、障害された皮質脊髄路などの神経回路に働きかけ、麻痺を回復することを目的にしたスペシャルメニューを毎日の自主トレメニューとして取り入れていきます。

それによって日常生活動作能力を拡大させながら、麻痺の回復や身体機能の改善を目指すことが可能になるのです。

これまでの自主トレメニューは簡単な体力アップ的なものがほとんどであったと思います。

しかしこれからはもっと戦略的な自主トレアプローチが大切になってきている思います。

 

今後少しずつこのサイトで戦略的な自主トレメニューについてご紹介していきたいと考えています。

どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

 

まとめ

これまでの脳卒中リハビリテーションは日常生活動作練習が主となっていました。

確かに日常生活を自立させ、生活の範囲を拡大すること、生活の質を高めることが、脳卒中リハビリテーションの主な目的です。

ですから日常生活動作練習が重要であることは変わりがありません。

しかし日常生活動作練習を主体としたリハビリテーションは、脳卒中の麻痺の回復を妨げることが分かってきました。

この問題を解決するために、普段の生活では積極的に日常生活動作能力を高めていき、それを補う形での自主トレによるスペシャルメニューによって、麻痺の回復と身体機能の向上を図る方法が、今後の脳卒中の在宅リハビリテーションにおいて重要になると思われます。

 

 

最後までお読み頂きありがとうございます。

 

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

 

 

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