脳卒中リハビリ

脳卒中片麻痺の歩行練習(正しい歩行ってどんなだっけ?)

脳卒中片麻痺の歩行練習(正しい歩行ってどんなだっけ?)

 

はじめに

脳卒中片麻痺になって皆さんが第一になんとかしたいと思うことは「歩きたい」「歩けるようになりたい」ということではないでしょうか。

何故ならば、自分で歩けなければトイレにすら行けないからです。

そして一旦歩けるようになると、次に思うのは「キレイに歩きたい」ということになると思います。

何故ならば、脳卒中片麻痺になると、どうしても「ぶん回し歩行パターン」などの、異常歩行パターンが身についてしまい、正しく安定して歩けない場合が多いからです。

外を歩いていても、人の目が気になりますし、出来るだけカッコ良く歩きたいのは誰でも同じですよね。

では正しい歩行とはどんな歩き方をいうのでしょうか?

あなたは「正しい歩き方とはこういうものだ」とすぐに思い描いて言葉で説明することができますか?

もちろん私たち理学療法士は専門家ですから、きちんと言葉で「正しい歩行パターン」について説明することができます。

しかし一般の方は「正しい歩行パターン」とはどんなものか、言葉でうまく説明することは難しいのではないでしょうか?

生まれた時から「普通に歩いていた」ので、普通に歩くこととは、どんなことなのか、考えたこともないはずです。

では歩く練習はどうでしょう?

皆さんは健康な時に歩く練習をしたことがありますか?

おそらく足を鍛えるためにウォーキングや散歩をしたことがある方は多いと思います。

 

でもね!

 

健康な時に足を鍛えるために行ったウォーキングや散歩などの歩行練習と、「脳卒中片麻痺に必要な歩行練習」は根本的に違うのです。

何故ならば、健康的な時のウォーキングや散歩は、すでに「正しく歩けている」ことが前提で、健康のために足腰の筋肉を鍛えるために行うものだからです。

しかし脳卒中片麻痺の歩行練習は、麻痺して正しく歩けなくなった状態から、正しい歩き方を身につけ、それをさらに安定させて実用性を高めるものでなくてはなりません。

しかし脳卒中片麻痺の方が、日常の歩行練習で行なっている歩行は、健康な時のウォーキングと同じ感覚で「一生懸命歩けばきっと上手になれるはず」と、ひたすら頑張って歩いているだけの場合が多いように感じます。

これでは正しい歩行を獲得することはできません。

何故ならば「ただ一生懸命に歩く練習をする」ことは「ひたすら異常歩行パターンの練習をする」ことになってしまうからです。

ではどうすれば正しい歩行を練習することができるのでしょうか?

今回はこの脳卒中片麻痺の正しい歩行パターンを身につけるための歩行練習方法について考えてみたいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

なぜ脳卒中片麻痺になると「正しい歩行パターン」を思い出せないのか?

健康な時に、私たちが歩く場合、特に歩き方について強く意識することはありません。

なんとなく自分の行きたい方向に視線を向けると、自然とそちらの方に足が踏み出されて、歩き出してしまいます。

 

右足を先に出すのか?

左足を先に出すのか?

一歩の幅はどれくらいか?

踏ん張る力はどれくらいか?

 

これらのことは強く意識されることはありません。

 

ただなんとなく「あっちに歩いて行こう」と思うだけで歩けてしまうのです。

 

大脳基底核と視床による運動コントロール回路の存在

これは大脳皮質の運動野(一時運動野+高次運動野)の下に、大脳基底核と視床による運動コントロール回路が存在して、そこで動作の自動化を行なっているからです。

この大脳基底核と視床による運動コントロール回路は「動作の自動化」だけでなく「動作の熟練化」にも関与しています。

 

これはどう言う事かというと、例えばあなたが引越しをして、新しいマンションに移ったとします。

あなたはまだこのマンションでの生活に慣れていないため、初めはマンションの入り口の段差でつまづいて転びそうになりハラハラしますが、そのうち慣れてスムースに出入りが出来る様になります。

この時に初めは大脳基底核と視床に組み込まれていた、自動でマンションを出入りするプログラムは「以前のマンションのエントランス用」でした。

しかし何度か大脳皮質の運動野から「ここは新しいマンションのエントランスだから注意して動作を調節するよ」と指示を受けて、出入りしているうちに、新しいプログラムに更新されたのです。

この様にして私たちは新たな動作を獲得し、慣れていき、熟練動作として定着させていきます。

 

つまり新しい環境で行う慣れない動作や、新たな場所で行う初めての動作などは、大脳皮質の運動野(1次運動野+高次運動野)などで意識的にコントロールされます。

その大脳皮質の運動野の下には、大脳基底核と視床による運動コントロール回路が存在していて、皮質運動野の運動制御と一緒に動作の微調整を行なっています。

そして大脳皮質による意識しての動作を繰り返し行うことで、大脳基底核と視床に「その動作をほとんど無意識に行うためのコントロール情報」が蓄積され、強く意識しなくてもスムースに動作が行える様になります。

これが繰り返し動作を練習することで、その動作が熟練する仕組みです。

 

そしてここからが本題ですが「歩行」に関しては、皆さんは3歳以前に歩行動作の熟練化が終了しています。

それ以後は特に強く歩き方を意識することなく、友達とおしゃべりしたり、スマホをいじったり(良い子はやらないでね)しながら、何も考えずに歩いてきたのです。

ですから長いこと歩行を大脳皮質で意識することなく、何十年もぼんやり歩いてきたので、今頃になって「正しい歩き方を思い出せ」と言われても出来ないのです。

ですからあなたが正しい歩き方をもう一度身につけるためには

「1歳児から出直してやり直す」

必要があるのです。

こりゃ大変だ!

 

 

自動的に正しく歩くために必要な要素について!

 

しかし今更「1歳児の気持ちになってやり直せ」なんて言われてもどうして良いか途方に暮れてしまいますよね。

ですが大人のあなたでも子供と同じ様に正しい歩き方を練習する方法があるのです。

これを今からご紹介していきますね。

 

⑴ 正しい身体図式について

あなたは「身体図式」という言葉を聞いたことがありますか?

よく「身体図式」は「身体イメージ」と混同されがちなのですが、この2つは根本的に違うのです。

 

身体イメージ

まず一般的な「身体イメージ」とは以下の様なものです。

  • 私の足は長い
  • 私の顔は丸顔だ
  • 私は少し太っている
  • 私は背が高い方だ

こんな感じの客観的な身体に対するイメージが「身体イメージ」になります。

 

身体図式

これに対して「身体図式」はもっと主観的で漠然としたものになります。

例えば目の前のテーブルにコップに入った水があったとして、それを飲もうとした時に、簡単に手が届いて飲めそうか、少しコップの方に体を傾けて一生懸命に手を伸ばさないと届かないか。

あなたはコップの位置を見ただけでイメージできるはずです。

 

また歩いていて目の前に段差が現れた時に、片足を軽く上げただけで簡単に乗り越えられるか、この段差は自分には乗り越えられそうもないか、一目見ただけで判断できるはずです。

これらの動作に対して、自分の身体機能がどのどの様に外界と関わっているのか、その主観的イメージを司っているのが「身体図式」というものになります。

 

この身体図式は大脳皮質の運動野の一部と感覚野の一部と視覚野の一部が複雑に連携して生成されます。

そして脳卒中片麻痺になると、この「身体図式」の再調節が必要になるのです。

 

これはどういうことかというと、これまでの「身体図式」は健康な時に作成されたものです。

脳卒中片麻痺になると、手足の運動機能も変化しますし、バランス能力や、筋肉の硬さも変わってきます。

これらの麻痺を伴った身体機能に合わせた、なるべく正確な「身体図式」を再調整する必要があるのです。

 

しかし脳卒中になると大脳皮質の運動野に問題があったり、感覚障害があったりするので、簡単には正確な「身体図式」を生成することができないのです。

そのためには特別なリハビリプログラムが必要になります。

 

⑵ 大脳基底核と視床での制御

あなたが健康な時に歩いていて、特にどう歩くかを意識することはありませんでした。

歩きながら誰かとおしゃべりしたり、スマホをいじったり、よそ見をしても歩けていましたね。

 

これは実はとても大変なことなのです。

 

つまりは「歩く」という動作を、大脳皮質の運動野で意識しなくても、その大脳皮質の下位の運動制御回路である大脳基底核と視床によって、自動的に歩ける様に制御されていたのです。

しかしこの大脳基底核と視床による運動制御回路は、いわゆる「熟練動作を行う」回路なのです。

ですから歩行もこれまでの練習から獲得した熟練動作として行なっていました。

しかし脳卒中片麻痺になることで、麻痺側の手足が予定通りに動かなくなってしまい、基本的にはこの大脳基底核と視床による歩行運動の自動化プログラムは適正に働かなくなってしまっています。

ここでも脳卒中片麻痺によって麻痺した手足の機能に合わせた運動制御プログラムを大脳基底核と視床による運動コントロール回路に対して入力し直す必要があるのです。

 

⑶ 脊髄レベルでの歩行パターン生成器(CPM)の作動

私たちが歩行を強く意識しなくても自動的に歩ける仕組みについて、もう一つ重要なシステムが存在します。

それが脊髄の各レベルに分布している「歩行パターン生成器(CPM)」です。

このCPM回路は、頸髄から腰髄の各節の運動神経に対して、それぞれ左右一対になって組み込まれています。

この回路の特徴は右脚が伸展(伸ばす)活動をしている場合には、左足を屈曲(曲げる)活動を促して、交互に足をパタパタ振出す運動を自動的に再現できるところです。

この回路を利用した歩行練習に、脊髄損傷患者さんの腰に電磁波などによるCPMを刺激する装置をつけて、スリングで体を吊り上げながらトレッドミルに乗せると、患者さんが自動的に歩き出すのです。

脳卒中片麻痺の場合には、左右の体幹や下肢の筋緊張に差があるため、スムースな下肢の交互の振り子運動が出来にくいため、CPM回路が良好に働けなくなっています。

このCPM回路が正しく活動できる様に、肩甲帯や体幹、下肢の筋肉の緊張をなるべく左右での差を少なくして、振り子運動をしやすくするためのアプローチが大切になります。

 

 

これらの歩行を正しく行うためのシステムを動かすためのリハビリ方法

 

ではこれらの歩行をなるべく正しく行うための運動制御回路がキチンと働く様にするためには、どんなリハビリプログラムが必要になるのでしょうか?

以下にそれぞれの運動回路に対するリハビリテーション方法について、簡単に解説していきますね。

 

⑴ 正確な身体図式の生成の練習

先ほど簡単にご説明させていただきましたが「身体図式」の生成には、⑴ 大脳皮質の運動野 ⑵ 大脳皮質の体性感覚野  ⑶ 大脳皮質の視覚野 の連携が必要になります。

そして脳卒中片麻痺の場合には⑴ 大脳皮質の運動野の障害があり、⑵ 筋肉の強張りによる筋感覚センサーの問題があります。

これに対して、高次脳機能障害による視空間失認などがなければ、⑶ 視覚によってそれらの機能の低下を補いながら、「身体図式」の生成を図っていくことになります。

具体的な方法としては、全身が映る鏡である「姿見」を用意していただきます。

そして姿見の正面にキチンと真直ぐに立った状態で、まずは頭の傾きや左右の肩の高さを揃える練習をします。

また左右の足を肩幅に拡げて爪先と踵の前後を揃えて自然に立てる様に練習します。

このためには、左右の腰の位置もキチンとしている必要があり、股関節の角度も揃っている必要があります。

つまり正面からは少し分かりにくいのですが、左右どちらかの腰が後ろに退けていたり、麻痺側の股関節の角度が狂ってしまっていると、足をキチンと揃えて立つことが出来ません。

キチンと真直ぐに立てない人が、正しく歩けるはずがありませんよね。

そうして鏡の前でキチンと真直ぐに立てる様になったら、鏡がなくても真直ぐに立てる様に練習していきます。

その方法としては、まずは鑑を見ながら真直ぐに立つ様にしてから、その時の身体の感覚や力の入れ具合を覚えておいて、次に鏡のない状態で同じ様に立つ練習を行います。

真直ぐに立てる様になったら、次は左右の足に体重を移動する練習を行います。

左右の足に同じ様に体重移動ができる様に、左右の足に交互に体重を移動する練習も、鏡を見ながら左右の身体の姿勢が変わってしまわない様に注意しながら行なっていきます。

 

⑵ 大脳基底核と視床による歩行運動の自動化練習

大脳基底核と視床による歩行動作の自動化と熟練動作化がうまく出来ないと、いつまで経っても「ドッコイショ、ドッコイショ」と力みながら足元を睨んで意識して歩くパターンから抜け出せなくなってしまいます。

ですから初めは大脳皮質で意識しながらの歩行を行いながら、少しづつ大脳基底核と視床での熟練した意識しなくても自然に歩ける歩行パターンを身につけていきたいものです。

しかし脳梗塞と脳出血では、障害される脳神経領域が大きく異なります。

同じ様な片麻痺に見えても、マヒの原因となる障害された運動神経の部位は大きく違っています。

特に脳出血の中でも、その多くを占めている「被殻出血」と「視床出血」は大脳基底核と視床に対して、直接出血してその機能を障害している可能性が高いため、特にアプローチをキチンと行う必要があります。

今後の記事において少しずつこの問題については解説していきたいと思います。

重要なポイントとしては、いきなり上手に歩こうとするのではなく、歩くための下肢や体幹の動きを正確に自動化して行える様な練習から始める必要があるということです。

 

⑶ 脊髄レベルでの歩行パターン生成器(CPM)を上手に作動させる練習

脊髄レベルでの歩行パターン生成器が作動する場合に重要なのは、これが左右の下肢を交互に振子の様に振出す機能だということです。

ですからこの脊髄の各節レベルに組み込まれているCPM回路を適切に作動させるためには、背骨の両側にある脊柱起立筋群と左右の下肢の筋群の緊張がなるべく左右で同じか近いことが大切になります。

ですからこれまでもこのサイトでご紹介してきましたが、超音波療法やマッサージバイブレーターを積極的に利用した、筋緊張の軽減アプローチをキチンと習慣的に行なっていくことが大切になります。

 

 

まとめ

今回は脳卒中片麻痺の歩行練習について、一般的には上手に歩ける様になるために、ひたすら歩き方に気をつけながら歩く練習をする風潮に対して、もう少し脳による歩行運動の制御機能を理解した上での戦略的な歩行練習の可能性について簡単に解説を行いました。

今後このテーマについては、このサイトでさらに詳しく解説していきたいと思います。

 

 

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

 

 

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