進行性核上性麻痺

進行性核上性麻痺 PSP の呼吸ケア(呼吸管理)について!

進行性核上性麻痺 PSP の呼吸ケア(呼吸管理)について!

 

はじめに

神経難病の末期になると問題になってくるのが呼吸の障害です。

ここで一般的な神経難病の呼吸の問題というと、一般的なイメージは「呼吸筋力が弱ってしまって、自力で呼吸できなくなった状態で人工呼吸器をつけて延命する」といったものではないでしょうか?

つまりは「ホーキンス博士」ですね!

しかしホーキンス博士の病名は筋萎縮性側索硬化症(ALS)です。

実を言うと脊髄の前角細胞が障害されて手足の麻痺が起きる筋萎縮性側索硬化症(ALS)と、大脳基底核が障害されてパーキンソニズムなどが起きる進行性核上性麻痺(PSP)では、呼吸障害の出方も全く違います。

進行性核上性麻痺(PSP)の呼吸障害は、ただ単に呼吸筋力が弱ってくるALSのそれとは全く違います。

今回は進行性核上性麻痺に特徴的な呼吸障害の問題と、それを病気の初期から予防して、なるべく疾患の末期に苦しくならないためのPSPのための呼吸リハビリテーション方法について解説して見たいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

進行性核上性麻痺(PSP)の呼吸にはどんな問題があるのか?

進行性核上性麻痺(PSP)は大脳基底核が障害されて不随意運動や筋肉の強張り、すくみ足などのパーキンソン症状が出る病気です。

ではこの大脳基底核と呼ばれる脳の神経の部位はどの様な働きをしているのでしょうか?

大脳基底核はすぐ隣にある視床と連携して、動作の自動化と熟練を行なっています。

この動作の自動化と熟練というのは、例えばあなたがテーブルの上のコーヒーカップのコーヒーを飲もうとしたとしましょう。

あなたは目の前のコーヒーカップを見ながら「コーヒーを飲むぞ」と考えるだけで、手が自然に動いてコーヒーカップを口元に運ぶことができますね。

右手をカップに向かって真直ぐに伸ばしながら、手首を返してとかいちいち考えませんよね。

でもあなたがうんと小さな子供の頃には、一生懸命考えながらカップの水をこぼしながら飲んでいたのです。

でもカップの水を飲む動作を繰り返すうちに、大脳基底核と視床に、その動作のための運動制御プログラムが作られて、いつのまにか意識せずに自動的にカップを口元に運べる様になったのです。

もう少し分かりやすい例でご説明しましょう。

あなたは若い頃に自動車教習所で免許を取りましたね。(取ってない方はごめんなさいm(_ _)m)

初めて車を運転した時には、ハンドルをどうやって回すか、アクセルやブレーキをどうするか、一生懸命に考えながら車を運転していました。

でも無事に免許を取ってから、自分の車を運転して通勤する様になると、ほとんどハンドル操作やアクセル操作を意識することなく、行きたい方向に車を運転して進めることができる様になりました。

これはやはり自動車を運転するための、手足の動作の制御プログラムが大脳基底核と視床に作られたからです。

 

しかしPSPになると、この大脳基底核の機能が障害されてしまいます

実は大脳基底核の中には淡蒼球と言う神経核があります。

そしてこの淡蒼球は内節と外節に分かれていて、それぞれプログラムされた動作に対するアクセルとブレーキの働きをしています。

そしてPSPになると、この淡蒼球のアクセルとブレーキの操作がおかしくなってしまいます。

動作を制御するアクセルとブレーキがスムースに動かせないため、動作がギクシャクしたり、勝手な動作を行なってしまったりします。

例えば足を曲げる動作と伸ばす動作を同時にアクセルを踏んでしまったりするために、筋肉が強張ってしまって、かえって足が動かせなくなったりします。

これが「すくみ足」と呼ばれる症状です。

 

実はPSPの呼吸障害には、呼吸筋に対してこの「すくみ足」と同じ症状が起こってしまうのです

 

それはどんなモノなのでしょうか?

もう少し詳しくご説明していきますね。

 

進行性核上性麻痺(PSP)の呼吸障害は呼吸筋ミスマッチによる障害です!

あなたが息を吸い込もうとする時、胸の動きはどうなるでしょう?

息を吸い込んだ時には、胸が拡がっていきますね。

これは肋骨と肋骨の間にある「外肋間筋」が活動することで、それぞれの肋骨を上に引き上げて、胸郭が拡がるからです。

逆に息を吐く時には、胸はすぼまっていきます。

これは肋骨と肋骨の間にある「内肋間筋」が活動することで、それぞれの肋骨を下に引き下げて、胸郭がすぼまるからです。

この「外肋間筋」と「内肋間筋」の活動がぶつかり合って喧嘩してしまい、胸郭が強張って動かなくなる現象を『呼吸筋ミスマッチ』と呼びます。

 

一般的な呼吸不全の「呼吸筋ミスマッチ」

一般的な呼吸不全の「呼吸筋ミスマッチ」はそれぞれの肋間筋が努力性呼吸を続けていて、疲れてしまって、硬くこってしまうことで起こります。

つまり原因は頑張って呼吸を続けていることで「外肋間筋」と「内肋間筋」が両方とも疲労して、凝って強張ってしまうことで起こっています。

 

進行性核上性麻痺(PSP)の「呼吸筋ミスマッチ」

進行性核上性麻痺(PSP)の「呼吸筋ミスマッチ」の場合は、特に「外肋間筋」と「内肋間筋」が疲労しているわけではありません。

進行性核上性麻痺(PSP)になると、筋肉が強張りやすくなるために、よく肩や腰の筋肉がこって痛くなることがあります。

それと同じことが「外肋間筋」と「内肋間筋」に起こっているのです。

つまり大脳基底核の淡蒼球にあるアクセルとブレーキが故障して、「外肋間筋」と「内肋間筋」を呼吸に合わせて、スムースに交互に緊張させたり緩めたりすることが出来なくなってしまうのです。

要するに呼吸の「すくみ足」みたいな感じでしょうか!

 

進行性核上性麻痺(PSP)の「呼吸筋ミスマッチ」を放置してはいけません!

ほとんどの進行性核上性麻痺(PSP)の方は、病気の初めの頃から胸郭が硬く強張っています。

これをそのまま放置しておくと、胸郭はどんどん硬くなってしまいます。

そして胸郭が硬くなることで、深呼吸などもしにくくなります。

そしてやがては「誤嚥性肺炎」などを引き起こす様になります。

また例え人工呼吸器を装着しても、胸郭が硬く強張っていて、十分に酸素を肺に送り込めないなんていう状態になる可能性もあります。

病気の初めのうちから呼吸筋ストレッチをしてもらいましょう!

この様な呼吸障害をなるべく防ぐためには、進行性核上性麻痺(PSP)の病気のなるべく初めのうちから、胸郭の「呼吸筋ストレッチ」を行うことが大切になります。

しかしこの「呼吸筋ストレッチ」はなかなか素人のご家族がやるには難しい手技になってしまいます。

ですからできれば呼吸ケアの経験のある理学療法士を見つけておいて、その方に訪問リハビリを依頼しておきましょう。

もしすでに訪問リハビリを受けられているならば、担当の理学療法士の方にこの記事のことを説明して、その担当理学療法士の方に「呼吸筋ストレッチ」を練習しておいてもらいましょう。

そしてなるべく早くから継続的に呼吸筋ストレッチを続けておくことをお勧めいたします。

 

 

まとめ

今回はあまり巷では解説されていない進行性核上性麻痺(PSP)の呼吸ケアについて解説を行いました。

進行性核上性麻痺(PSP)の呼吸障害は、大脳基底核の障害による、「呼吸筋ミスマッチ」が原因となる「胸郭の強張り」が特徴となるモノです。

これらは比較的に疾患の初期から静かに進行しています。

なるべく早い対策を取ることをお勧めいたします。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

 

 

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