脳卒中リハビリ

脳卒中の麻痺を回復するためには絶対に筋肉のこわばりをとらなくてはならない!

脳卒中の麻痺を回復するためには絶対に筋肉のこわばりをとらなくてはならない!

 

 

はじめに

近年の脳卒中リハビリテーションにおいてニューロリハビリテーションがさかんに言われる様になってきています。

これはそれまで「いったん障害された脳の神経ニューロンが再生することはない」と言われていたものが、1998年 Erikkson らの基礎研究により「障害を受けたニューロンが再生する」という事実が証明されました。

それによって脳科学が大きく発展し、それにともなって脳卒中リハビリテーションも日常生活動作練習を中心としたこれまでの方法からニューロリハビリテーション(神経リハビリテーション)と呼ばれる方法に変わってきています。

このニューロリハビリテーションとは「脳卒中などの障害によって失われた脳の神経ネットワークを再構築させ、さらにそれを促進させる」リハビリテーション方法を言います。

これまでのリハビリテーションは、脳卒中の麻痺によって障害された運動機能の残された能力を使って、できるだけ日常生活動作を自立させるための練習を行うリハビリでした。

しかしニューロリハビリテーションは脳卒中で障害された脳の神経回路をできる限り回復させ、麻痺側の運動機能の改善をはかるためのリハビリテーション方法です。

現在、ニューロリハビリテーションの方法として様々なアプローチが開発されてきています。

しかしそれらすべてのアプローチの一番基本になるアプローチとして「麻痺側の筋肉のこわばりをとる」ことが最も大切なアプローチだということ。

今回はこれをベテランセラピストの傲慢で言い切ってしまおうと思います。

なぜ脳の神経回路の回復させるために「筋肉のこわばりをとる」ことが一番大切なのでしょうか?

今回はニューロリハビリテーションと筋肉のコンディショニングの大切な関係について解説を行いたいと思います。

どうぞよろしくお願いします。

 

 

ニューロリハビリテーションとは?

まずは本題に入る前に、もう一度ニューロリハビリテーションとはどんなものかについて簡単にご説明しておきますね。

これまでの脳卒中リハビリテーションは 1928年に Cajal先生によって「損傷を受けた中枢神経は再生しない」という説に則って、残された残存機能を上手に使って日常生活動作を上手に行うアプローチ方法に終始していました。

何せ神経解剖学者の Cajal先生ときたら、あのニューロンを発見した偉大な方なのですから、誰も逆らうことはできません。

しかし20世紀もいよいよ終わる頃になって、「障害を受けたニューロンが再生する」ことが発見されました。

ここからニューロリハビリテーション(神経リハビリテーション)が大きく発展し始めます。

つまりここからこれまでの「麻痺した身体で日常生活を上手にする練習リハビリ」から、「麻痺した手足の機能を回復させるためのリハビリ」に切り替わるのです。

ニューロリハビリテーションでは神経障害によって麻痺した機能を回復させるために様々なアプローチを行います。

そのメニューとしては「『CI療法』や『促通反復療法』『HANDS療法』『ミラーセラピー』などの方法や『経頭蓋磁気刺激』『経頭蓋直流電気刺激』などが挙げられます。

そしてこれらの様々なアプローチが目的とするのは「障害された脳の神経回路を再生させる」ということです。

これがニューロリハビリテーションということになります。

ではなぜ「麻痺側の筋肉のこわばりをとる」ことが「障害された脳の神経回路を再生させる」ために一番大切なニューロリハビリテーションの基本となるアプローチなのでしょうか?

 

 

障害された脳の神経回路を再生させるために!

脳卒中によって障害された神経機能を補うために、「脳卒中によって破壊された神経細胞の働きを脳の反対側の神経細胞でサポート」したり、「損傷された神経細胞の隣の神経細胞がその機能を継承」したりといった反応が起こります。

これを「脳の可塑的変化」と言います

脳の神経回路には、繰り返される動作や周囲の環境に影響されて、神経系が新しい機能や構造に変化していく性質があり、これを「神経可塑性」と呼びます。

つまりは一生懸命に手を動かせば、そのぶん脳の神経細胞の中で、手を動かす神経回路が強化されていきます。

しかし手を動かさずに口ばかり動かしていると(行動せずに文句ばかり言っていると)脳の神経回路の中で手を動かす回路が減って、口を動かす回路が増えて言ってしまいます。

ようするに麻痺側の手足のリハビリをしっかりやらないと、口ばっかり達者になって麻痺はちっとも良くならないということですね。

そして麻痺側の手足の機能を高めるためには、その手足の運動を制御する神経回路を増やして強化していかなければなりません。

これには『神経再生』や『シナプス強化』などが挙げられます。(他にも色々あります)

例えば麻痺した指を動かすための指示を出す神経細胞がどうやって再生するのでしょう?

まず破壊された指を動かすための神経細胞の周囲の神経細胞が、破壊された細胞の代わりに指を動かす活動をするようになります。

この細胞は新たに生まれた細胞であったり、それまでは休眠していた予備の細胞であったり、それまでは別の仕事をしていた細胞だったりします。

そしていくつかの細胞が共同して1本の指の一つの関節を曲げる動作を担当します。

この複数の細胞の共同を神経活動単位と言います。

 

この神経単位が多くなればなるほど、指は上手に動かせるようになります。

そして神経単位を増やしていくために、神経はシナプスによって連携を行います。

動作を練習すればするほど、神経のシナプス連携は強くなっていきます。

こうして少しずつ神経の活動単位を増やしながら神経回路を強化していって、麻痺を回復していくのです。

こういうのを「運動学習」とも言います。

 

ですからニューロリハビリテーションとは、神経が破壊されて失われた運動機能(麻痺)を、特別な運動学習方法によって回復させていく方法と言えます。

では実際のニューロリハビリテーションによる運動学習はどのように行われるのでしょうか?

 

 

脳卒中リハビリでの運動学習

繰り返しの運動練習によって神経活動単位を増やしていくことが運動学習だということになると、その運動学習はどのように行われるのでしょうか?

まずは脳に運動学習をさせるためには、今行なっている動作が、自分でやっている動作だと認識させなくてはなりません。

それではどうすれば脳が自分の動作を認識することができるのでしょう?

 

まずは目で見て確認する

一番わかりやすい単純な方法は、自分の目で見て手足が動いているのを確認するということです。

これならわかりやすいですよね。

でも私たちは暗闇で手足を動かしている時など、自分の手足を見なくても、自分で動かしているのが分かりますよね。

これはどうしてなのでしょうか?

 

運動神経と感覚神経の連携で確認する

実はこの仕組みは脳の運動神経と感覚神経が連携して働くことで行われます。

例えばあなたが右手を動かそうとしたとします。

まずはあなたの脳の大脳皮質の運動野というところで「右手を動かす」という運動指示が作られます。

これが脊髄などの中の神経路を下行していって、右手の筋肉を動かします。

そうするとその筋肉の筋線維の中にある感覚センサーが働いて「どのように筋肉が働いて右手が動いたか」の感覚情報が作られます。

この感覚情報が今度は脊髄などの中の神経路を上行していって、大脳皮質の感覚野に届けられます。

そうすると運動野で作られた「運動指示」と感覚野に帰ってきた「感覚情報」が照合されて、運動野で指示した通りに手足が動いたかが検証されます。

もし指示された動作と結果の動作に違いがあれが、それを素早く修正していきながら、脳が動作を制御する方法を練習していきます。

これが「運動学習」の一番の基本の基本になります。

 

 

もし筋肉の感覚センサーが働かなくなたら!

このように運動野で作られた「運動指示」と感覚野にフィードバックされた「感覚情報」を擦り合わせて、運動制御を行うことで運動学習を進めていくのです。

しかしもしここで筋肉の感覚センサーがうまく働かなくなていたらどうなるでしょうか?

脳の運動野から「右手を動かす」指示が出されて、右手の運動が行われた時に、その右手の筋肉の感覚センサーが働かなくて、「感覚情報」がフィードバックされなかったら。

脳は運動制御のコントロールが出来なくなってしまいます。

とうぜん運動学習も行えませんね。

しかも問題はそれだけではありません。

運動野からの運動指示に対して、その動作に対する感覚情報が脳にフィードバックされないと、もっと色々な問題が起きることが分かってきているのです。

たとえばあなたは「幻肢痛」と呼ばれる症状について聞いたことがありますか?

この「幻肢痛」とは腕などを切断された方が、本来はないはずの腕があるように感じてしまい、その腕がこわばったり痛みを感じたりする現象を言います。

実はこの幻肢痛は、この運動野からの運動指示とそれに対する筋肉からの感覚情報のフィードバックが上手くいかないことで起きるのです。

手足が切断された後でも、脳の運動野にはその手足を動かすための神経回路が残されています。

そして手足が生えていた頃の習慣で、運動野から切断されてしまった手足に対して、運動指示を出してしまいます。

ところがその手足はすでに切断されてありませんから、その手足の筋肉の感覚センサーからの感覚情報がフィードバックされることはありませんね。

そうすると運動指示に対する感覚情報のフィードバックがないことで、脳は混乱してしまい、その結果として、切断されてないはずの手足があるように感じてしまい、その手足がこわばったり痛みを感じたりするのです。

実は脳卒中の麻痺側の手が後になってドンドン緊張してこわばってくるのも、この「幻肢痛」と同じ原理だと言われています。

 

脳卒中の麻痺側の手足の筋肉がこわばっていることを良く見かけます。

これが脳卒中の麻痺が痙性麻痺と呼ばれる理由です。

普通の末梢神経麻痺であれば、筋肉は力が抜けてダラダラに麻痺しますが、脳卒中の麻痺が筋肉がこわばって動きにくくなります。

そしてこの脳卒中の麻痺側の筋肉のこわばりが運動コントロールと運動学習を妨げる大きな原因となるのです。

それはどうしてなのでしょうか?

 

 

脳卒中の麻痺側の筋肉のこわばりが運動学習を妨げます

脳卒中の麻痺は痙性麻痺といって麻痺側の手足の筋肉がこわばってしまいます。

そしてこれが運動学習を妨げてしまいます。

なぜならば麻痺側の筋肉がこわばることによって、その筋線維の中にある感覚センサーが上手く作動しなくなってしまうからです。

筋肉の感覚センサーが作動しないということは、運動野からの運動指示がその筋肉に送られても、感覚情報のフィードバックが行われないということです。

この状態は「幻肢痛」を引き起こした手足の切断の時と同じ状態になってしまっています。

そうなのです、脳卒中が発症してから結構時間が経ってから、麻痺側の指がこわばってきたり、足の指がこわばってくるのは、この「幻肢痛」と同じ仕組みによると考えられています。

ですから脳卒中の発症からかなり時間が経ってから麻痺側の指や腕がこわばってくる場合があります。

これは麻痺が悪くなっているのではなく、運動指示と感覚情報のフィードバックが上手くくいかないで運動学習ができていないことが原因なのです。

麻痺側の手足の筋肉をこわばらせたままにしておくと、そこからさらにこわばりが酷くなってしまう可能性があるのです。

 

痛みや痺れが悪化する場合もあります。

 

 

筋肉のこわばりを放置するともっと悪いことがあります

しかし筋肉のこわばりを放置するとまずいのはそれだけではありません。

実は筋肉がこわばって感覚フィードバックがうまくできないままにしておくと、その筋肉を動かすための運動野の運動神経細胞がなくなってしまうのです。

つまり運動学習が上手くいかなくなると、その運動を行うための運動神経回路が働かなくなり、その結果として「脳の可塑性」によって、その神経細胞は別の働きをするようになります。

はじめのうちは筋肉がこわばって動かしにくいだけだったものが、それを放置して時間が経過すると本当に麻痺して動かなくなってしまうのです。

脳卒中の筋肉のこわばりおそるべしです。

 

 

脳卒中の筋肉のこわばりは麻痺のせいでない可能性があります

でもあなたはいま「脳卒中は痙性麻痺だからこわばるのは麻痺のせいだろう」と思われましたよね。

確かに脳卒中の麻痺は痙性麻痺ですから、麻痺側の筋肉はこわばります。

でも痙性麻痺による筋肉のこわばりはそれほど強くないのです。

でもあなたの手や肩ははガチガチにこわばっていますよね。

これはどうしてなのでしょう?

 

実はこれはあなたが脳卒中を発症した時に意識を失っている間に起こったことが問題なのです。

脳卒中の急性期には、運動神経や感覚神経だけでなく「自律神経」の機能も障害されます。

自律神経が障害されると、身体の血流が滞るようになり手足がひどく浮腫みます。

そうすると手足の筋肉の血流が滞るようになり、筋肉の線維に栄養が行き渡らなくなり、筋肉がカチカチにこわばるようになります。

そうすると筋肉の中の感覚センサーに栄養や酸素が届かなくなりセンサーが働かなくなります。

その結果、運動野の運動指示に対する筋肉からの感覚フィードバックが行われなくなります。

そうなると脳の運動野と感覚野での運動制御と運動学習が上手くできなくなり、脳の運動回路が混乱して、麻痺側の手足をさらにこわばらせていきます。

そのためにさらに筋肉がこわばって栄養が筋線維に届かなくなり、さらに感覚センサーが働かなくなります。

しまいには運動学習ができないことで、その動作に関する脳の運動回路が「脳の可塑性」にともなって消失してしまいます。

あなたはさらに麻痺が悪化したように感じます。

でも片麻痺は脳卒中の後遺障害ですから進行することはありません。

「麻痺が悪くなってる気がする」とかかりつけのお医者さんに訴えても一笑に付されてしまいます。

でも本当は運動学習の障害によって、その動作に対する運動回路のシナプスがどんどん弱まっていっているのです。

そして「脳の可塑性」が進んで、その動作に対する運動回路が消失していきます。

これはえらいことです!

 

 

麻痺側の手足の筋肉をほぐしましょう!

ですから急性期から続いている、そのカチカチの麻痺側の筋肉をとにかくほぐす努力をしましょう。

意識が戻った時からカチカチなので、あなたは「たぶん脳卒中の麻痺はこういうものだろう」と思い込んでいるかもしれません。

でも本当はあなたの手足の筋肉はもっと柔らかいんですよ。(本当はもっと出来る子なんですよ のニュアンスで読んでねwww)

市販のバイブレーターを買って毎日コツコツと硬くなった部分のマッサージをしてもいいですし、専門家のマッサージを受けてもいいです。

なんとか筋肉をほぐす努力をしてください。

 

ちなみに専門家によるマッサージでは、一般的なマッサージ師さんのマッサージよりも、理学療法士の中で「マイオセラピー」が出来る方を探して受けられると効果が非常に高いです。

実は理学療法士さんの中でも脳卒中に対してマイオセラピーを行うことはあまりありません。

でも効果抜群なんです。

なんで脳卒中にマイオセラピー? と思ってる理学療法士さんを無理やり説得してマイオセラピーをやってもらいましょうwww。

 

 

まとめ

今回は脳卒中片麻痺の筋肉のこわばりを放置することで、麻痺の回復を促すための脳の運動学習が障害されて、麻痺がさらに悪化してしまう現象について解説を行いました。

今回の解説は少し分かりにくかったかもしれません。

でも私が言いたいことは「麻痺を治したければ麻痺側の筋肉をマッサージしてほぐしましょう」ということです。

簡単でしょう!

どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

 

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

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