リハビリ裏話

集中治療室での人工心肺蘇生の思い出!

集中治療室での人工心肺蘇生の思い出!

 

最近は仕事の関係で在宅人工呼吸に関わる機会が増えています。

そして色々と人工呼吸器に触れていると、若い頃に集中治療室で呼吸ケアに携わっていた時の様々なエピソードを思い出します。

今回はその頃の集中治療室での、ある人工心肺蘇生のエピソードをお話ししたいと思います。

結構ヘビーな話で、これぞ「ザ裏話」的な感じです。

でも今から20年くらいも前のお話ですし、このお話の舞台だった病院の院長先生も何年も前にガンで亡くなっていますし、もう時効かなと思いますので、書いちゃいますね。

どうぞよろしくおねがいします。

 

昼下がりの心停止

私は当時は人工呼吸器が操作できる臨床工学技士の資格を持った理学療法士として、ある病院の集中治療室に勤務していました。

医師の指示のもと人工呼吸器を自由に操作しながら呼吸理学療法ができる便利なスタッフとして、当時は集中治療室に常勤で勤務する日本で数人しかいない理学療法士の一人でした。

ある日の昼休みが終わってすぐくらいの時です。

一般病棟に入院中の60代くらいの女性が、病室で急に心停止に陥ってしまい、大急ぎで、集中治療室に運び込まれてきました。

そこで分かった心停止の原因は「高カリウム血症」でした。

 

実はその患者さんは、もともと腎機能が少し悪かったのですが、研修医の先生が間違って高カリウムの点滴を行ってしまったのです。

血液中のカリウムの濃度は通常ではとても低いのですが、いったんカリウム濃度が上がってしまうと、あっという間に心臓が止まってしまうという厄介な代物なのです。

腎機能が低い人は、このカリウムを摂取しないように厳しい食事制限をされています。

ホウレンソウなどの青物野菜や、バナナ、チョコレートなどを食べることが出来ません。

塩分も制限されています。

しかしこの状態で高濃度のカリウムを点滴で血液に直接送り込まれたのですから、ひとたまりもありません。

あっという間に心臓が止まってしまいました。

 

透析機がない

この血液中のカリウムを速やかに除去するには透析を行うしかありません。

しかしこの時、集中治療室には血液濾過透析機しかありませんでした。

透析機は血液を透析して綺麗にします。

濾過透析機は血液を濾過しながら透析して綺麗にします。

ですから血中のカリウムを除去するためには濾過透析機でも良いように思います。

でもそうではないのです。

濾過透析機は主に血液の中の余分な水分を濾過して取り除くことで心臓の負担を軽くするために使うために、水分の除去能力を高めており、その分カリウムなどを透析で取り除く能力が低いのです。

ですからここは透析機を透析センターから借りてこなくてはなりません。

ところがこの日の透析センターは満員だったのです。

つまりこの時に病院内で余っている透析機は1台もないことが判明したのです。

もし集中治療室でこんなことが起きていなければ、商売繁盛でありがたいことなのです。

でも目の前で心臓が止まったままの患者さんに心肺蘇生術を行なっている、こちらには大変な問題です。

 

そしてここで集中治療室と透析センターの間で軽い揉め事が起こります。

 

集中治療室: 患者の心臓が停止しているんだ透析機をとにかく1台よこせ!

透析センター: 大切な患者様から透析機をいきなり外せるもんか無理だ!

集中治療室: そりゃそうだ! でっでも少し透析を早めてなるべく早めにくれないか?

透析センター: そんなことして大切な患者様の体調が悪化したらどうする。

集中治療室: そりゃそうだ!

 

ということで集中治療室では、とにかく透析が終わる夕方までずっと心肺蘇生を続けることになったのです。

それからは数名の医師と私たちスタッフが交代で心肺蘇生を延々と5時間ほど、ただ黙々とやり続けました。

そして夕方になってようやく透析機がやってきて、透析が始められたのです。

 

患者さんはどうなったのか?

結局その患者さんはどうなってしまったのか?

実は翌日にはしっかり意識が回復して、しかもピンピンしていたのです。

でも本人は自分がどうして意識を失って集中治療室に運ばれたのか全くわかりません。

しかもずっと心肺蘇生を受け続けていたので、胸の真ん中あたりに可愛い紅葉のような手形がくっきりと残っています。

幸い肋骨は折れてはいませんでしたが「異常に胸が痛い」と訴えていました。

自分がなぜ急に意識を失ったのか、どうして集中治療室にいるのか、どうして胸が痛いのか、誰も教えてくれません。

そりゃ病院側のミスで心臓が5時間も止まっていたなんて口が裂けても言えやしません。

うっかりそんなことを打ち明けたら、それこそビックリして、もう一度心臓が止まってしまいます。

その患者さんは誰かスタッフがベッドのそばを通るたびに、こちらがビクッとするくらい元気な大声で「何が起きたの誰か教えて~!」と叫んでいました。

 

 

本当に助かってよかったね!

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

 

 

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