進行性核上性麻痺(PSP)のまぶたが開かなくなる現象について!
はじめに
進行性核上性麻痺(PSP)には、様々な症状が認められています。 しかしすべてのPSPの症状が、一人の患者さんに現れるわけではありません。
進行性核上性麻痺(PSP)の症状は、ひとりひとり、大きく違っています。
今回は、そんなPSPの変わった症状の中で、「まぶたが開かなくなる現象」について、解説してみたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
PSPのまぶたが開かなくなる現象
PSPの症状の中で、ある日突然「まぶたが開かなくなる現象」が認められる場合があります。
このまぶたが開かなくなる現象は、その症状の程度にも、個人差があります。
いったん、まぶたが開かなくなると、半日ぐらい、ずっと開かない状態が続く場合もありますし、ほんの数秒から数分の間だけ、目が開かないと、感じる場合もあります。
そしてまぶたが開かなくなると、自分ではどうしようもなく、自力では目を開くことが出来なくなります。
また他の誰かが、指でまぶたをこじ開けようとしても、強く目を閉じているため、なかなか開けられない場合がほとんどです。
なぜパーキンソン病のような、運動コントロールの障害を引き起こす、進行性核上性麻痺(PSP)において、まぶたが開かないような症状が出るのでしょうか?
大脳基底核の機能とPSPの症状について
進行性核上性麻痺(PSP)とは、タオ蛋白が脳内に蓄積して、脳の大脳基底核の機能が障害されて、症状がパーキンソン病のような、運動コントロールの障害が起こります。
ではこの大脳基底核には、どのような機能があるのでしょうか?
大脳基底核の機能
大脳基底核は、脳の表面を覆っている、「大脳皮質」の下にある、線条体や被殻あるいは淡蒼球などの、神経核がいくつか集まって出来ています。
大脳基底核は、大脳皮質の広い範囲から、神経の連絡を受け、またそれを、大脳皮質に戻す、「大脳皮質ー大脳基底核の閉鎖ループ」を形成しています。
そのループには、いくつかの種類があり、一番メジャーなのは、大脳皮質の運動野と大脳基底核の間の「運動調節ループ」です。
これは、私たちが何かの動作を行うときに、いちいち肩の上げ方や、肘の角度を気にしなくても、自然とスムースな動作が、無意識に行えることに、「運動調節ループ」が関わっているのです。
そのほかにも、「眼球運動調節ループ」や「感情調節ループ」「記憶調節ループ」など、様々なループが、大脳皮質と大脳基底核の間には存在します。
たとえば大脳基底核は、感情のコントロールや、記憶のコントロールなどにも、深く関わっています。
例えば、記憶のコントロールに関しては、ひとつひとつのエピソードは、側頭葉とその奥の海馬に蓄えられています。
しかしその記憶の前後関係や、関連性をヒモづけることに、大脳基底核が関与しているようなのです。
ですからPSPの症状の中で、記憶の障害に関しては、ひとつひとつのエピソードは正確だが、その前後関係や、関連性がめちゃくちゃに混乱してしまう場合があります。
何十年も前のことを、つい昨日のことのように思い出して、怒ったり泣いたりする場合があります。
眼球運動と大脳基底核
進行性核上性麻痺(PSP)の特徴となる症状に、眼球運動障害が挙げられますね。
もともと進行性核上性麻痺とは、核上神経の麻痺による眼球運動障害によって、下方注視が出来なくなることから、つけられた名前です。
要するにPSPは、パーキンソン病にとてもよく似た症状が出る病気ですが、眼の動きが障害されることで、主治医の先生も、「これはPSPではないのか?」と気がつくのです。
そして、この眼球運動障害の原因が、大脳基底核の「眼球運動ループ」の障害によると、考えられています。
要するにPSPの眼の動きの障害は、眼の運動の麻痺ではなく、眼の動きを制御するシステムの障害であると考えられます。
つまりPSPやパーキンソン病に見られる、歩行障害である、「すくみ足」などの動作のすくみが、眼の運動に起こったのが、PSPの眼球運動障害なのだと考えらえれますね。
PSPの眼球運動障害
× 眼の運動の麻痺
○ 眼の運動制御の障害(いわばスクミ)
PSPのまぶたが開かなく現象
では今回のテーマである、「PSPのまぶたが開かなくなる現象」についてはどうでしょうか?
やはりこれも大脳基底核の機能障害によるものと考えた方が合理的ですね。
つまりは、まぶたを動かす筋肉や神経の麻痺ではなく、「まぶたを動かす動作の制御が障害されて、まぶたを動かす動作がスクんでいる」と考えるのが良いでしょう。
大脳基底核の調子が良い時には、まぶたは動いているが、疲れた時や睡眠不足などで、大脳基底核の調子が落ちると、まぶたの動きを上手に制御できなくなり、目が開かなくなってしまうと考えられます。
PSPのまぶたが開かなく現象への対応方法
進行性核上性麻痺(PSP)による、まぶたが開かなくなる症状は、まぶたを動かす筋肉や神経の麻痺ではありません。
そうではなくて、まぶたを動かす動作の制御の問題です。
ですから基本的には、まぶたを動かす機能に、麻痺はありません。
たまに、まぶたを動かす動作の、制御がうまくいかなくなって、まぶたが開かなくなるのです。
ですから対応方法は、基本的には「ありません」
ごめんなさい。
眼を開けられない状態では、目が見えません。
ですから、安全のために、まぶたが開かない間は、できる限り動かないで、じっとしていてください。
焦らずに気持ちを落ち着けていれば、やがてまぶたが開くようになります。
焦って緊張が高まると、かえって開きにくくなる可能性があります。
ですからまずは落ち着いてください。
そして家族の方にも、落ち着いて、見守っていただきたいと、思います。
進行性核上性麻痺(PSP)は、麻痺ではなく、運動制御の障害ですので、できる時とできない時が、交互に起こる場合があります。
そうすると、家族の方は、さっきできたんだから「真面目にやれば今度もできるはず」と感じてしまいます。
ですが本人も、真面目に頑張って眼を開こうとしているのです。
でも今は開くことができないのです。
想像してみてください。
普段は眼が開くのに、ある時に、突然に魔法がかかったように、眼が開かなくなるのです。
これは精神的に、けっこうしんどいものです。
ですから本人も十分に、焦っていますので、家族の方は、一緒に焦ってしまわないように、お願い致します。
家族の方が、落ち着いて対処することで、本人も早く心を落ち着かせることができるのです。
普段から、麻痺で動かせないのであれば、家族の方も、理解しやすいのです。
ですが運動制御の障害で、できたりできなかったりしていると、ふざけてからかわれている様に感じてしまうことがあります。
でも決してそうではないのです。
どうか麻痺ではなく、運動制御の障害で、色々なことが、できそうなのにできなくなる、そんな病気があることを、知っていただきたいと思います。
まとめ
今回は進行性核上性麻痺(PSP)の、まぶたが開かなくなる症状について、その原因と対処方法について、解説を行なってみました。
PSPは、症例数が少なく、あまり理解されていない病気です。
少しでも、皆さんにPSPについて、理解を深めていただければと思っています。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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