脳卒中リハビリ

脳卒中ニューロリハビリ 脳幹網様体と歩行パターン制御

 

はじめに

脳の脊髄や延髄の少し上、中脳のあたりに「脳幹網様体」があります。

この「脳幹網様体」は、ヒトの生命活動を支える、重要な神経機構です。

またそれと同時に、「脳幹網様体」は姿勢制御や運動制御にも重要な役割を持っています。

この運動制御については、歩行制御などの、いわゆる運動だけでなく、呼吸運動や嚥下運動も含まれます。

実は「脳幹網様体」は運動制御の中でも、日常の活動に必要な生得的な運動、いわゆる定型的な運動パターンを誘発する機能を持っています。

今回はこの「脳幹網様体」について、少し解説してみたいと思います。

どうぞよろしくお願いします。

 

脳幹網様体にあるパターン運動誘発システム

脳幹網様体が関係する生得的なパターン運動には、以下のようなものがあります。

⑴ 呼吸運動

⑵ 咀嚼・嚥下・発声などの呼吸運動を関連の強い喉の運動

⑶ くしゃみや咳などの喉の防御運動

⑷ 眼球運動

⑸ 全身の骨格筋に作用する姿勢制御運動

⑹ 歩行運動

⑺ 排尿-排便などの骨盤内臓器の運動

 

例えば脳幹網様体のある中脳には、「中脳歩行誘発野(MLR)」があり、ここを電気刺激すると、歩行運動を行うことが知られています。

 

また「脚橋被蓋核(PPN)」を刺激することで、姿勢保持のための筋肉の緊張が和らぎ、反対にリズミカルで急速な眼球運動が現れます。

レム睡眠時の筋緊張の消失と急速な眼球運動は、この神経回路が関係している考えられます。

 

このように「脳幹網様体」は運動のパターンを誘発する働きがあるのです。

 

脳幹網様体での運動パターン発生

生得的な様々なパターン運動に網様体が関わっています。

それには以下のようなものがあり、それぞれに特徴を持っています。

  1. 頭頸部のパターン運動への脳幹網様体のCPGの関与

様々な生得的なパターン運動を制御する脳幹網様体の中枢を CPG(centoral pattern generator)と呼びます。

網様体には以下のようなパターン運動を制御する CPG があります。

⑴ 呼吸

⑵ 咀嚼

⑶ 嚥下

⑷ 発声

⑸ くしゃみ

⑹ 咳

⑺ 舌の運動

⑻ 眼球運動

 

例えば声を出したり、食物を飲み込む時には、一時的に呼吸を止める必要があります。

脳幹網様体では、これらの CPG をその都度切り替える仕組みがあり、適切な運動が行えるようになっています。

例えば、同じ肺に空気を出し入れする横隔膜(主呼吸筋)の運動でも、普通に呼吸運動をしている時と、声を出すために息を吐く時では、脳幹網様体の中でも、違うCPGが働いています。

 

2. 脳幹網様体は脊髄にあるCPGもコントロールします

パターン運動を発生させる CPG は、脳幹網様体だけでなく、脊髄にも存在します。

脊髄に存在するCPG

⑴ 歩行

⑵ 排尿

脳幹網様体にある「中脳歩行誘発野」は、脊髄にある歩行パターンを発生する CPG をコントロールしています。

また姿勢制御のための姿勢筋の緊張の調節や、姿勢反射パターンも、網様体脊髄路で制御されています。

 

これらの脳幹網様体のパターン運動障害に対するリハビリテーション

ではこれらの脳幹網様体の障害によって、パターン運動が障害された場合には、どのようなニューロリハビリテーションのアプローチを行えば良いのでしょう?

今回は特に歩行パターン運動障害について、リハビリテーションのヒントを解説します。

 

歩行運動パターンの障害

脳幹網様体の障害によって、歩行パターンの障害が起きている場合には、すくみ足であったり、力んだ歩行パターンであったり、様々な歩行の変化が見られます。

これらの歩行パターンの問題は、生得的なパターン運動が失われたことで、運動に混乱が起きているために起こっています。

要するにこれまでは、立ち止まった姿勢から、無意識のうちに姿勢制御が行われ、生得的なパターンで歩き始めていたのです。

ですから生得的な歩行パターンで歩けなくなったのであれば、2次的に習慣的に得られた歩行パターンで歩けば良いのです。

つまりは歌舞伎役者が大見得を切って歩いている場面を想像してみてください。

歌舞伎役者の歩き方は、生得的な歩行パターンではありません。

しかし何度も練習することで、自然とその大げさな歩行パターンで、ほとんど無意識に歩けるようになったのです。

つまりはこれまで脳幹網様体に頼って、無意識的に歩いていたものを、大脳皮質を使って、意識的に歩き、それがほとんど無意識にできるまで練習します。

少し特徴的な、それでも割と簡単な歩き方を選んで、そのパターンを繰り返し練習していけば、そのパターンで無意識に歩けるようになります。

そうすることで脳幹網様体の歩行誘発野からのサポートに頼らない歩行パターンが習得できるのです。

 

ただしこれはあくまでも歩行パターンの障害に対するリハビリテーション方法です。

本来の歩行運動を行うための、足の運動神経経路が障害された、いわゆる皮質脊髄路の障害による麻痺に対しては、別のアプローチが必要になりますので、注意してくださいね。

 

まとめ

今回は、少し簡単にではありますが、脳幹網様体の働きについて、解説してみました。

また歩行パターンの制御の障害に対する、リハビリ方法についても、少しですが触れてみました。

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

 

 

関連記事

  1. 脳卒中片麻痺の歩行能力改善で良い歩行を獲得するための5つの課題
  2. 肩甲骨の筋肉のコンディションを整えて脳卒中の痛みをとるマッサージ…
  3. 最新の脳卒中片麻痺に対する歩行リハビリの実技(応用編)
  4. 脳卒中の麻痺側の手指の強張りを放置するとドンドンひどくなって腕全…
  5. 脳卒中ニューロリハビリのための脳の話 ③ 大脳皮質編 ⑵ 前頭前…
  6. 脳卒中ニューロリハビリのための脳の話 ② 大脳皮質編 ⑴ 運動関…
  7. 脳卒中片麻痺の麻痺側肩の運動を安定させるファシリテーション
  8. 脳卒中片麻痺を改善するための神経促通を行う前に整えるべき身体条件…

おすすめ記事

PAGE TOP