脳卒中リハビリ

脳卒中ニューロリハビリのための脳の話 ③ 大脳皮質編 ⑵ 前頭前野

 

はじめに

前回は大脳皮質編の1回目として、前頭葉の運動領野の解説を行いました。

今回は、同じ前頭葉にある、『前頭前野』の機能について解説していきます。

どうぞよろしくお願いします。

 

前頭前野とは!

『前頭前野』は、前頭葉の中でも、運動領野よりも前に位置しており、脳の機能の中心である、意思決定などの、いわゆる「執行機能(executive function)」を担っています。

 

「速い自動的認知システム」

脳には、大脳皮質とその下の大脳辺縁系や大脳基底核が関わって、「速い自動的認知システム」が形成されています。

これは危険を避けるための「回避行動」や、利益を得るための「(報酬への)接近行動」があります。

例えば、あなたの足元に蛇が飛び出してきたら、びっくりして飛び上がりますよね。

これが「速い自動的認知システム」です。

 

「遅い統制的認知システム」

それに対して前頭葉の『前頭前野』は、「遅い統制的認知システム」に深く関わっています。

これは例えばあなたがスーパーでとても美味しそうなイチゴを見つけたとします。

「速い自動的認知システム」は、食べたいと考えるのですが、勝手にその場で食べたら、泥棒です。

そこで『前頭前野』の「遅い統制的認知システム」は、イチゴを買おうと考えます。

しかしイチゴの値段を見ると、なんと3,000円の値札がついています。

今日、あなたの財布には2,000円しか入っていませんでした。

そこで、あなたは涙を呑んで、そのとても美味しそうなイチゴを食べることを諦めるのです。

これが『前頭前野』による「遅い統制的認知システム」の働きになります。

 

つまり『前頭前野』は、多様な文脈に適応した行動を制御していて、目の前の状況だけによらず、将来の目標や、自分のパフォーマンスの評価、他者への配慮などを総合的に判断して、自己の行動を統制します。

それによって『前頭前野』は、他の運動野や、感覚系の連合野などに対して、トップダウン的に制御を行なっていきます。

 

前頭前野は3つの領域に別れています

この『前頭前野』は、さらに以下の3つの領域に分かれて、それぞれに違った働きをしています。

⑴ 外側前頭前野

⑵ 内側前頭前野

⑶ 眼窩前頭前野

これからそれぞれの領域の働きについて解説していきます。

 

外側前頭前野のはたらき

外側前頭前野は、ゴール指向的な行動の制御系で、目的を遂行するための、行動制御を行います。

これは日常生活のあらゆる場面における、問題や課題を、適切に解決するために、どのような行動をとるべきかを、適切に制御する能力です。

この外側前頭前野には、目的動作の遂行を達成するために、以下の4つの機能が備わっています。

 

⑴ ワーキングメモリー機能

ワーキングメモリーとは、作業記憶、作動記憶と呼ばれるもので、複雑な目的を達成するために、必要な情報を、一時的に外側前頭前野に保存しておきます。

つまり料理を作るときを例にとると、料理の手順や、調味料を置いた場所の記憶などが、ワーキングメモリーに保存されます。

 

⑵ 目標設定機能

これは何かの行動をするときの、行動の目標設定や、その目標に到達するために必要な行動を企画する機能、またその行動を達成したり、目標を正しく設定するために、状況を先読みする機能になります。

このもっとも有名な例は、「詰将棋」ですね。

相手を王手で追い詰めるためには、様々な手があります。

これを相手の出方を先読みしながら、何手も先まで読んでいきますね。

これが「目標設定機能」になります。

 

⑶ 適応的な符号化機能

これは課題を達成するために必要な情報を、適切に分類して、行動制御を助ける機能です。

例えば道路の信号で、「赤で止まれ」「青で進め」と覚えれば、どの信号でも、同じように行動することができますね。

また1つの箸でご飯が食べれるようになれば、割り箸や、他の箸でも食べれるようになります。

このように過去の経験値から、現在と似た状況や経験を引き出し、現在の行動制御に応用していく機能が、外側前頭前野には備わっています。

 

⑷ マルチタスク機能

外側前頭前野には、複数の課題を同時にこなすための、「マルチタスク機能」が備わっています。

つまり料理をしている途中で、電話に出て、相手と話をしてから、また料理の手順に戻る、などの場合がこれに当たります。

また音楽を聴きながら勉強したり、コーヒーを飲みながら考え事をしたりするのも、この機能になります。

 

眼窩前頭前野のはたらき

眼窩前頭前野は、報酬、情動、意思決定に関わっています。

眼窩前頭前野には、視覚や聴覚、嗅覚などの様々な感覚情報が入力されています。

また皮質の下の、大脳辺縁系や大脳基底核、視床下部、島皮質などと連携しています。

それによって、様々な感覚情報や感情とによって、行動を制御しています。

そして行動の結果として、得られた報酬や、損失によって、快感や失望感を生み出し、その後の行動や嗜好性の変化にも影響を与えていきます。

 

この眼窩前頭前野は、様々な情報に基づき、長期的な価値報酬が最大になるように行動を制御し、また危険を回避します。

 

この部位の損傷によって、知能は保たれますが、衝動的でリスクを冒す様になり、社会生活が困難になることが知られています。

 

内側前頭前野のはたらき

内側前頭前野には大きく⑵つの機能があります。

 

「他者の意図を理解する」

1つ目の機能は、ミラーニューロンの回路の一部に組み込まれており、「他者の意図を理解する」などの社会的認知に関わっています。

 

パフォーマンスモニタリングと適応行動

また2つ目の機能は、パフォーマンスモニタリングとそれに伴う行動の調節の機能です。

内側前頭前野は、様々な環境に応じて、自分の行動が効果的に行えているかを判断し、その変化に応じて、行動を適応させていく機能があります。

 

前頭前野のネットワーク機能

この様に前頭前野の3つの領域には、それぞれ特徴的な機能があります。

内側前頭前野の行動のモニタリングと調節を、適切に行うためには、それを評価する眼窩前頭前野の機能が不可欠です。

また適切な行動を調節する、外側前頭前野の行動調節機能も必要になります。

この様に前頭前野は、全体がネットワークとして働くことで、脳の最高執行機関として、意思決定や行動の調節を、脳全体の機能に対するトップダウンとして行なっているのです。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます

 

 

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