はじめに
脳性麻痺のお子さんの中で、いつまでも首がすわらないで、座った姿勢の時など、首から揺れる様にして、上半身がグラグラ揺れてしまう子が、けっこうたくさんいます。
いつまでもお子さんの首がすわらないままだと、座って何か遊ぶこともできないですし、体の軸がしっかりしないので、座る姿勢を取ることも、一苦労です。
ですからなんとか首をすわらせて、座った姿勢を安定させていきたいのですが、なかなか背骨に軸ができて来なくて苦労しますね。
今回は脳性麻痺のお子さんの姿勢制御の能力を高めるための、最新のニューロリハビリテーション アプローチについてご紹介します。
どうぞよろしくお願いします。
私たちはユラユラ揺れているけれども倒れません!
私たちの身体は、どの様にして姿勢制御を行っているのでしょうか?
たとえば遠くに立っている人を見たときに、もしそれがマネキンだった場合、私たちはすぐに何と無くそれが人形ではないかと気がつきますね。
どうして気がつくのかというと、その人が全く揺れ動かないからです。
たとえまっすぐに立ったままであっても、人はかすかに揺れ続けています。
それに対して、マネキンは全く揺れないで、しっかり立っています。
じつはこの揺れるということが、私たちが安定して立っていられる秘密なのです。
たとえば私たちがまっすぐに立っていて、突然誰かに突き飛ばされたとします。
それがある程度軽くであれば、私たちは、なんとかバランスをとって、転ばないでいることができます。
それに対して、マネキンを突き飛ばすと、けっこう呆気なく倒れてしまいます。
どうして普段からユラユラしている、私たちが倒れなくて、マネキンが倒れるのかといえば、私たちが常に揺れていることに、秘密があります。
じつは私たちは、この私たちの体の揺れのパターンとリズムを調節することで、転ばないで立っていられるのです。
常に前後左右に重心を細かく動かして、揺れ続けることで、逆に倒れない様にしているのです。
そして真っ直ぐに立っている時、後ろに振り向いた時、歩き出した時、歩いていて方向を変えた時、急に走り出した時、それぞれに対して最適な揺れのパターンとリズムを調節しています。
そうすることで、常に安定して立っていられるのです。
逆に、この揺れのパターンとリズムが破綻したときに、私たちは転んでしまうのです。
ではこの身体の揺れのパターンとリズムは、どの様な神経回路で制御されているのでしょう?
バランス機能のための神経ネットワーク
私たちの身体がバランスをとるための姿勢制御は、以下の様な神経経路のネットワークによってコントロールされています。
姿勢制御コントロールの神経ネットワーク
高次運動野+大脳基底核+中脳網様体 による姿勢制御ネットワーク
私たちの身体の姿勢を制御しているのは、大脳皮質の高次運動野とそのすぐ下にある大脳基底核、さらにその下の中脳網様体の連携によって行われています。
それはこの様な仕組みで行われています。
⑴ 高次運動野に揺れのパターンを記録する
私たちが姿勢を制御してバランスをとるために、それぞれのシチュエーションに適した、身体の揺れのパターンが必要になります。
それらの様々なシチュエーションに応じた、様々な揺れのパターンは、大脳皮質の高次運動野に記録されています。
私たちは、様々な運動を体験することで、この高次運動野に、よりたくさんの運動パターンを記録していきます。
⑵ 大脳基底核で揺れのパターンを選択する
高次運動野に記録された運動パターンは、それぞれのシチュエーションに合わせて、大脳基底核が最適なパターンを選び出して、姿勢を上手に姿勢を制御していきます。
⑶ 網様体で揺れのリズムを調節する
大脳基底核で、そのシチュエーションに最適なパターンを選び出したら、今度は網様体にて、そのパターンの揺れのリズムを調整していきます。
同じ揺れの運動パターンでも、シチュエーションによって、最適なリズムは違います。
ですから網様体にて運動パターンのリズムを調節するのです。
これらの神経機能を上手に組み合わせることで、私たちは姿勢制御を行っているのです。
補足運動野のデータベースを充実させる!
では脳性麻痺のお子さんが、上手にバランスをとれる様になるためには、どんなアプローチが効果があるのでしょう?
私は、高次運動野の中でも、その中で左右の交互運動を制御している「補足運動野」へのアプローチを提案します。
大脳皮質の高次運動野は、ざっくりと分けると「補足運動野」と「運動前野」に分けられます。
そして「補足運動野」の機能のひとつに、左右の交互運動パターンの制御があります。
それはたとえば、右手と左手を交互に振るとか、首を左右に交互に振るとか、そういった運動パターンになります。
そして姿勢制御によるバランスは、まさにこの左右の交互運動の組み合わせです。
じつは脳性麻痺のお子さんが、いつまで立ってもバランス機能が高まってこない原因のひとつに、この補足運動野の神経細胞の未成熟と、その神経細胞に運動パターンのデータが記録されていない事があります。
つまり大脳基底核で、バランス制御のための運動パターンを選び出そうとしても、肝心の高次運動野に運動パターンが記録されていないのです。
嘘だと思うなら、あなたのお子さんは、自分の右手と左手を交互にヒラヒラ動かせますか?
あるいは右手と左手を、空手の正拳突きみたいにして、交互に前に突きだせますか?
もし出来ないなら、それは高次運動野(補足運動野)に運動パターンが記録されていないのです。
ですから対策としては、これらの手足の交互運動パターンの練習を、できるだけ早く始める事をオススメします。
はじめはお母さんに介助されて、ほとんど自分からは出来ないと思います。
しかし根気強く続けていくと、けっこうできる様になって来ますよ。
ぜひお試しくださいね。
まとめ
脳死麻痺のお子さんが、いつまでも姿勢バランスがとれない原因として、高次運動野(補足運動野)における、運動パターンデータの不足が挙げられます。
対策として、毎日の手足の交互運動による、補足運動野での神経細胞の発達と、運動パターンデータの充実が挙げられます。
最後までお読みいただきありがとうございます。
注意事項!
このサイトでご紹介している運動は、あなたのお子さんの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上、自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。