はじめに
進行性核上性麻痺(PSP)の症状が進行してくると、パーキンソン病と同様に、話すときの声が出にくくなっていきます。
さらにPSPの場合には、単に声が小さくなるだけでなく、話そうとして、口を動かすけれども、ほとんど声が出せなくなる場合もあります。
このPSPの声が出せなくなる症状は、どの様な原因で起こっているのでしょう?
またそれに対するリハビリテーション方法はあるのでしょうか?
今回はPSPの声が出せなくなる症状に対して、その原因とリハビリテーション 方法について解説します。
どうぞよろしくお願いします。
総ての動作は運動パターンとリズムの組み合わせで調節されています
私たちが何かの動作をするとき、その動作には必ず動作のパターンとリズムがあります。
たとえば真っ直ぐに立っている時でも、私たちの身体は、立った姿勢のバランスを取るために、最適な運動パターンとリズムで揺れています。
そしてそこから一歩歩き出すときには、立った姿勢から、歩く姿勢にパターンとリズムを切り替えて、転ばない様に調節します。
この様に、私たちのあらゆる動作は、その動作のパターンとリズムによって、調節されています。
そしてこの運動パターンとリズムは、体を動かす動作だけでなく、呼吸などの運動パターンもコントロールしているのです。
つまり普段の呼吸パターンは、酸素を肺の奥に引き入れるために最適なパターンとリズムで呼吸運動を行なっています。
そこから声を出して話そうとする場合、今度は肺に酸素を送るための、息を深く吸い込むスタイルの呼吸パターンから、声帯を震わせて声を出すための、息を素早く吐くための呼吸パターンに切り替えます。
呼吸リズムも、声のトーンや音程、声の大きさを調節するために、最適な呼気のスピードになる様に調節されます。
この様に動作だけでなく、呼吸や会話のための呼吸運動も、それに適した運動パターンとリズムの組み合わせで行われています。
補足運動野+大脳基底核+網様体 による運動パターンとリズムのコントロール
ではこの様々な動作や呼吸などの生命維持のための運動パターンとリズムは、脳のどの部分でコントロールされているのでしょう。
この運動パターンとリズムのコントロールは、『大脳皮質の補足運動野』と『大脳基底核』と『網様体』の神経ネットワークで調節されています。
その仕組みは以下の様な関係になっています。
⑴ これまでの運動経験から「大脳皮質の補足運動野」に様々な運動パターンが記録されています
⑵ 目的の動作を行うのに最適な運動パターンを、補足運動野に記録されたパターンの中から、「大脳基底核」が選び出します。
⑶ 大脳基底核が補足運動野から選び出した運動パターンを「網様体」が、その動作に適したリズムになる様に調節します。
この様にして、目的の動作に最適な運動パターンとリズムが決定され、実行されるのです。
進行性核上性麻痺(PSP)は大脳基底核が障害される病気です
進行性核上性麻痺(PSP)はパーキンソン病によく似た、動作のスクミや、手足のこわばり、変な動作になる不随意運動などの異常な運動症状が出ます。
これらの異常な運動症状は、パーキンソン症状と呼ばれ、「大脳基底核」が障害されることで起こるのです。
つまりPSPが進行して、声が出せなくなる症状は、大脳基底核の障害がひどくなって、呼吸パターンの切り替えが上手くいかなくなる事で起こっているのです。
ようするに肺に酸素を送り込むための呼吸パターンから、声帯を振るわせて声を出すためのパターンへの切り替えが、話をしようとしたタイミングで、パッと切り替わらないために、声が出せないのです。
進行性核上性麻痺(PSP)の声が出せない症状に対するリハビリ方法
実は大脳基底核での運動パターンの切り替えは、ある意味で、頭を使わないで(良く考えないで)日常動作を行うための仕組みです。
これはどういう意味かというと、たとえばあなたがテレビを見ながらお茶を飲んでいるとき、あなたはテレビの内容に気を取られたまま、無意識のうちに湯呑みを口に運んでいますね。
これは補足運動野のお茶を飲むための運動パターンを、大脳基底核が自動的に引っ張り出して、勝手にあなたにお茶を飲ませているのです。
あなたは「テーブルの湯呑みのお茶を飲もう」と思っているだけで、どうやって手を湯呑みに伸ばそうとか、特に意識していません。
同じ様に、あなたが誰かに話しかけようとしたときに、話す内容は考えても、どうやって息を吐こうかとか考えないですよね。
これも大脳基底核が、自動的に調節してくれているのです。
しかしPSPになると、この自動的な運動パターンの選択ができなくなりますから、呼吸パターンが切り替わらなくて、声が出せないのです。
ではどうするか?
スバリ! 歌舞伎役者になっていただきます。
これはどういうことかと言うと、歌舞伎役者が舞台でセリフをいうときには、声を張るために、意識して息の吐き方を調節しています。
つまり意識して腹の底に力を込め、タイミングをはかりながら、声を出します。
これは声を出す、話をするための呼吸パターンを、大脳基底核ではなく、大脳皮質に戻して、大脳皮質によってコントロールする行為です。
つまり大脳基底核が壊れて、自動操縦ができないから、手動操縦に切り替えて、声を出すのです。
練習方法としては、自分が歌舞伎役者になったつもりで、声のトーンや、声色をことさら意識しながら、芝居がかった感じで話をする練習をしてください。
大脳基底核は熟練動作の中枢でもあるため、どれだけ練習しても、歌舞伎役者みたいには上手に話せる様にはなりません。
でもなんとか声を出して、会話をすることは可能になるはずです。
どうかお試しアレ。
まとめ
進行性核上性麻痺(PSP)は大脳基底核が障害されることで、「大脳皮質の補足運動野」+「大脳基底核」+「網様体」の連携による、運動パターンの選択と運動リズムの調節機能が低下します。
それによって運動機能の障害だけでなく、呼吸パターンやリズムの切り替えも障害されます。
そのために肺に酸素を送るための呼吸パターンから、声帯を振るわせて声を出す呼吸パターンへの切り替えができなくなり、声が出せなくなります。
リハビリ方法としては、大脳基底核での運動パターン選択をパスして、大脳皮質での意識的な呼吸パタンの切り替えを練習していきます。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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