はじめに
進行性核上性麻痺(PSP)になると、その病気のわりあい初めの時期に、患者さんがとても怒りっぽくなる場合があります。
怒りっぽくなるといっても、本当にどうしてこんな些細なことで、それほどまでに激昂するのかといった怒り方になる場合があります。
また単に怒りっぽくなるだけでなく、行動自体が衝動的で、刹那的になる場合もあります。
そのことで家族の方が、とても悩んで、苦労される場合があります。
特にPSPの初期には、まだ特徴的なパーキンソン症状などの、運動機能の症状も出ていなくて、診断名が付いていない場合もあります。
その様な時に、急に怒りっぽくなったり、行動が衝動的で抑えが効かなくなたりするので、ご家族がとても心配することになるのです。
今回は、このPSPの初期に起きる、急に怒りっぽくなって、行動が衝動的になる性格変化について、解説していきます。
どうぞよろしくお願いします。
大脳基底核の機能の混乱による運動障害
進行性核上性麻痺(PSP)とは、脳の中に「タオ蛋白」と呼ばれる神経活動の老廃物が溜まって、神経機能が障害される病気です。
脳神経の中でも、とくに「大脳基底核」に「タオ蛋白」がたまりやすく、神経症状も大脳基底核の障害によるパーキンソン症状が中心になります。
大脳基底核の働きとしては、運動のパターン調整を行っていて、これが障害されることで、「動作のすくみ」や「動作のギクシャク感」や「動作が思い通りに動かなくなる」などの運動機能の問題が起こります。
この運動機能の問題は、いわば「運動麻痺」的な手足の運動障害ではなく、「運動制御」の障害による、正確な目的動作の遂行の障害になります。
つまり「大脳基底核」が障害されることで、手足が動かせなくなるのではなく、「手足は動かせるけれども、思い通りに動かせなくなる」と言う状態になります。
大脳基底核の機能の混乱による性格変化
しかし大脳基底核は、運動機能の調節だけをしている訳ではありません。
大脳基底核は、運動にともなって、感情をコントロールしたり、判断力に影響を与えたりしているのです。
これは運動が、何かの目的となる動作を行うことだと考えると、よく理解できます。
たとえば冬の寒い日に、体育の授業でグラウンドでサッカーをすることになったとします。
最初は寒い中で、走り回るのに、みんなブツブツ文句を言っていますが、ボールを追いかけて走り回っているうちに、ドンドン感情が高ぶっていき、最後の方には、大声で叫びながら全力で走り回っています。
つまり体を動かしているうちに、徐々に感情が高ぶって、興奮してきているのです。
実はこれは、「大脳基底核」が運動の調節だけでなく、動作に関連した感情もコントロールしているからなのです。
つまりその動作を効果的に行える様に、「大脳基底核」が動作のパターンを選ぶと同時に、感情もそれに合わせて調節しているのです。
ですのでPSPによって、大脳基底核の働きが混乱すると、感情の調節もおかしくなります。
なのでPSPになると、感情のコントロールが障害されて、すごく怒りっぽくなるのです。
大脳基底核の機能の混乱による判断力の障害
また大脳基底核は、何らかの判断をするときの調節も行っています。
たとえば、あなたの目の前に急にナイフを振り回した大男が現れたら、とにかくあなたは何も考えずに走って逃げますよね。
たとえあなたが普段はとても優柔不断で、レストランで何を食べるか決めるのに、メニューを見て何十分も悩む様な人であっても、この時には咄嗟に素早く行動します。
もしあなたがレストランのメニュー選びと同じ様に、どうやって逃げようかとか、何十分も悩んでいたら、あなたはブッスリと刺されてしまいます。
この様な動作を決めるときの判断にも、「大脳基底核」が関わっています。
なのでPSPになると、その判断のスピードが遅くなります。
家族や周囲の人が、「晩御飯は何が食べたい?」とか聞いても、すぐには返事ができないで、モジモジしてしまいます。
すぐに答えないでモジモジしているので、家族の方は「ボケたんじゃないか?」と勘違いしてしまいます。
でもこれはボケて判断できなくなったのではなく、判断するまでの時間がかかる様になってしまっただけなのです。
なので少し余裕を持って待ってあげると、キチンと答えを出すことができます。
そしてその判断は、一般的には間違っていないのです。
ともすれば判断が衝動的になってしまう場合
しかしその判断が、とんでもなく衝動的になってしまう場合があります。
これは大脳基底核には、社会的に抑制された判断と、もっと原始的に欲望に従った判断を、調節する機能があるからです。
たとえば目の前に、とても綺麗で胸の大きな女性がいたとします。
男性であれば、誰でもその胸に触って見たいと思いますよね。
でも誰も触りません。
なぜならば、もしうっかり触ってしまえば、それは後々とても面倒なことになるからです。
場合によっては、社会的な地位や、経済基盤や、家族までも失いかねません。
流石にそんなリスクを冒してまでも、ボインに触りたいと思う様な男は、この世の中にはおりません。
でももし目の前のボインに触っても、誰からも怒られないし、問題にもならないとしたら、どうでしょう。
そりゃあもう絶対に触りますよね。
男なら誰だって触りますとも、そりゃあそうでしょうよ。
要するに「大脳基底核」では、この様な社会的な判断と、原始的かつ生理的な欲求の調節を行っています。
ですから「大脳基底核」の機能が混乱すると、この辺の判断がうまくいかなくなる場合があります。
ですのでPSPの初期には、何だか「ろくでなし」なのか「人でなし」なのか、よく分からない状態になったりする場合があります。
この「ロクデナシ症候群」にどう対処すれば良いのか?
この様な理由によって、PSPの初期には、ものすごく些細なコトで激昂したり、もう何でそんなことも我慢できないのかと思うくらい、衝動的な行動をとったりする様になります。
これに振り回される家族の方は、本当に大変です。
ではこれらの性格変化や問題行動に、どの様に対処すれば良いのでしょうか?
実は大変申し訳ないのですが、対処方法はありません。
もう周囲のご家族としては、我慢するしか方法はありません。
でも安心してください!
履いてますよ!
じゃなくて、実は時間が立つと、自然にこの性格変化や問題行動は起こらなくなっていきます。
すごく怒りっぽくなったり、衝動的な行動をする様になるのは、PSPのほんの初期の間だけです。
それどころか病気の進行に従って、ダンダンと性格がおだやかになり、ほとんど怒ったりしなくなります。
最後の方には、本当に観音様か菩薩様かと思うくらいに、おだやかになります。
なのでご家族には申し訳ないのですが、初期の大変なときだけ、我慢してもらいたいと思います。
本当に後で楽になっていきます。
まとめ
PSPの初期には、性格変化によって、本当に些細なことで激昂する様になります。
また衝動的な行動で、周囲を振り回す場合もあります。
しかしこの性格変化による問題は、病気の初期だけで、しばらくすると、この性格の問題はほとんど消失してしまいます。
なのでご家族は、この初期の大変な時期を、なんとか冷静に乗り越えていただきたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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