脳卒中の腰痛は危険なサイン
脳卒中の患者さんの、かなり多くが、「腰痛」を訴えています。
しかし多くの場合、この「腰痛」」は、脳卒中の神経症状ではありません。
いわゆる、健康な方が腰を痛めたことで起きる、普通の腰痛症と、原因は変わりません。
ですが、この脳卒中の患者さんの、良くある腰痛症を、そのまま放ったらかしにすると、場合によっては起き上がる事もできなくなり、寝たきりになる可能性があるのです。
なぜ脳卒中患者さんの腰痛を放ったらかしにすると、寝たきりになってしまうのでしょうか?
それは、脳による「運動制御」と、身体の運動機能との、ちょっと複雑な連携の混乱が、その原因になっています。
今日は、放置してはいけない、脳卒中の腰痛について、解説して行きます。
どうぞよろしくお願いします。
寝返り動作や背骨の捻りが運動の基本なのです
あなたが立っていて、バランスが崩れたときに、転ばないためには、どうしていると思いますか?
普段は、自分がどうやって、バランスを維持しているのか、あまり意識はされていなかったと思います。
それは、私たちの脳に備わっている、姿勢を制御してバランスを保つしくみが、無意識のうちに働く様にできているからです。
じつは、この無意識のうちに、姿勢を制御してバランスを保つために、私たちが常に行っているのは、背骨を中心とした、身体のねじり運動です。
私たちは、身体のバランスが崩れそうになると、とっさに肩と腰を反対方向にねじって、背骨の傾きを修正しているのです。
つまり、私たちが上手にバランスを保つためには、背骨を中心とした、肩や腰のねじれ運動が、スムースに、できなければならないのです。
そして、何らかの問題で、背骨をスムースにねじることができなくなると、私たちは、上手にバランスを保つことが、できなくなるのです。
そればかりか、仰向けに寝ている状態から、起き上がることすら、できなくなります。
これは、すべての動作の基本となる動きが、背骨を中心とした、身体のねじり運動をベースにしているからです。
体をねじることができないと、私たちは、歩くことはおろか、立つ事も、起き上がる事も、できなくなってしまうのです。
腰痛は背骨の運動を制限します
普通の健康な方でも、腰が痛い場合は、キビキビと動けなくなりますね。
腰は、身体の中心で、運動機能の要ですから、それは当然のことです。
腰が痛いということは、背骨を支えている、脊柱起立筋群のコンディションが悪いということです。
基本的には、腰の周りの神経や、腰の骨には、痛みを感じる神経終末が、ありませんから、腰が痛い場合には、その痛みの原因は、背骨や腰回りの「筋肉」の痛みなのです。
そして、腰の筋肉のコンディションが悪くて、腰に痛みが出ているということは、腰のまわりの筋肉が、上手く力が出せなくなっているということにも、つながります。
つまり、腰に力が入らず、へっぴり腰で、フラフラしている状態というわけですね。
ですから、腰が痛い場合には、動作も不安定になります。
しかし、脳卒中の腰痛の場合は、もう少し深刻な問題が起こります。
脳卒中の腰痛は腰の運動制御を乱します
腰の筋肉がこわばると、その筋肉の中にある、感覚センサーの働きが低下します。
そうなると、脳の運動神経系から「運動指令」が出されて、実際に腰の運動や、姿勢制御の反応が行われても、その動いた腰の筋肉からは、脳の運動神経系に対して、感覚フィードバックが戻ってくなくなります。
そうすると、脳の運動神経系は混乱して、さらに腰の筋肉に対して、強い信号を送る様になり、それがエスカレートすると、背骨まわりの筋肉が、硬くこわばる様になってしまいます。
脳卒中片麻痺の場合は、脳の中で、血管が詰まったり、血管が破れたりして、神経細胞の働きが、乱れています。
ですから、健康な状態に比べると、より運動神経系も混乱しやすいようなのです。
そうして、腰を中心に、背骨のまわりの筋肉(脊柱起立筋群)が硬くこわばって、身体をねじったり、傾けたりするのが難しくなるのです。
背骨の運動が制限されるとヒトは動けなくなります
はじめにご説明したように、背骨のまわりの筋肉(脊柱起立筋群)がこわばってしまい、背骨をねじったり、傾けたりすることが、できなくなると、私たちは立っていることすら難しくなります。
これは、私たちが立ったり、座ったりした状態で、バランスをとるのに、背骨をねじることで、肩や腰を逆方向に移動して、重心を調節しているからです。
また、仰向けに寝ていて、寝返りをうったり、起き上がったりする動作も、背骨のねじり運動をベースにして、肩や腰を動かし、その運動が手足の動きにつながっています。
そして、歩く動作自体も、手と足を、反対方向に交互に動かす運動のベースになっているのは、背骨のねじり運動です。
ですから、背骨のまわりの筋肉(脊柱起立筋群)がこわばって、背骨がねじれなくなると、私たちは、起き上がることすらできなくなるのです。
また、そこまで悪化しなくとも、背骨のねじり運動がスムースに出来ないと、立ったときのバランスが悪くなったり、歩き方がぎこちなくなったりします。
脳卒中の腰の痛みは全身の痛みに拡がります
そして腰が痛くて背骨がねじれないまま、ぎこちなく歩いていると、その不安定な歩き方の負担は、股関節や膝関節に拡がってきます。
歩くためには、左右の足に、交互に体重を移動しながら、左右の足を交互に前に振り出します。
この左右の重心移動が、上手くいかなくてフラフラしていると、そのしわ寄せが股関節や膝関節を支えている筋肉にかかってくるのです。
そうして、歩くたびに、慢性的にストレスを受けている、股関節や膝関節の筋肉をこわばらせ、痛みをひどくさせていきます。
さらには肩や首の筋肉までもが、こわばり出してくる場合もあります。
脳卒中の腰の痛みは麻痺の症状ではありません
脳卒中になると、多くの場合に、腰や肩に痛みを訴えます。
そして、その痛みは脳卒中の症状のひとつであると、多くの方が(場合によっては医療関係者も)誤解しています。
しかし、この腰や肩の痛みは、脳卒中の急性期に、自律神経系が混乱して、手足や背骨のまわりの筋肉が浮腫むことが原因で、2次的に起こっているのです。
つまりは、単なる腰痛症や、肩コリ症の症状なのです。
ですから、キチンとしたマッサージ、できればコアマッスルの筋硬結をケアできるようなマッサージを受けて、筋肉のコンディションを整えてから、本来のリハビリテーションを行うことを、お勧めします。
なぜならば、筋肉のコンディションが悪いと、筋肉の線維の中の、感覚センサーが働かないために、運動制御の学習(運動学習)の効率が悪くなるからです。
筋肉が痛みを感じている状態で、いくらリハビリテーションの運動を行っても、脳は痛みに集中してしまい、その筋肉の動かし方を、いつまで立っても学習しなくなってしまいます。
脳卒中リハビリテーションを効果的にするためには、まずは腰の痛みをケアしましょう。
まさに急がば回れですね。
最後までお読みいただきありがとうございます。