脳卒中片麻痺のリハビリテーションについて はじめに!
はじめに
はじめまして管理者の松澤達也と申します。 理学療法士をしています。
この脳卒中リハビリのコーナーでは脳卒中片麻痺の在宅リハビリテーションの方法について、病気の知識とリハビリテーションの理論を分かり易く説明しながら、具体的な在宅リハビリテーションの自主トレ方法について解説を行っていきます。
脳卒中はある日突然発症します。 朝なかなか起きて来ないので様子を見に行ったら、起き上がることも上手く話すことも出来なくなっていたので慌てて救急車を呼んだとか、昼ごはんを食べていて急に手が上がらなくなって椅子から転げ落ちてしまった、など様々な状況で起こります。 そして脳卒中になると多かれ少なかれ手足の麻痺がおこります。 それから最悪なことには、入院している病院で主治医の先生から「この麻痺は病気ではなく後遺症なので一生治ることはありません」と宣言されてしまいます。 この時から皆さんの脳卒中リハビリテーションが始まるのです。
脳卒中の片麻痺はどうして起きるの?
ヒトの脳は右脳と左脳に分かれています。 そして右脳の前頭葉にある一次運動野とその関連領域は身体の左半身の運動を司り、左脳の前頭葉にある一次運動野とその関連領域は身体の右半身の運動を司っています。 ですから右脳に脳卒中が起きると左片麻痺(左半身と左手と左足の麻痺)になり、左脳に脳卒中が起きると右片麻痺(右半身と右手と右足の麻痺)になります。
上の図の赤色で示された部分が「前頭葉の一次運動野」で緑色で示された部分が「頭頂葉の一次体性感覚野」になります。
また脳卒中には脳梗塞(脳の血管が詰まる病気)と脳出血(脳の血管が破れる病気)の違いがあります。
脳梗塞
脳梗塞では太くて重要な血管が詰まれば麻痺や認知機能などへの障害が大きくなりますが、小さな血管が詰まった時にはほとんど麻痺が出ず、場合によっては脳梗塞になったことに気付かない場合もあります。
このような大きな脳梗塞では麻痺や認知障害などが起きます
脳出血
脳出血では典型的な出血は脳の被殻に起きる「被殻出血」と視床に起きる「視床出血」がありますが、この隣り合わせになっている神経ターミナルにつながる血管が比較的に破れやすいため、被殻出血と視床出血が典型的な脳出血と言われています。
そしてこの被殻と視床の間に内包後脚という運動神経の通り道があり、先に出てきた一次運動野とその関連領域からの運動ニューロンが、この内包後脚を通過しており、出血によりこの運動ニューロンが切断されることで、片麻痺がおこります。
ですから出血によりこの内包後脚を通る運動ニューロンがどのくらい障害されたかで、麻痺の重症度が決まります。
上の図は脳を正面から見た場合の、被殻(外側の青色)と尾状核(内側の青色)に挟まれた、運動神経ニューロンの通り道である内包(黄色)の位置関係を表しています。尾状核の内側に視床が隠れています。
内側の青い尻尾のように見える尾状核の内側の薄いピンクが視床です。
こうしてみると、被殻や視床の部位で脳内出血を起こすと、内包を通る運動ニューロンが障害されやすい理由がわかりますね。
この白い部分が被殻出血で内包後脚はこの内側を通っています
この白い部分が視床出血で内包後脚はこの外側を通っています
被殻と視床と内包後脚の関係
(大脳基底核の周辺を斜め下から見た図)
被殻: 青い色で示された神経核
視床: 赤い色で示された神経核
内包: 青と赤の被殻と視床に挟まれた黄色に示されたくの字に見える神経核(ここを運動神経のニューロンが通過して下の筋肉に運動の指示を伝えます)
脳卒中の時に意識を失ってしまうのはなぜ?
脳卒中の発症時に意識を失ってしまう方と、比較的に意識のハッキリしたままの方がいます。
これは何故なのかと言えば、脳卒中の影響で脳内の血流がおかしくなり脳浮腫が起きることで脳神経全体の活動が低下して意識を失います。
ですから神経内科や脳神経外科の治療により脳の血流が改善してくると脳浮腫も良くなってくるために意識も回復してきます。
この時に元々の脳浮腫などの脳の障害が軽い方は意識を失いません。
しかし脳浮腫があまりにヒドイと浮腫んだ脳に圧迫されて脳幹部が潰れてしまい「脳死状態」になってしまう場合があります(こうなるともう助かりません)。
また脳浮腫が長期になった場合に、脳神経細胞が様々に影響を受けて、「認知症」が起きたり「自律神経機能の障害」が残ったりします。 これらの問題については後々ご説明します。
はじめはドンドン良くなっていた麻痺が途中から治らなくなるのは何故?
実のところ脳卒中の麻痺の重症度(どのくらい良くなるか?)は最初に発症した段階で死滅した脳神経細胞の状態によりほぼ決まってしまっています。
しかし脳卒中片麻痺は発症から数ヶ月の間はドンドン良くなっていきます。
これは死滅した脳神経細胞の周りの細胞が一次的に休眠状態になっているモノが、脳の血流改善に伴い活動を再開していくからなのです。
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脳血管障害で脳神経細胞が死滅 → 最終的な麻痺の重症度が決定
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死滅した細胞周囲の細胞が休眠 → 急性期の症状の悪い状態
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治療により休眠細胞が活動再開 → 急性期の治療により麻痺がドンドン改善する
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休眠細胞がほぼ活動再開する → 急性期の治療が終了
最初に死滅した脳神経細胞による麻痺が残存
しかし急性期の治療が終わって、休眠細胞の回復が終了すると、それ以後の麻痺の改善は大変ゆっくりとしたモノになってしまいます。
ではここから先は良くなることはないのでしょうか?
決してそんなことはありません!
確かに麻痺自体の改善は少なくなりますが、関節の動きを良くしたり、筋肉のコンディションを良くしたり、運動パターンの再学習をしたり、筋力を鍛えたりとやることは山ほどあります。 これからが頑張りどころなのです。
在宅でのリハビリテーション
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関節の動きを良くする
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手足の筋肉のコンディションを良くする
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自律神経機能を整える
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体力をつける
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運動パターンの再学習をする
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麻痺の改善を目標にファシリテーションを行う
関連ページ
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8. 一次運動野とその関連野の障害による運動麻痺のリハビリ
脳卒中になってからヒトが変わったようになってしまったのは何故?
脳卒中で退院してから「この人はヒトが変わってしまった」と思われている家族の方も多いと思います。 この場合ヒトが変わるパターンには大きく分けて以下の2通りあると思われます。
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一般的な認知症の様に記憶力や判断力が落ちて幼稚な感じになってしまっている
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しっかりしている様で複雑なことが出来なかったり怒りっぽくなったり頑固になったりしている
① の一般的な認知症の様に記憶力や判断力が落ちて幼稚な感じになってしまっている場合は、原因は主に急性期の脳浮腫によって、脳全体的に脳神経細胞の活動が低下している状態が継続していることが考えられます。
これは刺激を与え続けることで徐々に回復してきますので外出したり家の中の家事動作を手伝ったりの活動をしっかり行う様にしてください。 そしてご家族は患者さんを決して子供扱いしたりせずに、以前のしっかりしていた頃の姿を思い出し尊敬の気持ちを込めてサポートをお願いいたします。
② のしっかりしている様で複雑なことが出来なかったり怒りっぽくなったり頑固になったりしている場合は、高次脳機能障害の可能性が考えられます。
高次脳機能とはヒトがヒトとして立派な行動をとるために子供の頃からの教育により身につけた機能で、「言葉を話すこと」や「複雑な作業を成し遂げること」や「嫌なことも辛抱して笑顔で我慢すること」などが挙げられます。
脳卒中により手足の麻痺だけではなく、これらの機能も障害されてしまいます。
例えば「失語症」になると言葉を話せなくなったり、言葉の意味がわからなくなったりします。
「失行」になると、手足は動かせても、お茶を入れたり料理を作ったりする動作が出来なくなってしまいます。
「失認」では左側の空間の認知が出来なくなり、左側のヒトにぶつかったりして危険です。
また「脱抑制」の状態ですと我慢が出来なくなり、すぐに感情的になって怒ったり、順番を待てなくて割り込んでしまい注意されると逆ギレするなどの、大人としては如何なものかの行動をとる様になります(紳士的ではないですしみっともないですよね)。
「常同行動」の場合は、常に同じ時間に同じ場所で同じことをしなくては気が済まなくなり、中には「夜中に目が覚めたら必ず歩行練習をする」というクセがついてしまい、毎晩夜中にドスンドスンと杖歩行をして家族が不眠になる様なケースもあります。
高次脳機能障害には他にも多種多様の障害があります。 それだけ脳の機能は複雑なのです。
これらの高次脳機能障害は本人と家族になんとか直したい(以前のような紳士的でりっぱな人物に戻りたい!)との希望があれば、ゆっくり取り組むことで、完全に治すことは無理ですが少しずつ良くなっていきます。
退院後に一生懸命歩行練習などを頑張っていたが腰や膝が痛くなりかえって歩けなくなってしまった!
この場合は退院後にまだ手足の筋肉のコンディションが良くない状態であったり、自律神経機能が落ち着いていない状態のまま、歩行を良くしたいなどの理由で「無理な歩行練習を繰り返して」しまい「正しい身体機能を改善するリハビリテーション」を怠ったことが原因です。
皆さんが訴える腰や膝や肩の痛みなどは、麻痺が原因ではなくほとんどが二次的な障害によるものがほとんどです(なかには視床痛などの感覚神経障害による麻痺が原因のものもあります)。
ですからキチンとしたアプローチを行えば腰や膝や肩の痛みを軽くして手足の動きを良くすることで今よりもっと歩けるように手足が動くようになることは可能です。
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脳卒中片麻痺の麻痺は良くなるの?
実は近年の脳科学の進歩に伴い、脳卒中片麻痺の「麻痺が回復する可能性」があることがわかってきています。
脳卒中の回復期に、それまで抑制されて活動していなかった運動神経細胞が活動を始めたり、新しい神経細胞が生まれたり、シナプスが強化されることが分かってきています。
また左右の大脳皮質でお互いのサポートをしたり、障害された大脳皮質の周囲の関連領域でのサポートをするシステムがあることも分かってきています。
手足を動かすための神経の通り道である、「皮質脊髄路」の障害による麻痺に対しても、それに代わる神経の伝導路が作られる可能性も指摘されています。
しかしこれらの脳による麻痺の回復機能を十分に活用するためには、従来型の日常生活動作訓練を中心としたリハビリテーションではなく、脳の運動調節機構とその片麻痺からの回復の仕組みを十分に理解した上での、専門的なリハビリテーションアプローチが必要となります。
それらの専門的なリハビリテーションの方法については、このウェブサイトでこれから少しずつ解説していきます。
まとめ
皆さんは退院後の脳卒中リハビリテーションをどのように行っていけばいいかお悩みのことと思います。
このままでいいのか? もっと他に方法はないのか? といった悩みもあることでしょう。
今後このウェブサイトでは脳卒中の在宅リハビリテーションについて、特に自主トレーニングを有効に行っていく方法についての解説を、様々なリハビリテーション理論の側面からご説明していきたいと思います。
どうぞよろしくお願い申しあげます。
次回は
実際の急性期の病院リハビリテーションと在宅リハビリテーションで行うべきことの違いなどを解説していきます。 よろしくお願いいたします。
最後までお読みいただきありがとうございます
ご注意
※ このウェブサイトでご紹介する運動内容などは、皆様を個別に評価して処方されたものではありません。 実際のリハビリの取り組みについては皆様の主治医や担当リハビリ専門職とご相談の上行っていただきますようお願い申し上げます。
脳卒中片麻痺の自主トレテキストを作りました!
まずは第一弾として皆様からご要望の多かった、麻痺側の手を動かせるようにしたいとの声にお応えするために、手のリハビリテキストを作りました。
手の機能を改善させるための、ご自宅の自主トレで世界の最先端リハビリ手法を、手軽に実践する方法を解説しています。
超音波療法や振動セラピー、EMS療法による神経促通など、一般病院ではまず受けられないような、最新のリハビリアプローチが自宅で実行できます。
現在の日本国内で、このレベルの在宅リハビリは他にはないと思います。
そしてこのプログラムは施設での実施にて、すでに結果が認められています。
あとは皆さんの継続力だけですね。
テキストは電子書籍になっており、インフォトップと言う電子書籍の販売ASPからのダウンロードになります。
全180ページに数百点の写真と3D画像などで分かりやすく解説しています。
コピーが容易な電子書籍の性格上、少し受注の管理やコピーガードなどが厳しくなっていますが、安全にご利用いただくためですの、ご容赦くださいね。
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