はじめに
今回はパーキンソン病における背骨(脊椎)の運動機能を良くすることの重要性とその方法を解説していきます。
パーキンソン病の姿勢反射障害!
パーキンソン病の症状の一つに姿勢反射障害がありますね。 常に首が片側に傾いてしまったり、背骨が側弯になったりします。 またスクミ足が出たり転びやすくなったりします。
一般的にはパーキンソン病になったばかりでは、振戦や動作の巧緻性低下(動作拙劣・動作緩慢)などの運動症状が出ることが多く、姿勢反射障害がいきなり出ることはないと言われています。
ですから姿勢反射障害が早期に出る場合は、進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症などの別のパーキンソニズムを引き起こす神経難病を疑います。
しかしパーキンソン病の場合も、時間の経過とともに病気が進行すると、姿勢反射障害が起こり、スクミ足や体が極端に傾くなどの障害がみられるようになります。
姿勢反射障害による背骨の傾きをそのままにしておくと、やがてはさらに背骨の周囲の脊柱起立筋群などの緊張が高まってしまい、円背や側弯がひどくなり、最後は立てなくなってしまいます。
これはパーキンソン病が大脳基底核の黒質でのドーパミン産生が少なくなることで、大脳皮質運動野と大脳基底核と視床を結ぶ閉鎖回路の運動調節の機能がうまく働かないことで、不適当な緊張が 高まる病気だからです。
視床で感覚情報と運動情報の統合が上手くいかなくなると同時に、大脳基底核での視床に対するアクセルとブレーキの機能も混乱してしまいます。 これはドーパミンがそれらの神経機能を調節するための神経伝達物質だからです。
しかし背骨の運動機能をキチンと整えておくことで、この姿勢反射障害はかなり予防や改善することができるのです。
おそらく障害の早期に背骨の周囲の筋肉や背骨自体の傾きを正しく保つことで、体性感覚が正常に保たれて、視床において運動情報との統合に混乱が出にくくなることが期待されるからだと思います。
とにかく貴方は進行性の神経難病に対抗するために出来ることは全部やらなければなりません!
パーキンソン病の脊柱起立筋群の緊張!
また姿勢反射障害によるだけでなく、パーキンソン病ではジストニアなどの持続的な筋緊張の高まりが起きるため、背骨の周囲の脊柱起立筋群や肩甲帯や股関節周囲の筋肉に持続的な筋緊張の高まりによる血流障害が起きてしまい、それが長期化することで筋硬結などの筋機能不全状態が進行します。
そして背骨(胸椎)の周囲の脊柱起立筋群のすぐ脇には、交感神経管と呼ばれる自律神経の神経ターミナルがあり、脊柱起立筋群の筋緊張と神経活動に密接な関連が認められています。
つまりは背骨の周囲の脊柱起立筋群がこわばることで、その脇の交感神経管が刺激され、背骨だけでなく手足の筋肉の緊張を高めてしまいます。
そしてその手足の筋肉のこわばりも、大脳基底核と視床の運動コントロールが混乱しているために、左右の手足でこわばり方が違っていたり、関節を曲げる筋肉と伸ばす筋肉でうまく協調して動かせなくなったりして、上手な動作ができなくなります。
この問題に対しては、手足の筋肉をケアすることも大切なのですが、まず肝心なのは背骨の周囲の脊柱起立筋群の状態を整えておくことです。 そうすることで交感神経の活動も落ち着いて、手足の筋肉のこわばりも解消されやすくなります。
(まあ原則的にはドーパミンの補充などの薬物療法が上手くいっていることが前提ですが!)
さらには背骨のアライメント(歪みや角度など)が悪くなると、その背骨から生えている腕や脚も土台が傾くことで動きがしづらくなったり、こわばりやすくなったりします。
加えて言うと、背骨はその可動域を全体的に使って運動することは少ないため、年とともに硬くなって動きが悪くなりやすい傾向があります。
例えば膝の関節は正座をすれば完全に曲がりますし、立ち上がれば完全に伸ばされます。肘の関節も似たようなものですね。 しかし肩の関節はどうでしょう。 肩を完全に動かして両腕を耳の脇に着けるまで腕を上に上げることは少ないのではないでしょうか。 そして背骨に至っては、背骨を完全に伸ばしたり曲げたりするぐらい体を屈伸することはほとんどないのではありませんか。
この様に関節は身体の中心に行けば行くほど、動きの軸として働く傾向が高まるため、動きが少なくなり、結果として動きができにくくなります。
ですから背骨のコンディションを整えることは滑らかな手足を確保していくために非常に大切になります。
背骨の運動機能を改善するリハビリテーション方法!
運動の目的
今回はスリング(犬のお散歩用リード)を活用して、滑らかな背骨の運動を行うことで背骨の周囲の脊柱起立筋群のコンディションを整え、背骨のアライメント(捻れや傾き)を正しく維持するようにします。また背骨の関節可動域を最大限広げます。
運動のポイント
なるべく力まずにリラックスして行ってください。 スリングに身をまかせるように運動することで、スリングの反動や揺らぎを効果的に使ってリズミカルに動くように気をつけます。
リスク
今回の運動は未手術の脊柱管狭窄症がある場合は行えません!(ご心配な場合は主治医にご確認ください)
運動時間
30分 ~ 40分
スリングの設定
必要な機材
中型~大型犬用のお散歩用リード(2本)
ナワの設置と設定
① 部屋の鴨居などに L字型のフックを 60 cm 間隔で2個並べてつけてください。 そこから中型~大型犬用のお散歩用リードを垂らして、持ち手側の輪を下になるようにします。
(長さを調節する場合はリードをループ状にします)
(犬用のお散歩用リードを垂らす)
② 垂らしたリードの中間で少し後ろに椅子を置きます。
③ 椅子にやや浅めに腰掛けて背筋をキチンと伸ばします。 そして先ず右側の手首をリードの腕輪に通し、リードの紐を手首側に回してリードをつかむようにします。 同じように左側の手首もリードの腕輪に通してリードの紐をつかみます。
(右側の手首をリードの腕輪に通します)
(右側のリードを手首側に回して)
(右側の手でリードをつかみます)
(左側の手首もリードに通し)
(左側の手でリードをつかみます)
※ これで運動の準備ができました!
背骨の運動1
① 椅子に座って両手でスリングを持ちます。
(開始姿勢)
② スリングを持った両手を揃えて前に突き出します。 この時にできるだけ背中を反らせるように意識して肩を前に突き出します。
反対に腰は骨盤を前に傾けるように意識します。 股関節は軽く曲げて下さい。
(両手を前に突き出して背中を丸める運動)
③ ついで両手を拡げるようにしながら後ろに反らしていきます。この時にできるだけ背中を丸めて両肩を後ろに持っていきます。
あわせて腰は骨盤を後ろに傾けておヘソを引っ込めるように意識します。股関節を軽く伸ばすように意識します。
(両手を拡げるように後ろに反らして胸を張る運動)
④ この運動をスリングの反動と振り子のリズムを利用して「イッチに、イッチに」とリズミカルに10分程度繰り返します。
背骨の運動2
① 椅子に座って両手でスリングを持ちます。
(開始姿勢)
② スリングを持った右手を前に突き出しながら、反対の左の肘を後ろに引くようにして身体を出来るだけ左向きに捻ります。
この時に顔も左に向けていきます。
反対に腰は左に動かさないように、その場に残すように意識します。 骨盤を固定するために、右の股関節を伸ばし左の股関節を曲げるように意識して力を入れます。
(身体を左に向けてねじる運動)
③ ついでスリングを持った左手を前に突き出しながら、反対の右の肘を後ろに引くようにして身体を出来るだけ右向きに捻ります。
この時に顔も右に向けていきます。
反対に腰は右に動かさないように、その場に残すように意識します。 骨盤を固定するために、左の股関節を伸ばし右の股関節を曲げるように意識して力を入れます。
(身体を右に向けてねじる運動)
④ この運動をスリングの反動と振り子のリズムを利用して「イッチに、イッチに」とリズミカルに10分程度繰り返します。
背骨の運動3
① 畳かベッドの上に横になります。 左右のスリングに布製のベルトを2重に通して、そこに後頭部を乗せて仰向けに寝ます。
(2重ベルトの上に後頭部を乗せた状態) ※ 二重に巻いたベルトを二つに分けた上に後頭部を載せます!
② さらに両側の肩甲骨の間辺りに大きめのクッションを入れて胸部を浮かせるようにします。両腕は胸の前に組んでおきます。
(胸の後ろにクッションを入れます)
③ 胸の後ろのクッションを軸にするように意識しながら、首を右に振ります。 この時に同時に右の腰と肩を近づけるような意識で背骨を横に曲げていきます。
(開始姿勢)
(首を右に曲げながら背骨を横向きに反らす運動)
④ ついで胸の後ろのクッションを軸にするように意識しながら、首を左に振ります。 この時に同時に左の腰と肩を近づけるような意識で背骨を横に曲げていきます。
(首を左に曲げながら背骨を横向きに反らす運動)
⑤ この運動をスリングの反動と振り子のリズムを利用して「イッチに、イッチに」とリズミカルに10分程度繰り返します。
背骨の運動4
① 畳かベッドの上に横になります。 両足をスリングの腕輪に通します。 両足は床から30センチ程度浮かせるように設定します。
(両足をスリングに通して仰向けに寝た状態)
② さらにお尻の下に大きめのクッションを入れて腰を浮かせるようにします。 両腕は胸の前に組んでおきます。
(お尻の下にクッションを入れます)
③ お尻の下のクッションを軸にするように意識しながら、両足を揃えて右に振ります。 この時に同時に右の腰と肩を近づけるような意識で背骨を横に曲げていきます。
(開始姿勢)
(両足を右に振りながら背骨を横向きに反らす運動)
④ お尻の下のクッションを軸にするように意識しながら、両足を揃えて左に振ります。 この時に同時に左の腰と肩を近づけるような意識で背骨を横に曲げていきます。
(両足を左に振りながら背骨を横向きに反らす運動)
⑤ この運動をスリングの反動と振り子のリズムを利用して「イッチに、イッチに」とリズミカルに10分程度繰り返します。
パーキンソン病における背骨の運動機能の改善は以上です。
次回は
についてご説明します。
最後までお読みいただきありがとうございます
注意事項!
この運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。