小児リハビリ

子供のやる気を育てる小児リハビリアプローチ5つのポイント

子供のやる気を育てる小児リハビリアプローチ5つのポイント

 

 

小児リハビリテーションの重要なポイントは子供のやる気を引き出すこと!

高い高い

今回から小児リハビリテーションについて、在宅で障害を持ったお子さんのご両親が参考にできるようなリハビリアプローチについて解説していきたいと思います。

先ずはじめに子供のリハビリテーションと大人のリハビリテーションの違いとはどんなものなのでしょうか?

大人のリハビリテーションの場合は、簡単に言ってしまえば、相手はこれまで普通に生活していた方が急に脳卒中などになって、身体が麻痺するなどの後遺障害になり、それを改善してなるべく動けるように頑張ることになります。

ですからリハビリを受けている本人には、自分がかつてどの位動けていたのかのイメージが初めから明確にあるのです。

それに対して子供のリハビリテーションでは、お子さんは自分がどのくらい動けるのか知りません。

それどころか自分の体から生えている「自分の手足にどんなことが出来るのか?」それすらも分かっていません。

自分の手は何のためにあるのか、自分の足は何のためにあるのかが分かっていないのです。

ですから子供のリハビリテーションでは、自分の身体をどの様に動かせば良いのかを学んでもらうことが大切になります。

では子供の学びに大切なのは何でしょうか?

それは色々な事柄が挙げられるでしょうが、一番大切なのは

「学ぶ喜びを知ってもらう」

「自分の可能性の広がりを感じてもらう」

ことではないでしょうか!

実を言えば、こと「学ぶ」ということに関しては、健康な子供も、障害を持った子供も大差ないのです。

障害を個性と捉えると、それぞれの子供の個性に合わせて、学びのスタイルを変えていけば良いわけで、子供の興味を引き出して、やる気を育てる方法は全く変わらないと考えています。

また子供がやる気を持って「学ぶ」、自分の可能性を信じて「努力する」ことは、子供の能力を最大限引き出すためには不可欠なことだと考えます。

どの様な優れたリハビリメソッドも、それを受ける子供が、「やる気を持って」「自分の可能性を信じて」「努力」しなければ、その効果を発揮することはむずかしいでしょう。

では子供のやる気を育てるリハビリアプローチ方法とはどんなものなのでしょうか? これから「子供のやる気を育てる小児リハビリアプローチ5つのポイント」について解説していきます。

 

 

子供のやる気を育てる小児リハビリアプローチ5つのポイント

 

 

ポイント1: 子供の可能性を強く信じてあげること!

おんぶ

小児のリハビリを行っていて、よく出会う光景として、子供のお母さんから「うちの子は主治医の先生から前頭葉がかなり萎縮してしまっていて、自発的な運動は難しいと言われてしまっているんです。」などの諦めに似た言葉を寂しそうに言われてしまうことが多々あります。

ですが我々リハビリのセラピストの立場からすれば「それがどうしたのですか?」と言うのが本音です。

確かにお子さんに重度の障害があった場合には、色々な問題があり、健康な子供と同じように成長することは難しいでしょう。

ご両親やご家族の悲しみも大きいことは理解しています。

しかし主治医が厳しいことを言ったからといって、リハビリのセラピストの立場では「そうですか、では諦めて適当に悪くならないようにだけ気をつけてアプローチをいたしましょう。」とはならないのです。

ある意味で医師は科学者であり、正確な診断と予後予測を行わなければなりません。

しかしリハビリのセラピストの立場としては、「厳しい診断であることは理解しているが、それでも何か少しでも良くなるために出来ることはあるはず。」と考えます。

子供と一緒に頑張る立場のセラピストは、ある意味で「決して諦めることが許されない」立場にあります。

それはリハビリを受ける子供の立場になって考えれば明白です。

自分の体を運動させたりマッサージしてくれるセラピストが、「どうせこの子は良くならない」と考えてアプローチしているのと、「確かに障害は厳しいけれど、少しでも良くなって欲しいし、可能性を信じたい」と願ってアプローチしているのとでは全く違います。

こういう違いは、どんなに障害が重くてコミュニケーションが取りづらいお子さんでも、魂のレベルで気がつきます。

確かにどれだけ頑張っても得られる結果に制限がある重度のお子さんもおられます。

でも家族などの周囲が諦めてしまえば、子供の魂は孤独に陥ってしまいます。

でも家族などの周囲が諦めずに希望を持てていれば、子供の魂には大きな勇気が生まれます。

どんな人でも、すべて諦めてしまい、ただ呼吸して食事して(しかも経管栄養で)生きている人生よりも、障害はどれほど大きくても希望を失わずに頑張る人生の方が価値があるに決まっています。

親の気持ちになってみれば、なるべく我が子に苦しい思いをさせたくないし、幸せに安楽に生きて欲しいと思うのは当然のことです。

でも苦しい障害に立ち向かっている我が子と共に強くあって、子供を常に信頼して支えることも、親の大切な務めなのではないでしょうか?

どうかあなたのお子さんの可能性を強く信じて支えてあげて欲しいと思います。

 

 

ポイント2: 子供の可能性を阻害する身体的要素を可能な限り排除すること!

赤ちゃんムチムチの右手

まずはお子さんの手足を触ってみてください。 そして大まかに二の腕や太ももの筋肉を揉んでみてください。

お子さんの筋肉は柔らかくプニプニしていますか?

それとも硬くシコってしまっているのでしょうか?

障害を持つお子さんの多くは、手足の筋肉に強張りある場合がよく認められています。 そして親御さんも「うちの子は障害があるから筋肉が強張っているのは仕方がない」と思っています。

しかし本当にそうなのでしょうか?

そのお子さんの手足の筋肉の強張りは「本当に生まれつきの障害によるもの」なのでしょうか?

実はその手足の筋肉の強張りは、生まれた後の環境などのせいで作られたものが多く認められているのです。

分かりやすいように一つの例を挙げてご説明いたします。

例えばお子さんが生まれた直後から人工呼吸器での呼吸のサポートが必要になったとします。

お子さんは保育器に入れられ呼吸器をつけられた状態で、一生懸命に生きるための呼吸をします。

機械で強制的に呼吸をさせられることは、あまり心地よいものではありません。 それどころか大層苦しいものです。

ですから必死に努力して呼吸しているうちに、多くのお子さんの肩は強張りすぼまって、万年いかり肩になってしまいます。 それに伴い手足を含めた全身の筋肉も強張ってしまいます。

そしてお子さんが保育器から出てくる頃には、肩や手足の筋肉がカチカチに緊張してしまっています。

そして初めてお子さんを抱いたご両親は「うちの子は障害があるからこんなに手足が強張っているのだ」と思い込んでしまいます。

でもそれらの筋肉の強張りのほとんどは(一部は脳の運動コントロールの信号の不調かもしれませんが)生まれた後の努力性呼吸や身体に与えられた苦痛から全身が慢性的に強張って作られたものです。

そして強張った手足はそれ自体がとても動かしにくいものです。

また慢性的に強張った筋肉は、筋肉の感覚センサーが上手く働かなくなっており、手足を動かした時に、脳に対して感覚情報のフィードバックが疎かになります。

大人であれば、自分の手足がどのくらい動かせるのか、すでに知っていますから「おかしいな手足が強張って上手く動かない」と感じます。

でも子供の場合は、それまでに自分が手足を動かした経験がありませんから、「ボクの体から生えているコレは硬くて動かない。 何のためにあるんだろう?」と考えてしまいます。

子供の場合は「これから正しく身体の動かし方を学んで」いかなくてはなりません。

そしてそのためには「なるべく正しく動く様に身体の機能を整えておく」必要があります。

これら障害のあるお子さんが生まれた後に、二次的に受ける身体機能に対する問題点をキチンと解決していくことは、とても大切です。

なぜならばそれは生まれつき持っている障害ではなく、生まれた後の環境により作られた、改善が可能な身体のコンディションであるからです。

今回ご紹介したような二次的に環境により作られた身体機能のコンディションの問題は、きちんとしたリハビリアプローチで改善が可能です。

(要するに凝っている筋肉は揉めば柔らかくなります)

そしてこれらの二次的な身体機能のコンディションの問題はお子様の発達に大きく影響します。

今後はこのウェブサイト上で、改善すべき様々な二次的な身体機能のコンディションの問題についてご紹介しながら、その解決方法の解説を行っていきます。

 

 

ポイント3: 子供に様々な可能性を示唆することでチャレンジ精神を育てること!

赤ちゃんのティッシュ遊び

確かにお子様の精神発達や運動発達を促すためには、理想的な手順があります。

しかし子供は一人一人がとても個性的で、成長の過程もそれぞれに異なっています。

ですからそれぞれの子供でその時に興味を持つ事柄や、刺激に対する反応も違ってきます。

例えば、寝返りからうつ伏せの練習は嫌いでも、座る練習や手を動かすことには興味を示す場合があります。

また一つのことに集中して興味を示す子供がいれば、すぐに飽きてしまい様々な事柄に次々に興味の対象が移る子供もいます。

この現象を一言で言い表すならば「子供は親の思い通りには育たない(泣)」ということでしょう。

これは健康な子供も障害を持った子供も全く変わりません。

大切なことは「親が子供に興味を持って頑張ってもらいたいこと」を押し付けるのではなく、「その子が興味を持って頑張れることを一緒に探す」ことが大切だと考えています。

まずは積極的に興味を持って何事かに取り組む姿勢を、その子の脳の神経シナプスの回路としてキチンと育てて、長い人生の中で、何ごとにも興味を持って頑張る人に育てることが大切なのです。

これは障害の軽度なお子さんだけでなく、障害の重度なお子さんにも当てはまります。

 

 

ポイント4: 子供になるべく多くの成功体験を積ませて自信を育てること!

壁とマレー熊

リハビリというものは出来ないことを出来るように頑張るものです。

ですからリハビリを受けるお子さんは、まずは自分が出来ないことと向き合わなければなりません。

ですがリハビリを受けるたびに、自分の不甲斐なさに向き合わされていたら、どんなに強い人間でも心が折れてしまいます。

ではどうすればいいのでしょう?

私が心がけているのは、まずは簡単にできる動作から順番に少しずつ始めていき、一つ一つの動作をゆっくりと積み上げて、次第に複雑で難易度の高い動作に誘導していくやり方です。

この方法ですと、毎回(あるいは数回に1度)は簡単な動作を獲得した子供が達成感と有能感を味わうことができます。

そうして難易度が高い複雑な動作にたどり着く前に、何度も成功体験を味わった子供は「ようし今回も出来るようになってやろう。ボクなら出来るはずだ!」と考えるようになります。

そうなればしめたものです。

本人が「出来るようになる!」と信じて練習すれば出来るようになる可能性は高まりますが、「どうせボクには無理だろう!」と思って練習していては絶対に出来るようにはなりません。

ですから「簡単にできる見込みのない難しい動作」をずっと練習させ続けることは「どうせボクには無理だろう!」という気持ちを大きく育ててしまいます。

子供のリハビリテーションでは、ただ物理的に体を動かしても、それだけでは何の意味もありません。

末梢の運動器官である手足や背骨を動かすことで「どの様な刺激を脳に伝え」て「どの様な心を育てるか?」あるいは「どの様な脳の反応を形成するのか?」がとても重要なのです。

効果的にリハビリテーションを進める上で子供の自信を育てることは、とても大切なことなのです。

 

 

ポイント5: 子供が嫌うコトや怖がって泣く動作を無理強いしないこと!

PCと赤ちゃん1

前頭葉の前の部分には前頭前野という部分があります。

前頭前野では、「複雑な認知行動の調整」や「社会行動の調整」を行います。

すなわち前頭前野では「人格」を作っているのです。

この前頭前野で「自分が何をすべきか」を決定したのちに、すぐ後ろの「運動前野」や「1次運動野」と連携して実際の行動を起こします。

大脳皮質L1

青い部分の大脳皮質: 前頭前野

赤い部分の大脳皮質: 1次運動野

紫の部分の大脳皮質: 眼窩前頭皮質

 

そしてこの前頭前野のすぐ下(眼のすぐ上辺り)には、眼窩前頭皮質があり「感情の抑制」や「意思決定」に関わっていると言われています。

さらに眼窩前頭皮質のすぐ後ろのやや内側には扁桃体と呼ばれる「感情のコントロールに関わる」神経ターミナル(大脳辺縁系)と海馬と呼ばれる「記憶のコントロールに関わる」神経ターミナルが続いています。

これらは連携して「記憶に関連する感情とそれから導かれる行動」をコントロールしていると言われています。

ですから嫌いな動作や恐怖を感じる動作を繰り返すと、扁桃体海馬に、その動作に対するネガティブな記憶と感情が蓄積されて、その動作がもっと嫌いになってしまいます。

扁桃体・海馬・眼窩前頭L1

中央の赤色の神経ターミナル(視床)のすぐ下の紫色の帯: 海馬

海馬の先の濃い紫色のアーモンド型の神経ターミナル: 扁桃体

その先の薄い半透明の紫色の大脳皮質: 眼窩前頭皮質

 

なぜ子供がその動作を怖がるのか?

なぜ子供がその動作を嫌うのか?

それをもっと真剣に考えて対策を取らなくてはなりません。

 

ここで一つの例を挙げて分かり易くご説明しますね。

 

ある子供がうつ伏せになることを大変嫌っていました。

うつ伏せにされると、それだけで泣いてしまうのです。

しかしうつ伏せの状態から自分で仰向けに戻る練習をして、それが出来るようになった瞬間から、うつ伏せを嫌わなくなり、自分から進んで練習するようになりました。

要するに、うつ伏せになっても自力で仰向けに戻れないから「うつ伏せが怖かった」だけなのです。

 

子供がその動作を嫌う怖がるには理由があります

 

その理由を見つけて怖さを排除していくことで、子供は「怖くて出来なかった動作を知恵を使って克服していく」ことを学びます。

この場合は物理的に怖い動作や嫌う動作を練習することが目的ではなく、「苦手な動作をどの様に克服するか」を学ぶことが大切なのです。

リハビリテーションは無理やり行う「しつけ」ではありません。

子供の能力を限界まで引き出すための「科学的なツール」なのです。

PC大好き赤ちゃん

 

 

まとめ

 

今回は子供のリハビリテーション解説の第一回目ですので、子供のリハビリに関わる基本的なスタンスとして「いかにして子供のやる気を引き出すか!」の解説を行いました。

今後は「いかにして運動機能を高めるか!」や「いかにして呼吸器から離脱するか!」や「リハビリテーションの効果を何倍にもするために準備しておく身体のコンディショニング」などを小児リハビリテーション全般について解説していきます。

これからよろしくお願いいたします。

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

次回は

「脳の神経構造から考える『子供のやる気を引き出す』方法論!」

について解説を行います。

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