脳卒中の異常歩行パターンから抜け出すための麻痺側下肢の運動練習
はじめに
脳卒中になると歩行パターンも「ぶん回し歩行」などの特徴的な歩行となります。
そしてこれらの異常歩行パターンを長期間にわたり継続すると、円背や膝関節の変形などの障害が出やすくなります。
また歩行自体の効率が低いため、疲れやすく長距離を歩くのにも適していません。
そのために脳卒中片麻痺の皆さんは、一生懸命に歩行練習をするのです。
ですが残念なことに最近の脳科学の研究より、単に歩くだけの歩行練習は、異常歩行パターンでの歩行の練習であり、異常歩行パターンをより上手に行うための練習になってしまうことが分かってきました。
脳卒中による歩行の問題は、歩行を制御している中枢神経系の運動制御の問題であり、単に歩くだけの練習ではその問題を解決できないのです。
特に皮質脊髄路の障害による麻痺側下肢の運動機能や体重支持力の低下が歩行パターンに与える影響が大きいため、この問題を解決することが歩行パターンの改善には欠かせない課題となっています。
今回は脳卒中片麻痺に特徴的な異常歩行パターンを改善して、歩行能力を高めるために必須の麻痺側下肢の運動機能を高めるリハビリテーション方法について解説を行います。
皮質脊髄路の障害と網様体脊髄路の障害について
脳の主な運動神経の経路には「皮質脊髄路」と「網様体脊髄路」があります。
皮質脊髄路
「皮質脊髄路」は目的を持って意識的に手足を動かす場合の運動制御を行っています。
この「皮質脊髄路」は体側性神経支配であって、右側の「皮質脊髄路」が主に左側の手足の運動を制御し、左側の「皮質脊髄路」が主に右側の手足の運動を制御しているため、脳卒中によって片側の運動神経が障害されると、反対側の手足に麻痺が出ることで脳卒中片麻痺が出現します。
要するに脳卒中片麻痺と言われる原因は、この「皮質脊髄路」の障害にあるのです。
網様体脊髄路
また「網様体脊髄路」は無意識的な姿勢制御に関わっていて、主に体幹の運動とそれに伴う肩や腰の運動を制御しています。
この「網様体脊髄路」は両側性神経支配であるため、たとえ片側の網様体脊髄路が障害されても、体幹の姿勢制御には顕著な麻痺が認められません。
例えば脳卒中片麻痺の異常歩行パターンとして、とてもポリュラーな「ぶん回し歩行」ですが、この麻痺側の膝を伸ばしたまま、やや外側に足を振り回すようにして歩く歩行は、皮質脊髄路の障害によって麻痺側の下肢の運動が障害されているところを、網様体脊髄路の骨盤運動で代償することで、自然と行われています。
また健側の杖に極度に依存する形で、麻痺側の腰を後ろに引く形で、体幹を斜めにするように歩く「健側依存型」の歩行パターンは、網様体脊髄路の片側の神経支配が消失して、体幹の姿勢制御機能が低下しているところに、麻痺側下肢の運動制限が重なることで引き起こされています。
このように「皮質脊髄路」の障害に関連して異常歩行パターンが起こっているのです。
ですから脳卒中片麻痺の異常歩行パターンを改善して歩行能力を 高めるためには、この「皮質脊髄路」の機能を改善して、麻痺側下肢の運動機能を向上させることが必要になります。
皮質脊髄路の障害による麻痺側下肢の運動機能を高める方法
脳卒中による異常歩行パターンに陥る原因として、皮質脊髄路の障害によって片側の下肢の麻痺が起こることで、麻痺側の足の振り出しや膝の屈伸運動などが出来なくなることがあります。
また正常な歩行においては、左右の足を交互に振り子のように振り出すことで、半自動的に歩くシステムができています。
ですが片麻痺の場合は、片側の足の筋肉が動かしにくかったり、強張っていることで、左右の足の振り子係数にズレが起こってしまい、安定して歩行することが難しくなってしまいます。
つまりは健側の足と麻痺側の足の筋緊張や関節の動きが違うことで、左右の足を同じリズムで振り出せなくなってしまうのです。
この問題をなるべく解決していくために、麻痺側の筋緊張を和らげたり、筋肉の運動機能を高めたりして、麻痺側の足がなるべく動かしやすい状態に持っていくことが大切になります。
ですがこの歩行を良くするための麻痺側の足のリハビリテーションは、単に歩く練習を頑張っただけでは解決しないため、足の筋緊張や運動機能を良くするための専用のリハビリテーションを行う必要があります。
麻痺側下肢の運動機能を高めるリハビリテーション
⑴ 麻痺側の股関節の屈曲運動を促す運動
安定した椅子やソファに座った姿勢で、麻痺側の足を大きめのクッションや畳んだ掛け布団の上に置きます。
膝を軽く曲げた状態で、膝の位置を真っ直ぐな状態に整えます。
そこから軽く股関節を曲げるように動かしながら、膝を踵を自分の方に引き付けるようにします。
股関節や膝の位置を元に戻します。
これを交互に繰り返します。
この運動を毎日30回 ~ 50回程度ご自分の体力に合わせて行ってください。
⑵ 麻痺側の股関節の安定性を高める運動
安定した椅子やソファに座った姿勢で、麻痺側の足を大きめのクッションや畳んだ掛け布団の上に置きます。
膝を軽く曲げた状態で、膝の位置を真っ直ぐな状態に整えます。
そこから膝を軽く外側に開くように動かします。
いったん膝を外側に開いたら次は膝を内側に閉じるように動かします。
これを交互に繰り返します。
この運動を毎日30回 ~ 50回程度ご自分の体力に合わせて行ってください。
⑶ 麻痺側の膝関節の屈伸を促す運動
安定した椅子やソファに座った姿勢で、麻痺側の足を大きめのクッションや畳んだ掛け布団の上に置きます。
膝を軽く曲げた状態で、膝の位置を真っ直ぐな状態に整えます。
ハンディタイプのマッサージ用バイブレーターで膝のすぐ上辺りの太ももの正面の部分に振動を与えます。(振動はなるべなら 80Hzに近いものでお願いします)
そこから軽く股関節を曲げるように動かしながら、膝を踵を自分の方に引き付けるようにします。
股関節や膝の位置を元に戻します。
これを交互に繰り返します。
この運動を毎日30回 ~ 50回程度ご自分の体力に合わせて行ってください。
⑷ 足関節の背屈を促す運動
安定した椅子かソファに少し浅めに姿勢良く座ります。
麻痺側の足の上に斜めにかかるように小型の立て掛けて使う用の鏡を置きます。
自分から見て、その鏡に自分の健側の足が麻痺側の足に被って映るように鏡の位置を調節します。
その状態で両足を揃えて足首を背屈して爪先を挙げるように動かします。
この時に麻痺側の足を無理やり動かそうとして力まないように気をつけてください。
麻痺側の足は動かなくても構いません。
爪先を上げたり下げたりの運動を、鏡に映る健側の足を麻痺側の位置で見ながら繰り返し運動します。
この運動を毎日15分 ~ 20分程度ご自分の体力に合わせて行ってください。
⑸ 足のつま先の運動を促す運動
安定した椅子かソファに少し浅めに姿勢良く座ります。
麻痺側の足の上に斜めにかかるように小型の立て掛けて使う用の鏡を置きます。
自分から見て、その鏡に自分の健側の足が麻痺側の足に被って映るように鏡の位置を調節します
その状態で両足の下にそれぞれタオルを一枚置きます。
それから両足の爪先を揃えてタオルを引っ掻く運動を行います。
麻痺側の爪先は動かなくても構いませんので、力まないように軽く運動をしてください。
爪先を引っ掻く運動を、鏡に映る健側の足を麻痺側の位置で見ながら繰り返し運動します。
この運動を毎日15分 ~ 20分程度ご自分の体力に合わせて行ってください。
これらの運動は決して焦って麻痺側の足を動かそうと力まない様にしてください。
軽い力で毎日継続していけば、徐々に結果が出てくると思います。
継続は力なりで続けて見てくださいねお願い致します。
まとめ
脳卒中片麻痺に特徴的な「ぶん回し歩行」などの異常歩行パターンは、皮質脊髄路の障害による下肢の運動麻痺を、比較的麻痺が出にくい網様体脊髄路の体幹制御運動で代償し、その代償も完全ではなく、様々な問題を引き起こしことで異常パターンに陥っています。
この問題を解決するためには、単に歩く練習を頑張るのではなく、歩く練習とは別に、麻痺側下肢の運動機能を戦略的に高める様なリハビリテーションアプローチが必要なります。
今回は異常歩行パターンから抜け出すために有効と思われる、下肢の運動機能を改善するためのリハビリテーションアプローチをご紹介しました。
どれもコツコツと継続することで効果が期待できる運動ばかりです。
継続は力なりぜひダマされたと思って続けて見ていただければと思います。
最後までお読み頂きありがとうございます。
注意事項!
このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。