呼吸ケア

人工呼吸管理 人工呼吸器の初期設定のポイント

人工呼吸管理 人工呼吸器の初期設定のポイント

 

はじめに

人工呼吸器の設定は医師が行うべきものです。

しかし人工呼吸器を使用していて、一番問題となるのは、人工呼吸器を装着されている患者さんの呼吸デマンドと人工呼吸器の設定が合わないことで起きるファイティングではないでしょうか。

実際の問題として、人工呼吸器を装着した初期に、このファイティングが起きることが多いのです。

昔であれば、ファイティングを起こした時には、主治医は簡単にセデーションをかけてしまい、患者さんの自発呼吸を抑えてしまっていました。

しかし欧米の人工呼吸管理の教科書の1ページ目にはだいたいこう書かれているのです。

「人工呼吸管理を行うにあったって患者にセデーションを行うような医師は人工呼吸器に触ってはならない」

そうなのです人工呼吸管理中にセデーションを行なって、患者さんの自発呼吸を抑制することは禁忌事項なのです。

なぜ人工呼吸管理中に患者さんにセデーションをかけてはいけないのでしょうか?

またそうであるとしたら、人工呼吸器と患者さんのファイティングをどうやって回避したらいいのでしょうか?

今回は人工呼吸器の設定について、本来は医師の権限ではありますが、コメディカルの私たちにも、人工呼吸器を使用した呼吸ケアに対する理解を深める助けになりますので、あえて解説してみたいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

人工呼吸管理中に患者さんの呼吸をセデーションで抑制してはいけない理由!

一般的な人工呼吸器は陽圧換気になります。

つまりは気道に挿入した気管内チューブを通して、プラスの圧(陽圧)で肺に空気を送り込むのです。

ですから吸気時には気管支や肺胞の中の圧は陽圧になります。

それに対して自発呼吸は陰圧呼吸です。

ドーム状の横隔膜の筋肉が収縮すると、ドームが下に引き下げられて、胸腔が拡げられることで、胸腔内圧が陰圧になり、それによって肺が拡げられて、気道内圧や肺胞内圧も陰圧になることで、肺内に空気を引き込みます。

この人工呼吸器による陽圧換気と自発呼吸による陰圧換気にはそれぞれ以下のような特徴があります。

 

人工呼吸器による陽圧換気

陽圧で肺内に空気を吹き込むため、気管支や肺胞の抵抗の少ないところに優先的に換気される傾向があるため、肺の上葉の換気が多くなり、下葉の換気は低下する傾向がある。

 

自発呼吸による陰圧換気

肺底部にある横隔膜によって肺が拡げられることで換気するため、肺の下葉にも換気が良好に行われやすい。

 

つまり人の体はそれだけ効率よく換気ができるようになっているのですね。

 

しかし肺炎などのなんらかの問題で、気道抵抗が増加し、肺や胸郭のコンプライアンスが低下し、横隔膜の筋力がr低下してしまうと、人工呼吸器によるサポートがないと、自発呼吸を継続することができなくなってしまいます。

では肺胞の換気血流比を良好に換気するためにはどうすれば良いのでしょうか?

 

自発呼吸をなるべく活かした人工呼吸管理

先ほどご説明しましたように、人工呼吸器の陽圧換気では、肺のより抵抗の少ない部分を換気しますから、どうしてもベッドに寝た状態での人工呼吸管理では、肺の上葉の換気が優位になり、肺の下側や背中側の換気は低下します。

そのために人工呼吸管理中には、寝ている体位を細かく変えることで、背中側の換気を促そうとします。

しかし体位交換以外にも、肺の下側・背中側の換気を促す方法があるのです。

それが「自発呼吸を活かした人工呼吸管理」です。

 

本来の人工呼吸管理は、気道抵抗の上昇や、肺や胸郭のコンプライアンスの低下に対して、横隔膜が筋疲労状態に陥ったものを、人工呼吸器がサポートすることで、横隔膜の筋疲労を改善することが目的です。

しかし実を言うと、鎮静薬や筋弛緩薬を使用しない状態で、人工呼吸管理を行っている場合、人工呼吸器の換気と一緒に、呼吸筋も一緒に動いているのです。

分かりやすい例でご説明すると、私たちセラピストが患者さんの腕をROMexで動かしている時に、患者さん自身も、少し力を入れて腕を動かしていますよね。

完全に力を抜いてしまって、相手に任せると言うのは、かえって難しいものです。

 

人工呼吸管理の場合にも同じことが起こっています。

つまりは人工呼吸器が、たとえ強制換気モードで換気していたとしても、それに合わせて横隔膜は動いているのです。

問題は横隔膜がどの程度動いているかですね。

それは人工呼吸器をつけた時期によって変わります。

 

人工呼吸管理と自発呼吸筋の状態変化の関係について!

当然のことに人工呼吸器の装着に至った急性期には、横隔膜などの呼吸筋は激しい筋疲労状態にあるために、この段階では十分に呼吸筋を休ませる必要があります。

しかし人工呼吸管理を開始して、呼吸筋に十分な休息を与えた後には、人工呼吸器と呼吸筋を連携して働かせることで、肺の下側や背中側の換気効率を高めることができます。

 

自発呼吸筋の状態変化の流れ

⑴ 呼吸器の障害発生初期

→ 肺酸素化能の低下のため自発呼吸にて努力性呼吸状態

⑵ 呼吸器の障害が進行

→ 気道抵抗増加、肺・胸郭コンプライアンス低下にて呼吸筋疲労が進行

⑶ 人工呼吸管理開始

→ 気道抵抗(↑)肺・胸郭コンプライアンス(↓): 呼吸筋疲労状態

⑷ 人工呼吸管理開始後48時間

→ 気道抵抗(↑)肺・胸郭コンプライアンス(↓): 呼吸筋疲労が改善

⑸ 人工呼吸を開始するに至った原因疾患が改善

→  気道抵抗(↓)肺・胸郭コンプライアンス(↑): 呼吸筋力向上

→ ウィーニング開始

 

この時 ⑶ の人工呼吸管理開始直後には、呼吸筋は強い疲労状態にあるため、十分に休息させるために、しっかりとした人工呼吸器による換気サポートが必要になります。

しかし ⑷ の人工呼吸開始後48時間が経過すれば、一般的にはこの段階で呼吸筋疲労は解消されています。

ですからこの段階から、徐々に人工呼吸器のサポート量を調節して、自発呼吸筋の活動を促していきます。

しかし過度な負担が呼吸筋にかからないように注意する必要もあります。

何故ならばこの段階では、呼吸器疾患は改善されておらず、気道抵抗や肺コンプライアンスは悪いままだからです。

 

稀にこの段階で呼吸筋疲労が改善したのを、呼吸状態が改善したと勘違いしてウィーニングを開始してしまうお医者さんがおられます。

でも肺や気道の状態が悪いままなので、すぐにまた人工呼吸器が必要になってしまいます。

そして不適当なウィーニングトライアルを繰り返すと、肺や全身状態に取り返しのつかないダメージを与えて、ウィーニング困難に追い込んでしまいます。

もし皆さんの周りに、こんなお医者さんがいたら、そんなウィーニングはなんとか阻止してくださいね。

患者さんが可哀想です!

 

ですから「自発呼吸を活かした人工呼吸管理」は、人工呼吸開始後 48時間以上経過した段階で行います。

それまではしっかり呼吸筋を休ませ、その間に無気肺が起こらないように、セラピストやナースが協力して、体位交換や呼吸理学療法を行なって、予防的なアプローチを行います。

そして48時間が経過して、呼吸筋が十分に疲労から回復したら、少しずつ自発呼吸筋の出力を上げていくように、人工呼吸器のサポート量を調節します。

この時に栄養状態や全身状態を十分に考慮して、くれぐれも患者さんに負荷を掛け過ぎないように気をつけてください。

 

もし鎮静薬や筋弛緩薬で完全に自発呼吸を抑えてしまうとどうなるか?

ではもし人工呼吸管理中に鎮静薬や筋弛緩薬で自発呼吸を抑えてしまうと、どうなるのでしょうか?

横隔膜を挟んで、肺の反対側には消化器系の内臓がありますよね。

肺の中には空気しか入っていません。

でも横隔膜の反対側にある消化器系の内臓には肉や脂肪や水分がたくさん含まれています。

肺と消化器系の内臓のどちらがより重いでしょうか?

当然、消化器系の内臓が重いですよね。

ですからもし横隔膜が鎮静薬や筋弛緩薬で緊張が緩んでしまったら、消化器系の内臓の重みで、肺が押しつぶされてしまいます。

そうなるとより肺の下側や背中側の換気が障害されて「下側肺障害」が引き起こされてしまいます。

ですから人工呼吸管理中に鎮静薬や筋弛緩薬を使用してはいけないのです。

 

どうして自発呼吸と人工呼吸器はファイティングするのか?

どうして人工呼吸器を装着したばかりの時に、ファイティングが起こりやすいのでしょうか?

それはその時の患者さんの呼吸状態をよく観察してみれば分かることなのです。

救命救急センターに搬送されてきた患者さんは、肺炎などの呼吸器の疾患でとても苦しい思いをしています。

ですから呼吸状態は努力性呼吸状態になっていますね。

ゼーゼー、ハーハーと苦しそうに息をしています。

 

その時の状態は

呼吸回数  増加

一回換気量 増加

吸気流速  速い

 

ですね!

 

そこに気管内挿管をして人工呼吸器を装着します。

その時の人工呼吸器の初期設定はどうなっていますか?

おそらくは通常の安静呼吸設定ですよね

 

つまり人工呼吸器の初期設定は!

呼吸回数 少ない

一回換気量 少ない

吸気流速 ゆっくり

で!

ファイティングが起こります!

 

人工呼吸器の初期設定時にできる工夫とは!

ですから人工呼吸器を最初に装着する時には、患者さんの自発呼吸の努力性呼吸状態をよく観察して、それに準じた人工呼吸器の設定で呼吸管理を開始してやれば良いのです。

人工呼吸器装着前に患者さんの呼吸回数やおおよその一回位換気量、吸気時間などを計測しておきます。

その設定をそのまま人工呼吸器に設定してやれば良いのです。

人工呼吸器の設定値が、患者さん本人の自発呼吸のデマンドと一致していれば、患者さんがファイティングすることはありません。

それどころか多くのケースでは、1時間もすれば鎮静薬を投与しなくても眠ってしまいます。

 

何故ならそれまでの自発呼吸の努力性呼吸と炎症症状で、患者さんは疲れ切っているのです。

ですから呼吸が楽になれば眠ってしまいます。

 

そこで患者さんが落ち着いたり眠ったりした場合には、素早く人工呼吸器の設定を安静呼吸の設定に戻します。

でないと翌朝まで努力性換気をしていたら、過換気状態が継続して、患者さんはアルカローシスになってしまいます。

必ず安静モードに戻してくださいね。

 

圧損傷を回避するためのポイント

この換気設定を行う上で、もう一つ重要なポイントは、一回換気量や吸気流速を高めに設定した場合に圧損傷(バロトラウマ)のリスクが高まるということです。

ですから圧損傷のリスクを回避して、極力トラブルを避けるために、以下の点に注意しておきます。

 

⑴ PIPは高くとも、EIPは20cmH20以下になるように調節しておく

⑵ 十分な呼気時間を確保するように、呼吸回数と吸気流速を調節する

⑶ 気道抵抗が高いケースでは、気管支拡張薬の吸入や、呼吸理学療法による気道内分泌物のクリアランス、呼吸補助筋のリラクセーションによる気管支平滑筋の緊張低下を行う

⑷ 必要に応じてカウンター PEEPを設定しておく

 

以上です

 

まとめ

今回は人工呼吸器の初期設定のコツについて、日本のコメディカルの則を超えて、解説を行いました。

おそらく実際には行わなくとも、現場での呼吸ケアの質の向上には役立つアイデアだと思います。

米国の呼吸療法士にとっては教科書に書いてある基本的なお話に近いものですから。

 

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