筋萎縮性側索硬化症

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は最後に人工呼吸器を着けるべきか?

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は最後に人工呼吸器を着けるべきか?

 

 

はじめに

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は四肢の筋肉が麻痺して萎縮していき、最後には呼吸筋が麻痺して呼吸停止に陥る病気です。

ですからそこから先の生命維持には人工呼吸器の装着による呼吸サポートが必要になります。

ですが実際に筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんが人工呼吸器の装着を希望するのは、全体の25%程度だと言われています。

それはどうしてなのでしょう?

また実際の筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対する人工呼吸器を装着した呼吸ケアとはどんなものなのでしょうか?

今回は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の人工呼吸器の問題について解説してみたいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

人工呼吸器とは?

 

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の人工呼吸管理の解説をする前に、まずは「人工呼吸器とはなにか」について解説しておきたいと思います。

日本では時々間違えて人工呼吸器のことを「レスピレーター」と呼んでいる場合があります。 呼吸を英語でいうとレスピレーションなので、人工呼吸器はレスピレーターであると、勝手に解釈しているのです。

しかし本当は欧米では人工呼吸器のことをベンチレーターと呼んでいます。

ここでいうベンチレーションとは「換気」のことです。

つまりは窓を開けて部屋の空気を入れ替えるのもベンチレーションですし、換気扇を回して部屋の空気を入れ替えるのもベンチレーションになります。

つまりは日本語の「人工呼吸器」は本来は「人工換気器」と翻訳されるのが正しいのです。

つまりは人工呼吸器とはベンチレーターであって、肺の中の空気を出し入れして換気するのを助ける機会ということになります。

 

あなたがもし海岸で溺れた人を見たら、口と口をくっつけて人工呼吸をしますね。

この時にもし相手が若くて綺麗な女性ならドキドキして、すぐには出来ないかもしれません。

まあ相手がものすごいゴッツイおっさんでも、すぐには出来ないですけどね。

 

この口と口をくっつけて、相手の肺に息を吹き込むのを、機械にやらせるのが人工呼吸器による呼吸サポートです。

つまり人工呼吸器という器械を使って、肺に自動的に空気(場合によっては酸素を混ぜます)を吹き込んでやるのが人工呼吸管理なのです。

ですから生命維持装置といっても、そんなに難しいものではないのです。

 

 

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の人工呼吸管理

 

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の場合は、呼吸筋が麻痺して自力で息を吸い込むことが出来なくなったら、人工呼吸器をつけて自発呼吸を助けてやります。

しかしヒトの呼吸は、器械が止まるみたいに、いきなり出来なくなるわけではありません。

呼吸筋が少しずつ弱っていくために、完全に自発呼吸ができなくなる手前で、様々な問題が起こります。

実際にはこれらの順序に従って、様々な呼吸ケアのサポートを次々に行っていきます。

 

 

1 呼吸筋のコンディショニングを行う時期

 

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は単に筋肉が麻痺するだけでなく、筋肉の強張りや浮腫みなどの筋機能不全が起こります。

そのために呼吸筋にこの筋の強張りや浮腫みなどが起こると、正常な呼吸運動が阻害されて、息苦しさを感じるようになります。

この息苦しさを感じる状況は、比較的に病気のはじめの頃から感じる場合もあります。

そして慢性的に息苦しさを感じている状況は、かなり精神的に辛いものです。

ですから呼吸理学療法という手技を用いて、呼吸筋のコンディションを整えて息苦しさを軽減するためのリハビリテーションアプローチを行います。

 

この呼吸筋のリハビリテーション方法に関しては以下の記事を参照してください。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の息苦しさを解消するリハビリテーション

 

 

2 咳による排痰困難を解消する呼吸ケア

 

ついで呼吸筋が弱くなり始めるとどんなコトが起きるかというと、深呼吸がしにくくなります。

つまり普通には呼吸ができるけれども、深呼吸まではできにくい状態になります。

深呼吸ができなくなるとどんなコトが起きるのでしょうか?

深呼吸ができなくなると、咳をする力が弱くなります。

効果的な強い咳をするためには、その前に思い切り息を吸い込む必要があります。

もし十分に息を吸い込めない場合は、弱い咳しかできないことになります。

そうすると気管支の中にある痰を切って出すコトができなくなり、気管支が詰まって息が苦しくなります。

またその状態を放置すると痰が詰まった気管支の先の肺胞が潰れて「無気肺」と呼ばれる状態になります。

この無気肺を放置すると、そこから肺炎になりますから、そうなると命に関わる重大時になってしまいます。

 

この効果的な強い咳ができなくなった状態をケアする方法として「カフマシーン」の使用による咳のサポートがあります。

この「カフマシーン」とは機械によって上手に咳をするようにサポートしてやる機械です。

「カフマシーン」は普段は使わずに、定期的に口に当てて器械を作動させて、人工的に咳をするコトで、無気肺と肺炎の予防を行います。

 

 

3 バイパップによる呼吸サポート

 

さらに呼吸筋が弱ってくると、夜間に寝るときなどに機械で呼吸をサポートして休ませてやらないと、呼吸筋が疲れて呼吸が寝ている間に止まってしまうような状態になります。

このような時に使用するのは「マスクバイパップ」と呼ばれる人工呼吸器です。

これは一般的な人工呼吸器とは違い、気管切開チューブを入れないで、口に専用のマスクを着けるコトで人工呼吸器による呼吸サポートを行う方法です。

人工呼吸器はバイパップと呼ばれる専用の機械を使用します。

この人工呼吸器の特徴は、マスクをつけて呼吸サポートを行うために、必要な時だけ、短時間使って、あとは外して置けるコトです。

ですからマスクバイパップを外している間は、口からご飯も食べられますし、家族と会話をすることも可能になります。

 

逆に長時間つけて使用するのはマスクがキツくて辛い方法になります。

あくまでも夜間などの短時間の呼吸サポート用になります。

 

 

4 気管切開チューブをつけての人工呼吸器の装着

 

最後にいよいよ、気管切開チューブをつけて人工呼吸器を行います。

これは24時間体制で呼吸サポートを行うために必須の方法になります。

方法としては喉仏のすぐ下を切開して気管切開チューブを、直接気管内に挿入して、そこに人工呼吸器を装着して呼吸サポートを行います。

この場合は気管切開チューブは声帯の下に装着されますから、声帯を使うコトができなくなり、声を出すコトができなくなります。

ですから友人や家族と気軽に会話をするコトが出来なくなります。

また口からの食事も出来なくなるので、栄養は胃瘻から経管チューブで栄養剤を胃に注入する必要が出てきます。

また気管切開チューブを装着するコトで、咳が出来なくなるので、定期的に気管内吸引を行なって、痰を除去してもらう必要があります。

 

そしてここがとても大切なことなのですが、いったん生命維持装置である人工呼吸器(気管切開チューブをつけての人工呼吸器)を装着すると、もう死ぬまでこれを外すコトが出来ないというコトです。

例えばマスクバイパップを外したまま眠ってしまい、呼吸が止まって死んでしまった場合は、これは仕方がありません。

しかし寝ている間に人工呼吸器が外れて死んでしまった場合、介護していた家族は、場合によっては「業務上過失致死罪」になる可能性があります。

またあなたがもうこれ以上は無理だから人工呼吸器を外してくれと訴えて、家族や友人がこれを外してしまった場合、これは「自殺幇助」になります。

ですから筋萎縮性側索硬化症(ALS)で人工呼吸器を装着した場合、もう引き返せない道に、あなたと家族は踏み出すことになるのです。

 

考えてみてください。

 

声を出すコトが出来ず!

口から美味しいものを食べるコトが出来ず!

家族や友人と食事や会話を楽しむこともできず!

指を動かすことも歩くことも出来なくなり!

ただベッドに寝て、定期的に家族に吸引して痰をとってもらい、シモの世話をしてもらい。

老衰で死ぬまで生き続ける。

 

この状態で生き続けるには、何か生きるための強い目的が必要になります。

物理学者のホーキンス博士は「研究がしたい」からこの状態で生き続けて、活発に活動を続けておられます。

しかしもしなんの目的もなくこの状態で生き続けるとしたら、それはかなり厳しい道になると思われます。

ですから多くの筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の方は、人工呼吸器を装着してまで生き延びる道を選ばれないのだと思います。

 

しかし何か強い思いがあって生き延びようと考えた場合、現代には視線によって操作できるパソコンやロボットアームなど様々な機械があなたをサポートしてくれるでしょう。

もし強い意志と目的を持って「生き延びよう」と希望された場合、進んでいくための道は用意されています。

 

 

 

まとめ

今回は筋萎縮性側索硬化症(ALS)の人工呼吸器による呼吸管理のお話をさせていただきました。

テーマが神経難病と生命維持装置ですので、少し内容が重くなりましたが、なんらかの参考になれば幸いです。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

 

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

 

 

 

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