脳卒中リハビリ

運動学習の効果を高めて脳卒中の麻痺の回復を目指す!

運動学習の効果を高めて脳卒中の麻痺の回復を目指す!

 

はじめに

脳卒中片麻痺の神経リハビリテーションにおいて、「脳の可塑性」あるいは「神経の可塑性」と呼ばれる現象が、とても重要だと考えられています。

その「脳の可塑性」を引き起こす方法として、「記憶」と「運動学習」はとても大切な要素になります。

何故ならば、神経シナプスを強化したり、弱化させたりして、脳の神経活動のスタイルを変えていくことが、「脳の可塑性」をうながすことになるからです。

そして「記憶」や「運動学習」をすすめることこそが、この神経シナプスを強化したり、弱化させたりすることにつながるのです。

今回は「運動学習」と「シナプス強化」について解説してみたいと思います。

どうぞよろしくお願いします。

 

 

シナプスが強化される仕組み

神経細胞の信号を伝達する、神経シナプスの仕組みは、19世紀の終わり、スペインの神経解剖学者の Santiago Ramon y Cajal 博士が発見しました。

Cajal 博士は、徹底した観察を通して、神経細胞の細かい構造を解明し、神経細胞同士が、シナプスを介して、お互いに結ばれていることを発見しました。

さらにCajal 博士は、シナプスを介した神経細胞間の結合度の変化こそが、記憶や学習のメカニズムではないかと、考えたのです。

しかしこのCajal 博士が、晩年に「いったん破壊された成体の神経細胞は決して再生しない」と決めつけてしまったため、私たちの様な「麻痺改善主義のセラピスト」は20世紀の間、ずっと冷や飯を食わされることになるのですが。

でもCajal 博士が、シナプスを発見してくれたことは、ありがたいことですので、感謝はしています。

 

Hebb の学習則の提起

そのCajal 博士の考えをもとに、カナダの心理学者 Donald O. Hebb 博士が、1949年に「Hebb の学習則」を提唱しました。

これは簡単に略すと、こういうない様になります。

「神経細胞 A の発火が神経細胞 B を繰り返し発火させることによって、神経細胞 A と神経細胞 B の結合が強まる」

ということです。

 

長期増強(LTP)

その後、Hebb の学習則に則って、多くの研究が行われた結果、「長期増強(LTP)」というシナプスの可塑性が発見されます。

これは神経細胞間のシナプスが、繰り返し発火したことで、このシナプスへの結合が、長期的に増強されるものです。

この現象は、初めは海馬で発見されたため、LTP は記憶の基礎的な現象と考えられました。

しかしその後は、大脳皮質や小脳、扁桃体などでも、LTP が広く認められており、LTP は脳における一般的な学習メカニズムと考えられています。

 

スパイクタイミング依存可塑性(STDP)

さらに 1990年台半ばに、スパイクタイミング依存可塑性(STDP)という概念が登場します。

これは2つの神経細胞間のシナプスが、一定のタイミングで、繰り返し、2つの細胞が興奮した場合にのみ、細胞間のシナプス結合強度が変化するというものです。

2つの興奮性細胞の間での、一般的なSTDPでは、以下の様な性質が認められています。

 

⑴ 前シナプス細胞(神経細胞 A)が発火してから、数十ミリ秒以内に、後シナプス細胞(神経細胞 B)が発火する場合、シナプスの長期増強(LTP)が生じる。

⑵ 後シナプス細胞の発火が、前シナプス細胞の発火に先行する場合、シナプスの長期抑制(LTD)が生じる。

というものです。

 

つまりは神経の情報伝達の流れに順じて、シナプスの伝動が行われた場合には、シナプスの結合は強化され、情報伝達の流れに逆行して行われた場合には、シナプスの結合は弱化されるのです。

 

この「スパイクタイミング依存可塑性(STDP)」を、脳卒中リハビリのアプローチに照らして考えれば、以下の様な反応になっていると考えられます。

 

⑴ 前シナプス細胞(神経細胞 A)が発火してから、数十ミリ秒以内に、後シナプス細胞(神経細胞 B)が発火する場合、シナプスの長期増強(LTP)が生じる。

→ 徒手療法もしくはEMSなどによる促通アプローチを手足に行い、それに先立って、本人が自分で、その動作を行おうと努力した場合。

→ その動作が促通される。

 

⑵ 後シナプス細胞の発火が、前シナプス細胞の発火に先行する場合、シナプスの長期抑制(LTD)が生じる。

→ 本人は何もせずにリラックスした状態で、セラピストによって、手足のストレッチを行う。

→ その筋肉の活動が抑制されてストレッチされる。

 

という現象が起きることで理解できると思います。

 

 

脳卒中リハビリテーションでのシナプス強化

では実際の脳卒中リハビリテーションにおいては、手足の麻痺を回復させるためには、どの様なアプローチが効果的なのでしょうか。

麻痺側の手の機能回復を例にとって、Hebb の学習則に則って考えると、麻痺した手を動かすための、効果的な運動学習のためには、以下の手順でシナプスが活動が起きる必要があります。

 

⑴ 大脳皮質の運動野から麻痺側の手を動かす運動指示が出される。

⑵ 運動指示が皮質脊髄路を下行して、脊髄前角細胞で末梢神経に信号を伝達する。

⑶ 手を動かすための抹消の運動神経が、目的となる筋肉に、信号を伝達する。

⑷ 手を動かす筋肉が収縮して、手が動かされる。

⑸ 筋肉の線維の中にある、感覚センサーが反応して、感覚情報を脳にフィードバックする。

⑹ 脳の運動野と感覚野の間で、出された運動指令と、フィードバックされた感覚情報の照合が行われる。

⑺ 照合された運動指令と感覚情報に従い、運動の適正化と呼ばれる調節が行われる。

 

この順番で運動指令が、正しく繰り返し、シナプス伝達を行う必要があります。

 

 

効果的な運動学習のためには?

では上記の手順の中で、どの様な点に注意して神経リハビリテーションを行えば良いのでしょうか?

 

⑴ まずは正しく運動指令を大脳皮質の運動野から出力する

脳の神経シナプスを正しく強化するためには、正しい順番で、神経細胞を発火させていかなければなりません。

しかし一般的なファシリテーション手技では、動かない麻痺側の手を、セラピストが動かしたり、EMS などの電気刺激によって、動かしています。

ですからそのままですと、大脳皮質の運動野からの運動指令より、手を動かすための抹消神経細胞の方が、先に発火してしまいます。

これに対する対策としては、EMS などの電気刺激による、筋肉の運動開始を予測する形で、自分から手を動かす様に、イメージして動くことが必要になります。

 

⑵ 正しい運動イメージを持つこと

また実際には手には麻痺があって、自分の思い通りには動かないことから、あらかじめ手をより動かすために、往々にして力んで動かすイメージを持ってしまいます。

これでは正しく脳神経細胞の活動を引き出せませんね。

例え麻痺した手の動きが十分でなくとも、頭で考える手の運動イメージは、リラックスしたものにしておきます。

 

⑶ 筋肉からの運動感覚のフィードバックを良くする

最終的には、筋肉が収縮して、手が動くだけでなく、その運動感覚が、脳にフィードバックされることで、運動学習が成立します。

ですから筋肉の線維の中の、感覚センサーがキチンと働いて、感覚情報を、脳にフィードバックすることが、とても大切になります。

脳卒中片麻痺は、痙性麻痺ですから、一般的には麻痺側の筋肉は、硬くこわばります。

この状態では、筋肉の線維内にある感覚センサーが正しく働きません。

ですからキチンとマッサージなどを行い、麻痺側の筋肉の線維を、柔らかくほぐしておく必要があります。

また筋肉が硬くこわばっていては、筋肉の運動自体も起こりにくくなりますよね。

ですからキチンと筋肉を柔らかくほぐしておきましょう。

 

脳卒中片麻痺の回復を目的とした、神経ファシリテーションによる、運動学習を効率的に行う注意点としては、以上の3点になります。

この3点に注意しながら、感覚運動促通アプローチを、繰り返しおこなっていきます。

 

 

まとめ

今回は脳卒中片麻痺を回復する運動学習を、神経シナプスの強化の視点から、解説をおこなってみました。

脳の神経活動に関しては、これからも新しい研究による発見があることと思います。

これらの先端的な研究の結果を、可能な限り速やかに、在宅でのリハビリテーションに取り入れて、あなたが効果的なリハビリテーションを行う、お手伝いをしていきたいと考えています。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

 

 

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