脳卒中リハビリ

脳卒中片麻痺の障害受容とそれを乗り越えたリハビリテーション

 

はじめに

脳卒中片麻痺は、基本的には脳卒中という病気(脳の血管に問題が起きて脳神経細胞が死んでしまう)という病気の後遺障害です。

ですので脳卒中という病気が治癒したのちに、脳の神経細胞が完全には再生されないことで、片側の手足に麻痺が残ります。

これが後遺障害です。

 

これまでは破壊された神経細胞は、二度と再生されないと考えられていました。

しかし今後は「神経再生医療」と「ニューロリハビリテーション」によって、今までよりは麻痺の回復の可能性が高まってくると思われます。

そうはいっても、やはり脳卒中の後遺障害としての片麻痺の問題は、今後も社会生活などに対して、大きな制限をもたらすと考えられます。

その片麻痺による社会生活への制限に対しては、昔から「障害受容」ということが言われてきています。

しかし本来の脳卒中片麻痺の「障害受容」は、障害があることで、色々な可能性を諦めることではありません。

今回は、病院のリハビリテーションセンターで提供されている「障害受容」ではなく、本来の「学問的な障害受容」について。

「障害受容」とはどうあるべきかの解説をしたいと思います。

どうぞよろしくお願いします。

 

障害受容とは「諦めること」ではありません

なんとなくの感覚で申し訳ないのですが、現在の脳卒中片麻痺の「障害受容」が、「麻痺があることを諦めること」になっている気がするのです。

これは現在の医療サービスが、「病院で脳卒中の急性期ケアを済ませたら、チャッチャと3ヶ月ぐらいで日常生活動作練習をして家にかえす」というスタイルなのが原因ではないかと思います。

今の日本には医療社会福祉にかけるお金が十分ではありません。

ですから脳卒中リハビリテーションも、国の保険でまかなえる部分は、「必要最小限の廉価版」になっています。

ですから病院のリハビリテーションセンターでは、廉価版の必要最低限のサービスしかできないのです。

なのであなたが退院時に主治医の先生から言われた、「これ以上の回復は望めないので退院してください」という宣言は、あくまでも「国の保険医療ではこれ以上のサービスはできないので諦めてください」という、苦し紛れのお願いなのです。

 

決して「あなたは麻痺があるので、これから先の人生を諦めてください」という意味ではありません。

 

確かにあなたは脳卒中という厄介な病気になり、片麻痺という面倒な後遺障害を抱えることになりました。

あなたはそのことをまずは「受容」しなくてはなりません。

しかしそれは「障害のために諦める」ということではありません。

まずは「片麻痺がある自分」を受け入れ、その次にその麻痺を抱えた状態で(ハンディキャップを抱えながら)どのように人生を生きるのかを「探し」「選択し」、そしてその「生き方を受容」しなければなりません。

 

それが本来の「障害受容」なのですが、残念ながら、現在の病院の廉価版リハビリテーションでは、そこまでのサービスはなかなか受けられないようですね。

 

「障害受容」ができていないとどうなるか?

ではもしあなたが「障害受容」ができないままに、これから先の人生を生きるとすると、どんなことが起きるのでしょう?

理学療法士として脳卒中リハビリテーションを行なっていると、よくこんな患者さんに出会います。

その方はとてもリハビリテーションに熱心で、ご自分でもよく勉強されていて、知識も豊富です。

でも会話の端はしにこんな言葉が出てきます「麻痺がよくなったら〇〇を始めたい」。

要するに現在のご自分の身体の状況では「何もできない」と考えているのです。

そして「麻痺が治れば頑張れる」と信じて、一生懸命にリハビリテーションの勉強をして努力されています。

これは一見前向きに努力されているように見えますが、現実は「麻痺を抱えた自分」から逃避している行為なのです。

「手足が麻痺してしまった自分」を受け入れられずに、リハビリテーションを言い訳にして、自分の人生を生きなおすことから逃げているのですね。

このような心理状態が長く続くと、一般的には「リハビリ人生」と言われる、リハビリをすることが人生の目的になってしまいます。

でもリハビリテーションは、あくまでも人生を取り戻すための手段の一つにすぎません。

リハビリテーション自体が人生の目的になってしまうのは間違いなのです。

 

「障害受容」した上でのニューロリハビリテーション

では「障害受容」をした上でニューロリハビリテーションを行うとは、どういうことなのでしょう?

さきほどご説明したように、「障害受容」とは「手足が麻痺した状態で人生を生きる」と覚悟することなのです。

その覚悟を決めたら、次には「どのようにして再び人生を切り開くか」を考えて、戦略を立てます。

その戦略上で、「もう少しだけ〇〇できれば」というポイントが出てきます。

そのポイントに対して、集中的にニューロリハビリテーションを行なっていくのです。

それこそが的確な目標を設定したニューロリハビリテーションのアプローチになります。

 

人生の価値や目標はひとつではありません

よく有名人の中で、絶頂期から転落してから、いつのまにか第二の人生を頑張っておられる方がいます。

ハリウッドスターであったマイケル J フォックスさんなども、その一人ではないでしょうか。

彼は一時期のハリウッド映画で、絶大な人気を誇っていました。

代表的な主演映画の「バックトゥザフューチャー」は、今でもよく話題になりますね。

彼は人気絶頂の最中に、パーキンソン病を発症します。

そしてスターダムから消えていくのですが、その後の人生で、パーキンソン病の啓発活動に尽力したり、愛する家族を得て、幸せな人生を送っておられるようです。

彼の言葉に「もし悪魔がきてパーキンソン病にかかる前の自分に戻してやる」と言ったとしたら、自分は即座に悪魔にこういうだろう「帰ってくれ」と。

これなどはパーキンソン病というハンディキャップを背負って、ハリウッドのスターダムから転落した彼が、それを跳ね返すために努力した結果、より良い人生を手に入れた証拠ではないでしょうか。

私は健康だから送れる人生もあれば、障害があるからこそ得られる人生も、必ずあると信じています。

 

終わりに

少し昔のテレビコマーシャルに「綺麗なお姉さんで生きていく」という、パナソニックの家電の宣伝があったのを覚えていらっしゃるでしょうか?

若き日の松嶋菜々子さんが、とてもキュートでした。

確かに「綺麗なお姉さんで生きていく人生」はとても受容しやすい生き方ですよね。

でも中には「チビでデブでハゲなおっさんで生きていく人生」や「不細工なお姉さんで生きていく人生」もありますよね。

これはなかなか受け入れがたい人生です。

でも不細工なおっさんが、歳をとると「結構いい味を出してくる」場合もあるじゃないですか。

あなたにもきっと「あなたにしか出せない味わいのある人生」が見つかるはずです。

 

お互いに頑張りましょう。

 

この記事は「そこそこカッコイイお兄さんで生きていた」はずが、最近すっかり白髪が増えて、お腹も出てきたおっさんが書きました www

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

 

 

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