脳卒中リハビリ

脳卒中ニューロリハビリのための脳の話 大脳半球編

 

はじめに

最近は、もっぱらニューロリハビリテーションに関連した、脳神経系の記事が多くなっていますが、やはりいくら簡単に分かり易く書いていても、読んでいただいている皆さんには、難しいかなと思います。

そこで皆さんに、このサイトのニューロリハビリテーション記事を、より理解し易くなっていただくために、少しづつ脳の基礎のお話をしていきたいと思います。

なるべく分かり易く脳の働きについて解説しながら、ニューロリハビリテーションに関連するお話もしていこうと思います。

記念すべき第一回目は「大脳半球」のお話です。

どうぞよろしくお願いします。

 

大脳は左右の半球に分かれています

脳は大脳や小脳に分かれています。

この脳の中で最大の部分である大脳は、大脳皮質から大脳基底核、間脳、中脳までを言います。

そしてこの大脳には、正面または上から見て、「大脳縦裂」と呼ばれる、深い溝が走っています。

この「大脳縦裂」によって大脳は、『右半球』と『左半球』に分けられます。

この大脳の右半球を「右脳」、左半球を「左脳」と呼ぶ場合もあります。

さらにそれぞれの大脳半球には、「ローランド溝」「シルビウス溝」「頭頂後頭溝」と呼ばれる溝があります。

この3つの溝によって、脳はそれぞれ「前頭葉」と「頭頂葉」「側頭葉」および「後頭葉」に分けられます。

「前頭葉」と「頭頂葉」「側頭葉」および「後頭葉」には、それぞれに別々の役割があります。

また「前頭葉」と「頭頂葉」「側頭葉」および「後頭葉」は、お互いに連携して、複雑な神経の制御を行う場合もあります。

ミラーニューロンなどのシステムは、その典型的な例ですね。

 

左右の大脳半球は「脳梁」で神経の連絡があります

左右の大脳半球を分けている「大脳縦裂」の奥に分け入っていくと、そこに『脳梁』があります。

左右の大脳半球は『脳梁』によって、神経の連絡があります。

つまり右の脳と、左の脳は、脳梁によって連絡され、相互に情報や信号をやりとりしているのです。

もしこの『脳梁』が切断されて、左右の大脳の連絡が断たれた場合、どのようなことが起きるのでしょうか?

 

⑴ 左側の視野で見た物の名前を言えなくなります

これは左側の視野で見た物の視覚情報は、右脳に送られますが、右脳は観念の脳で、その物が何かを理解することは出来るのです。

しかし言語の脳である、左脳には、視覚からの「その物」の情報が届かないため、その物の名前を言うことが出来なくなるのです。

 

⑵ 作り話しをして言行不一致になる場合があります

これは言葉の脳である左脳と、観念の脳である右脳の連絡が途絶えているために、本当に望んでいることは右脳で考えていますが、言葉は左脳で作られるため、自分の話す言葉と、実際に望む行動にズレが出るためと考えられています。

 

 

左右の大脳半球の相互抑制作用

興奮性神経と抑制性神経

脳の神経細胞には、動作を起こさせる「興奮性細胞」と、その動作が過剰にならないように調節する「抑制性細胞」があります。

よく違法なドラッグなんかを服用して、ウヒャーってなってる変な人がいるじゃないですか(昔ののりピーとか www)。

あれなんかは、クスリによって抑制性細胞の働きが弱っちゃってるんですね。

もう興奮しっぱなしです www

さて実を言うと右と左の大脳半球にも、お互いの活動を相互に抑制し合う仕組みがあるのです。

この左右の大脳半球の相互抑制の仕組みは、簡単に言えばこんな感じです。

 

大脳半球の神経相互抑制

まずあなたが右手で手紙を書いているとします。

この時に、あなたの右手の動作を制御しているのは「左の大脳半球」にある大脳皮質の運動野です。

大脳皮質の運動野は、右の大脳半球の運動野が左の手足をコントロールし、左の大脳半球の運動野が右の手足をコントロールしているのです。

つまり脳の運動制御と手足の運動は、左右が逆になっています。

ですから右手を使っている時には、左の大脳半球の運動野が、積極的に活動しています。

つまり左大脳半球の活動が高まって、右の大脳半球に対して優位になっています。

そうすると左大脳半球から、右の大脳半球に対して、抑制性のコントロールが行われます。

それによって左手の運動が制限されることになります。

そうすることで、右手で字を書いている間は、左手が勝手に動いて邪魔をしないようになっています。

せいぜいが紙を抑える文鎮の役割くらいですね。

逆に左手を積極的に使っている時には、右側の大脳半球の神経活動が優位になるために、右の大脳半球から左の大脳半球に対して、抑制性のコントロールが行われ、右手の活動が制限されるようになります。

 

脳卒中片麻痺に対する左右大脳半球の相互抑制神経活動!

では脳卒中で片麻痺になった場合は、この左右の大脳半球はどのように活動するのでしょうか?

例えば、あなたが右片麻痺になったとします。

右の手が麻痺していますから、日常生活のほとんどを、左手で行うようになります。

すると左手ばかり使っていますから、右の大脳半球の活動が優位となります。

そうすると右の大脳半球から、左の大脳半球に対して、抑制性のコントロールが行われます。

そして左の大脳半球は、脳卒中によって神経が破壊されている状態です。

しかし、あなたは右手が麻痺していますから、毎日、左手ばかりを使うことになりますから、常に右の大脳半球から、左の大脳半球に対して、抑制性のコントロールが続くことになります。

そうして左の大脳半球の神経の回復が妨げられることになります。

つまり日常生活動作の練習で、健側側の手ばかりを使うと、患側の大脳半球の神経活動が妨げられて、神経の回復が邪魔されてしまうのです。

 

大脳半球の相互抑制の性質を利用したニューロリハビリテーション

脳卒中ニューロリハビリテーションには、様々な手法がありますが、当然、この大脳半球の相互抑制の性質を利用したニューロリハビリの手法も存在します。

CI 療法

CI 療法とは、健側の手を動かせないように抑制して、麻痺側の手で日常生活や、その練習をすることで、麻痺側の大脳半球の神経活動を優位にするニューロリハビリの手法です。

ただし、この手法を用いるためには、麻痺側の手が、すでにある程度は動かせていることが条件となるために、適応範囲が限定されることが欠点となります。

また脳卒中の早期に対するCI 療法の効果は低く、どちらかと言えば慢性期へのアプローチと考えられています。

 

経頭蓋磁気刺激治療( TMS )

これはニューロリハビリの手法ではありませんが、磁気刺激を脳に与えることで、脳の神経活動をコントロールする方法です。

一般的に脳卒中患者さんが、麻痺側の手を動かそうとした場合、麻痺側の大脳半球の神経が活発に活動していますが、同時に健側の大脳半球の活動も高まってしまいます。

実は麻痺側の手を動かそうとしている時に、健側の手も少し動いているのです。

これが結局は、健側の大脳半球から、麻痺側の大脳半球への抑制刺激となって、麻痺側の神経活動を制限してしまうのです。

経頭蓋磁気刺激治療( TMS )は、健側の大脳半球に磁気刺激を行うことで、健側の大脳半球の活動を抑制して、麻痺側の神経活動を高める手法です。

この経頭蓋磁気刺激治療( TMS )は、ニューロリハビリテーションと併用することで、より高い効果が得られると考えられています。

 

 

まとめ

ヒトの大脳は、大きくは右半球と左半球の2つに分けられています。

左右の大脳半球は、お互いに抑制性のコントロールを行なって、神経活動を調節しています。

しかし脳卒中になると、麻痺側の手が動かせないため、健側の手ばかりを使用するようになります。

その結果、健側の大脳半球の神経活動が優位となり、麻痺側の大脳半球の神経活動を抑制します。

それが麻痺側の神経機能の回復を妨げ、麻痺の回復を邪魔するのです。

その左右の大脳半球の相互抑制の性質を利用したニューロリハビリの手法に、「CI 療法」や「経頭蓋磁気刺激治療( TMS )」などが挙げられます。

 

最後までお読み頂きありがとうございます。

 

 

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