はじめに
脳卒中(脳梗塞や脳内出血)によって、手の麻痺が起きた場合、時間の経過とともに、麻痺側の手の強張りがどんどん強くなる場合があります。
本来なら、脳卒中の麻痺は、最初の発作時から悪化することはないはずです。
何故ならば、はじめに脳の血管が障害されて、脳の神経細胞に血液が届かなくなり、その神経細胞が死滅してしまった後は、それ以上の麻痺が進行することは、基本的にはないからです。
しかし私の臨床経験上、多くの患者さんが、脳卒中を発症してから時間がたつほどに、手の強張りがひどくなると訴えています。
もしかしたら、あなたも指の強張りに悩んでおられるかもしれませんね。
実はこの麻痺側の指のこわばりが、時間がたつほどにひどくなる現象は、脳卒中の麻痺の進行や悪化ではありません。
この現象は、脳の運動神経がその手足をコントロールする方法を勉強する仕組みである「運動学習」が障害されて起きる、学習障害による現象なのです。
ですからその学習障害をリハビリテーションによって解消してやれば、この指をドンドン握り込んでしまう現象を抑えることができるのです。
今回は、この脳卒中後に指をドンドン強く握り込んでしまう原因と、そのリハビリテーションの方法について解説したいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
麻痺側の指がドンドンこわばる現象の原因は?
脳卒中による、左右どちらか片側の手足の麻痺は、いわゆる脳卒中の症状というより、その後遺障害と呼ばれるものです。
後遺障害とは、病気が治癒した後に残された、なんらかの体の障害ですから、基本的にはそれ以上麻痺が進行して悪化するということはありません。
しかし脳卒中片麻痺の多くのケースで、時間がたつほどに、麻痺側の手の指の緊張が高まってきて、ドンドンこわばってしまう現象が起こっています。
これはどうしてなのでしょう?
じつはこの時間がたつに連れて、麻痺側の指がこわばる現象は、脳の運動神経の「運動学習」の障害によって起こっています。
もっと分かりやすく言えば、「運動学習」を進めるために重要な「運動制御」の仕組みが混乱することで、運動神経がきちんと指の筋肉をコントロール出来なくなり、指がこわばってしまうのです。
ではその運動制御の仕組みの混乱とは、いったいどんな事が起きているのでしょう?
感覚フィードバックの障害が運動制御を混乱させます
脳卒中による片麻痺では、多くの場合に、麻痺側の手の指は緊張してこわばっています。
そうすると、こわばっている筋肉の線維には十分な血液が流れなくなります。
筋肉の線維に血液が十分に流れなくなると、筋肉の線維の中にある、感覚センサーがキチンと働かなくなってしまいます。
筋肉の感覚センサーが働かなくなると、何かの動作をした時に、どのくらい筋肉が動いたかの、自分の手足の運動に関する情報が、脳にフィードバックされなくなってしまいます。
正常な運動制御では、脳の運動野が「このくらい手を動かして」と運動指令を出しているのに対して、「実際にはこれくらい動きました」との返事が、筋肉の感覚センサーからフィードバックされます。
しかし手の指の筋肉がこわばって感覚センサーが働いていないと、脳の運動野からの運動指令に対して、指の筋肉から結果がどうなったかの返事が来なくなってしまいます。
そうなるとどんな命令を出しても、指先からの返事がこないため、脳の運動野はパニックに陥ってしまいます。
そうしてパニックに陥って混乱した脳の運動野は、メチャクチャな運動指令を出すようになり、指先の筋肉が硬くこわばり始めます。
いったん指の筋肉が硬くこわばり出すと、さらに感覚センサーの調子が悪くなり、感覚フィードバックがなくなりますから、さらに運動野の運動指令が混乱する悪循環に陥っていきます。
これが脳卒中の発症から、時間が経過するにつれ、麻痺側の指がこわばっていく現象の原因です。
運動制御の混乱による指のこわばりを解消するリハビリ方法!
この麻痺側の指のこわばりは、始まりは脳卒中の発症初期の自律神経系の混乱で、指先の血流が混乱することで、指先がむくんだ事が原因で、筋肉がこわばった事で起こりました。
ではどの様にリハビリテーションを行えば、この指先のこわばりを解消して、運動制御の混乱の悪循環から抜け出す事が出来るのでしょうか?
それには以下にご紹介する様な方法があります。
⑴ 麻痺側の手の筋肉をほぐす
手のこわばりの原因は、すなわち手のこわばりから始まっています。
ですから、この手のこわばりがドンドン強くなってしまう、悪循環を断ち切る最善の方法は、マッサージで手の筋肉を揉みほぐしてやります。
脳卒中の麻痺を回復するためには絶対に筋肉のこわばりを取らなくてはならない!
⑵ 麻痺側の手を動かしている運動野に錯覚による感覚フィードバックを行う
脳の運動野が手を動かす指令を、麻痺した手に出した場合、麻痺している手が動かずに、感覚フィードバックが行われないため、運動野の神経が混乱して、指の緊張が悪化します。
それに対して、視覚によるフィードバックを利用して、実際には動いていない手が、あたかも動いている様に錯覚させるリハビリテーションの方法があります。
それが「ミラーセラピー」と呼ばれる方法です。
⑶ EMSなどの電気刺激を用いて感覚刺激を行う
自力では動かせない、麻痺側の指に対して、中周波などの電気刺激(EMS)を与える事で、動かない指を動かし、脳に感覚フィードバックを行います。
脳卒中ニューロリハビリ ファシリテーションとしてEMSを活用する!
まとめ
脳卒中片麻痺の麻痺側の指が、時間の経過とともに、ドンドンこわばってしまう現象は、麻痺の進行ではありません。
麻痺側の指の筋肉がこわばってしまい、筋肉の線維内の感覚センサーが働かなくなる事で、感覚フィードバックが行われない事で、運動制御や運動学習ができなくなる事で、運動野の運動制御が混乱します。
その結果、運動野から過剰な運動指令が出され、手の筋肉がこわばり続けるという悪循環に陥ります。
それに対するリハビリテーションには、⑴ 手の筋肉をほぐすためのマッサージ ⑵ ミラーセラピーでの視覚による感覚フィードバック ⑶ EMSなどの電気刺激による運動 などの方法があります。
最後までお読みいただきありがとうございます。
注意事項!
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