はじめに
脳性麻痺のニューロリハビリテーションで、一番重要な要素は、運動学習です。
運動学習を効果的に行うことで、脳の神経細胞の発達や再生を促して行くのが、ニューロリハビリテーションの基本的な原理なのです。
今回は、脳性麻痺のニューロリハビリテーションの基礎となる「運動学習」について、その運動学習を進めるための元になる「運動制御」とともに、解説してみたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
「運動学習」とは!
運動学習とは、脳の神経細胞が手足などの動作の制御をする、その制御方法を練習し、より正確で安定した運動制御の方法を学習することを言います。
つまりは運動学習とは、脳の運動神経が、自分の手足の運動を制御する方法を学習することなのです。
ですから運動学習は、運動制御を繰り返し行うことで、行われます。
運動制御を繰り返すことで、より正確で安定した動作の制御ができるようになるのです。
ではこの「運動制御」とは、どのような仕組みで行われているのでしょうか?
脳の「運動制御」の仕組みは!
私たちの手足は、脳の運動神経細胞からの命令によって、動かされています。
そして脳が命令して、手足を動かすことを「運動制御」と呼びます。
この「運動制御」は、以下のような手順で行われています。
運動制御の手順
⑴ 脳の運動野から手足を動かす命令が出される
⑵ 脳からの命令に従って手足の運動が行われる
⑶ 実際に行われた手足の運動がどうだったかの感覚情報が脳に戻される(感覚フィードバック)
⑷ 脳から出された命令と、実際の運動(感覚フィードバック)の誤差が照合される
⑸ 脳から照合された誤差を修正するための命令が出される
脳の運動制御とは、この ⑴ から ⑸ までの手順を、非常に短い周期で繰り返しながら、動作を調整して行きます。
このような運動制御の方法を「最適化フィードバック制御」と呼びます。
そして「運動学習」は運動制御を繰り返すことで行われます。
「運動学習」によって脳の神経細胞はどう変わるのか?
運動制御を繰り返す(繰り返して動作を練習する)ことで、運動学習が進んでくると、脳の神経細胞には、以下の2つの要素の変化があらわれます。
⑴ 脳の運動神経単位が増える
私たちの手足の運動は、ひとつの運動神経細胞で行われているわけではありません。
何かひとつの動作、たとえば人差し指を曲げる、などの動作も、いくつかの運動神経が協力して制御しています。
このいくつかの運動神経細胞が、協力して運動制御を行う、その神経細胞の集まりを「運動神経単位」と呼びます。
そしてこの「運動神経単位」が増えれば増えるほど、その動作を上手に安定して行えるようになるのです。
これがつまりは動作が上達するということにつながります。
小児ニューロリハビリテーションでは、お子さんの未成熟な脳の神経細胞に働きかけて、その神経細胞の成熟を促すことで、「運動神経単位」に参加させるようにしていきます。
そうすることで運動発達を促すことができるのです。
⑵ 神経細胞のシナプス結合を強化する
脳の「運動神経単位」を増やすことができたら、次はその神経細胞のシナプス結合を強化します。
これも「運動学習」によって行われます。
お子さんが、なにかの動作を上達させるとき、「運動神経単位」を増やすだけでなく、その単位内の神経細胞同士のシナプス結合を強化する必要があります。
たとえばお子さんが、なにかの動作が出来るようになっても、はじめのうちは動作がゆっくりにしか出来ないとか、出来たり出来なかったりします。
しかし繰り返し練習することで、目的となる動作を、素早くスムースに安定して行えるようになるのです。
脳性麻痺の「運動学習」を阻害するものとは?
とはいっても脳性麻痺のお子さんが、新しい動作ができるようになることは、そんなに簡単ではありません。
健康なお子さんであれば、見よう見まねで簡単にできるようになることが、なかなか出来ないのです。
これには以下のような原因が考えられます。
⑴ 運動制御の感覚フィードバックができていない
運動制御によって動作の誤差を修正するためには、手足からの「感覚フィードバック」が必要になります。
この感覚フィードバックは、主に手足の筋肉の線維の中にある感覚センサーからの、その筋肉がどの程度収縮して動いたかの感覚情報になります。
しかし脳性麻痺のお子さんは、生まれつき手足や背骨の周囲の筋肉が、硬くこわばってしまっています。
じつはコレは、脳性麻痺による神経症状ではなく、生後すぐに、身体機能の未成熟(肺や気管支や心臓の未成熟)によって、生きるか死ぬかのストレスを受けたことで、筋肉が凝ってしまったのです。
しかし多くの親御さんは、我が子の手足のこわばりを、神経症状で治らないと諦めてしまっています。
でもあなたのお子さんの手足のこわばりは、柔らかくなるんですよ!
話を元に戻しましょう。
脳性麻痺のお子さんは、手足の筋肉が硬くこわばってしまっています。
ですから手足の筋肉の線維の中の、感覚センサーも硬くこわばってしまっており、正常に働かなくなっているのです。
ですからお子さんが手足を動かしても、感覚フィードバックは起こりません。
そうなると「運動学習」ができないため、運動神経単位も増えなければ、シナプス結合の強化も起こらないのです。
まずは手足の筋肉のこわばりを取ることが必要になります。
⑵ 「身体図式」が育っていない
身体図式とはなんぞやについては、別の記事に紹介してありますので、そちらを参照してください。
脳性麻痺のニューロリハビリ 身体図式に対する理解を深める!
脳性麻痺のニューロリハビリ ウチの子はどうして手に触ろうとすると慌てて引っ込めるのか?
さて健康なお子さんであれば、生後数ヶ月の間に、遊びながら手足を動かすことで、自然と「身体図式」を育てることができます。
しかし脳性麻痺のお子さんは、周産期のトラブルで、脳の神経細胞が未成熟で生まれてきています。
さらには前述したように、手足の筋肉がこわばっていて、感覚フィードバックによる「運動学習」もできません。
ですから普通の子供のように、ほったらかしにしておいては、「身体図式」を育てることができません。
脳性麻痺のお子さんの「身体図式」を育てるためには、脳科学の知識に基づいた、専門的なアプローチが必要になります。
それが小児ニューロリハビリテーションなのです。
まとめ
脳性麻痺のお子さんの運動発達を促すためには、小児ニューロリハビリテーションによる、専門的なアプローチが必要になります。
ニューロリハビリテーションによる運動発達は、運動制御理論に基づく「運動学習」によってなされます。
しかし脳性麻痺のお子さんは、手足の筋肉のこわばりによる感覚センサーの障害があり、正常な感覚フィードバックが得られないため、運動学習による神経機能の発達が期待できません。
また身体図式も育っていないため、運動学習の効果が得られない、大きな原因となっています。
脳性麻痺のお子さんの運動発達を、効果的に促すためには、ニューロリハビリテーションによる「運動学習」の促進と「身体図式」の育成が不可欠になります。
最後までお読みいただきありがとうございます。
注意事項!
このサイトでご紹介している運動は、あなたのお子さんの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。