小児リハビリ

脳性麻痺のニューロリハビリ 手がちじこまって動かなくなるのを予防する3つの方法

 

はじめに

脳性麻痺の小児リハビリをやっていると、小さな頃は手や足がある程度は動いていたけれど、ダンダンと固くなって、最近ではこわばったまま動かなくなっていまいました。

なんていうケースに行き合うことが、たくさんあります。

どうしてこんなことが起きるのでしょう?

脳性麻痺は生まれてくるときの問題で、脳の神経に問題が起きています。

ですから後になってから、神経の障害が進行するのは、理屈に合いません。

どうやらこれも、運動発達や運動学習の障害と関連がありそうですね。

今回は、運動発達・運動学習の観点からとらえた、脳性麻痺のお子さんの、ダンダンと手がこわばって動かなくなる現象を、ニューロリハビリテーション で予防しながら、手の機能を発達させていく方法について。

なるべく分かり易く解説したいと思います。

どうぞよろしくお願いします。

 

赤ちゃんは生まれてから数ヶ月の間は適当に手足をバタバタ動かしています!

健康な赤ちゃんの場合、生まれてからの数ヶ月間の間に、手足をバタバタと動かしています。

手足を盛んに動かして、両手を目の前で突っつき合わせてみたり、その手をしゃぶったり、両足を顔の上までグーンとあげて来て、それを手でつかんでみたりします。

時には自分の足をしゃぶっている事もあります。

これは一体何のためにこんな事をしているのでしょう?

それはこうする事で、自分の手足の具合を確かめているのです。

大人の私たちは、自分たちに手足があって、それは左右に1本づつ生えていて、それを自分の意志で動かすことができると知っています。

でも赤ちゃんは、そんなことは初めのうちは分かりません。

 

赤ちゃんが自分の手足を認識するとき

おそらく生まれたての赤ちゃんが手足を認識するのは、こんな感じではないでしょうか?

赤ちゃんが物心ついて、まだぼんやりとしか見えていない目で、目の前の天井を見ていて、なんかモジモジしてら、急に肌色の棒が目の前に飛び込んできて、顔にコツンと当たりました。

びっくりして力むと、それは横に消えて行きます。

あれっと思って、またモジモジすると、その肌色の棒見たいなヤツは、また横から飛び出してきて、顔にコツンと当たります。

そしてびっくりしていると、また消えて行きます。

面白いなと思って、何回も続けているうちに、その肌色の棒を上手に動かせるようになってきます。

すると今度は、反対側にも同じような肌色の棒があって、これも動かせることが分かります。

それを目の前で、コツンコツンとぶつけて遊んだりして見ます。

楽しいなと喜んで、笑おうとお腹に力を入れたら、今度は下の方からも、二本の肌色の棒が飛び出してきました。

たくさんある~♪

いえーい♫

てな感じで、だんだんと手足の存在と、それが自分の体から生えている事を認識していきます。

そうして手足の形や、指の動かし方、使い方を自然と自己学習で学んでいきます。

 

赤ちゃんの『身体図式』

こうして出来てきた自分の身体に対する認識を『身体図式』と呼びます。

この生まれてから数ヶ月の間に、自己学習で自然と作られる『身体図式』が、その後の運動発達にとって、とても大切なものになります。

 

 

運動発達のための運動学習には『身体図式』が不可欠です!

ここで脳性麻痺のお子さんの場合を考えてみましょう。

脳性麻痺のお子さんの場合にも、生まれてから数ヶ月の間、手足をパタパタ動かす様子がみられています。

しかしその後の運動発達は、不十分なものになってしまいます。

それはたとえば、「鼻のチューブは引っこ抜いてしまうけれども、自分からガラガラなどのオモチャには手を出さない」などの行動になります。

この「鼻のチューブを引っこ抜く」というのは、いわば反射的な動作です。

私たちが、顔の前にハエが飛んできた時に、とっさに手でよけるのと同じ動作です。

そこに高度な大脳皮質の運動野による、運動制御は存在しません。

この不十分な運動発達の原因のひとつに『身体図式』の未発達が挙げられます。

運動発達には、1次運動野による単純な手足の運動制御と、高次運動野による目的に応じた複雑な運動制御があります。

単に指をグーパー曲げ伸ばしするのは、一次運動野による意識的な手足の運動ですが、たとえば目の前のリンゴをみて、それをつかむために指の形を調整しながら手を伸ばすのは、高次運動野による制御がかかわってきます。

手を伸ばす対象が、取っ手の付いたカップであれば、さらに指の運動は複雑になりますね。

ニューロリハビリでは、これらの運動野による運動制御が上手にできるように、神経細胞に対して運動学習を進めていきます。

この運動学習を進める上で、一番重要なのが『身体図式』なのです。

つまり「自分には体の上下左右に手足が生えていて、それはこんな風に自分の意志で動かすことができる」という事をキチンと理解していないとならないのです。

でないと運動を制御しようにも、そもそも手足の理解が不足しているので、手足を動かすための運動司令の元が、運動野に対して出されないのです。

生えている事を分かっていない手足を、そのまま動かせるようになる訳がありませんよね。

 

 

脳性麻痺では自己学習による『身体図式』の作成に失敗しています!

どうして脳性麻痺のお子さんは『身体図式』の育成が上手くいかないのでしょう?

それには様々な原因が考えられます。

じつは『身体図式』は、脳の大脳皮質の様々な部位が連携して作り出されています。

たとえば目で見て手足の動きや形を認識する「視覚野」が関係しています。

あるいは手足を動かした結果の感覚情報を受け取る「体性感覚野」も関係しています。

または手足に運動の指令を出す「運動野」も関係しています。

そして『身体図式』を作り出すための、専用の領域もあるようなのです。

これらの神経領域が連携して、『身体図式』を生み出しています。

『身体図式』を発達させるには、これらの領域がすべて上手に連携する必要があるのです。

脳性麻痺のお子さんの場合、生まれてから数ヶ月間の自主学習では『身体図式』を十分に育てられないのが大きな問題となります。

つまり脳性麻痺のお子さんは、脳の神経細胞が未成熟のままで生まれてきていますので、自主学習だけでは、十分な神経細胞に対する刺激になっていないのですね。

関連する多くの神経領域の、どこかひとつでも足を引っ張っていると、『身体図式』の生成は上手くいかなくなります。

ですから脳性麻痺のお子さんに対しては、この『身体図式』を生成できるように、周囲からの学習に対するサポートが必要になるのです。

 

 

どうして手がドンドンちじこまってしまうのか!

ではここで話を、「どうしてお子さんの手がちじこまって動かなくなるのか」に戻しましょう。

このお子さんの手がドンドンちじこまって、最後にはニャンコ手みたいに、体の前で固まってしまうケースですが、これは「手の指先の身体図式」が大きく関わっています。

手がちじこまってしまうお子さんの場合、私たちが指先に触ろうとすると、慌てて手を引っ込めます。

これはどういうことかと言うと、「お子さんは自分の指をキチンと認識していない」のが原因なのです。

つまり自分の手は、5本の指が生えていて、一番手前が親指で、次が人差し指で、親指と人差し指で、小さな物をつまめるよ!

みたいな認識がないのです。

 

つまり手の『身体図式』が未成熟なのです

おそらくは、お子さんは自分の指先を、まるでイソギンチャクの触手みたいに、たくさんのヒラヒラしたものが生えている、くらいの認識しか持っていないのです。

イソギンチャクの触手であれば、ヒトから触られたら、慌てて引っ込めるのは当たり前です。

これは生物の根源的な、自分の身を守るための、「逃避反射」が出ています。

手の動作で、この「逃避反射」に対抗して手を動かすのは、「把握反射」ですが、残念ながらお子さんは手で把握できると思ってないのです。

イソギンチャクの触手は、人と握手はできません。

そして「逃避反射」が繰り返し行われていくことで、ドンドン手がこわばって、ちじこまってしまうのです。

 

『身体図式』を育てるしかありません

この現象の対策としては、手と指先の『身体図式』を育てるしかありません。

 

 

手の『身体図式』を育てるためのニューロリハビリアプローチ3選

ではお子さんの手と指先の『身体図式』はどうしたら育つのでしょう?

それには以下のような3つの方法が有効です。

 

⑴ とにかく指先に触り続ける

指先の身体図式が育っていないお子さんは、指先に触られるのを、とにかく嫌います。

指先は、感覚神経が集中していますから、猫が子供にいたずらされて、ヒゲを引っ張り回されたみたいな反応になります。

でもここは何事も「人生の経験」です。

心を鬼にして、嫌がっても、とにかく指先を触りましょう。

最初は「ウエーッなぶられたあ」なんて表情をしていますが、毎日触り続けることで、そのうち平気になっていきます。

大切なことは、触る側はニコニコしながら、優しく触ることです。

相手に恐怖感を与えないように、細心の注意を払ってください。

お子さんに、これは私をいじめているのではなくて、遊んでくれているんだと認識してもらうことが、とても重要です。

たとえて言えば、お母さんがふざけて子供をくすぐる遊び、みたいな感じでお願いします。

遊びでくすぐっていても、やりすぎると子供は泣いてしまいますから、注意が必要です。

まあ初めからやり過ぎないように気をつけてね!

 

⑵ 指先の筋肉を揉みほぐします

お子さんが、指先に触られることに慣れてきたら、次は指先の筋肉を揉みほぐしていきます。

これは指の節と節の間の筋肉を、親指と人差し指で挟んで、優しくモミモミします。

あと親指の付け根の膨らみも、モミモミします。

こうすることで、指の筋肉の感覚センサーが働くようになります。

今回は詳しい説明をしませんが、この指の筋肉の感覚センサーが上手く働かないと、指の身体図式が育ちません。

おヒマな時で構いませんから、毎日少しずつモミモミしてあげてください。

そのうちに、指の筋肉のこわばりがほぐれてきて、柔らかくなっていくのが分かるようになりますよ。

根気よく、よろしくお願いします。

 

⑶ 親御さんの指を目で見て自分の指と比べてみます

最後は視覚情報と体性感覚情報の連携です。

方法としては、親御さんの手を、お子さんの目の前で、いろいろ動かしながら、同じようにお子さんの指に触っていきます。

たとえばお子さんの目の前に、お母さんの親指を立てて見せ、それをコチョコチョ動かして見せます。

その後ですぐにお子さんの親指を触って、同じようにコチョコチョ動かします。

これをさらに、人差し指から小指まで、順番にやっていきます。

そうすることで、お子さんにお母さんの手と、自分の手は同じなんだと、強く印象付けることができます。

そうすることで、お母さんの手の動きに注目して、それを真似するようになれば大成功です。

そうしてお母さんの手と、自分の手が同じだと印象付けてから、お子さんと握手をしてあげます。

そうするとお互いの手の同一性を強く認識するようになるのです。

 

 

まとめ

脳性麻痺のお子さんの手がダンダンとちじこまって固まってしまうのは、手と指先の「身体図式』が未発達だからです。

そのためにお子さんは、自分の指をイソギンチャクの触手みたいに捉えてしまい、逃避反射が優位になります。

そしてドンドンちじこまる反射運動が亢進して、ニャンコの手みたいに丸まってしまいます。

それを予防するためには、手と指先の『身体図式』を生成するためのニューロリハビリアプローチを行います。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたのお子さんの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上、自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

 

 

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