はじめに
脳性麻痺などの運動麻痺の赤ちゃんの手足の筋肉は、一般的にはカチカチにこわばっています。
でもその赤ちゃんの手足の筋肉のこわばりが、脳の神経の障害による症状ではないとしたら。
そしてその筋肉のこわばりが、わりと簡単にほぐすことが出来るとしたら。
あなたはどう思いますか?
うちの子は生まれた時から、手足の筋肉はカチカチだった、これは生まれつきの障害だから、治るはずがない。
ずっとそう思って来られましたよね。
でもそうではないのです。
一部の場合を除いて、脳性麻痺などの赤ちゃんの手足の筋肉のこわばりは、生まれてから後で起こっています。
でもあなたが我が子を始めて抱いたのは、生まれてから結構たってから、赤ちゃんが保育器から出されてからですよね。
実はその保育器に入っている間に、手足の筋肉がカチカチにこわばってしまったのです。
だからと言って、保育器の性能が悪いとか、その保育器は実は壊れていたのです、なんて話ではありません。
あなたのあかちゃんの、その手足の筋肉のこわばりを治すことが出来るとしたら。
そしてその筋肉のこわばりを治さない限り、運動発達が怒らずに、麻痺が治らないとしたら。
大変なことですよね。
逆に手足の筋肉のこわばりを落としてやれば、運動発達が起きるということでもあります。
今回は脳性麻痺などの赤ちゃんの、手足の筋肉はどうしてカチカチなのか?
そしてそれをどうすれば柔らかくほぐすことが出来るのか?
さらには手足の筋肉をほぐすと、どうして運動発達が起きるのかについて解説ていきます。
出来るだけ、やさしく、分かり易く解説していきますね。
どうぞよろしくお願いします。
赤ちゃんが生まれてから手足の筋肉がこわばる仕組み!
脳性麻痺などの障害を持って生まれてくる場合、赤ちゃんはこの世に生まれ出た瞬間から、生き延びるための戦いをしなけれなばなりません。
どうしてかと言うと、赤ちゃんは、ただ脳の運動神経がうまく働かないだけでなく、肺や気管支などの呼吸器系や、胃や腸などの消化器系などが十分に成長しないまま生まれてきています。
たとえば肺や気管支などの成長が不十分であった場合、気管支は細く、肺は硬いままで、赤ちゃんが息を吸ったり吐いたりするのに、とても力が入ります。
生まれてすぐに、赤ちゃんは息をするだけで、とても辛い経験をするのです。
その結果として、全身の筋肉が緊張でこわばってしまうのです。
また胃や腸が未熟な場合も同じです。
ずっとお腹が張っていたり、痛かったりしたら、やっぱり体はこわばりますよね。
生まれてから、ずっとそんな状態が続くことで、ずっと手足の筋肉が緊張してしまったために、保育器から出てくる頃には、赤ちゃんの手足は、カチカチにこわばっています。
そしてその時に初めて我が子を抱いたあなたは、「うちの子は随分とカチカチなんだな、病気だから仕方がないのかな」と思い込んでしまうのです。
いったんこわばると筋肉がなかなかほぐれないのは何故か?
ようやっと保育器から出てきた赤ちゃんの手足の筋肉は、カチカチにこわばっています。
しかしながら時間が経って、少し体も成長して、落ち着いてくれば筋肉の緊張もほぐれそうなものなのに、赤ちゃんの手足の筋肉は、ずっと緊張したままです。
それどころかかえって悪くなっている気がしますね。
それはどうしてかと言うと、ここからが運動神経系の問題が起こってくるからなのです。
私たちが自分の意思で手足を動かそうとする時には、脳の運動神経が手足の筋肉に対して、命令を出します。
しかしそれだけでなく、運動神経の命令に従って、手足の筋肉が動いた場合、「どの位動いたか」の情報が、手足の筋肉から脳に送られます。
この手足の筋肉がどのくらい動いたかの情報は、感覚神経を伝わって、脳に戻っていきますから、これを「感覚フィードバック」と呼びます。
脳では、運動神経から出した手足の筋肉を動かすための命令と、その結果戻ってくる感覚フィードバックを照らし合わせて照合します。
そうすることで、運動神経からの命令の正確性を高めているのです。
これを「運動制御」と呼びます。
「運動制御」のシステムが混乱すると筋肉がこわばります
脳の「運動制御」の仕組みは、手足を自分の意思通りに動かすために、欠かせない仕組みです。
しかし脳性麻痺などの赤ちゃんの場合、生まれてすぐに手足の筋肉がこわばってしまっています。
筋肉がこわばっていると、筋肉の線維の中にある、筋肉の「感覚センサー」が働かなくなっています。
そうするとどうなるかと言うと、「感覚フィードバック」が起こらなくなってしまうのです。
そして感覚フィードバックが起こらないと、脳の運動神経が混乱して、筋肉をこわばらせてしまいます。
手足を切断された患者さんの「幻肢痛」と同じです
あなたは「幻肢痛」と言う言葉を聞いたことがあるでしょうか?
これは事故などで手足を切断された方が、よく訴える症状です。
手足を切断された患者さんは、切断されて無いはずの手や足がこわばって痛いと訴えルことがあります。
これを「幻肢痛」と呼んでいるのですが、手足の筋肉がこわばってしまって、その筋肉の感覚センサーが働かなくなると、同じことが起こります。
つまり脳の運動神経が、手足の筋肉を動かすための命令を出しても、その結果の感覚情報がフィードバックされないと、脳の神経は混乱して、さらに筋肉をこわばらせてしまうのです。
場合によっては痛みを感じるようになる場合もあります。
そして筋肉がこわばることで、さらに感覚センサーが働かなくなり、またさらに筋肉がこわばると言う悪循環におちいってしまうのです。
これが赤ちゃんの手足の筋肉が、いったんこわばってしまうと、なかなかほぐれない原因です。
手足の筋肉がこわばってると赤ちゃんの運動発達が起こらず麻痺が良くなりません
手足の筋肉がこわばると運動発達が起こらないワケ その1
健康な赤ちゃんの場合、初めは手足の動きもぎこちなくて、ようやっと動かしていたものが、少しずつ上達して、成長するにつれ上手に動かせるようになります。
これは脳の運動神経が、手足を動かす方法を学習して行くからです。
これを「運動学習」と言います。
この「運動学習」が進むことで、運動発達がなされるのです。
では「運動学習」はどうすれば進むのかと言うと、これは脳の運動神経による「運動制御」を繰り返し行うことで、「運動学習」が進むのです。
そうですね、その「運動制御」はどうして行われるかといえば、運動神経による手足の筋肉への命令と、感覚フィードバックを照らし合わせて照合することで行われます。
そしてあなたのお子さんの手足の筋肉は、硬くこわばっているので、感覚フィードバックが起こらないのです。
ですから「運動制御」が上手くいきません。
「運動制御」ができなければ、「運動学習」が進みません。
「運動学習」が進まなければ、『運動発達』も起こらないと言うわけです。
手足の筋肉がこわばると運動発達が起こらないワケ その2
赤ちゃんの手足の筋肉がこわばっていると、間隔フィードバックが行われないだけではありません。
筋肉がこわばっていると、運動自体がしにくくなってしまいます。
たとえば脳性麻痺の赤ちゃんの多くは、「いかり肩」になっています。
これは生まれつきの体型が「いかり肩」と言うわけではありません。
これは肩を動かすための筋肉(肩甲挙筋)が、硬くこわばっているからです。
もし赤ちゃんが、ずっと肩をいからせていたらどうでしょう。
試しにあなたも肩をいからせた状態で、手を動かして見てください。
腕は目の高さぐらいまでしか上がりません。
また肩全体の動きも、ぎこちなくなってしまいますね。
このように、筋肉がこわばっていると、関節本来の動きができません。
大人であれば「おや肩の動きが硬くなってる」と気がつきますが、生まれたばかりの赤ちゃんでは、そうはいきません。
「僕の肩はこのくらいしか動かないんだ」と思ってしまうのです。
つまり赤ちゃんは、自分の身体は、生まれつき固くてぎこちなくて、動かないものだと思い込んでしまいます。
するとそれ以上は運動機能が発達しなくなりますね。
脳が「出来ない」と思い込んでいたら、身体が「出来る」ようには絶対になりません。
筋肉のこわばりをほぐす方法
ですから赤ちゃんの『運動発達』のためには、何がなんでも手足の筋肉をほぐしておかなければなりません。
筋肉をほぐす方法としては、「マイオセラピー」と言う方法が効果的です。
これはそんなに難しいものではありません。
単なるマッサージの一種です。
この「マイオセラピー」と呼ばれるマッサージ方法のポイントは、筋肉の線維の中の、筋硬結と呼ばれる硬いシコリを押しつぶすようにもみほぐすのです。
方法としては、固くこわばっている筋肉を、表面から徐々に奥の方に、指を押し入れるようにしながら、揉みほぐしていきます。
すると筋肉の線維の奥の方に、硬い骨のようなしこりが触ります。
これを時間をかけて、じっくりと揉みほぐして行くと、やがて柔らかくなります。
これを硬くなっている、手足の筋肉に対して、順番にゆっくりほぐしていくのです。
もうそれだけです。
まとめ
脳性麻痺などの赤ちゃんの手足の筋肉のこわばりの多くは、脳の神経細胞の麻痺や障害によるものではありません。
赤ちゃんの手足の筋肉がこわばっていると、筋肉からの感覚フィードバックが起こらないため、運動制御が混乱し、さらに手足の筋肉がこわばってしまいます。
また間隔フィードバックが起こらず、運動制御が障害されることで、運動学習が進まないために、運動発達が阻害されてしまいます。
ですから小児ニューロリハビリでは、この手足の筋肉のこわばりを解消することが、一番重要な課題になります。
そして適切なリハビリテーションアプローチを行うことで、この筋肉のこわばりを解消することが出来ます。
最後までお読みいただきありがとうございます。
注意事項!
このサイトでご紹介している運動は、あなたのお子さんの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上、自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。