はじめに
今回は、脳性麻痺のニューロリハビリの中で、トランジションの場合にニューロリハビリは効果があるのかについて、少しお話をしたいと思います。
脳性麻痺のお子さんの場合、その治療は小児科で始まります。
しかしお子さんが成長して、大人になってくると、投与される薬の量や、普段の健康維持のために注意すべき病気が、大人のものになってきます。
そこで診療科を、これまでの小児科から、一般の内科や神経内科に変わるのです。
これを海外旅行するときの、ハブ空港での飛行機の乗り継ぎ(トランジット)にかけて、「トランジション」と呼んでいます。
リハビリテーション の分野でも、それまで小児専門の施設でリハビリを受けていたものを、一般のリハビリサービスで引き継ぎをする場合があります。
この小児のトランジションの様に、ある程度の年齢に到達したお子さんでも、ニューロリハビリテーション による、神経回復の可能性はあるのでしょうか?
今回は「トランジション」へのニューロリハビリテーション の効果と、その問題点について解説したいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
トランジションの脳性麻痺へのニューロリハビリテーション の効果
本来の小児ニューロリハビリテーションの強みは、脳性麻痺などの運動神経の障害に、これまでの小児リハビリテーションと比較して、かなり効果が高いと言うことです。
これまでの小児リハビリテーションでは、主にその効果が期待できたのは「発達障害」のお子さんに対するリハビリ アプローチでした。
発達障害児であれば、運動麻痺も少ないですし、少しぐらい動作に問題があっても、ある程度のことができますから、それを修正していくのは、やり易いのです。
しかし脳性麻痺の場合は、基本的には手足がほとんど動かせない場合が多く、ほとんどは座る姿勢もとれません。
自分の手で物を持つことも出来ない、そんなお子さんがたくさんおられます。
ですからこれまでの脳性麻痺のお子さんに対する、小児リハビリテーションは、主に健康なお子さんがたどるべき運動発達の経路を、無理やり後から追いかける様なやり方でした。
それは言葉は悪いですが、まるで暗闇の中を手探りで這い回る様なものでした。
しかし21世紀に入り、脳科学の進歩とともに、脳神経の仕組みも、これまで以上に解明されてきており、それによって私たちセラピストが出来ることも、大きく変わりつつあります。
ですから小児ニューロリハビリテーション の神経アプローチによって、脳性麻痺のお子さんを、発達障害のレベルにまで、回復させることが可能になってきています。
脳性麻痺のお子さんが、発達障害にまで回復してしまえば、発達障害に対するリハビリのコンテンツは揃っていますので、とにかく脳性麻痺を発達障害のレベルにまで、回復させることが、小児ニューロリハビリテーション の課題となっています。
そしてそれは成功しつつあるのです。
ではすでに成長期を過ぎて大人になっている、トランジションのお子さんはどうでしょうか?
たしかにトランジションのお子さんの場合、すでに成長ホルモンの分泌もおさまってきていますし、0歳や1歳ぐらいからニューロリハビリを始めた場合に比べると、効果も限定的ではあります。
でもそれでもそれなりに効果が認められ、動かなかった手が、ある程度動かせて、物を持つぐらいは出来る様になります。
トランジションのお子さんでも、小児ニューロリハビリテーション の効果は享受できるのです。
しかしトランジションのお子さんに対する、小児ニューロリハビリテーション には、別の問題が起こってくるのです。
お母さんが子供の回復に耐えられない現象について!
親御さんの望みは、どんな時でも「我が子が良くなること」です。
それはどんな時でも決して変わることはありません。
しかしトランジションのお子さんに、ニューロリハビリテーション のアプローチを続けていって、お子さんが回復してくると、たいていの場合に、お母さんからギブアップが出てしまうのです。
はじめは我が子の変化や回復に、目を細めて喜んでいたお母さんですが、たいてい後になって「続けることができません」となります。
これはどうしてでしょう?
実はニューロリハビリテーション を施行すると、お子さんの脳神経の活動性が高まります。
するとそれまではボーッとしていて、あまり反応しなかったお子さんが、けっこう自己主張する様になります。
はじめのうちは、お母さんも喜んで、相手をしているのですが、これが長期間になると、けっこうしんどいみたいなのです。
たとえば昼間だけでなく、夜中に呼ばれたりすることも、増えてしまう様なのです。
これが身体がしんどくて続かない原因になります。
問題はお母さんのホルモンバランスです!
でも0歳児のニューロリハビリテーション でも、同じ様にお子さんの活動性は高まりますよね。
夜中に騒ぐことも、一時的には多くなっていきます。
でも0歳児から5歳児くらいまでのお母さんは、これに耐えることができるのです。
そりゃあ若いから体力もあります。
それにひきかえトランジションのお母さんは、50歳前後ですよね。
でも原因は若さだけではないのです。
問題はお母さんの子離れ時期のホルモンバランス!
乳幼児や幼い子どもを持ったお母さんは、出産したときから、ホルモンバランスが変わると言われています。
その結果として、夜中に授乳で起こされても、昼間に少し仮眠すればリカバリーできるのです。
この母親の身体を、子育てに適応させるホルモンバランスの調整が、うまくいかない場合、子育てができずに放棄してしまうお母さんが出てきます。
ですから小さい子どもを持つ、お母さんは、自然と夜中に起こされても、なんとか頑張れる身体の状態に調節されているのです。
それがまだまだ続いている状態なので、0歳児のお母さんは、ニューロリハビリテーション で子供が暴れる様になっても平気なのです。
しかしトランジションのお母さんは、すでにホルモンバランスが、元に戻ってしまっています。
それどころか、脳の神経の働きが、子離れのために、子どもを甘やかさずに、突き放す方向に働いている可能性さえもあるのです。
ですからこの時期に、お子さんの介護の比重が増えてしまう、小児ニューロリハビリテーション には、トランジションのお母さんは耐えられないことが多いのです。
かと言ってニューロリハビリテーション をすれば、必ず脳神経の活動性は高まってしまいます。
そうするとお子さんの自己主張も増えますから、お母さんへの依存量も増えてしまうのです。
これにお母さんが耐えられないのが現状です。
今後のアプローチの考え方
もしトランジションのお子さんへの小児ニューロリハビリテーション を普及するならば、このお母さんのホルモンバランスや、脳神経の特性を考えた上で、お母さんのモラトリアムの問題をどうするのか、真剣に考えなければなりません。
親御さんの休養のためのレスパイト入院を増やすなど、対策を考えていかなければなりませんね。
最後までお読みいただきありがとうございます。
注意事項!
このサイトでご紹介している運動は、あなたのお子さんの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上、自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。