脳卒中リハビリ

脳卒中ニューロリハビリ簡単解説⑸ 運動制御による麻痺の回復

 

前回記事

脳卒中ニューロリハビリ簡単解説⑷ 筋肉のコンディショニング

 

はじめに

脳卒中ニューロリハビリテーションの基本コンセプトは、いかに効果的に『運動学習』による神経細胞の再生とシナプスの強化を行うか、ということにあります。

それには運動神経が手足の筋肉に対して、運動司令を繰り返し出すことで、その運動司令に関与する神経細胞を増やしていきます。

さらにその運動司令に関与する運動神経どうしの、つながりであるシナプスを強化します。

これらの運動神経によって、手足の筋肉に対する運動司令を出して、手足を動かすことを「運動制御」と呼びます。

今回は、この「運動制御」による、麻痺の回復について解説して行きます。

どうぞよろしくお願いします。

 

「運動制御」を繰り返すことでどうやって麻痺が治るのか?

脳卒中ニューロリハビリテーションは、脳卒中の麻痺を治すために、『運動学習』による神経細胞の再生とシナプスの強化を行います。

そしてその『運動学習』の基本となるのが、脳の運動神経による手足の筋肉に対する「運動制御」を繰り返し、その運動制御の精度を高めて行くことになります。

では「運動制御」を繰り返すことで、どうして脳卒中の麻痺が治る可能性があるのでしょう?

「運動制御」とは、脳の運動野にある神経細胞が興奮することで、その電気的な信号が、「皮質運動野」と呼ばれる、神経の通路を通って、背骨の中を下っていき、最後には末梢神経から手足の筋肉に、その信号が届けられ、手足の筋肉を動かします。

この時に手足の筋肉が、脳の運動神経が想定した通りに動けば、その「運動制御」はうまく行ったことになります。

しかし手足の動きが、脳が想定した通りに動かない場合は、その「運動制御」は失敗ですね。

この「運動制御」が失敗した状態を、一般的な言葉で表現すると『下手くそ』ということになります。

そしてこの「運動制御」が、とてつもなく『下手くそ』な状態が、脳卒中片麻痺であると言えます。

ですからこの、とてつもなく『下手くそ』の状態からの脱出を目指すことが、脳卒中ニューロリハビリテーションであると言えますね。

 

どうして「運動制御」が『下手くそ』になるのか?

ではどうして「運動制御」が下手くそな状態が起こるのでしょう?

実は手足の筋肉を動かすための「運動司令」は、たったひとつの運動神経で行われるわけではありません。

たとえば肘を曲げるという運動司令は、いくつかの運動神経が協力して出しているのです。

このひとつの動作の運動司令を、協力して出す運動神経のグループを「運動神経単位」と呼びます。

そしてこの「運動神経単位」の神経の数が、多ければ多いほど、その「運動制御」はうまく行くことになります。

またこの「運動神経単位」の神経細胞どうしの結びつきである、「シナプス結合」は、その運動制御を繰り返せば繰り返すほど、強化されて、これもまた「運動制御」の精度を高めてくれます。

ですから繰り返しの運動練習によって、「運動制御」を繰り返し練習することで、その運動司令を行うための、「運動神経単位」に関わる神経細胞の数が増えて行きます。

またその細胞を結びつけている、シナプス結合も強化されて行くのです。

その結果として「運動制御」の精度が高まり、その動作が『上手』な状態になっていくのです。

 

脳卒中片麻痺の場合はどうでしょう?

では脳卒中片麻痺の場合は、この「運動制御」を繰り返すことで、「運動神経単位」の神経数は増えて行くのでしょうか?

そもそも脳卒中は、脳の血管が詰まったり、破れたりして、神経細胞に血液が流れなくなることで、その神経細胞が死んでしまう病気です。

ですから脳卒中の麻痺は、「運動神経単位」の神経が死んでしまい、その結果として「運動神経単位」の神経数が極端に減ることで、運動制御ができなくなって起こります。

ですからその麻痺を治すために、「運動制御」の練習を繰り返すことで、麻痺を治そうとします。

 

ここでの問題は、脳卒中で失った大量の神経細胞を、ニューロリハビリのアプローチで取り戻せるのかどうかと言う事です。

健康な状態での、「運動制御」の繰り返し練習は、ある程度は「運動神経単位」が揃った状態から、さらに「運動制御」の練習を行う事で、そのわずかな不足を補うための練習です。

それにくらべて脳卒中の麻痺に対する、「運動制御」の繰り返し練習は、そのほとんどが死んでしまって、失われている状態から「運動神経単位」の神経数をもとに戻そうとする試みです。

あてにできる予備の神経細胞の供給元としては、健康な時には抑制性神経で押さえ込まれて活動していなかった、予備の運動神経細胞や、新たに新生されて補充されてきた神経細胞などがあります。

どのみちこれらの予備の神経細胞を、新しく「運動神経単位」に組み込むためには、「運動制御」の繰り返し練習をする事で、この予備の神経細胞に役割を振り分けて行く、根気強い作業が必要になります。

そしてその根気強い作業の結果がどうなるかは、まだはっきりした結論が出ていません。

私の臨床経験からは、ある程度の麻痺の回復は、ほとんどのケースで体験できています。

しかし十分に満足いくレベルまでの、麻痺の回復を経験するケースは、あまり多くはありません。

おそらくは今後の、さらなるリハビリテーション方法の研究や、神経補充療法などの発達を待つ必要があるのだと思われます。

しかし今度の脳卒中リハビリテーションの未来は、確かにニューロリハビリテーションの先に見えているのです。

 

 

次回記事

脳卒中ニューロリハビリ簡単解説⑹ 運動制御による運動学習のスタイル

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上、自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

 

 

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