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変形性ひざ関節症の原因はひざを支える筋肉の老化が原因です
私たちが年をとってくると、ひざの関節が痛くなって、しまいには変形してうまく曲げ伸ばしができなくなります。
これを変形性ひざ関節症と呼んでいて、ひざの軟骨や骨が崩れて変形する病気だと思われています。
しかし、このひざの関節の変形の原因となっているのは、ひざの周りにある、ひざを支えている筋肉が弱ってくるために、ひざの関節に過剰な負担がかかるためだと考えられています。
そしてはじめに起きる、ひざの痛みの原因も、関節の痛みではなく、その周りの筋肉の痛みなのです。
ですから変形性ひざ関節症を予防して、いつまでも元気に歩くためには、ひざの周りの筋肉を強く健康に保つ必要があります。
ですからこれまでは、ひざの筋肉をしっかりトレーニングすることが推奨されてきていました。
しかしながら、変形性ひざ関節症が年をとるにつれて進行する病気です。
ここにはひざの筋肉や関節の「老化」の問題が関係しているのは明らかです。
ですからひざの健康を保つためには、単なる筋力トレーニングだけでなく、いかにひざの周りの筋肉の老化を防いで、若々しい筋肉を保つかも大切になってきます。
今回は、筋肉の線維を再生している「幹細胞」に注目しながら、ひざの筋肉の老化を予防する方法について考えていきます。
どうぞよろしくお願いします。
身体の組織を再生して若々しく保つ幹細胞の働き
私たちの体が健康で若々しくあり続けるためには、身体の細胞が一定期間ごとに新しくなる必要があります。
この私たちの細胞を常に新しく再生する仕組みが「幹細胞」です。
「幹細胞」は、普段は「幹細胞ニッチ」と呼ばれるシェルターみたいなところで守られて、眠っています。
「幹細胞ニッチ」は、普通は、その幹細胞が増殖して新しくするための組織の中や近辺にあります。
そして組織を新しくしたり、細胞を補給したりする必要があると、幹細胞はニッチを出て分裂し、増殖細胞を作ります。
この増殖細胞が、ドンドン増殖して新しく身体の組織を作り出します。
この増殖細胞のことを「前駆細胞」と呼ぶ場合もあります。
たとえば、あなたが病気になると、骨髄の中にある「造血幹細胞」が分裂して、白血球などの免疫細胞になり、血液中にドンドン出ていきます。
あなたの身体の表面の皮膚も、絶えず幹細胞によってケラチノサイトやメラノサイトが補充され続けています。
では筋肉の線維の再生はどうなっているのでしょう?
筋肉を再生してダメージを回復する幹細胞の働き
筋肉の組織を再生するための幹細胞は、主に2種類の前駆細胞に分けられます。
それは「筋衛星細胞」と「間葉性前駆細胞」の2つです。
この2つの前駆細胞は、それぞれに働きが違っています。
⑴ 筋衛星細胞
⑵ 間葉性前駆細胞
ダメージを受けた筋線維を再生する筋衛星細胞
あなたが運動していて肉離れを起こしたとします。
肉離れが起きた時には、その筋肉の線維の一部が切れて損傷しています。
ですから損傷した筋線維を再生するために、筋線維の奥にある「幹細胞ニッチ」から、幹細胞が出てきて2つの新しい幹細胞に分裂します。
1つ目の幹細胞は、そのまま再びニッチに戻って保管されます。
そして2つ目の幹細胞が、筋肉に分化してダメージを受けた筋肉組織を再生するのです。
この時に活動する幹細胞が「筋衛星細胞」です。
一般的な老化に伴う筋力低下には関係しない筋衛星細胞
私たちが年をとるとサルコペニアと呼ばれる筋力低下が起こってきます。
この老化などが原因となる筋力低下は、肉離れなどの筋肉線維の損傷ではありません。
ですから「筋衛星細胞」の筋修復能力の老化は、この私たちが年をとって起きる筋力低下にはあまり関係がないようなのです。
つまり「筋衛星細胞」の老化に伴い、肉離れなどで損傷された筋線維の再生能力は低下していきますが、筋線維の損傷を伴わない、定常状態での老化に伴う筋肉の衰えには「筋衛星細胞」は関係ないようなのです。
筋衛星細胞の老化によって筋肉の感覚センサーの感度が低下します
しかし老化による筋肉の衰えと関係ないからといって、「筋衛星細胞」が老化に伴う運動機能の低下に関係ないかと言うと、そうでもないのです。
筋衛星細胞が老化すると、筋肉線維に含まれる「筋紡錘」と呼ばれる、筋肉の感覚センサーの異常が起きることが分かっています。
そのために筋肉から正確な感覚フィードバックが起こらないため、歩行時などの運動制御が正しく行われなくなります。
その結果として、足腰の筋肉は衰えていないはずなのに、フラフラして良く歩けないなどの症状が出てしまうのです。
歩くのにフラフラして不安だと、人はダンダンと歩かなくなり、それが足腰の衰えの原因となります。
つまり筋衛星細胞の老化は、運動制御機能に影響して、お年寄りがダンダンと歩かなくなってしまう現象と関係しているのです。
筋肉の脂肪化・線維化を引き起こす間葉性前駆細胞
筋肉にあるもう一つの幹細胞である「間葉性前駆細胞」の働きは、これまで不明な点がたくさんありました。
その中で重要な働きだと思われるのが、Ⅵ型コラーゲンなどの、筋肉の材料となるタンパク質を作り出す働きです。
このⅥ型コラーゲンの遺伝子変異で、ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー(UCMD)や、ベスレムミオパチーなどの筋肉の病気になることが分かっています。
つまり「間葉性前駆細胞」は、筋肉を維持するためのメンテナンス材料を提供している細胞である可能性が高いのです。
間葉性前駆細胞の老化が筋肉の脂肪化・線維化となる
老化に伴い、筋肉が脂肪化したり、線維化したりして、実際に活動する筋肉の線維の質が低下することで、筋力が低下してしまいます。
私たちの身体の老化が進むと、筋肉の脂肪化や線維化が進んで、筋力低下が起きるのです。
そしてこの筋肉の脂肪化や線維化の原因となるのが、「間葉性前駆細胞」の老化による加齢変化なのです。
歩行能力の低下は ① 筋衛星細胞と ② 間葉性前駆細胞の老化の複合で起こります
筋肉の2つの幹細胞が老化することで、筋肉にはそれぞれ異なった問題が起きています。
それは整理すると次のような問題になります。
⑴ 筋衛星細胞の老化で筋肉の感覚センサーの異常が起きる
⑵ 間葉性前駆細胞の老化で筋肉の脂肪化と線維化が起きる
筋衛星細胞の老化により、筋肉の線維内の「筋紡錘」に異常が起こり、感覚センサーの働きが低下することで、脳による運動制御がうまくできなくなります。
その結果として、フラフラして歩きにくく不安な状態になり、徐々に歩く能力が低下していくのです。
また間葉性前駆細胞の老化により、筋線維の脂肪化や線維化が進むことで、筋肉の質が低下し、筋力低下が起こり、歩行能力の低下につながるのです。
つまり幹細胞の老化により、筋肉のコントロール能力と、筋肉の質とが、両方ともに低下してしまうのです。
変形性ひざ関節症の原因となる幹細胞の老化
先にご説明しましたように、変形性ひざ関節症の原因は、その痛みの原因も含めて、膝の周囲の筋肉の問題が原因です。
そして変形性ひざ関節症が起きる原因として、幹細胞の老化による、痛みや筋力低下、あるいは運動制御の機能低下などが挙げられるのです。
これまでは単にひざの筋肉をトレーニングして、ひざ関節のサポートを良くするぐらいしかひざのリハビリは行われてきませんでした。
しかしひざの筋トレや筋肉のコンディショニングは当然のこととして、今後は筋肉の幹細胞の老化を食い止めるための生活コントロールも、とても大切なリハビリアプローチになってきています。
つまり歩かないことで筋肉が衰え、それがひざの負担を増やして痛みや変形の原因となっている、これまでの変形性ひざ関節症の原因の裏側に、静かに進行する筋肉の幹細胞の老化が隠されていたのです。
ではこの筋肉の幹細胞の老化を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか?
幹細胞の老化を予防する!
幹細胞の老化による細胞増殖の低下は、私たちの身体を衰えさせ、老化を進行させます。
そしてその幹細胞の老化の原因には、細胞の染色体のテロメアの短縮があるのです。
今後の課題としては、細胞のテロメアをいかに長く保って、幹細胞の増殖機能を高めていくかが、大きな課題となります。
テロメアを長く保つためには、ストレスコントロールや食事、睡眠、運動などの改善が挙げられています。
今後の変形性ひざ関節症のリハビリテーションアプローチとしては、単なる運動療法だけでなく、テロメアの短縮を予防して、幹細胞の老化を防ぐための生活習慣の改善も重要なアプローチとなってきますね。
あなたの生活習慣は大丈夫ですか?
最後までお読みいただきありがとうございます。