脳出血(被殻出血)の麻痺とその回復のしくみについて!
はじめに
一口に脳卒中片麻痺といってもその症状は様々ですね。
手足の運動麻痺が重い場合も軽い場合もありますし、手の麻痺が強く出たり、反対に足の麻痺が強い場合もあります。
また運動麻痺以外にも、失語症やなどの高次脳機能障害が起きる場合もあります。
脳卒中片麻痺といっても症状は本当に人それぞれです。
でもどうしてそんなに症状が違うのでしょうか?
それは脳卒中という病気が脳出血と脳梗塞という大きく分けて2種類の脳の血管障害をまとめて脳卒中と呼んでいることがあります。
また同じ脳出血や脳梗塞でも、脳の中で出血する部位、梗塞する部位によって症状が違ってきます。
今回は脳出血の中で一番多いと言われている「被殻出血」による脳卒中片麻痺がどのような原因で起きるのか?
またどの様なリハビリテーションで麻痺が改善する可能性があるのかについて解説してみたいと思います。
今回は『被殻出血』特集です。
『被殻出血』ってなに?
脳出血の中で最も多いと呼ばれる「被殻出血」は被殻と呼ばれる神経核で脳の血管が破れて出血することで起こります。
ではその「被殻」とは脳のどこら辺りにあるのでしょうか?
またどうして被殻出血で片側の手足に麻痺が出る「片麻痺」になるのでしょう?
そしてどうして脳出血の中で「被殻出血」が一番多いのでしょうか?
『被殻」はどこにあるのか?
「被殻」とは大脳皮質の下にある「大脳基底核」の中に含まれる神経核です。
大脳基底核には被殻の他に線条体や淡蒼球などの神経核が含まれます。
そして大脳基底核はすぐ隣にある視床と連携して運動コントロール回路を形成しています。
この大脳基底核ー視床の運動コントロール回路の働きは、このサイトの記事でも時々解説していますが、「動作の自動化」と「動作の熟練化」に役割を果たしています。
つまり慣れない動作の場合は、「手をこう動かして足を踏ん張って」なんて感じで、しっかり手足の動かし方を意識しながら(一次運動野でのコントロール)動作を行います。
これは大脳皮質の一次運動野での動作のコントロールが中心に行われています。
でも動作に慣れてくると、特に手足の動きを強く意識しなくても、自然と体が動いて目的の動作が行える様になります。
車の運転の初心者とベテランの違いを想像すると分かりやすいでしょう。
またはスキーなどのスポーツもそうですね。
これが大脳基底核ー視床による運動コントロールによる動作の自動化と熟練化です。
被殻はその大脳基底核ー視床の運動コントロール回路のちょうどアクセルとブレーキの働きをしている淡蒼球とピッタリ合わさる様にしていて、この被殻と淡蒼球を合わせて「レンズ核」と呼んでいます。
ちょうど被殻と淡蒼球を合わせた形がレンズの様な形をしているからです。
どうして脳出血の中で「被殻出血」が一番多いのか?
ではどうして脳出血の中でも「被殻出血」が多いのでしょうか?
実は被殻へ血液を送っている血管が「レンズ核線条体動脈」と呼ばれる細い血管なのですが、この血管が結構クネクネと曲がりくねっているのです。
ですからこの高血圧などの基礎疾患があると、このクネクネ曲がりくねった血管の曲がり角に、高い血圧によって「動脈瘤」と呼ばれる瘤ができてしまい、これが破れて破裂して被殻出血が起こります。
つまり被殻にはとても細くて破れやすい血管が流れているということになりますね。
『被殻出血」でどうして片麻痺になるのか?
次にどうして被殻出血で片麻痺になるのかについてですね。
実はこの被殻とすぐ隣の視床の間には「内包」と呼ばれる部分があります。
そしてこの内包には「皮質脊髄路」や「赤核脊髄路」や「網様体脊髄路」などの運動神経が通っています。
被殻出血による片麻痺は、被殻に出血した血腫がその隣の内包を通っている「皮質脊髄路」などを切断することで麻痺が起こります。
「皮質脊髄路」の障害による片麻痺
皮質脊髄路は運動神経の中でも特に手足の随意的な運動(意識して手足を動かす動作)をコントロールしています。
そして皮質脊髄路の特徴としては「片側性神経支配」があります。
これはどう言うことかというと、右の一次運動野から下行してきた右側の皮質脊髄路は、大脳基底核と視床に挟まれた内包を通過した後で、延髄の高さで「錐体交叉」して左側の脊髄に移って、左側の手足を動かす運動神経になります。
逆に左の一次運動野からの皮質脊髄路は右の手足を動かす運動神経になります。
ですから「右の被殻出血」では左の手足が麻痺した「左片麻痺」になります。
反対に「左の被殻出血」では右の手足が麻痺した「右片麻痺」になります。
被殻出血によって主に「皮質脊髄路」が切断されることで「片麻痺」になるのが、被殻出血によって片麻痺になる原因です。
「網様体脊髄路」の障害による姿勢の障害
しかし被殻出血によって障害されるのは皮質脊髄路だけではありません。
「網様体脊髄路」も同じ様に片側の神経経路が障害されます。
しかし網様体脊髄路の障害は皮質脊髄路の場合ほど明確には現れません。
何故ならば「網様体脊髄路」は「両側性神経支配」だからです。
「網様体脊髄路」は主に姿勢制御を行う運動神経経路です。
右の高次運動野から下行する網様体脊髄路は左右両側の姿勢制御筋をコントロールします。
同じ様に左の高次運動野から下行する網様体脊髄路も左右両側の姿勢制御筋をコントロールします。
ですから背骨の運動機能などは脳卒中片麻痺でもあまり障害されないのです。
しかし問題がないわけではありません。
被殻出血で左右どちらかの網様体脊髄路が障害されると、その網様体脊髄路が行なっていた右側の半分の姿勢制御筋のコントロールと、左側の半分の姿勢制御筋のコントロールを失うことになります。
つまり両側の姿勢制御筋の出力がそれぞれ半分に低下してしまうことになります。
これによって何が起きるかというと、ベッドから起き上がった時に背中が丸まってしまったり、体がグラグラして安定しなくなるなどの問題が出る場合があります。
これも日常生活動作能力を獲得するためには大きな障害になる可能性がありますね。
被殻出血による片麻痺をどう回復させるのか?
被殻出血による片麻痺はご説明した様に「皮質脊髄路」が切断されることで起こります。
これはいわば電話線が切られて通話できなくなっている様なものです。
ですが電線が切れてはいますが、その上の脳の運動コントロール機能は良く残っているのが特徴です。
ですからもし上手く「電線の切り替え」を行うことが出来れば、片麻痺が回復する可能性があるのです。
切断された皮質脊髄路の代わりに網様体脊髄路を使おうというアイデア!
被殻出血によって片側の皮質脊髄路が切断された場合、反対側の手足に片麻痺が出現します。
同じ様に同側の網様体脊髄路も被殻出血によって切断されてしまいます。
しかし反対側の網様体脊髄路は生き残っており、しかもこの網様体脊髄路は「両側性神経支配」なのです。
ですからこの反対側の網様体脊髄路をうまく利用して、一次運動野からの手足を意識的に動かす運動信号が手足に送れないものかと考えています。
どうやらこれが全く可能性がないわけではない様なのです。
あくまでも現在は仮設の段階ですが、障害された皮質脊髄路に繋がる脊髄の全角細胞に向かって、網様体脊髄路から神経の枝が伸びていく可能性があることが言われています。
しかしこれまでのリハビリテーションでは健側を重視した日常生活動作訓練が主流で、麻痺側の神経経路の回復を意識したアプローチが全くと言っていいほど行われて来ませんでした。
しかし今後はこれらの網様体脊髄路と皮質脊髄路の神経経路をシンクロさせて麻痺の回復につなげるための神経促通アプローチが徐々に開発されて来ています。
今後はこのサイトでこれらのアプローチについて少しずつご紹介していきたいと思います。
どうぞよろしくおねがいいたします。
まとめ
脳卒中の被殻出血について、その麻痺の成り立ちと回復方法についてなるべく分かり易く簡単に解説を行いました。
最後までお読みいただきありがとうございます。
注意事項!
このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。