脳卒中片麻痺 筋肉の機能不全状態と筋硬結そのリハビリ方法!
はじめに
あなたの身体を実際に動かしているのは「筋肉」です。
確かに脳は動作のプログラムを立てて、手足を適切に動かすための指令を筋肉に送っていますから、身体を動かしているのは脳なのです。
でもその脳からの命令に従って、筋肉が正しく動かなければ、身体を動かすことはできません。
実は実際の脳卒中やパーキンソンや小児のリハビリを見ても「脳がどのように運動を制御するのか」に注意の大部分が払われていて、「制御される筋肉の状態は大丈夫か?」についてはなおざりにされている気がします。
しかし脳の運動制御の可否と制御される筋肉の状態は密接に関係していて、筋肉のコンでしションがリハビリテーションの麻痺の回復に大きな影響を与えるのです。
また腰痛や肩痛(五十肩など)の様々な痛みの原因も、そのほとんどは筋肉の問題から起こっています。
そして高齢者の体力低下である「廃用症候群」が進行する主な原因は、この筋肉の問題から起きる「痛み」によって運動量が減少することなのです。
今回はこのとても大切なのに、いまいち関心がもたれていない「筋肉」について解説してみたいと思います。
筋肉の活動つまり筋力とはどんなものか?
あなたは筋力とはどんなものだと思いますか?
ただ一口に筋力といっても、そこには色々な要素が含まれています。
つまり筋力が単に力の単位であれば、それは重さと一緒と言うことになります。
つまり1kgの筋力は1kgの砂糖の袋と同じと言うことになります。
でも実際は軽いペットボトルを持ち上げる時と、重いポリタンクを持ち上げる時では、筋肉の力の入れ具合は変わりますよね。
さらに大きなハンマーで力まかせにコンクリートの壁をぶち破る時(そんな時があれば)と、小さな金槌で小さな釘をリビングの壁に打ち込む時では、手先の力加減がずいぶん違います。
また足元がぐらついて、急に転びそうになった時に、素早く踏ん張って体勢を整えるには、なるべく素早い動きが必要になります。
また取れたシャツのボタンを縫い直すには、かなり指先の細かな動作が必要になります。
それからバスケットボールのフリースローでは、投げる人によって、上手い人が投げればボールをゴールに入れることが出来ますが、下手くそが投げると、全部周りのリングに弾かれてしまいます。
あとはハイキングで長い道のりを歩いた時にも、すぐに膝が笑ってしまって歩けなくなる人と山歩きに慣れていてドンドン歩ける人がいます。
これらの動きの全てが筋肉の活動から生まれています。
つまり筋力とは
⑴ 最大でどのくらいの力が発揮できるのか
⑵ 筋肉の出力の調節は正確にできるのか
⑶ 筋肉の出力を素早く行えるか
⑷ どれだけ長く筋活動を続けられるか
などの要素があります。
日常の生活でキチンと動作を行うためには、これらの筋力の要素が全て及第点で備わっている必要があります。
筋肉の構造
ここで筋肉の構造について少し解説します。
筋肉は筋膜という幕でできた袋の中に、筋線維が素麺のように並んで詰まっています。
そして筋線維は「ミオシン」と「アクチン」と呼ばれる線維が互い違いに並んでいます。
このお互いに並んでいるミオシンとアクチンの繊維がずれて重なり部分が増えることで、筋肉は短縮して短くなり関節を引っ張ることが出来るのです。
これが「筋収縮」になります。
筋力はこのミオシンとアクチンの線維がトレーニングにより強化されることで太くなり、出力が増えていきます。
これが「筋力増強」です。
筋肉の機能不全状態とは
筋肉が健全な状態で活動して入れば、運動自体はスムースに行えます。
しかし筋肉の機能が不全な状態に陥ると、十分な筋出力が得られなくなったり、筋肉が強張って痛みが出たりします。
この筋肉の機能不全状態とはどんなモノなのか、重要なポイントなので少し解説しておきたいと思います。
筋肉のコリからくる筋機能不全
筋肉が運動を続けるには酸素やエネルギー源が必要になります。
また筋線維を修復したり太くしたりするための材料であるタンパク質などの栄養素も必要になります。
これらの酸素やエネルギー源や栄養素を筋肉に届けているのは、みなさんご存知の「血液」です。
当然筋肉にも血管が伸びていて、そこに血流があるのです。
そして血管には動脈と静脈がありますね。
動脈は心臓から筋肉に新鮮な動脈血を送っています。
静脈は筋肉に酸素や栄養素を渡して、二酸化炭素と老廃物を受け取った帰り道になります。
ここで少し動脈と静脈の構造について解説しておきます。
動脈の血管は、平滑筋と呼ばれる筋肉で作られた管で、それ自体が心臓の脈と同期して収縮しています。
ですから動脈は自力で血液を筋肉に向かって流すことが出来るのです。
それに対して静脈の血管は、逆流を防ぐための弁がついた、ただの管ですから自力では静脈血を流すことはできません。
これを助けているのが筋収縮です。
例えば二の腕にある上腕二頭筋は、肘を曲げるために力を入れると大きく盛り上がりますね。
筋線維は力を出すために収縮すると太くなるのです。
そして先にご説明したように、筋肉は筋膜でできた袋の中に筋線維がギッシリ詰まっていますから、その中の筋線維が収縮して太くなると、筋膜の袋の中でパンパンに膨れ上がります。
そして筋肉の収縮が終わると、また筋線維は細くなりますから、パンパンに膨れた筋膜の袋も元に戻ります。
この圧力が上がったり下がったりすることを利用して、静脈血を押し出すようにして流しているのです。
この筋肉の収縮が静脈血の流れを助ける作用を「筋のポンプ作用」と呼びます。
この筋肉のポンプ作用は、当然のこと筋肉が収縮し続けていなければ働きません。
ですから一日中車椅子の上で座りっぱなしで、足を全く動かしていない場合などは、静脈血が流れなくなって足が浮腫んでしまうのです。
そしていったん浮腫んでしまった筋肉、あるいは疲れてパンパンになったまま放置された筋肉はどうなるでしょう?
筋膜の袋の中で、筋線維は浮腫んでパンパンになってしまっています。
そうなると新たな動脈血が十分に筋線維に酸素や栄養素を供給することが出来なくなってしまいます。
この状態が長引くと、筋線維が酸素や栄養不足で破壊されて「筋硬結」と呼ばれる硬いシコリに変化してしまいます。
よく肩こりのある人が、肩の峰のところの筋肉を揉んでいると、筋肉の中に硬い骨みたいな塊を見つけることがあります。
素人は「へーこんなところに骨なんてあったっけ」と思いますが、実はこの硬い骨みたいなシコリが「筋硬結」なのです。
いったんこの「筋硬結」が出来てしまえば、簡単にはほぐれません。
それからはこの「筋硬結」が筋線維内にあることで、筋肉の運動を妨害したり、痛みを引き起こしたりと沢山のトラブルを引き起こしていきます。
不全麻痺からくる筋機能不全
脳卒中で運動神経系を不完全に障害されると「不全麻痺」と呼ばれる状態になります。
これは「ハッキリした麻痺は出てないけど力が弱くなって少し不器用な感じになった」状態となります。
また筋萎縮性側索硬化症( ALS )なんかでも、脊髄の前角細胞(運動細胞)が障害されることで、徐々に筋力が落ちていきますので、感じとしては進行していく対応の「不全麻痺」みたいな感じになるのかなと思います。
これらに共通する筋肉のコンディションの問題が、やはり筋機能不全になりやすいということなのです。
脳卒中の不全麻痺では、よく腰痛や肩痛を訴える方が沢山おられます。
また筋萎縮性側索硬化症( ALS )の場合にも、ALSの症状としては筋肉痛は挙げられていないのですが、腰や肩や背中の痛みを訴える方が沢山おられます。
これはどういうことなのでしょう?
実はこれにはハッキリした理由があるのです。
不全麻痺に陥ると、全部の運動神経細胞ではなく、その筋肉の運動を制御する一部の運動神経が障害されます。
そうなると一つの筋肉の中に、障害された運動神経細胞が制御していたために収縮しなくなった筋線維と、障害されていない運動神経細胞に制御されて収縮し続けている筋線維が同居することになります。
少し想像してみてください。
運動会の綱引きで一部の選手が綱引きをしないでサボっていたらそのチームはどうなるでしょう?
一生懸命綱を引いている選手には、より一層の負担がかかってしまいますし、サボっている選手は動きの邪魔になります。
そうなると競技自体がグダグダにおかしくなってしまいますね。
同じようなことが「不全麻痺の筋肉」の中でも起こっています。
そして収縮している筋線維には過剰な負担がかかり、収縮しない筋線維は筋肉の動きの障害物に成り下がっています。
こうして筋機能が不全状態となり、一部の筋肉に異常な負担がかかることで、筋線維の中に「筋硬結」が発生してしまうのです。
筋肉が機能不全状態になると脳の運動制御にどんな問題が起きるか
脳が運動制御をする場合、常に運動の指令に対して、実際の筋肉の運動がどのように行われたかの情報が、感覚フィードバックとして脳に戻されて照合されて、動作の最適化が行われます。
つまり脳が運動制御を行う上で、筋肉や皮膚からの感覚情報は欠かせないのです。
筋肉が強張ったままになり、筋線維の中に筋硬結などが出来てしまうと、その筋線維の中にある感覚センサーの「筋紡錘」や「ゴルジ腱器官」が働かなくなり、脳に感覚フィードバックが戻らなくなってしまいます。
特に体性感覚と呼ばれる、運動している手足の動きや筋肉への力の入り具合の感覚は運動制御には不可欠です。
もしこの感覚フィードバックが障害されるとどうなるでしょう?
もし運動制御時の感覚フィードバックが脳に適切に戻らなくなった場合は、脳の運動野と体性感覚野での運動制御が正常に行えなくなります。
その結果として、手足が異常に強張ったり、強い痺れや痛みなどの感覚異常が出ることがあります。
また感覚フィードバックが正確に戻らずに運動制御が出来ないということは、いくら手足を動かしても運動学習の効果が得られないということです。
つまりどういう事かというと、脳卒中片麻痺のファシリテーションなどのアプローチも、筋肉が強張って中に筋硬結がシコっているような状態では、効果が期待できないという事なのです。
また筋肉が強張って痛みが出ているような状態で、いくら運動しても効果的な運動能力は身につきません。
全てのリハビリテーションアプローチを行う前に、まずは筋肉のコンディショニングを行うのが正解なのです。
筋硬結のケア方法
ではここで「筋硬結」のほぐし方をご紹介したいと思います。
「筋硬結」は一般的なマッサージではほぐすことが出来ません。
筋硬結をほぐすためにはマイオセラピー(深部筋マッサージ)と呼ばれる特殊なアプローチが必要になります。
しかしマイオセラピーができるセラピストは限られていますし、どこでも簡単に受けられるものではありません。
そこで在宅でご自分で出来る「筋硬結」をほぐす方法をご紹介したいと思います。
EMS治療器を利用した筋力トレーニング
筋硬結を効果的にほぐす方法として、EMS治療器を利用した筋力トレーニングをご紹介します。
これは中周波電気治療器を利用して、筋硬結の出来ている筋肉に中周波による電気刺激を行うと同時に自分でも筋肉を動かすようにすることで、効果的に筋収縮を行い、硬く強張っている「筋硬結」をほぐす方法です。
中周波とは
一般的な低周波治療器の電気刺激は低周波と呼ばれる80Hz前後の周波数の電気刺激です。
しかし低周波だと筋肉の深いところまで電気刺激が届かず、電気刺激による痛みも出やすいため、強い筋収縮を引き出せません。
しかし中周波の場合は、深いところの筋肉まで電気刺激が届く上に、痛みが出にくいため、強い電気刺激で強い筋収縮を出すことが出来ます。
この中周波の特性を利用して、筋硬結のある筋肉に電気刺激を与えながら運動することで、筋硬結をほぐして行きます。
EMSによる筋硬結改善筋力トレーニング
⑴ まず筋硬結が起きて強張っている筋肉に対して、筋硬結にかかるようにEMS治療器の電極を貼ります。
⑵ ついで軽く痛みを感じるか感じないかのレベルで、出来るだけ筋収縮が強く出るように電気刺激の設定を行います。
⑶ 周波数が調節できる機器の場合には 5000 Hz に設定します。
⑷ EMS治療器の電気刺激に合わせて、自分でも筋肉に力を入れるようにして筋収縮を起こします。
⑸ この運動を10分程度継続して行います。
この運動を毎日継続して行きましょう。
徐々に筋硬結がほぐれて筋肉の強張りや痛みが軽減して行きます。
まとめ
今回は普段はあまり注目されていない「筋肉のコンディション」と「筋硬結」について解説を行いました。
筋硬結などの筋肉の機能不全状態をそのままに放置すると、痛みや強張りが増悪するだけでなく、運動制御機能に障害を起こして、リハビリの運動学習効果が著しく低下します。
筋硬結などが筋肉内に存在すると、感覚フィードバックが制限され、脳卒中片麻痺へのファシリテーションアプローチなどの効果も低下してしまうため、それらの麻痺改善のためのアプローチを行う前にも、筋肉のコンディショニングは不可欠です。
筋硬結は一般的なマッサージなどでは改善しないため、マイオセラピーなどの特殊なケアが必要となります。
在宅でマイオセラピーの代替となるケアとしてEMS治療器を使用した筋力トレーニングをお勧めします。
最後までお読み頂きありがとうございます。
注意事項!
このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。