呼吸ケア 人工呼吸器の換気モードの解説 ⑶ SIMV
はじめに
今回は、前回までの「強制換気モード」「補助換気モード」に続いて、「同期的間歇的強制換気モード(SIMV)」について解説します。
SIMVは強制換気と自発呼吸(あるいは補助換気)を組み合わせた換気方式です。
一般的にはSIMVはウィーニングに使用される換気方式ですが、呼吸管理を行う医師によっては、人工呼吸器の装着初期からSIMVを選択し、はじめは高い強制換気の比率(SIMV率)から、疾患の回復に合わせて、徐々にSIMV率を下げるなどの使い方をする場合もあります。
今回はSIMVの換気モードの仕組みとその特徴について解説を行います。
よろしくお願いいたします。
同期的間歇的強制換気(SIMV)とは!
同期的間歇的強制換気(SIMV)とは、患者さんの自発呼吸に同期して間歇的に強制換気を行う方式の人工呼吸器の換気モードです。
SIMVによる換気は一定の比率の強制換気と、それ以外の自発呼吸を補助換気や自発呼吸で行う換気方式です。
つまり人工呼吸器の機械側が主導する強制換気と患者さんが主導する自発呼吸(補助換気)を併用して換気を行うのです。
そして患者さんの呼吸予備力が小さい急性期には、強制換気の比率を高めに設定し、呼吸器の状態が改善するに従って、徐々に強制換気の比率を下げ、自発呼吸(補助換気)を増やすことで、スムースに人工呼吸器からのウィーニングを進めていくモードです。
同期的間歇的強制換気(SIMV)の仕組み!
強制換気の設定
まずは強制換気の設定を行います。
はじめに強制換気を従量式で行うか、従圧式で行うかを選択します。
従量式強制換気の設定
⑴ 一回換気量の設定
⑵ 吸気流速の設定
従圧式強制換気の設定
⑴ 強制換気の吸気圧の設定
⑵ 吸気時間の設定
IMV率の設定
強制換気の状態を設定したのちに IMV率を設定します。
この IMV率とは簡単に言えば呼吸回数の設定とほとんど同じ意味です。
例えば IMV率を 10回/分(10 bpm)に設定した場合
⑴ 自発呼吸がない場合は、人工呼吸器は1分間に10回の設定された強制換気を行います。
⑵ もし患者さんの自発呼吸が1分間に20回あった場合は、人工呼吸器は1分間の20回の呼吸のうち、10回を設定された強制換気で行い、残りの10回を自発呼吸(補助換気)で患者さんの呼吸に同期させながら換気を行います。
⑶ また患者さんの自発呼吸が1分間に20回であった時に、 IMV率を 20 bpmに設定すると、人工呼吸器は、患者さんの呼吸に同期させながら、20回すべての呼吸を設定された強制換気で行います。
このように IMV率を変えることで、自発呼吸に対する強制換気の比率を変更することができ、患者さんの自発呼吸努力の程度を変化さえながら、徐々に人工呼吸器からのウィーニングを進めることが出来ます。
自発呼吸部分の設定
⑴ PSV圧の設定
⑵ PEEP圧の設定
SIMVでは、自発呼吸回数が IMV率を上回っている場合には、IMV率を超える呼吸回数の部分は、自発呼吸を行うことになります。
しかしこの自発呼吸部分に対しても、単に自力で呼吸するだけでなく、プレッシャーサポート(PSV)などの補助換気や PEEPなどの肺の酸素可能を改善するモードを一緒に行うことが出来ます。
PSVの設定に関しては「人工呼吸器の換気モードの解説 ⑵ 補助換気」を参照してください。
SIMVの自発呼吸部分の設定についての注意点
SIMVモードでの強制換気以外の自発呼吸に関して、もしPSV圧を設定しなかった場合は、強制換気以外の換気に対しては、自発呼吸を行うことになります。
この人工呼吸器を装着した状態での自発呼吸は、患者さんの自発呼吸に応じて、人工呼吸器の呼吸センサーがトリガーして、患者さんの自発呼吸を感知すると、人工呼吸器の吸気弁が開いて、患者さんが自分で息を吸えるようにします。
この時に完全に自然な状態での自発呼吸と、人工呼吸器を装着した状態での自発呼吸には大きな違いが2つあります。
⑴ 人工呼吸器のトリガー感度の問題
1つ目は人工呼吸器の回路を通して、自発呼吸を行う場合に、患者さんが呼吸するためには、人工呼吸器の吸気トリガーを作動させなくてはならないということです。
人工呼吸器の吸気トリガーが、患者さんが息を吸おうとするのを感知(トリガー)することで、換気が始まるのです。
この吸気トリガーの感度(性能)が呼吸器によって大きく違います。
高級機に設定されている「フロートリガー」は、患者さんが吸おうとした空気の流れを敏感に感知して吸気バルブを解放してくれます。
それに対して普及機に設定されている「圧トリガー」は、患者さんが人工呼吸器の吸気弁を開くためのトリガーを行うために、息を強く吸い込んで、ある一定の圧を作り出す必要があります。
このために「圧トリガー」は体力が低下した患者さんには、自発呼吸時の負担となる場合があります。
人工呼吸器の吸気弁のバルブタイミングの問題
2つ目は人工呼吸器の吸気弁のバルブタイミングの問題です。
SIMVでは、人工呼吸器は患者さんが自発呼吸を行おうとするのを感知(トリガー)すると、吸気バルブを開いて吸気ができるようにします。
しかし人工呼吸器の性能によって、この吸気バルブを開くタイミングが結構違うのです。
高級機の吸気バルブには、高性能の電磁弁が使用されており、搭載されているコンピューターのCPUも高性能なため、トリガーに対して、素早く吸気弁が反応して、吸気を開始します。
しかし普及機の場合は、弁が圧力バルブ式であったり、CPUが安物であったりして、トリガーに対して、吸気弁の開くタイミングが遅い機種があります。
人工呼吸器の吸気音を聞いていて、高級機は「パシューン、パシューン」とスムースな音がしますが、普及機の安物では「ンッパシューン、ンッパシューン」と吸気が遅れて聞こえます。
この場合には、SIMVの自発呼吸において、患者さんに必要以上の呼吸負荷がかかって、ウィーニングを阻害する可能性があります。
人工呼吸器の特徴をよく把握しておくこと!
人工呼吸ケアで人工呼吸器からのスムースなウィーニングを進める場合には、このそれぞれの人工呼吸器のメーカーや機種のグレードの特性をよく理解しておく必要があります。
なるべく初心者はベネット840 やサーボ 300などの高級機を使うと、楽に呼吸ケアができるのですが、なかなかそう理想どうりにはいきませんよね。
みなさんが普段使っている人工呼吸器はどんなタイプのどんな特性があるのか、勉強しておくと良いでしょう。
まとめ
今回は同期的間歇的強制換気(SIMV)モードについて解説しました。
SIMVモードは強制換気と自発呼吸(補助換気)を併用して行い、IMV率(強制換気比率)を調節することで人工呼吸器からのウィーニングを図るためのモードになります。
最後までお読み頂きありがとうございます。
次回はPEEPとCPAPに関する解説を行います。