はじめに
今回は、前回の「肩甲骨の周囲の筋肉のコンディションを整えて痛みをとるマッサージ」に引き続き、肩甲骨周囲筋へのマッサージ後の運動療法自主トレのやり方について解説したいと思います。
肩甲骨周囲筋群の機能を改善して痛みをとる運動方法!
前回の肩甲骨周囲筋へのマッサージは、肩甲骨と腕をつなぐ筋群と、胸郭と肩甲骨をつなぐ筋群に分けて解説しましたが、運動方法についても同じように、肩甲骨と腕をつなぐ筋群の痛みをとるための運動方法と、胸郭と肩甲骨をつなぐ筋群の痛みをとるための運動方法に分けて解説を行います。
筋肉の痛みをとるための運動は、基本的には筋機能不全を引き起こして痛みを生じている筋肉に、適度な力で繰り返し筋収縮を起こさせることで、筋肉の血流を良くして、また固まっている筋硬結に対して刺激を与えていきます。
この筋肉の運動と前回ご紹介したマッサージを合わせて繰り返していくことで、筋機能不全状態を改善して痛みを解消していきます。
また振動刺激によるリンパなどのドレナージュ(溜まっているリンパ液の流れを促す)も行っていきます。
それではそれぞれの筋肉に対して、痛みをとるための運動を行っていきましょう。
肩甲筋板(ローテーターカフ)の痛みをとる運動
リスク
肩関節亜脱臼のある場合は痛みに注意して慎重に行ってください
必要な機材
中型~大型犬用のお散歩用リード(2本)
運動時間
10分 ~ 15分
スリングの設置と設定
① 部屋の鴨居などに L字型のフックを 60 cm 間隔で2個並べてつけてください。 そこから中型~大型犬用のお散歩用リードを垂らして、持ち手側の輪を下になるようにします。
(長さを調節する場合はリードをループ状にします)
(犬用のお散歩用リードを垂らす)
② 垂らしたリードの中間で少し後ろに椅子を置きます。
③ 椅子にやや浅めに腰掛けて背筋をキチンと伸ばします。 そして先ず麻痺側の手首をリードの腕輪に通し、リードの紐を手首側に回してリードをつかむようにします。 同じように健側の手首もリードの腕輪に通してリードの紐をつかみます。
(麻痺側の手首をリードの腕輪に通します)
④ リードの持ち手側の輪の高さは、麻痺側の手が肩より少し上に来るくらいに調節します。調整は垂らしたナワの脇に置いて椅子に座った状態で行います。
( 手と肩の位置関係)
※ これで運動の準備は完了です!
運動内容
※ 肩甲筋板(ローテーターカフ)をひとまとめにして運動します!
※ 今回の運動は右片麻痺の設定で解説します!
① 上記の設定状態で運動を開始します。骨盤を起こして、背筋を伸ばした状態で、できるだけ真っ直ぐな姿勢で椅子に座ります。
(開始姿勢)
② まず健側の手のひらを、麻痺側の脇の下から肩甲骨の脇に当てるようにします。
(健側の手のひらを麻痺側の脇の下から肩甲骨に当てた姿勢)※ 今回の運動は右片麻痺の設定です!
③ その状態から麻痺側の腕を内側に捻るようにします。 この時に麻痺側の肘を外側の上に挙げるように意識すると上手くできます。
(麻痺側の肘を外側の上に挙げるようにして麻痺側の腕を内側に捻る)
④ 次いで麻痺側の腕を外側に捻るようにします。 この時に麻痺側の肘を少し引き下げるように意識すると上手くできます。
(麻痺側の肘を少し引き下げるようにして麻痺側の腕を外側に捻る)
⑤ 上記の腕を内側と外側に捻る運動を、交互にリズミカルに行っていきます。 (イッチニ、イッチニとゆっくり掛け声をかけながらやると良いでしょう)。 この時に健側の手を当てている場所にある、大円筋、小円筋、棘下筋などがきちんと動いて筋肉が収縮を繰り返しているかを、健側の手のひらで感じながら運動を行ってください。
(健側の手のひらで筋肉の動きを感じる)
⑥ この運動を5分程度行います。 無理して完全に動かそうとするのではなく、力まずに動く範囲で繰り返し運動を行ってください。
※ 健側の運動をリードを健側に持ち替えて同様に行います。
(健側の肘を外側にあげるようにして腕を内側に捻る運動)
(健側の肘を内側に下げるようにして腕を外側に捻る運動)
(健側の肩甲筋板の運動)
胸郭と肩甲骨を結ぶ筋群の痛みをとる運動
肩甲挙筋の運動
① 上記の設定状態で運動を開始します。骨盤を起こして、背筋を伸ばした状態で、できるだけ真っ直ぐな姿勢で椅子に座ります。
(開始姿勢)
② まず健側の手のひらを、麻痺側の首と肩甲骨の間の肩の峰に当てるようにします。
(健側の手のひらを麻痺側の首と肩甲骨の間の肩の峰に当てた姿勢)※ 今回の運動は右片麻痺の設定です!
③ その状態から肩をすくめる様に動かします。 肩をすくめたら、すぐに肩から力を抜いて、肩を元の位置に戻します。 この運動をリズミカルに繰り返し行います。 (イッチニ、イッチニとゆっくり掛け声をかけながらやると良いでしょう)。
(麻痺側の肩をすくめる運動)
※ すくめた肩を戻す時には、むりやり力んで肩を下げないように、ただ力を抜くだけにしてください。
④ この時に健側の手を当てている場所にある、肩甲挙筋がきちんと動いて筋肉が収縮を繰り返しているかを、健側の手のひらで感じながら運動を行ってください。
(健側の手のひらで筋肉の動きを感じる)
⑤ この運動を5分程度行います。 無理して完全に動かそうとするのではなく、力まずに動く範囲で繰り返し運動を行ってください。
小胸筋の運動
① 上記の設定状態で運動を開始します。骨盤を起こして、背筋を伸ばした状態で、できるだけ真っ直ぐな姿勢で椅子に座ります。
(開始姿勢)
② まず健側の手のひらを、麻痺側の鎖骨のすぐ下の胸の前に当てるようにします。
(健側の手のひらを麻痺側の鎖骨のすぐ下の胸の前に当てた姿勢)
③ その状態から肩を引き下げる様に動かします。 肩を引き下げたら、すぐに肩から力を抜いて、肩を元の位置に戻します。 この運動をリズミカルに繰り返し行います。 (イッチニ、イッチニとゆっくり掛け声をかけながらやると良いでしょう)。
(麻痺側の肩を引き下げる)
※ 引き下げた肩を戻す時には、むりやり力んで肩を上げないように、ただ力を抜くだけにしてください。
④ この時に健側の手を当てている場所にある、小胸筋がきちんと動いて筋肉が収縮を繰り返しているかを、健側の手のひらで感じながら運動を行ってください。
(健側の手のひらで筋肉の動きを感じる)
⑤ この運動を5分程度行います。 無理して完全に動かそうとするのではなく、力まずに動く範囲で繰り返し運動を行ってください。
大・小菱形筋の運動
① 上記の設定状態で運動を開始します。骨盤を起こして、背筋を伸ばした状態で、できるだけ真っ直ぐな姿勢で椅子に座ります。
(開始姿勢)
② まず健側の手のひらを、麻痺側の肩越しに背中に当てるようにします。
(健側の手のひらを麻痺側の肩越しに背中に当てた姿勢)※ 今回の運動は右片麻痺の設定です!
③ その状態から肩(肩甲骨)を後ろに引く様に動かします。 肩を後ろに引いたら、すぐに肩から力を抜いて、肩を元の位置に戻します。 この運動をリズミカルに繰り返し行います。 (イッチニ、イッチニとゆっくり掛け声をかけながらやると良いでしょう)。
(麻痺側の肩を後ろに引く運動)
※ 後ろに引いた肩を戻す時には、むりやり力んで肩を上げないように、ただ力を抜くだけにしてください。
④ この時に健側の手を当てている場所にある、菱形筋がきちんと動いて筋肉が収縮を繰り返しているかを、健側の手のひらで感じながら運動を行ってください。
(健側の手のひらで筋肉の動きを感じる)
⑤ この運動を5分程度行います。 無理して完全に動かそうとするのではなく、力まずに動く範囲で繰り返し運動を行ってください。
前鋸筋の運動
① 上記の設定状態で運動を開始します。骨盤を起こして、背筋を伸ばした状態で、できるだけ真っ直ぐな姿勢で椅子に座ります。
(開始姿勢)
② まず健側の手のひらを、麻痺側の脇の下に当てるようにします。
(健側の手のひらを麻痺側の脇の下に当てた姿勢)
③ その状態から肩(肩甲骨)を前に突き出す様に動かします。 肩を前に突き出したら、すぐに肩から力を抜いて、肩を元の位置に戻します。 この運動をリズミカルに繰り返し行います。 (イッチニ、イッチニとゆっくり掛け声をかけながらやると良いでしょう)。
(麻痺側の肩を前に突き出す)
※ 前に突き出した肩を戻す時には、むりやり力んで肩を上げないように、ただ力を抜くだけにしてください。
④ この時に健側の手を当てている場所にある、前鋸筋がきちんと動いて筋肉が収縮を繰り返しているかを、健側の手のひらで感じながら運動を行ってください。
(健側の手のひらで筋肉の動きを感じる)
⑤ この運動を5分程度行います。 無理して完全に動かそうとするのではなく、力まずに動く範囲で繰り返し運動を行ってください。
※ 健側の運動をリードを健側に持ち替えて同様に行います。
肩甲骨と胸郭を結ぶ筋群の上記の4種類の運動についても、リードを健側の手に持ち替えて、健側の運動を行います。
( 健側の肩甲挙筋の運動: 肩をすくめる運動)
( 健側の小胸筋の運動: 肩を引き下げる運動)
( 健側の大・小菱形筋の運動: 肩と腕を後ろに引く運動)
( 健側の前鋸筋の運動: 肩と腕を前に突き出す運動)
肩の痛みをとる運動は以上で終了です
※ これらの運動は力まずにリラックスして行ってください。 しっかりと運動することが目的ではなく、適切な筋収縮を繰り返して筋肉のコンディションを整えて、血流やリンパ液の流れも改善することが目的ですので、力んでしっかり運動しようとすると逆効果になってしまいますので注意が必要です
※ これらの運動は、肩が凝ったり痛みが出たなと感じたら、出来るだけ早めに行って、痛みに対処するようにしてください
次回は
「骨盤の周囲の筋肉のコンディションを整えて痛みをとるマッサージ」
についてご説明します。
最後までお読みいただきありがとうございます
注意事項!
この運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。
関連ページ
「超音波治療器を使って脳卒中の肩の痛みと亜脱臼を改善する方法」
脳卒中片麻痺の自主トレテキストを作りました!
まずは第一弾として皆様からご要望の多かった、麻痺側の手を動かせるようにしたいとの声にお応えするために、手のリハビリテキストを作りました。
手の機能を改善させるための、ご自宅の自主トレで世界の最先端リハビリ手法を、手軽に実践する方法を解説しています。
超音波療法や振動セラピー、EMS療法による神経促通など、一般病院ではまず受けられないような、最新のリハビリアプローチが自宅で実行できます。
現在の日本国内で、このレベルの在宅リハビリは他にはないと思います。
そしてこのプログラムは施設での実施にて、すでに結果が認められています。
あとは皆さんの継続力だけですね。
テキストは電子書籍になっており、インフォトップと言う電子書籍の販売ASPからのダウンロードになります。
全180ページに数百点の写真と3D画像などで分かりやすく解説しています。
コピーが容易な電子書籍の性格上、少し受注の管理やコピーガードなどが厳しくなっていますが、安全にご利用いただくためですの、ご容赦くださいね。
ぜひ一度お試しください。
関連ページ
1. 脳卒中のリハビリで一番大切なのは痛みのケア
2. 痛みのリンクは骨盤と背骨と肩甲骨で起こります
3. 背骨を動かす脊柱起立筋群と痛みのケア
4. 背骨の周囲の筋肉のコンディションを整えて痛みをとるマッサージ
5. 背骨の周囲の筋肉のコンディションを整えて痛みをとる運動方法
6. 肩甲骨の周囲の筋肉のコンディションを整えて痛みをとるマッサージ
7. 肩甲骨の周囲の筋肉のコンディションを整えて痛みをとる運動方法
8. 骨盤の周囲の筋肉のコンディションを整えて痛みをとるマッサージ
9. 骨盤周囲の筋肉のコンディションを整えて痛みをとる運動方法