呼吸ケア

人工呼吸管理 PEEPの働きとカウンター PEEPについて!

人工呼吸管理 PEEPの働きとカウンター PEEPについて!

 

はじめに

PEEPとは、positive end expiratory pressure の略称で、日本語訳で『呼気終末陽圧』といいます。

PEEPは人工呼吸器の独立したモードの1つというよりも、全てのモードに対して補助的に使われる換気サポートの一つと考えると分かりやすいと思います。

だいたいほとんどの人工呼吸換気においてPEEPを使用していますね。

では人工呼吸管理の臨床でPEEPをどのように捉えて考えればいいのか?

また臨床的に熱損傷などの予防にとても重要なカウンターPEEPの考え方について。

今回は少し踏み込んだPEEPの解説をしてみたいと思います。

 

PEEPとは!

PEEPとは常に気道内に陽圧をかけ続ける換気方法のことです。

普通に人工呼吸器で換気していて、吸気は呼吸器が陽圧をかけて押し込みますが、呼気は人工呼吸器の呼気弁を開くことで、自然に息を吐き出すようになります。

ですからただ呼気弁を開いてしまえば、気道内圧は1気圧、つまりは平圧になります。(陽圧でも陰圧でもない状態)

それに対して、人工呼吸管理中にPEEPをかけると、呼気時に呼気弁を完全に解放することはなく、最後に設定された陽圧を残すことになります。

つまりは吸気・呼気の両面において常に気道内に陽圧がかかるようにしておくのがPEEPの目的です。

 

気道内陽圧にはどんな効果があるのか?

PEEPは「呼気終末陽圧」と呼ばれていますが、つまりは常に気道内に陽圧をかけ続けることが目的になります。

では気道内に陽圧をかけ続けることで、どんな効果が得られるのでしょうか?

 

肺胞の虚脱を防ぐ

気道内に陽圧をかけることによって、気管支が押しつぶされ、その結果として押しつぶされた気管支の先にある肺胞が虚脱してしまうのを防ぐことができます。

人工呼吸管理が必要になるということは、肺に様々な問題があるということです。

ですから気管支の炎症によって気管支が潰れやすくなっていたり、肺気腫によって膨らんだ肺胞によって周囲の気管支が押しつぶされたり、肺水腫などによって気管支が押しつぶされたりします。

そうなると押しつぶされた気管支の先にある肺胞には換気が行われなくなり、空気の出入りがなくなります。

その状態でしばらく経つと、肺胞内の気体は、周囲の毛細血管によって全て吸い出されてしまい、肺胞が完全に潰れてしまいます。

この状態を「無気肺」と呼びますが、この無気肺はそれ自体が肺内シャントであり、肺酸素化能を低下させますし、肺気量の減少による、肺コンプライアンスの低下から、呼吸抵抗も増加します。

そしてさらに無気肺や気管支が潰されて換気できない状態を放置すると、そこから細菌感染を引き起こし肺炎となるリスクが高まります。

これらの問題を予防する目的で人工呼吸管理中にPEEPを使用します。

 

また肺胞の虚脱を防ぐことで、肺胞での換気血流比が改善し、肺内シャントが減少することで、肺の酸素化能が向上します。

 

呼吸仕事量が軽減される

前の文で、無気肺によって肺気量が減少して、肺コンプライアンスが低下すると説明しました。

この肺コンプライアンスの低下によって呼吸仕事量が増加しますね。

さらに気管支が押しつぶされることで、気道抵抗も増加し、これも呼吸仕事量の増大につながります。

さらにいったん肺胞が虚脱して潰れてしまうと、それを再度膨らませるには、かなりの力が必要になります。

簡単な例でご説明すると、ゴム風船をふくらませるのに、初めはかなり力を入れて吹かないと、風船は膨らみませんが、途中まで膨らんだ状態からでは、弱い力でも簡単にふくらませることができます。

つまりはそういうことです。

 

PEEPによる呼吸仕事量軽減効果

⑴ 気管支が押しつぶされるのを防ぐことで気道抵抗を軽減する

⑵ 無気肺を予防することで肺コンプライアンスの低下を防ぎ呼吸仕事量を軽減する

⑶ 肺胞の虚脱を防ぐことで肺胞を再拡張させるために呼吸仕事量を軽減する

 

予備呼気量が増える

人工呼吸器で陽圧換気を行なっている場合、吸気の時には高い陽圧で吹き込んで行きますから、気管支も大きく拡げられています。

しかし吸気から呼気の相に切り替わって、徐々に息を吐き出していくと、気道内圧が低下して行きます。

そしてある圧のポイントまで気道内圧が低下すると、その気道は周囲からの圧や気道自体の浮腫みなどによって、閉塞します。(※ どの圧のポイントで気道が閉塞するかは疾患や重症度により個人差があります)

そうするとそこから先は息が吐けなくなります。

しかしそこにPEEPを加えると、もう少し気道内圧が高められて、気管支が閉塞するのを防いでくれます。

ですから気道内に圧をかけることによって、さらに余計に息が吐けることになります。

少し逆説的ですが、気道内に圧をかけることで、息が吐きやすくなり、その結果として残気量が減少して、予備呼気量が増加します。

 

なぜ気管切開の場合はPEEPが重要なの?

一般的な人工呼吸器による換気を行う場合には、気管内挿管か気管切開を行なって換気します。

この中で気管切開の場合には、しっかりとPEEPをかける必要があります。

なぜ気管内挿管チューブの場合より、気管切開チューブでの人工呼吸管理でPEEPが重要になるのでしょう?

それは気管切開の場合には鼻(鼻腔)をバイパスしてしまうからです。

人の鼻(鼻腔)は実はとても大きく3段の棚状になっていて粘膜に毛細血管が発達し、加温と加湿を行うためにとても重要な器官です。

そのためにとても気流に対する抵抗が高いのです。

気道抵抗の多くが鼻(鼻腔)によります。

ですから気管切開して鼻腔をバイパスすると、呼吸の抵抗がすごく低下します。

ですが気管切開による鼻腔のバイパスによって、吸気抵抗だけでなく、呼気抵抗も大きく低下してしまいます。

ですから気管切開の場合の呼気時には、より早く気道内圧が低下して気管支が潰されやすくなっています。

それを予防するためによりPEEPが重要となるのです。

これが気管内挿管チューブの場合には、チューブ自体が長く細いため、気道抵抗はそれほど低下しません。

ですからより気管切開の場合に注意が必要になります。

 

PEEPの副作用とは!

PEEPには非常に有効な効果もありますが、その反面で生体に対する望ましくない副作用もあります。

いかにそのPEEPの副作用についてご説明します。

 

尿量の減少

PEEPをかけることで、常に人工呼吸器から気道内及び肺内に陽圧がかけられることになります。

このことで何が起きるかというと、胸腔内圧が上昇します。

そして常に胸腔内圧が陽圧になることで、頸部および腹部からの静脈血が胸腔内に戻りにくくなります。

そうして中心静脈への静脈血の還流が減少することで、右心房への静脈血の充填量が少なくなります。

すると右心房にあるセンサーが反応して「循環血液量が減少している」と判断します。

本来の循環血液量は決して不足していないのですが、右心房に戻る血液が減るために「身体のどこかで出血していて、血液量が減っているために、血液が心臓に戻ってこないのではないか」と考えてしまうのです。

そのために血液量を増やすため、腎臓での血液濾過による水分除去量を減らします。

そのために尿量が減少します。

ですから人工呼吸器を装着してPEEPをかけると、大体はおしっこが出なくなります。

しかし胸腔内圧が上昇して、胸腔内に血液が戻れないだけで、循環血液量は減っていないため、尿量が減少した状態で、輸液を続けると、血液量が増えすぎて「うっ血性心不全」になってしまいます。

ですから人工呼吸器をつけた場合には、多くのケースで同時に利尿薬の投与も開始します。

 

心拍出量の減少

先ほどの説明にもありましたように、人工呼吸管理でPEEPをかけると胸腔内圧が上昇します。

そして胸腔内圧が上昇すると何が起きるかというと、この胸腔内圧の上昇は、陽圧で肺が膨らまされていることで起きていますね。

そうなると膨らんだ左右の肺の間には何があるのでしょう?

答えは「心臓」ですね。

つまりはPEEPで圧をかけられて膨らんだ左右の肺の間に挟まれた心臓は、肺に押し付けられて十分に拡がることができません。

それだけ心臓への血液の充填がしにくくなっています。

さらには胸腔内圧の上昇による、右心房への静脈血の還流量も減っています。

これらのことが原因となり、心臓の血液拍出量が減少してしまいます。

 

PEEPにより心拍出量が減少する原因

⑴ 陽圧で膨らんだ左右の肺に押し付けられて心臓が拡張しにくくなり血液充填量が減少する

⑵ 胸腔内圧の上昇による静脈還流量の減少により右心房への血液充填量が減少する

 

高いPEEPによる肺の圧損傷のリスク

肺の状態が悪くなり、肺酸素化能が低下すると、ついPEEP圧をかけて肺の酸素化能を向上させたくなります。

しかし高いPEEPをかけると、それだけ平均気道内圧が高くなり、肺胞にかかる圧も高まるため、肺胞が圧によって破れてしまう「圧損傷(バロトラウマ)」のリスクが高まります。

 

肺が圧損傷に陥ると以下のような症状が起こります

⑴ 気胸

⑵ 縦隔気腫

⑶ 皮下気腫

これらの障害が重症な肺炎などに合併すると、非常に危険なために絶対に予防しなければなりません。

PEEPの設定圧には十分な注意が必要になります。

 

カウンターPEEPってなに?

あなたは「カウンターPEEP」って聞いたことがありますか?

初耳ですか?

実はこのカウンターPEEPとは、先ほどご説明した「肺の圧損傷」を予防するために使うPEEPのことを言います。

PEEPをかけすぎると圧損傷になるのに、それを予防するために PEEPをかけるってどう言うこと???

な感じですよねー!

まるで禅問答です。

 

実は圧損傷にもいくつかの種類があるのです。

肺の圧損傷は肺胞に 20 cm H2O 以上の圧がかかると、肺胞が破れてしまうために起こります。

しかしただ単に人工呼吸器が計測している気道内圧が 20 cm H2O を超えたからといって、すぐに圧損傷になるわけではありません。

吸気時の気道内圧には、⑴ 最高気道内圧( PIP ) と ⑵プラトー気道内圧 ( EIP ) があります。

⑴ 最高気道内圧: 吸気が行われている時に計測される、気道抵抗と肺胞のコンプライアンスによる抵抗を合わせた状態で計測される気道内圧

⑵プラトー気道内圧 ( EIP ) : 吸気が終わって気体の流れが止まった状態で、呼気が始まる前に計測された、肺胞のコンプライアンスのみによる気道内圧

この場合、気道抵抗が高い症例で、異常に最高気道内圧が高かったからといって、すぐに圧損傷にはなりません。

しかしプラトー気道内圧が 20 cm H2O を超えてきている場合には注意が必要になります。

つまりその状態で肺胞に 20 cm H2O を超える圧がかかっている可能性が高いのです。

この状態でさらにPEEPをかけることはダメですね。

すぐに圧損傷になってしまいます。

 

最高気道内圧が高くてプラトー気道内圧が低くても安心できません!

でも気道抵抗が高い症例で、最高気道内圧が高くて、でもプラトー気道内圧は低くなっている場合は、一安心なのでしょうか?

いいえこの場合にも注意が必要です。

 

エアートラッピングによる圧損傷

気道抵抗が高い場合に注意しなければならないのは「エアートラッピング」です。

これは人工呼吸器は吸気は強い圧で強制的に肺に空気を送り込みますが、呼気は自分で自然に吐くのを待つしかない、人工呼吸器の特性によります。

気道抵抗が高い症例の場合、呼気が吐ききれないまま気道が塞がってしまい、肺胞内に吸気が閉じ込められてしまう減少が起こります。

これを「エアートラッピング」と呼びます。

ですから呼気時に気道内圧が正常に戻ったとしても、気管支の炎症などで、早めに気管支が塞がってしまい、肺胞の中には比較的高い圧の空気が残ってしまう場合があります。

この状態で人工呼吸換気を続けると、肺胞内の高い圧によって肺胞が破れてしまう場合があります。

しかし人工呼吸器の気道内圧メーターには、その肺胞内の圧は計測されません。

 

これを予防する方法が「カウンターPEEP」です。

つまり気管支の炎症などで比較的高い圧で気管支が塞がってしまう場合、その圧よりも少し高めのPEEPをかけてやることで、気管支が塞がってしまうのを予防します。

そうすることで肺胞内にエアートラッピングが起こるのを予防します。

つまりカウンターPEEPとは、気道抵抗が高い症例に対する人工呼吸管理で、気道の閉塞によるエアートラッピングが起こって、肺の圧損傷が引き起こされることを予防するために行う、特殊なPEEPと言えます。

 

カウンターPEEPの上手な使い方!

カウンターPEEPが必要なケース(有効なケース)は、気管支炎などで気道抵抗が高くなっている場合です。

しかし重要なのは、⑴ このエアートラッピングが実際に起きているのか、また起きているとしたら、⑵ どのくらいの圧で気管支が閉塞しているのかを知ることが必要になります。

 

以下にその計測方法をご紹介します!

⑴ 人工呼吸器の呼気が終了したら、すぐに呼吸器の呼気側の排気口を手で塞ぎます。

⑵ そのまま次の吸気が始まるまでの間、排気口を塞いだまま、人工呼吸器の気道内圧計をチェックします。

⑶ 呼気が終わって、数秒後にピョコッと人工呼吸器の気道内圧計のメモリが上がったら、その圧をチェックします。

⑷ その圧が気管支が閉塞している圧になります。

⑸ カウンター PEEPとして、先ほど計測された圧に 1 ~ 2 cm H2O の圧を足したPEEP圧を設定します。

 

以上です。

簡単でしょう!

気道抵抗が高い症例の場合、こまめにチェックしてPEEP圧の設定の参考にされることをオススメします。

 

まとめ

今回はPEEPについて、その効果と副作用について少し詳し目に解説しました。

さらに特殊なPEEPである、カウンターPEEPについても、ご紹介して起きました。

 

 

最後までお読み頂きありがとうございます。

 

 

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