脳卒中の在宅リハビリで注意すべき点は?
はじめに
前回では、脳卒中片麻痺の改善が可能であるかについてお話ししましたが、今回は麻痺の改善のお話しに進む前に、脳卒中の在宅リハビリをどのように捉えて頑張って行けば良いのかについてお話ししたいと思います。
どうしてかというと、脳卒中の在宅リハビリで大切なのは「運動麻痺の改善」だけではないからです。 他にも皆さんが注目して行わなければいけないことや、ご自分の身体の状況で把握しておかなければならないことが沢山あります。
今回はそれらのことをお話しいたします。
脳卒中片麻痺の在宅リハビリで注目しなければならないのは、「手足の麻痺を改善する」ことだけではありません。
特に大切なのは、麻痺した身体で頑張ることで、身体に色々な負担がかかり、それが原因で腰痛や肩痛や膝関節痛などが悪化したり、円背が進行したり、麻痺側の手足の緊張が再度高まってしまい、今までのリハビリが無駄になる事もあります。
またかつてタバコを吸っていた経験がある場合などは、肺気腫などで肺活量が低下して、そこに麻痺に伴う体力低下が重なると誤嚥性肺炎になりやすくなったり、息切れで長く歩けなくなったりします。
これから脳卒中に伴い起こりうる問題とその対応方法をご説明いたします。
① 円背の進行
脳卒中片麻痺での生活が長く続くと、徐々に円背が進行してくる場合があります。 この原因としては以下があげられます
-
腹筋背筋の筋力低下と強張り
-
股関節の周囲の下肢筋力低下と強張り(ハムストリングス筋を含む)
-
転倒による脊椎の圧迫骨折
-
座る動作をドスンと行う事で徐々に脊椎の変形が進行する
-
良くない歩き方をしている
皆さんは筋力を高めるためにも歩行練習などは積極的に行っていると思いますが、歩き方によっては後々腰痛や円背を悪化させる場合もあります。
本来の歩行練習とは「正しい歩き方で適切な距離もしくは時間を歩く」必要があります。
そうしないと正しい筋力トレーニングにならないからです。
また座る時なども、ゆっくり座る事が難しくて、毎回「ドスン、ドスン」と腰を下ろしていませんか?
この衝撃によって、徐々に腰椎などが変形して円背が進行すると言われています。
ですから日常生活もいくつかの注意点を守ってキチンと生活していただく必要があります。
また円背予防のためのリハビリトレーニングも重要になります。 詳しくは後々ご説明いたします。
② 腰痛の予防
腰痛も皆さんが良く悩まされる問題だと思います。
しかし皆さんは「麻痺のせいで腰が痛くなってしまっているから、もう仕方がない」と諦めていませんか?
脳卒中の腰痛も普通の腰痛も原因は一緒です。
その原因のほとんどは、背中や腰や股関節周囲の特定の筋肉(コアマッスル)の障害である事がほとんどです。
しかしこの特定の筋肉(コアマッスル)のケアや筋力トレーニングには、ちょっとしたコツみたいなものが必要で、一般的な筋力トレーニングでは改善できません。
ですからこのちょっとしたコツみたいなものを覚えてリハビリをしていただければ腰痛も怖くありません。
③ 肩痛の予防
脳卒中片麻痺で肩の痛みがある場合の原因としては以下の2つのどちらかである場合がほとんどです。
-
肩関節亜脱臼による痛み(麻痺側の肩のみに出る)
-
肩関節周囲の筋肉(コアマッスル)の障害による痛み(両側に出る可能性あり)
肩関節亜脱臼の場合は麻痺側の肩のみに起こります。
裸になって左右の肩を見比べれば、麻痺側の肩関節から上腕骨の骨頭が抜けかけて垂れ下がっているように見えるので良くわかります。
肩関節を支える肩甲筋板という小さな筋肉の集まりが麻痺して緩んでおきます。
これは急性期で寝ている時の姿勢が悪かったことが主な原因です。
(肩関節亜脱臼)
また肩関節周囲の筋肉(コアマッスル)の障害による痛みの場合は、麻痺のない側の肩にも痛みが出る場合があります。
これは杖歩行も食事も着替えも何もかも健側の手で行うために、健側に過剰な負担がかかってしまうために起こります。
この場合、うっかりすると健側の手首の腱鞘炎にもなる場合があります。
良い方の腕が使えなくなったら杖をついて歩くことも出来なくなってしまいます。
また麻痺側の肩も痛くて動かないのは麻痺のせいかと思っていたら、肩関節周囲炎だったなんてこともたまにあります。
肩関節の痛みのリハビリは意外に重要です。
④ 膝関節痛の予防
膝の関節が痛くなるとほとんどの方が「膝関節の変形だから、手術してステンレスの関節に取り替えないと治らない」と思い込んでいます。
しかしかなり変形の進んだ状態でない限り、膝の痛みの原因は、膝関節の周囲の筋肉(コアマッスル)の障害であることがほとんどです。
なかなか膝関節の痛みが良くならないのは、このコアマッスルのケアとトレーニングのコツが分かっていないからなのです。
キチンとケアすれば膝関節の痛みもそれほど心配する必要はありませんし、キチンとケアすることで、膝関節の変形も予防することが可能です。
特に脳卒中片麻痺の場合に、麻痺側の骨盤が後ろに引けた状態で長く歩行を続けると、膝に負担がかかって「反張膝」という、膝関節が逆に曲がって鶏の足のように変形する場合があり、注意が必要です。
この場合は歩行パターン自体を改善していく必要があります。
(写真)(半張膝)
※ コアマッスルとは!
ここで先ほどから出てきている「コアマッスル」についてご説明いたします。
コアマッスルとは関節の土台周辺にある、小さくて弱い筋肉で、主に関節運動の微調整(骨頭の動きの調整など)と関節運動の感覚センサーの働きをしています。
色々な関節の痛みの原因は、このコアマッスルの障害であることが非常に多いです。
逆に関節の運動を司るのがアウターマッスルで大きくて力強い筋肉です。
一般的な筋力トレーニングはこのアウターマッスルを鍛える運動であり、一般的な筋力トレーニングではコアマッスルを鍛えたりケアすることは出来ません。
ですから皆さんが無理な筋力トレーニングを行うと、腰や膝が痛くなってしまい、長続きしないのです。
高齢者の筋力トレーニングは、まずこのコアマッスルのトレーニングから始める必要があるのです。
関連ページ
1. 脳卒中のリハビリで一番大切なのは痛みのケア
2. 痛みのリンクは骨盤と背骨と肩甲骨で起こります
3. 背骨を動かす脊柱起立筋群と痛みのケア
4. 背骨の周囲の筋肉のコンディションを整えて痛みをとるマッサージ
5. 背骨の周囲の筋肉のコンディションを整えて痛みをとる運動方法
6. 肩甲骨の周囲の筋肉のコンディションを整えて痛みをとるマッサージ
7. 肩甲骨の周囲の筋肉のコンディションを整えて痛みをとる運動方法
8. 骨盤の周囲の筋肉のコンディションを整えて痛みをとるマッサージ
9. 骨盤周囲の筋肉のコンディションを整えて痛みをとる運動方法
⑤ 呼吸筋のトレーニング
実はタバコを吸っている方は、吸わない方に比べて何倍も脳卒中になるリスクが高いのです。
ですから脳卒中になった方の中には、結構な割合で元喫煙者がおられます。
タバコを吸っていると、多かれ少なかれ、タバコの煙の影響で肺が汚れています。
そして肺気腫や気管支炎なども起きているかもしれません。
少しでも息切れがあったりすると、呼吸補助筋に負担がかかって、頭痛や肩痛や腰痛の原因になったりします。
また体力低下に伴い、誤嚥性肺炎になるリスクも高まります。
早いうちから予防的に呼吸リハビリを行うことで、それらのリスクを回避することが可能です。
⑥ リハビリの運動に伴うリスクの回避
リハビリの運動は少なからず身体に負担をかけます。
本来の運動というものは身体に負担をかけることで鍛えるものだからです。
しかし脳卒中片麻痺のリハビリには運動に伴うリスクも存在します。
例えば腰痛のリハビリの場合に、一般的な腰痛であれば良いのですが、高齢者の場合には「脊柱管狭窄症」を合併している場合があります。
後従靭帯骨化症や黄色靭帯骨化症なども同様です。
この場合は回避するべき運動があり、それを行ってしまうと、場合によっては脊髄損傷となって、新たな麻痺を引き起こしてしまう場合があります。
脳卒中リハビリには運動に伴うリスクも存在するのです。
ですから皆さんが在宅リハビリを行うにあたっては、十分にリスクの回避を行いながら運動を行って欲しいのです。
このウェブサイトでもリスク回避の方法については十分にご説明をしたいと思いますが、このウェブサイトでご紹介する運動を行う前に、皆さんの主治医や担当のリハビリ専門家に良く確認してから行われるようにお願い申し上げます。
関連ページ
1. 脳卒中片麻痺の転倒予防アプローチについて
2. 脳卒中 具体的な転倒予防をどうすればいいか?
3. 脊柱管狭窄症のリスクについて
4. 心臓ペースメーカーのリスク
読者様へのお願い
このウェブサイトは皆さんの在宅リハビリを応援するために様々なアイデアをご紹介しますが、残念ながら、皆さんお一人お一人をキチンと評価した上でご紹介するものではありません。
安全なリハビリを行うために是非とも主治医やリハビリ担当者の方々との連携をとってくださるようにお願い申しあげます。
次回は
「脳卒中片麻痺の関節拘縮と骨格筋のコンディション障害のリハビリ」
についてご説明いたします。
最後までお読みいただきありがとうございました
注意事項
※ このウェブサイトでご紹介する運動内容などは、皆様を個別に評価して処方されたものではありません。 実際のリハビリの取り組みについては皆様の主治医や担当リハビリ専門職とご相談の上行っていただきますようお願い申し上げます。
脳卒中片麻痺の自主トレテキストを作りました!
まずは第一弾として皆様からご要望の多かった、麻痺側の手を動かせるようにしたいとの声にお応えするために、手のリハビリテキストを作りました。
手の機能を改善させるための、ご自宅の自主トレで世界の最先端リハビリ手法を、手軽に実践する方法を解説しています。
超音波療法や振動セラピー、EMS療法による神経促通など、一般病院ではまず受けられないような、最新のリハビリアプローチが自宅で実行できます。
現在の日本国内で、このレベルの在宅リハビリは他にはないと思います。
そしてこのプログラムは施設での実施にて、すでに結果が認められています。
あとは皆さんの継続力だけですね。
テキストは電子書籍になっており、インフォトップと言う電子書籍の販売ASPからのダウンロードになります。
全180ページに数百点の写真と3D画像などで分かりやすく解説しています。
コピーが容易な電子書籍の性格上、少し受注の管理やコピーガードなどが厳しくなっていますが、安全にご利用いただくためですの、ご容赦くださいね。
ぜひ一度お試しください。