小児リハビリ

脳性麻痺のニューロリハビリ 身体図式に対する理解を深める!

 

はじめに

脳性麻痺に対する小児リハビリテーションのアプローチ方法として、ニューロリハビリテーションが注目されています。

このニューロリハビリテーションとは、最新の脳科学の理論に基づいて、お子さんの脳神経細胞の発達を促すための「運動学習」のアプローチを行う方法を言います。

小児ニューロリハビリテーションでは、脳性麻痺のお子さんに、効果的な運動制御の練習を繰り返し行ってもらう事で、脳の運動制御のための神経単位を育てたり、神経のシナプス結合を強化していきます。

この運動制御を繰り返す事で、神経単位を育てたり、神経細胞のシナプス結合を強化することを「運動学習」と呼びます。

しかしこの「運動学習」を効果的に進めるためには、お子さんの「身体図式」と呼ばれる意識が育っている事が、最低限必要な条件になります。

反対に、お子さんの運動神経に大きな問題がなく、将来的に手足を動かして、動作を自立できる可能性があったとしても、お子さんに「身体図式」が育っていなければ、運動機能の発達も起こらないという事になります。

ではこの「身体図式」と呼ばれる意識とは、いったいどういった意識なのでしょう。

今回は「身体図式」とはなにか、できるだけ分かり易く解説していきたいと思います。

どうぞよろしくお願いします。

 

「身体図式」と「身体イメージ」の違いについて!

あなたが自分の身体について考えた時、どんなことを思い浮かべるでしょうか?

それは例えば、「太っている」とか、逆に「痩せている」とかのイメージでしょうか?

あるいは「足が長い」とか、「手が短い」とかでしょうか?

「丸顔だ」とは「四角い顔だ」とかかもしれませんね。

こういった自分の身体に対して、思い浮かべる客観的なイメージは「身体イメージ」と呼ばれて、「身体図式」とは区別されます。

「身体図式」とは、もっと漠然とした主観的な、自分の身体に対する意識なのです。

 

たとえば、あなたが柿の木の下に立って、上を見上げたときに、柿の木の枝に、柿の実がなっていたとします。

あなたは一目で、その柿の実に手が届くかどうかが、だいたい分かってしまいます。

もし柿の実に手が届かないと思ったら、あなたは脚立を持ってくるか、地面に落ちている棒を拾って、柿の実をひっぱたいて落とそうとするでしょう。

この時に、あなたはどの位の長さの棒であれば、柿の実に届くかも、だいたい分かってしまいます。

これはあなたが、ご自分のだいたいの身長と手の長さを、漠然とした主観として理解しているからです。

これがあなたの「身体図式」になります。

また道を歩いていて、目の前に段差があった時に、その段差を一歩で乗り越えられるかも、段差を見ただけで、だいたい分かります。

これも「身体図式」による自分の身体の理解ですね。

自分の足の長さと、足を踏ん張る力と、体重から、どのくらいの段差なら乗り越えられるのか、あらかじめ分かっているのです。

 

「身体図式」と「運動制御」の関係について!

ここで少し運動制御について考えて見ましょう。

運動制御とは、自分の脳の運動神経細胞が、自分の手足に指令を出して、手足を動かせるという事ですね。

この時に自分の脳が命令して動かせるのは、あくまでの自分の手足です。

人の手足を動かすことはできません。

そんなのは当たり前ですよね、それができたら超能力の念力です。

 

では自分の脳が指令を出していないのに、勝手に手足が動いたらどうでしょう?

脳が指令を出していないのに、手足が動いた場合、脳は手足が、なにか他者によって動かされたと感じます。

つまりは他の人が、あなたの手足を持って動かしている場合や、波の力や風の力などの、自然の力で手足が動かされている場合などです。

つまり手足の運動に対する脳の反応は、次の2つになります。

⑴ 自分の脳が指令を出して、自分の手足が動いた場合 (自分で手足を動かしたと認識する)

⑵ 自分の脳が指令を出していないのに、自分の手足が動いた場合 (他人が自分の手足を動かしたと認識する)

といった感じになります。

こうして私たちの脳は、自分で手足を動かした場合と、他人が自分の手足を動かした場合の違いを認識しているのです。

だから他人にくすぐられると、自分でくすぐるよりも、ずっとくすぐったく感じるのですね。

つまりは脳の認識の違いが、感じ方の違いになっているのです。

自分の脳が命令して、手足が動いた場合と、脳が命令していないのに、手足が動いた場合の、脳の認識の違いが、これでよくわかると思います。

 

脳が命令しているのに手足が動かなかった場合!

それでは次に、自分の脳が命令を出しているのに、手足の動きがなかった場合はどうなるでしょう?

じつは脳が命令を出しているにも関わらず、手足が動かなかった場合、脳がパニックになることがわかっています。

脳が手足を動かそうと、命令を出しているのに、実際には手足が動かなかった場合、あるいは手足を動かしたという感覚が脳に戻らなかった場合、脳はパニックに陥ります。

そしてパニックに陥った脳の運動神経は、混乱しながら、さらに強い命令を手足に対して出すようになります。

その結果として、手足の筋肉はどんどん硬く緊張していきます。

またシビレや痛みなどの、異常な感覚も発生してきます。

つまり脳性麻痺のお子さんの、手足のこわばりは、神経の障害による症状ではなく、運動制御の混乱による2次的な問題で起きていて、それはリハビリで解決できる可能性があるのです。

では脳の運動神経が命令しているのに、手足の運動の感覚が脳に戻されない(フィードバックされない)のは、いったいどういった場合に起きるのでしょうか?

それには以下のような3つの場合があります。

⑴ 実際に手足の筋肉が麻痺していて動かない場合

⑵ 手足の筋肉がこわばっていることで筋肉の感覚センサーが働いていない場合

⑶ そもそも自分の手足を自分のものだと認識できていない場合

 

この3つの原因について、それぞれについて見て行きましょう。

 

⑴ 実際に手足の筋肉が麻痺していて動かない場合

まず⑴の「実際に手足の筋肉が麻痺していて動かない場合」ですが、これは本来であれば、あまり無いはずなのです。

なぜならば前提として、脳の運動神経が命令を出していないと、そもそものこの命題が成立しないからです。

⑴ の場合は、脳が命令を出さなくて、手足も動かない状態になってしまいます。

まあこれはこれで問題なのですが。

 

⑵ 手足の筋肉がこわばっていることで筋肉の感覚センサーが働いていない場合

筋肉の線維の中には、その筋肉がどれくらい動いたかを測る、感覚センサーが入っています。

そして筋肉がこわばっていると、この筋肉の線維内にある感覚センサーが、うまく働かなくなってしまいます。

そうなると実際には手足はいくらかは動いているのですが、自分の手足が動いているという感覚は、脳にはフィードバックされないという事になります。

脳性麻痺のお子さんは、未成熟な状態で、お母さんのお腹の中から生まれ出てきた瞬間から、生きるか死ぬかの試練に晒されます。

そしてそのストレスが、自律神経系の緊張を生み出し、お子さんの手足の筋肉をカチカチにこわばらせてしまいます。

そしてこわばった筋肉の、感覚センサーが働かない事で、脳の運動の命令に対する、感覚フィードバックが起こらず、脳の運動神経が混乱してしまうのです。

ですからこのような場合は、とにかく手足の筋肉を、きちんと柔らかくなるまで揉みほぐすことが大切になります。

 

⑶ そもそも自分の手足を自分のものだと認識できていない場合

この⑶ の「そもそも自分の手足を自分のものだと認識できていない場合」というのが、「身体図式」の未発達によるもので、今回のテーマになります。

大人であれば、自分の肩から生えている腕や、その先にある手や指は、自分のものであると認識しているのが当たり前です。

しかし生まれたばかりの赤ちゃんには、その自分の手足に対する「身体図式」がありません。

これは生後しばらくしてから、徐々に「身体図式」が育ってくるからなのです。

ですから、なんらかの原因で、この「自分の手足が自分のものである(他人の手足ではない)」という「身体図式」が育っていないと、いくら脳が命令して手足の運動を行っても、運動学習が行われません。

なぜならば、そもそもその動いている手足を、自分の手足であると認識できていないからです。

 

「身体図式」はどこからくるのか?

赤ちゃんが生まれてから、「身体図式」はどのようにして育ってくるのでしょうか?

健康な赤ちゃんの場合、生後4ヶ月くらいで、目の前で両手を合わせて遊ぶようになります。

本能的に手を動かして、左右の手が、偶然目の前で行きあって、自分の目で、手の形や動きを確認しながら、手を動かして遊びます。

この時に、自分の脳が命令した通りに、手が動くことで、これは自分の手であると気がつくのです。

このようにして赤ちゃんは、自分の手の動きや形に対する「身体図式」を育てて行きます。

また生後5ヶ月から6ヶ月くらいで、自分の足を高く持ち上げて、手で足を触って確認するようになります。

赤ちゃんの体は、とても柔らかいので、両足がラクラクと目の高さにまで持ち上がってきます。

そうして足に対する「身体図式」も、育って行きます。

 

このようにして、健康な赤ちゃんの場合、親がほったらかしにしておいても、自動的に「身体図式」が育って行って、運動学習が始まり、運動機能の発達が促進されていく仕組みがあるのです。

 

脳性麻痺のお子さんはほったらかしでは「身体図式」が育ちません!

脳性麻痺のお子さんも、生まれてからしばらくの間は、自分で手足を動かしている場合が、結構あります。

しかしそれが運動機能の発達に繋がらず、次第に手足を動かすことがなくなってくる場合が、結構あります。

これはどうしてなのでしょうか?

 

運動神経や感覚神経の未成熟

まず第一の問題点として、「運動神経や感覚神経の未成熟」が挙げられます。

脳性麻痺のお子さんの場合、せっかく本能的に手足を動かしても、その運動情報を受け取る、神経細胞が未成熟なため、予定どうりに神経が反応して、「身体図式」を作れない可能性があります。

そうして未成熟な神経細胞が、十分に反応する前に、脳の運動神経系の混乱が起きて、手足の筋肉がこわばり始めてしまうのです。

 

十分な手足の運動ができていない

またこれは神経細胞の未成熟と関係するのですが、そもそも十分な手足の運動量が確保できないため、運動学習や感覚フィードバックが十分に行われていない可能性があります。

こう行ったケースの場合には、お子さんが自分一人で、本能的に手足を動かすだけでなく、専門家による計画的な運動アプローチによる、サポートが必要になってきます。

 

生後早いうちに手足の筋肉がこわばってしまい感覚フィードバックが出来ていない

また脳性麻痺のお子さんは、脳の神経細胞だけでなく、呼吸器の肺や気管支が未成熟であったりするため、生後すぐに生きるか死ぬかのストレスに晒されます。

そのことで生まれたからすぐに、手足の筋肉がストレスによって、かたくこわばってしまいます。

そうなると、もう正常な運動による感覚フィードバックが発生しませんから、脳の運動神経系は、あっという間にパニック状態に陥ってしまい、「身体図式」を育てるどころではなくなってしまいます。

 

このように脳性麻痺のお子さんの場合、自力での「身体図式」の発達が難しい場合が多く、専門的なサポートが不可欠なのです。

しかし専門的なニューロリハビリテーションによるアプローチを行うことで、多くの脳性麻痺のお子さんが、正常な運動発達を獲得できる可能性もあるのです。

 

まとめ

脳性麻痺のニューロリハビリテーションでは、脳の運動学習によって、神経単位を増やしたり、神経細胞のシナプスを強化して、運動機能の発達を促します。

運動学習は、適切な運動制御を繰り返し練習することで、行われます。

適切な運動制御には、「身体図式」が育っていることが必要最低限の条件になります。

脳性麻痺のお子さんの「身体図式」を育てるには、専門的なニューロリハビリテーションによるサポートが不可欠です。

しかし専門的なニューロリハビリテーションによって、「身体図式」を育てることに成功すれば、そこから飛躍的な運動発達の可能性が開かれます。

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたのお子さんの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

 

 

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