小児リハビリ

脳性麻痺の赤ちゃんはどうして「いかり肩」になるのか?

 

はじめに

脳性麻痺のお子さんが、「いかり肩」になっているのをよく見受けます。

脳性麻痺のお子さんは、呼吸器である肺や気管支が未成熟で生まれることも多く、気管切開チューブをいれている場合もあります。

そして「いかり肩」になっていると、この気管切開チューブを固定するためのテープをクビに巻くのですが、そのテープが見えないくらい、みなさん肩をすくめています。

そして赤ちゃんのお母さんは、「私はなで肩なのに、どうしてこの子はこんなに肩がいかっているのかしら」」なんて言っています。

でもこの「いかり肩」ですが、これは脳性麻痺の赤ちゃんが生まれた後に、2次的に起こっている現象なのです。

さらにこの「いかり肩」は、キチンとリハビリテーションすれば、治ってしまいます。

それどころか、キチンと治しておかないと、あとあと赤ちゃんの運動発達に、とんでもなく悪影響を及ぼす可能性もあるのです。

今回は、脳性麻痺のお子さんの「いかり肩」について、その原因とリハビリテーション方法について解説したいと思います。

どうぞよろしくお願いします。

 

どうして脳性麻痺の赤ちゃんは「いかり肩」になるのか?

脳性麻痺の赤ちゃんは、多くの場合、身体のいろいろな部分が未成熟のまま生まれてきます。

たとえば肺や気管支が未成熟で生まれると、生まれてからすぐに、赤ちゃんは呼吸困難になってしまいます。

これは気管支が未成熟で細いために、息をする時に抵抗が強く、呼吸が苦しくなってしまうからです。

たとえばストローをくわえたまま、そのストローを通して、息を吸ったり吐いたりすると、十分に息が吸えなくて、とても苦しい思いをします。

赤ちゃんはそんな状態になっていると思ってください。

そんな状態で呼吸していると、赤ちゃんは苦しいために、自然と肩に力が入って、「いかり肩」になってしまいます。

そして慢性的に呼吸の苦しさが続くことで、この「いかり肩」は、ずっと続くクセのようなものになってしまい、元に戻らなくなってしまうのです。

ここでは呼吸器の未成熟の例をご紹介しましたが、このように赤ちゃんが未成熟で生まれてくることで、生後に起きるさまざまなストレスが、その赤ちゃんを「いかり肩」にしてしまうのです。

 

赤ちゃんが「いかり肩」だとどんな問題がおきますか?

さてこの脳性麻痺の赤ちゃんの「いかり肩」ですが、ただ肩がいかっていると言うだけなら、「ウチの子はジャミラの真似が上手だわ(m(_ _)m)」くらいで済むのですが、そうはなりません。

赤ちゃんの肩がいかっていることは、後々さまざまな問題となってきます。

 

⑴ 肩のこわばりが腕や手のこわばりに移ってきます

あなたがもし、肩がずっとこわばった状態だったとしたら、腕や肘も力が入ったままになると思いませんか?

赤ちゃんも、肩に力が入ったままだと、その下の腕や手にも力が入ってしまいます。

その状態が慢性的に長く続くと、やがては腕全体が、こわばってしまうのです。

親御さんが、保育器からやっと出てきた我が子を抱く時に、すでに赤ちゃんの手足が硬くなってしまっていることが、ほとんどですが、その手足が硬くなってしまった原因は、案外こんなことだったりします。

じつはその筋肉のこわばりは、神経の麻痺による症状ではない可能性も高いのです。

 

⑵ 腕の運動発達が遅れます

試しにあなた自身で、ご自分の肩をいからせたまま、両手を頭の上まで挙げてみてください。

上がらないでしょう!

大体は目の高さまでくらいしか上がりませんよね。

あなたは大人で、これまでに両手が耳につくくらい、まっすぐに腕を上げたことがありますから、「あれ肩がいかっていると腕が上がらない」と感じます。

でも生まれたばかりの赤ちゃんは、自分がそこまで腕を上げた経験がありません。

だから、もし赤ちゃんの肩がいかっていて、腕が目の高さまでしか上がらなかったとしたら、その赤ちゃんはどう感じるのでしょう?

そうです「自分の腕は目の高さくらいまでしか動かない」と思い込んでしまいます。

しかもその肩は、緊張してこわばっていますから、そのままではほとんど動きません。

脳性麻痺の赤ちゃんが、手足が動かせないのは、手足を動かす運動神経が麻痺しているのではなく、自分の手足が動くという認識がないので、動かない場合もあるのです。

ヒトは出来ると信じていなければ、絶対にできるようになりません。

脳性麻痺のお子さんは、この「出来る」という経験を積むことが少ないため、「自分はできる」という観念を持つことがないのです。

そしてそれが運動発達を大きく妨げる原因となっています。

 

⑶ 肺炎などになりやすくなります

肩がいかっていると、肺炎になりやすくなります。

とは言っても、それだけでは何の事か分かりませんよね。

少し分かり易くご説明しますね。

まずものはためしで、ご自分で肩を思いっきり、いからせてみてください。

そしてそのまま深呼吸をしてみましょう。

どうですか、深呼吸、やりずらいでしょう!

これはどうしてかというと、肩をいからせるという事は、胸郭を上に引き上げるということになります。

胸郭が上に引き上げられると、横隔膜が平べったくなるので、呼吸がしずらくなるのです。

 

ごめんなさい。

もう少し分かり易く説明しますね。

私たちは、横隔膜という筋肉を使って呼吸しています。

この横隔膜は、肺の下にくっついているドーム型の筋肉で、端っこは胸郭の下の縁にくっついています。

この横隔膜が緊張すると、ドーム型が下に引き下げられて、肺を引っ張って広げるために、肺の中に息を吸い込むことが出来るのです。

ところが肩をいからせて、胸郭を上に引き上げると、横隔膜の端も引き上げられてしまい、そのドーム型が平べったくなってしまいます。

すると平べったいドームでは、横隔膜が緊張しても、それほど肺を引っ張ることができなくなって、息を吸うことができなくなるのです。

ですので呼吸する力が弱くなってしまっているために、風邪を引いたり、痰が詰まったりしただけで、簡単に肺炎になってしまうのです。

 

このように赤ちゃんの肩がいかっていると、面倒な問題が次々と起こってきます。

ですから適切なリハビリテーションを行って、しっかりとこの「いかり肩」を治しておきましょう。

 

「いかり肩」をなおすリハビリテーション方法

この肩を上に引き上げているのは「肩甲挙筋」と呼ばれる筋肉です。

ですので「いかり肩」のリハビリテーションは、この「肩甲挙筋」をマッサージしてほぐしてやるだけです。

肩甲挙筋は、肩甲骨の上側の縁の、いちばん内側の角から、首の横に向かって付いています。

場所はちょうど、あなたが肩が凝ったと感じてもみほぐす、ちょうど肩の上の縁の辺りの、筋肉が盛り上がったところです。

ここの筋肉の盛り上がりの中に、骨のように硬くシコった部分があります。

ここをゆっくりと揉みほぐしてやります。

どうです、簡単でしょう!

はじめはなかなか柔らかくなりにくいですが、毎日少しずつ続けると、やがてその部分の筋肉が柔らかくなってきます。

そうすると自然に「いかり肩」も治ってくるのです。

親子のスキンシップの一環として、ぜひやってみてくださいね。

よろしくお願いします。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたのお子さんの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

 

 

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