脳卒中リハビリ

脳卒中片麻痺の体幹の姿勢制御機能を回復するニューロリハビリテーション

脳卒中片麻痺の体幹の姿勢制御機能を回復するニューロリハビリテーション

 

 

はじめに

姿勢制御と言うと大げさですが、何か手を使って作業をする時にも、きちんと真っ直ぐに歩くためにも、姿勢が安定していることが一番の前提となります。

脳卒中片麻痺の手の機能や歩行能力を改善するためにも、姿勢制御がきちんとしていて、身体が常に安定した状態を保てていることがとても重要になります。

今回は正常な状態での姿勢制御はどのように行われているのか?

脳卒中片麻痺の姿勢制御にはどんな問題が起きているのか?

そしてそれを解決するための方法として、最新のニューロリハビリテーションの手法を用いたアプローチを在宅で行う方法について解説してみたいと思います。

 

正常な状態での姿勢制御について!

揺れる影

あなたががじっと椅子の上で座っている時、あるいは駅のホームなどで立っている時、あなたの体はゆっくりと揺らいでいます。

あなたの足元の影を見れば、影は常にユラユラと揺れていることに気がつくでしょう。

そして揺らいでいるのは、あなたの身体の外側の部分だけではありません。

あなたは常に呼吸しています。

あなたの心臓は休まずに脈打っています。

あなたの全身を血液が流れ続けています。

あなたの眼は常にあたりを見回しており、それに合わせて顔も左右に動いています。

手は顔に触ったり、髪を撫でてみたり、膝をさすったりしています。

それに合わせて全身の筋肉は、その太さと長さと硬さをめまぐるしく変えています。

揺れているのは、あなただけではありません。

あなたを取り巻く外の世界も揺れています。

風が吹いています。

雲が流れて急に強い日差しが差し込んできます。

目の前を電車が走り抜けるとホームが細かく揺れます。

隣に立っている人のカバンが足に当たります。

あなたも世界もすべて揺れています。

その中であなたは座り続け、あるいは立ち続けています。

 

つまりあなたは止まっているように見えて、常に動いており、その中で必要な安定した姿勢を維持し続けているのです。

 

ではどのような働きがそれを可能にしているのでしょうか?

 

まずは正確な姿勢制御をするためには身体の状態をキチンと把握するセンサーが必要ですね。

 

姿勢制御を行うための自己身体の認知情報の生成(身体図式)

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もし誰かがあなたの腕に触ったら、その手が大きな男の手か、小さな女の手かぐらいはわかりますよね。 またあなたが目の前の物を触ったり持ち上げたりした時に、その物の質感や重さが感覚として伝わってきます。

 

しかし姿勢制御に利用されるのは、こういった一次体性感覚野で得られるような、強く意識されるような感覚情報ではありません。

姿勢制御に利用されるのは「身体図式(body schema)」と呼ばれる、空間における自己身体の姿勢や身体の各部位の状態を表象するメカニズムです。

 

皆さんは街角で立っている時などに、自分の腕がどの辺りにあって肘がどのくらい曲がっているのか、手を開いているのか握っているのか、手を見なくても分かりますよね。

足がどのくらい開いているのか、立っている地面が平らなのか、傾いているのか、デコボコしているのか見なくても分かります。

そしてこれらの感覚情報は、強く意識に上ることもなく、しかし常に生成され続けています。

 

これらのあまり意識にのぼらない、空間の中での自分の位置や姿勢を感じ取る感覚によって、私たちは姿勢を制御しています。

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これを「身体図式(body schema)」と呼びます。

この「身体図式(body schema)」は頭頂連合野にて以下の感覚を統合して生成されます。

「身体図式(body schema)」の統合に関わる感覚情報

  1. 視覚
  2. 体性感覚
  3. 平衡感覚
  4. 聴覚

これらの感覚情報を統合して「身体図式」や「空間認知情報」など、姿勢制御を行うための自己身体の認知情報の生成を行っているのです。

生成された「身体図式」や「空間認知情報」などは『高次運動野』に送られ姿勢制御に利用されます。

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またこれらの感覚情報は頭頂連合野だけでなく以下の神経領域にも送られています。

  1. 脳幹網様体
  2. 小脳虫部
  3. 視床
  4. 頭頂連合野以外の大脳皮質

これらの神経領域は、どれも運動コントロールに重要な機能を果たしています。

 

ではこれらの感覚情報から得られた「身体図式」や「空間認知情報」など、姿勢制御を行うための自己身体の認知情報の生成がなされたのち、どのようにして実際の姿勢制御を行っているのでしょう。

 

姿勢制御とは、要するに身体の運動コントロールによる姿勢の制御のことです。

では私たちの身体の運動コントロールはどのようになされているのでしょうか?

 

主な運動コントロールのための神経ネットワーク

運動コントロールのための神経ネットワークには主に以下の2つが挙げられます。

  1. 皮質脊髄路
  2. 皮質-網様体脊髄路

 

『皮質脊髄路』の働き

  1. 皮質脊髄路は大脳皮質の一次運動野と一次感覚野から始まる。
  2. 主に顔や手足の随意的(意識した)運動をコントロールする。
  3. 一次運動野の皮質の場所と手足の運動部位に、相互に関連する体部位局在がある。
  4. 大脳皮質の一次運動野は大脳基底核と視床との間に『皮質-基底核-視床-皮質』の運動コントロールに関わる閉鎖ループを形成している。
  5. この運動神経は収束して、大脳基底核と視床の間に挟まれた、「内包」を通過する。
  6. 延髄で皮質脊髄路の神経ニューロンの80~90%が反対側に交差(錐体交叉)して、対側の外側皮質脊髄路となり脊髄を下行し、目的となる脊髄の運動神経細胞に接続する。
  7. 外側皮質脊髄路は単シナプス接続なため、巧緻動作(細かくて複雑な作業)に有利。
  8. 錐体交叉しなかった残りの10~20%のニューロンは、同側の前皮質脊髄路として脊髄を下行し、目的となる脊髄の運動神経細胞に接続する。
  9. 皮質脊髄路はほぼ対側性(片側のみ)の神経支配なため、脳卒中による麻痺が強く出やすい。

皮質脊髄路を運動プログラムが下行する流れ

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① 高次運動野(補足運動野・運動前野)で意識的な運動プログラムが作られ、一次運動野に伝えられます

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② 一次運動野と一次体性感覚野で作られた意識した手足の運動プログラムはいったん大脳基底核と視床の運動コントロール回路に送られます

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③ 視床では様々な感覚が統合され運動調節や運動の熟練を行い、一次運動野にフィードバックします。 私たちがカップを取ろうと思うだけで、あまり細かな腕や手先の動作の調節を意識しないでカップが取れるのは、この「基底核ー視床」の運動コントロールのおかげです。

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④ 視床からフィードバックされた運動プログラムは、最後に一次運動野から皮質脊髄路のニューロンとなって、内包を通過し、延髄でその90%が反対側に錐体交叉し、対側は外側皮質脊髄路として、また残された同側は前皮質脊髄路として脊髄を下行します。

 

 

『皮質-網様体脊髄路』の働き

  1. 皮質-網様体脊髄路は大脳皮質の補足運動野と運動前野から始まり橋・延髄・脳幹網様体に両側性に投射してから、脊髄の網様体脊髄路を下行する。
  2. 姿勢制御に必要な全身の筋緊張レベルの調節を行う。
  3. 体幹や上下肢の姿勢やアライメントの調節を行う。
  4. 脳幹網様体には大脳基底核や間脳、小脳などからも神経入力を受けている。
  5. 中脳などにある「歩行誘発中枢」からも入力を受けている。
  6. 脊髄の各レベルにある「中枢歩行パターン生成器(CPG)」の調節に関与している。
  7. 皮質-網様体脊髄路の神経支配が両側性のため、脳卒中による麻痺の影響を受けにくい。

皮質-網様体脊髄路を姿勢制御プログラムが下行する流れ

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① 頭頂連合野で作られた「身体図式(body schema)」をもとに、意識した手足の動作に先行して、準備動作を行う「予期的姿勢制御プログラムを高次運動野(補足運動野・運動前野)で作成します。

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② 高次運動野(補足運動野・運動前野)から脳幹網様体に投射したのち、網様体脊髄路として両側性に脊髄を下行します。 網様体脊髄路は網様体で様々な感覚入力や大脳基底核、小脳、中脳歩行誘発中枢などからのコントロールを受けています。

 

上記のことをまとめると

『皮質脊髄路』は意識して行う手足の細かくて複雑な動作をコントロールしているが、神経支配が片側に偏っているため、脳卒中片麻痺の影響を受けやすく、手足が片麻痺になりやすい。

『皮質-毛様体脊髄路』は意識または無意識の姿勢制御や、そのための全身の筋緊張レベルの調節をコントロールしており、神経支配が両側性のため、その機能は脳卒中片麻痺の影響を受けにくいため、姿勢の制御をする背骨の両側の筋肉などは麻痺しにくい。

『皮質脊髄路』『皮質-網様体脊髄路』のいずれも、その運動コントロールを行うために、大脳基底核、視床、小脳などの運動コントロールを行うパラレル回路と密接に連携している。

 

ではこれらの神経ネットワークによりどのように姿勢制御を行うのでしょうか?

 

姿勢制御の実際

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姿勢制御を行う上で重要なのが、先行性姿勢制御と呼ばれる機能になります。

つまりは何か随意的な運動(座っていて目の前のテーブルのカップを持ち上げようとするなど)に先行して、その動作を行うのに最適な姿勢とバランスを準備しようとする機能で『予期的姿勢調節』と呼ばれています。

目的とする動作をスムースに行うために、次に起きることを予測して体制を整えておく機能と言えます。

 

この『予期的姿勢調節』は「皮質-網様体脊髄路」でコントロールされます。

 

先行性姿勢制御の作業仮説

先行性姿勢制御は以下のように行われるのではないかと仮説がなされています。

  1. まずは何らかの随意的な運動(座っていて目の前のテーブルのカップを持ち上げようとするなど)のプログラムが高次運動野(補足運動野+運動前野)で生成されます。 この時生成されるプログラムは「目的とする意識的な動作のプログラム」と「これを可能にする先行性姿勢制御のプログラム」の2つが作成されます。
  2. 姿勢制御プログラムは高次運動野(補足運動野+運動前野)から始まる皮質-網様体脊髄路系を介して「構えの姿勢」や「予期的姿勢調節」などの先行性姿勢制御を実行します。
  3. 目的とする意識的な動作プログラムは高次運動野から意識的に手足を動かす運動野(一次運動野)に伝達され、一次運動野で生成される巧緻動作の指令が「皮質-基底核-視床-皮質」の運動コントロール回路で調節されたのち、皮質脊髄路を介して実行されます。

姿勢制御の動作の流れ

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① テーブルの上のカップを持ち上げようとする。 これを意識して運動プログラムを開始します。

② 腕を伸ばしてカップを持ち上げるために、姿勢のバランスが崩れないように身体の軸を調節します。 さらにカップの持ち手を指先で持つ動作のために、最適な肩や肘の角度を調節します。

この運動はほとんど意識されません。

③ 意識した動作としてカップに手を伸ばします。 この時に手の伸ばし方やカップの握り方の強さは運動調節回路により自動調節されて細かい動作の調節は無意識に行われます。

 

私たちの意識した運動と姿勢制御はこのようなプログラムを連続して処理することで成り立っています。

 

では脳卒中片麻痺の姿勢制御にどんな問題が起こっているのか?

脳卒中片麻痺の姿勢制御の問題点を少し分かり易くまとめてみましょう。

 

脳卒中片麻痺の姿勢制御の問題点

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まずはじめに姿勢制御のプログラムは高次運動野で次の2つが作成されます。

  1. 目の前のカップを持ち上げるなどの意識した目的の動作
  2. その動作を行うために先行して必要な姿勢制御(予期的姿勢制御)

②の姿勢制御のプログラムを先に実行します。

このプログラムの実行は大脳皮質の補足運動野や運動前野から脳幹網様体に伝えられ、延髄で両側性に分かれたのち網様体脊髄路として脊髄を下行します。

この運動制御ネットワークは、体幹の筋肉と両手両足の肩や腰の付け根に近い筋肉の運動をコントロールします。

 

『皮質-網様体脊髄路系』のコントロール機能の衰え

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脳卒中片麻痺の場合の姿勢制御でのこの『皮質-網様体脊髄路系』での問題点は、この経路が両側性の神経支配なので、脳卒中片麻痺による影響を受けにくいため、一見は問題がなさそうなのですが、片側分の両側の神経回路が障害されていますので、体幹運動などの左右差は少ないのですが、運動機能自体は両側性に反応速度や筋肉の出力が低下していると考えられます。

つまり見た目には問題なさそうな状態に見えて、病前からすると、姿勢制御のために体幹や肩・骨盤などを動かして調整する機能は衰えていると考えられます。

 

『皮質-網様体脊髄路系』でコントロールされる筋群の障害

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脳卒中の急性期に長期に寝たきりになったり、自律神経系の問題で手足の筋肉が浮腫んだり、興奮性ニューロンと抑制性ニューロンのバランスが崩れて、麻痺側の筋肉が緊張するなどして、全身の筋肉が硬く強張ってしまうことが問題になります。

集中治療室(ICU)で寝ている脳卒中患者さんのほとんどは、背中の筋肉がガチガチに強張って、洗濯板の様に硬くなっています。

この悪い姿勢制御筋の状態は退院後にも継続されてしまいます。

ですから『皮質-網様体脊髄路系』も神経ネットワークで姿勢を制御しようとしても、肝心の姿勢を制御するための筋肉が硬く強張っていて、身体が思う様に動かないという状態になってしまいます。

これではいくらリハビリテーションを頑張っても正しい「脳の可塑性」を引き出してスムースで上手なバランス反応を獲得することは難しいですよね。

どんどんと強張って力んだ身体の動かし方になってしまいそうです。

 

『皮質脊髄路系』での手足の意識的な運動の障害

次に皮質脊髄路による意識した動作のコントロールが脳卒中片麻痺の影響を受けてどうなるかを考えます。

意識的に手足を動かす動作をコントロールしている『皮質脊髄路』はその神経のほとんどが延髄で錐体交叉して反対側の手足の運動を支配しますから、神経支配はほぼ片側のみになります。

ですから『皮質脊髄路系』の障害で片側の手足が動かなくなって「片麻痺」になるのです。

この手足の片麻痺は2つの点で姿勢制御に影響を与えます。

麻痺側の手足が動かないことで姿勢制御がしにくくなる

『皮質-網様体脊髄路系』では姿勢制御のための筋肉のコントロールはなんとか行えています。

しかし『皮質脊髄路系』で支配されている手足の筋肉は麻痺してしまいます。

例えば座っている時に骨盤を安定させるためには、両足に軽く力を加えることで、骨盤の前後左右の傾きを調節しています。

脳卒中片麻痺で麻痺側の足が硬く強張って動かせない場合、座っていても麻痺側の骨盤が安定しないため、姿勢制御筋がうまく働けなくなってしまいます。

いくら肩や背骨を動かしても、肝心の骨盤が傾いていたりグラグラしていては、正しく姿勢を制御することは出来ません。

また麻痺側の腕の筋肉が麻痺して、腕がダランと垂れ下がっていたら、麻痺側の肩を上手に動かして、姿勢を調整することが難しくなってしまいます。

ですから正しい姿勢制御のためには、ある程度の意識的な手足の運動機能を回復させていくことが必要になるのです。

 

意識した目的動作ができないことで「予期的姿勢制御」が完了できない

姿勢をコントロールするための「予期的姿勢制御」は目的とする意識的な動作をサポートするための機能です。

ですがその目的とする意識的な動作が片麻痺のために実行できないと「予期的姿勢制御」は無駄になってしまいます。

また「予期的姿勢制御」で準備された姿勢と、実際の意識的な動作がかみ合わないと、姿勢制御のコントロール自体が乱されてしまいます。

「予期的姿勢制御」の機構は運動学習により身についたものですから、身体の機能やバランスが、片麻痺により違うものになってしまうと、それまでの運動学習で身につけた予測動作が通用しなくなり、正しいバランス反応ができなくなってしまいます。

 

これらの問題で脳卒中片麻痺の姿勢制御は上手くいかなくなるのです。

では実際の脳卒中片麻痺の姿勢制御ではこれらのことから、どの様な問題が起きるのでしょう?

 

脳卒中片麻痺の病的な姿勢制御

脳卒中片麻痺では急性期の寝たきりや緊張で、背骨の周囲の筋肉(脊柱起立筋群)がカチカチに強張ってしまいます。

このため背骨や体幹がしなやかに動くことが出来ずに、スムースなバランス反応ができなくなります。

これでは何かの動作をするたびに転びそうになるわけですから「恐怖感」を感じる場合もあります。

 

また麻痺側の腕が麻痺によってダランと下がるか、強張って曲がったままになるかの状態になりやすいので、肩を動かしたり、バランスをとるために麻痺側の腕を振るなどの動作ができなくなります。

 

麻痺側の脚も骨盤の傾きに応じて、力を入れたり緩めたりして、骨盤の傾きを調節することができなくなります。

 

これらのことから麻痺側に体重を移動することが「怖い」「危ない」と感じて、麻痺側に身体を傾ける動作を回避するようになります。

 

この結果として常に健側の後方に重心を置いて、健側の腕や肩の振りで上半身のバランスをとり、健側の脚の力の調節で骨盤の傾きを調節するようになります。

常に健側に身体を傾けていますから、健側の背骨や体幹を動かす筋肉(脊柱起立筋群)は常に緊張して硬く強張っていきます。

麻痺側の背骨や体幹を動かす筋肉(脊柱起立筋群)はあまり使われなくなるので、萎縮していきます。

 

また常に身体が傾いていることで、頸部の脊柱起立筋群の筋緊張が左右で違ってしまうことで、前庭脊髄反射などに影響が出て、めまいやふらつきの原因になる場合もあります。

 

このようにして脳卒中片麻痺の姿勢制御は間違った方向に進んでいってしまうのです。

しかしこの一連の流れも、脳卒中後の麻痺した身体を使って、なんとか動こうとする工夫による「脳の可塑性変化」が間違った方向に起きていることになるのです。

脳卒中片麻痺の姿勢制御に対するリハビリテーションは、この間違った方向の「脳の可塑性変化」を食い止めて、正しい方向に切り替える必要があります。

 

正しい脳卒中片麻痺の姿勢制御の獲得方法

 

姿勢制御筋である脊柱起立筋群のコンデイションを整える

脳卒中後の姿勢制御機能を正しく改善するためには、まずは末梢の端末である姿勢制御筋である脊柱起立筋群をコンディションを整えて、背骨をスムースに動かせるようにすることが大切です。

姿勢制御筋である脊柱起立筋群の状態を整えることで、脳からの運動指示もスムースに伝わりますし、その運動の結果を感覚フィードバックするための、筋肉の感覚センサー(筋紡錘・ゴルジ腱器官)も正しく働くようになります。

 

両側の肩の運動機能を高めていく

上体のバランス反応を高めるために、肩甲帯と腕がなるべく動きやすい状態にします。

特に急性期の浮腫などによる筋肉のこわばりをマッサージなどでほぐしておくと、その後の運動もやりやすくなります。

 

両側の脚の運動機能を高めていく

骨盤の傾きを調節するために、脚をなるべく動きやすい状態にします。

これも股関節周囲の筋群や太ももやふくらはぎの筋肉の強張りをマッサージなどでほぐしておくと、その後の運動もやりやすくなります。

 

姿見(鏡)などを利用して身体の前後左右の軸を調節する

脳卒中片麻痺では超初期の回復時期より、健側への重心のシフトが行われています。

また腹筋や背筋の筋力低下により、骨盤が後方に傾くことで、重心が後方にシフトしています。

これらの重心軸を鏡を見て視覚によるフィードバックと体性感覚によるフィードバックを併せて行いながら、重心線をなるべく身体の中心に戻していきます。

 

その状態から、前後左右への体重の移動を音楽などに合わせながら、リズミカルに運動する練習などを行っていきます。

 

左右方向へ身体を捻る運動をする

初めは横になっての寝返りの練習を、左右両方向にスムースに行えるように、肩や顔の回転や、脚と骨盤を連携して動かす練習などに注意しながら行います。

また座位姿勢でも、左右へ上半身を捻る運動を音楽に合わせてリズミカルに行う練習などを行っていきます。

これらの体幹の前後左右への重心移動と捻り運動は、肩や腕と、あるいは骨盤と脚との連携も重要になります。

 

これらの運動を根気強く継続することで、正しい姿勢制御を獲得していきます。

 

姿勢制御はその後の手の動きの改善や歩行の改善の基礎になる大切な部分です。

姿勢制御を疎かにしては手の動きも歩行も改善することは難しいと考えます。

まずはキチンとした座位や立位での姿勢制御を獲得してください。

 

 

まとめ

姿勢制御は『皮質脊髄路系』による手足の意識的な運動と『皮質-網様体脊髄路系』による体幹や肩や骨盤の無意識的は運動を併せて行っている。

 

『皮質-網様体脊髄路系』は両側性の神経支配なため片麻痺は出現しないが、両側性に姿勢制御の機能が低下する。

 

『皮質脊髄路系』片側神経支配なため、脳卒中で手足の片麻痺が出現する。

 

肩や腕の片麻痺が上体の姿勢制御を阻害する。

 

脚の片麻痺が骨盤の傾きを調節する機能を阻害する。

 

脳卒中急性期の長期臥床や体幹・手足の浮腫が姿勢制御筋のコンディションを悪化させ、姿勢制御のニューロリハビリテーションの妨げとなる。

 

その結果として脳卒中片麻痺では、麻痺側の後方に重心を移動して、麻痺側の体幹や肩、骨盤の運動に偏った姿勢制御を間違って学習してしまう。

 

正しい脳卒中片麻痺後の姿勢制御を獲得するためにしかのケアを行う。

  1. 姿勢制御筋である脊柱起立筋群のコンデイションを整える
  2. 両側の肩の運動機能を高めていく
  3. 両側の脚の運動機能を高めていく
  4. 姿見(鏡)などを利用して身体の前後左右の軸を調節する
  5. 左右方向へ身体を捻る運動をする

 

 

以上脳卒中片麻痺の姿勢制御のためのニューロリハビリテーションの解説を行いました。

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

 

次回は

「脳卒中片麻痺の歩行機能を回復するニューロリハビリテーション」

の解説を行います。

 

関連記事

「脳卒中片麻痺を治す最新の脳科学に基づく脳卒中ニューロリハビリテーションの在宅での実施方法」

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

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