脳卒中リハビリ

脳出血(被殻出血・視床出血)の麻痺が治る可能性について!

脳出血(被殻出血・視床出血)の麻痺が治る可能性について!

 

 

はじめに

20世紀の長い間、「脳卒中の麻痺は治らない」と信じられてきました。

それはスペインの神経解剖学者である Cajal 博士が「一度破壊された成体の神経細胞は二度と再生しない」とおっしゃったからです。

この Cajal 博士は、神経シナプスを発見され、その働きについても予見された、大変えらい先生でしたので、皆その言葉を信じていたのです。

 

しかし20世紀の終わりになり、北欧の研究者が、脳の海馬において、神経細胞が再生することを発見しました。

その後様々な研究ののち、脳の様々な領域で、神経細胞が再生することが分かってきています。

 

今回は脳卒中を脳梗塞と、脳出血に分けて考えた時の、「脳出血」の場合の、麻痺の回復が、どの様な仕組みで行われるのかについて、解説してみたいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

病院に入院して積極的に行う脳卒中リハビリが180日以内のわけ

まずはじめに考えておきたいのは、脳卒中になって、最初の数ヶ月間の、急激な麻痺の回復と、その後にパッタリ回復が止まってしまう現象についてです。

確かに脳卒中で倒れてから、数日後より、麻痺の回復が始まることがよくあり、それから数ヶ月間は、みるみる麻痺が回復していきます。

しかしその後の麻痺の回復は、ほとんど感じられなくなってしまいます。

この急性期の麻痺は、脳の血流が減少することで、神経細胞が死滅するまでは行かないまでも、血流の不足により、神経細胞が活動を休眠していたことで、麻痺が起きていました。

しかし治療により血流が回復したことで、休眠していた神経細胞が、活動を再開したことで、麻痺が急激に回復したのです。

しかしその後に残ってしまった麻痺は、これこそが脳卒中によって、死んでしまった神経細胞による麻痺なのです。

これまでの20世紀の考え方では、「死滅した神経細胞は絶対に再生しません」から、ここまでが麻痺の回復であり、それ以上のリハビリによるケアは無駄だと考えられていました。

ですから回復期リハビリ病院では、麻痺の回復する、最初の180日間だけ、リハビリとして日常生活動作練習を行なっているのです。

 

 

その後に必要な戦略的な神経リハビリテーション

急性期の急激な麻痺の回復は、休眠細胞の活動再開による、いわば自然回復に近いものです。

ですから特に無茶苦茶なことをしなければ、普通に身体を動かしているだけで、麻痺は治っていきます。

 

しかしその後の、死滅した神経細胞の機能を再生するのは、適当に身体を動かしていても、効果を得ることはできません。

それには戦略的な神経リハビリテーション(ニューロリハビリテーション)を行う必要があります。

では、脳出血による運動神経麻痺と、それを回復させるための、神経リハビリテーション(ニューロリハビリテーション)とは、いったいどの様なものなのでしょうか?

 

 

脳出血による片麻痺の原因

まずは脳出血による片麻痺の、神経リハビリテーション(ニューロリハビリテーション)を行う上で、脳出血による片麻痺(運動神経の麻痺)は、どの様に起こるのかについて、解説したいと思います。

今回の解説では、脳出血の中でも、一般的に見られる「被殻出血」と「視床出血」について、その神経麻痺の原因について、解説していきますね。

脳出血において、一番多いのは、大脳基底核の中にある、「被殻」と呼ばれる神経核と、その隣にある「視床」と呼ばれる神経核での出血による、脳内出血と言われています。

この「被殻」と「視床」には、レンズ核線条体動脈などの、細くてクネクネと折れ曲がった動脈が流れています。

そのために高血圧などによるストレスで、この血管が切れて出血しやすいために、この部位での、脳内出血が多いのだと考えられます。

そしてこの「被殻」と「視床」に挟まれた、狭い部分は「内包」と呼ばれている、運動神経の通り道になっています。

ここでいう運動神経とは「皮質脊髄路」などの、意識的に手足を動かすための、運動制御をしている、とても重要な運動神経が通っています。

ですから被殻や視床で脳内出血が起きることで、その出血によって、内包を通っている、運動神経を切断されてしまいます。

これによって片麻痺が起きるのです。

ですから脳出血による片麻痺は、脳の大脳皮質にある運動神経は無事であることが多く、それより下の、大脳皮質から手足への、運動指令を伝えるための、いわば電線が切断されてしまった状態で、麻痺が起きていると考えられます。

 

脳出血の麻痺

× 大脳皮質の運動野の神経の障害

  • ○大脳皮質の運動野から手足に運動指令を伝える経路の障害

 

 

脳出血による片麻痺の回復の仕組み

一般的な脳出血による片麻痺の原因は、「被殻」と「視床」に挟まれた、「内包」を通る、「皮質脊髄路」などの、運動神経経路が、出血によって切断されることで起こります。

ですから麻痺を治すための神経リハビリテーションでは、この切断された運動神経経路を、再生するためのアプローチを行わなくてはなりません。

それらのアプローチの考え方は、以下の様になります。

 

皮質脊髄路のシナプス強化

「皮質脊髄路」などの運動神経経路が、脳出血によって切断された、と言っても、それらの経路が完全に遮断されることは、あまりありません。

切断されたこれらの経路の一部は、生き残っている場合が、ほとんどです。

たとえば、あなたが麻痺側の手を動かそうとすると、ほんのわずかですが、腕がピクピク動いたりしませんか?

この様に、ほんのわずかに残っている、運動神経経路を利用して、そこに感覚刺激や運動刺激を、繰り返し入力していくことで、その残された運動神経経路の、神経接続であるシナプスを強化していきます。

残された細い運動神経経路の、活動を整え、効率を高めていくことで、手足の麻痺を少しづつ治していきます。

 

皮質脊髄路以外の経路(網様体脊髄路)からのバイパス

「皮質脊髄路」などの、意識的に手足を動かすための運動経路は、基本的には被殻と視床に挟まれた、内包を通過しますから、被殻出血や視床出血などの、一般的な脳出血によって、障害されます。

その結果として片麻痺が起きるわけです。

 

ですが運動神経経路の中には、「内包」を通らない神経経路もあるのです。

その代表格が「網様体脊髄路」です。

 

この「網様体脊髄路」は、基本的には姿勢制御に関わる神経経路です。

あなたが、歩いたり、手足を動かしたりする時に、バランスを崩して転んでしまわない様に、無意識のうちに、姿勢を整えるための制御をおこなっているのが、この「網様体脊髄路」です。

ですから「網様体脊髄路」は、本来であれば、手足を意識的に動かすための制御には関わっていません。

 

手足を意識的に動かすための、運動神経回路は、大脳皮質の「一次運動野」から始まっていますが、姿勢制御をするための「網様体脊髄路」は、その隣の「高次運動野」から始まっています。

ですが姿勢制御を行うためには、肩や肘を動かして、バランスを取る場合もありますし、足を踏ん張ってこらえる必要もあります。

ですから「網様体脊髄路」の働きも、手足の運動と無関係ではないのです。

 

最近の脳科学の研究で、この「網様体脊髄路」を介して、手足の意識的な運動を再生する仕組みがある可能性が言われています。

はっきりは分かっていませんが、神経リハビリテーションを継続することで、一次運動野から高次運動野に神経回路をつなぎ、網様体脊髄路を介して、そこから手足の筋肉を動かすための、脊髄の前角細胞にバイパスを作る場合がある様です。

 

 

脳出血片麻痺に対する神経リハビリテーション

これまでご説明してきた、脳出血による運動神経経路の切断による麻痺を回復させるためには、神経リハビリテーションによる、脳の神経回路の組み替え(脳の神経可塑性)を行わなくてはなりません。

そのためには神経リハビリテーションによる、損傷された脳神経回路に対する「運動学習」を行わなくてはなりません。

この運動学習を効果的に行うためには、脳の大脳皮質からの「運動指令」と、それに対して実際に運動が行われ、その運動がどんなものであったかの「感覚情報フィードバック」が、脳に戻されることが必要になります。

そうして初めて運動学習が行われ、脳の神経可塑性による、神経回路のつなぎかえが行われるのです。

 

参考記事

運動学習の効率を高めて脳卒中の麻痺の回復を目指す!

 

 

効果的な運動学習成立の条件

では効果的な運動学習を行うためには、どんなことが必要になるのでしょうか?

それには以下の様な条件が必要になります。

 

⑴ 脳の大脳皮質から「正しいイメージ」で運動指令が行われること

⑵ 脳からの運動指令に対して、ある程度の実際の運動が行われること

⑶ その実際に行われた運動の結果が、感覚情報フィードバックとして脳に戻されること

⑷ この一連の動作を繰り返し継続して行うこと

 

これらの条件が全てそろうことが必要になります。

 

たとえば ⑴ 脳の大脳皮質から「正しいイメージ」で運動指令が行われること であれば、あなたは麻痺側の指を、何としても動かそうとして、最初から思いっきり力んでいませんか?

これではキチンと脳の運動野から正しい運動指令が出ませんよね。

どんどん指先が力んでこわばってしまいます。

 

また ⑵ 脳からの運動指令に対して、ある程度の実際の運動が行われること では、自力では動かせない場合には、セラピストの介助による運動や、中周波EMS などによる電気刺激による、筋肉の収縮を行う必要があります。

 

そして ⑶ その実際に行われた運動の結果が、感覚情報フィードバックとして脳に戻されること では、筋肉の中にある「筋紡錘」などの、感覚センサーが正しく作動している必要があります。

あなたの麻痺側の筋肉は、柔らかいですか?

硬くこわばって、痛みが出ていないですか?

もし硬くこわばって、痛みがある様でしたら、その筋肉を揉み解すところから、リハビリテーションを始めなければなりません。

硬くこわばって、痛みがある筋肉からは、正しい感覚情報フィードバックは行われないからです。

これらの条件を整えながら、目的とする動作を、繰り返し根気よく練習することで、運動学習による神経可塑性が行われます。

その結果として、新たな運動神経回路が再生されていきます。

 

 

まとめ

今回は脳出血での運動神経経路の障害による、片麻痺を回復するための、神経リハビリテーションについて、麻痺の原因から、その回復の仕組みまでを解説いたしました。

実際の臨床での神経リハビリテーションでは、ある程度の期間(数ヶ月から数年、個人差があります)のアプローチにて、麻痺が回復する現象が、ハッキリと認められるケースが増えています。

あなたも脳卒中の神経リハビリテーション(ニューロリハビリテーション)に、ご興味がある場合には、ぜひチャレンジしてみていただきたいと思います。

 

 

最後までお読み頂きありがとうございます。

 

 

注意事項!

このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

 

 

 

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