進行性核上性麻痺(PSP)に呼吸サポートは必要か?
進行性核上性麻痺(PSP)は、脳内にタオ蛋白と呼ばれる老廃物が蓄積し、大脳基底核を中心とする神経機能が障害される病気です。
主な症状にはパーキンソン症状と呼ばれる、パーキンソン病によく似た、すくみ足やこわばりなどの運動障害が起こります。
そして、そのパーキンソン症状が早めに進行して、最後は寝たきりになる病気です。
進行性核上性麻痺(PSP)の症状の特徴としては、初めは手足の筋肉が麻痺して動けなくなるのではなく、動作がぎこちなくなって目的の動作が上手にできなくなります。
そのぎこちなさの原因となるのは、手足の強張りによってスムースな動きが出来なくなることと、適切な運動パターンが選択できなくなることです。
しかし病気が進行してくると手足の筋肉の強張りがドンドン強くなり、最後には動けなくなります。
基本的にはパーキンソン病の症状を改善するドーパミンなどの薬も効きません。
呼吸に関して言えば、進行性核上性麻痺(PSP)は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経難病のように、脳の神経の呼吸機能が障害されることはありません。
ですが脳の大脳基底核を障害されることで、手足の筋肉の力加減を調節する機能が障害されてしまいます。
そしてこの筋肉の力加減を調節する機能の障害は、最後には、身体の筋肉や呼吸する筋肉にまで及んでいきます。
ですから進行性核上性麻痺(PSP)が進行してくると、患者さんは深呼吸などができなくなります。
これは胸やお腹周りの(いわゆる胸郭の)筋肉がこわばってしまうために、胸郭の呼吸運動が上手くできなくなることが原因です。
そうなると肺の中に痰が溜まりやすくなり、誤嚥性肺炎になりやすくなってしまうのです。
これをなるべく予防するために、BiPAP(バイパップ)と呼ばれる簡易な人工呼吸サポートを行う場合があります。
今回はどうして進行性核上性麻痺(PSP)にBiPAP(バイパップ)の呼吸サポートが効果的なのかについて解説していきます。
どうぞよろしくお願いします。
BiPAP(バイパップ)とはどんな人工呼吸器なのか?
一般的な人工呼吸器を使う場合、口や鼻から「気管内挿管チューブ」を気道に入れたり、喉のところを切って「気管切開チューブ」を入れたりしてから大型の人工呼吸器をつなぎます。
ですから人工呼吸器をつけると、話すことも口から物を食べることもできなくなります。
生命維持装置である人工呼吸器をつけることは、とても手間がかかって苦痛もともなう大変なことなのです。
それに対してBiPAP(バイパップ)はマスクを使って人工呼吸を行います。
BiPAP(バイパップ)では、マスクのフチの周囲をぐるっと浮き輪のような空気の入ったクッションが取り巻いている専用のマスクを使います。
そのマスクをストラップで顔に固定して密着させることで、気道に挿管しなくても圧をかけて呼吸をサポートすることができるのです。
この仕組みであれば、たとえば夜寝ている間だけマスクをつけてBiPAP(バイパップ)で呼吸をサポートするなどの方法が可能です。
夜寝ている間にBiPAP(バイパップ)で呼吸をサポートすることで、疲れた呼吸筋を寝ている間に休ませることができます。
そうして朝起きたらマスクをとって、普通に会話をしたり食事をしたりする生活が可能になります。
まあ進行性核上性麻痺(PSP)が進行してBiPAP(バイパップ)が必要なころには、自分で話すことができなくなっている場合がほとんでですけどね。
でも昼間に人工呼吸器をはずせることは、結構気持ちがいいものです。
マスクを使ったBiPAP(バイパップ)による呼吸サポートは、とても簡便でリーズナブルな人工呼吸なのです。
進行性核上性麻痺(PSP)の呼吸障害の特徴は?
進行性核上性麻痺(PSP)では、脳の呼吸をコントロールする神経が障害されるわけではありません。
しかし胸郭を形作っている筋肉、たとえば肋間筋などが、進行性核上性麻痺(PSP)の神経症状としてこわばってしまうと、呼吸運動にともなって胸郭を動かすことができなくなります。
そうなると大きく深呼吸をしたり、効果的な咳をすることが難しくなってしまいます。
私たちの気管支には、外からのゴミや細菌の侵入を防いで、肺を守るための仕組みが備わっています。
そのひとつが気管支の粘膜にある粘液です。
気管支の表面には粘膜があり、粘膜の表面には繊毛がたくさん生えています。
そして繊毛の周りにはサラサラした粘液があり、繊毛は常に細かく動いて、粘液を外にかき出すように動いています。
外から入ってきたゴミや細菌は、気管支の粘液に捕えられ、そのまま繊毛の運動で、気管支の外にかき出されていくのです。
そして、このゴミを包んだ粘液が、喉元にくると痰になるのですね。
ですから私たちは、常に無意識のうちに軽い咳をして、この痰を吐き出しているのです。
しかし進行性核上性麻痺(PSP)になると、この痰を外に出す仕組みが上手く働かなくなってしまいます。
それには以下のような原因があるのです。
⑴ 胸郭の筋肉がこわばって深呼吸ができなくなります
進行性核上性麻痺(PSP)によって胸郭の筋肉がこわばって深呼吸ができなくなると、肺の奥にある痰が出せなくなります。
これは私たちの肺の気管支の奥にある痰を外に出すためには、深呼吸をすることで肺の奥にある気管支を拡げてやる必要があるからなのです。
いくら気管支の粘膜にある繊毛が運動しても、その気管支がペチャンコに潰れて空気の出し入れがなかったら、そこにある痰を外に運ぶことができません。
そうしてずっと同じ場所に細菌を包んだ痰が居座ってしまうと、そこで細菌の繁殖が始まってしまい、最後には肺炎が起こってしまいます。
あなたも時々、ほとんど無意識に大きなため息をつくことがあると思います。
これは別に心にわだかまりがあって、それを吐き出しているのではないのです。
肺の奥にある痰を吐き出すための、自然な反応で、肺のメンテナンス活動の一環なのです。
進行性核上性麻痺(PSP)になると、胸郭の筋肉が硬くなり、深呼吸ができなくなります。
ですからBiPAP(バイパップ)によって、気管支に内側から圧をかけることで、気管支を拡げて痰を出しやすくする必要があるのです。
⑵ 寝返りがやりにくくなります
どんなに寝相が良い人でも、夜中には何回か寝返りをうって、寝ている姿勢を横向きやうつ伏せに変えています。
眠りはじめに仰向けに寝ていて、起きたときにも仰向けに寝ていたからと言って、ずっと一晩中仰向けに寝ているわけではありません。
あなたも必ず夜中に寝返りをして、横向きやうつ伏せになっています。
そのあなたが夜中に姿勢を変える理由も、肺のメンテナンスが目的なのです。
もしあなたが一晩中仰向けで寝ていたら、背中側の肺は押し潰されて空気が抜けてしまいます。
肺も基本的には小さな風船の集まりですから、上側の動きの良いところに空気が入りやすくなっています。
ですから仰向けに寝ている時の、背中側の肺は、常に押しつぶされて空気の出入りがしにくくなっているのです。
進行性核上性麻痺(PSP)になると、夜中に自分で寝返りをうつことが難しくなります。
ですから背中側の肺に痰詰まりを起こして、そこから誤嚥性肺炎になりやすくなるのです。
⑶ 胸郭が動かせないことで横隔膜が動かしにくくなります
進行性核上性麻痺(PSP)になると、横隔膜の筋肉もこわばりやすくなります。
また横隔膜は肋骨の下の方にくっついていますから、その肋骨(胸郭)が動かなくなると、それに連動して横隔膜の動きも制限されてしまいます。
効果的な呼吸運動で、息を吸ったり吐いたりするためには、スムースな胸郭の運動と横隔膜の運動が連携して行われることが大切なのです。
進行性核上性麻痺(PSP)になると、そのどちらの運動も、硬く緊張してこわばって動きにくくなっています。
横隔膜が動かしにくくなると、効果的な呼吸運動ができなくなりますから、その分肺の痰詰まりのリスクも高くなります。
自力で横隔膜が動かしにくくなったぶんを、BiPAP(バイパップ)でサポートして肺の換気を良くしてやることが必要になるのです。
早めのBiPAP(バイパップ)の導入がオススメな理由とは!
進行性核上性麻痺(PSP)へのBiPAP(バイパップ)の導入は、本当に呼吸状態が悪くなって、追い詰められてから始めるのではなく、早めに準備して、早めに始めることをオススメします。
何故ならば進行性核上性麻痺(PSP)という病気が、脳の大脳基底核の障害の病気だからです。
脳の大脳基底核は、スムースな運動のコントロールを行う神経の中枢です。
つまり上手な運動をするための、いわば動作の上達に関わる神経の中枢なのです。
一般的な気道にチューブを挿入して行う人工呼吸器は、ほとんど強制的に呼吸させることができます。
ですから意識がない患者さんでも、無理やり呼吸させることができるのです。
それに対してマスクで行うBiPAP(バイパップ)は、患者さんと機械が協力して呼吸をしなければなりません。
患者さんがBiPAP(バイパップ)の機械と、上手く連携して、上手に呼吸する必要があるのです。
しかし慣れない機械をつけての呼吸は、どうしても緊張して上手く行くまでに時間がかかります。
ですから進行性核上性麻痺(PSP)の症状が進行して、呼吸のコンディションも悪くなってから、BiPAP(バイパップ)の機械を上手に使いこなす練習をするのは、とても負担がかかるのです。
それよりも身体の状態も、呼吸の状態も良いうちに、早めにBiPAP(バイパップ)の機械を導入して、練習しておくことが大切になります。
まとめ
今回は進行性核上性麻痺(PSP)のBiPAP(バイパップ)の導入について解説しました。
どうしてもヒトは「今以上に悪くなりたくない」という気持ちが働きます。
そのために進行性の病気の場合、来るべき病気の進行に備える行動が、どうしても遅くなりがちになります。
ですがそこを頑張って早めの準備をして備えておくことが、より安楽なケアと介護を実現してくれるのです。
進行性核上性麻痺(PSP)の場合、泣こうが喚こうが、病気は進行していきます。
どうかくれぐれも早めの準備を心がけてくださいね。
最後までお読みいただきありがとうございます。