脳卒中リハビリ

背骨の周囲の筋肉のコンディションを整えて脳卒中の痛みをとる運動方法

 

 

はじめに

今回は、前回ご説明しました「背骨の周囲の筋肉のコンディションを整えて痛みをとるマッサージ」に引き続き、背骨の運動機能や痛みに関連して自律神経機能にも影響を与えていると思われる、脊柱起立筋群の筋肉の機能改善のための運動方法について解説いたします。

 

筋肉の機能改善とは!

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筋肉は緊張して収縮することで、関節を動かして手足や背骨を動かします。 筋肉は非常に細かい筋原繊維の束が何千本もまとまって、筋膜という袋の中に入っています。 しかし筋膜の袋のサイズは一定ですから、運動のために収縮して太くなった筋繊維はお互いに圧迫してしまいます。 さらに筋繊維の間に通っている血管を圧迫して血液の流れを止めてしまいます。

この筋収縮が一瞬のものであれば、血液の流れはすぐに元に戻ります。 そればかりか、静脈を圧迫することで、静脈血の流れを良くして筋肉の浮腫(むくみ)を防ぐ効果もあります。(逆に筋肉を使わないでいると、その筋肉は浮腫やすくなります!)

しかしストレスによる緊張や悪い姿勢などで、筋肉の緊張が長く続いた場合、筋繊維の間を通る血管はずっと圧迫されて、血液が流れなくなり、筋繊維に酸素や栄養を届けられなくなります。

そうなると筋繊維も萎縮して硬いシコリのような状態になってしまいます。 凝って硬くなっている筋肉を丁寧に触診すると、筋肉の中にあずき粒くらいのシコリがいくつか見つかります。 これを「筋硬結」と呼びます。

「筋硬結」は痛みの原因となり、また筋硬結があることで、その筋肉はこわばって正常に収縮できなくなります。

さらには筋肉の中にある筋紡錘と言う感覚センサーの働きが低下して、筋肉からの運動情報が脳に伝わりにくくなります。(バイオフィードバックの障害)

それが下半身の筋肉や背骨の筋肉で起きると、バランスが取りにくくなり、目を開けていると立っていられるけれども、目を閉じるとフラついて転んでしまうようになります。(ロンベルグ徴候陽性) この状態になると、普段は普通に歩けていても、歩きながらよそ見したり、手元の荷物を確認していて転倒するようになり、非常に危険です。

脳卒中の急性期には、この様な筋肉の機能不全状態が非常に起こりやすくなっています。 特に長期のベッド上での寝たきり状態は、筋肉を動かさないために「廃用性筋緊張性」(まだご存じない方は「背骨を動かす脊柱起立筋群と痛みのケア」を読んでください)により背骨の周囲の脊柱起立筋群が硬くこわばってしまい、筋機能不全に陥ります。

この背骨の周囲の脊柱起立筋群の機能不全状態を改善して、正しい背骨の運動を回復させることは、背骨から伸びている手足の運動機能を高めるための基礎となり、また立位や歩行のバランスを良くするための土台となります。

 

背骨の周囲の筋肉の機能改善のための運動方法!

脊柱起立筋群 L2

それではこれから背骨の運動機能を良くするための運動方法をご紹介します。 運動は首の運動(頚椎の運動)、胸の運動(胸椎の運動)、腰の運動(腰椎の運動)と全体的な運動に分けて行います。

 

リスク

脊柱管狭窄症のある方はこの運動は行えません。
重度の円背脊柱側弯のある方はこの運動は行えません。

必要機材

やや硬めの枕
畳かベッドの上で横になれるスペース

運動時間

0分 ~ 20分

運動内容

 

首の運動(頚椎の運動)

① 畳かベッドの上で仰向けに寝てなるべく体が真っ直ぐになる様にします。 背骨と足が斜めになっていない様に注意してください。

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② 枕に頭を乗せ顔をまっすぐ正面に向け顎を引きます。 両腕は組み合わせてお腹の上に乗せておきます。

後頭部を枕に押し付ける様に首に力を入れながら、ゆっくり顎を反らしていきます。 このとき首の後ろ側の筋肉に力を入れる様にがんばります。 視線はやや上の方を見る様にします。

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④ 完全に顎を反らしたら、今度はゆっくり首から力を抜いて最初の顎を引いて正面をみた状態に戻ります。 一旦全身の力を抜きます。 この動作を30回繰り返します。

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⑤ 次に顔だけを右に向けます

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⑥ そして右側頭部を枕に押し付ける様に、ゆっくりと首の右側に力を入れて首を反らします。 視線はなるべく右側を見る様にします。 完全に首を反らしたら、今度はゆっくり首から力を抜いて最初の顔を右に向けた姿勢に戻ります。 一旦全身の力を抜きます。 この動作を30回繰り返します。

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(麻痺側の側頭部をクッションに押し付けるようにして首を横に反らします)※今回の運動は右片麻痺の設定です!

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(麻痺側の側頭部から力を抜いて首を元に戻します)

⑦ 次に顔だけを左に向けます

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⑧ そして左側頭部を枕に押し付ける様に、ゆっくりと首の左側に力を入れて首を反らします。 視線はなるべく左側を見る様にします。 完全に首を反らしたら、今度はゆっくり首から力を抜いて最初の顔を左に向けた姿勢に戻ります。 一旦全身の力を抜きます。 この動作を30回繰り返します。

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(健側の側頭部をクッションに押し付けるようにして首を横に反らします)※今回の運動は右片麻痺の設定です!

脳卒中脊柱008

(健側の側頭部から力を抜いて首を元に戻します)

⑨ 最後に顔を正面に向けて顎を引いて終了です。

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胸の運動(胸椎の運動)

① 畳かベッドの上で仰向けに寝てなるべく体が真っ直ぐになる様にします。 背骨と足が斜めになっていない様に注意してください。

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② 枕に頭を乗せ顔をまっすぐ正面に向け顎を引きます。 両腕は組み合わせてお腹の上に乗せておきます。

③ 両肩を持ち上げる様に、後頭部と胸椎の後ろ側に力を入れて、ゆっくりと胸を反らせる様にします。 左右の肩には均等に力がかかる様に気を付けてください。 完全に胸を反らしたら、今度はゆっくりと力を抜いて、最初の姿勢に戻ります。 一旦全身の力を抜きます。  この動作を30回繰り返します。

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(後頭部または両肩をクッションに押し付ける様にして胸を反らします)

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(後頭部または両肩から力を抜いて反らしていた胸を降ろします)

④ 次に上半身をを右に向けます

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⑤ そして今度は右肩だけを下に押し付ける様にして、胸椎のやや右斜め後ろぐらいに力を入れて、ゆっくりと胸を横方向に反らします。 左肩が少し浮き上がる様に意識してください。 完全に胸を反らしたら、ゆっくりを力を抜いて、最初の顔が右を向けた状態に戻ります。 一旦全身の力を抜きます。  この動作を30回繰り返します。

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(麻痺側の肩を下に押し付ける様にしながら背骨を健側に反らします)※今回の運動は右片麻痺の設定です!

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(麻痺側の肩から力を抜き反らしていた背骨を下ろします)

 

⑥ 次に上半身を左に向けます

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(健側に向けて上半身を斜めに傾けます)

⑦ そして今度は左肩だけを下に押し付ける様にして、胸椎のやや左斜め後ろぐらいに力を入れて、ゆっくりと胸を横方向に反らします。 右肩が少し浮き上がる様に意識してください。 完全に胸を反らしたら、ゆっくりを力を抜いて、最初の顔が左を向けた状態に戻ります。 一旦全身の力を抜きます。  この動作を30回繰り返します。

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(健側の肩を下に押し付ける様にしながら背骨を健側に反らします)※今回の運動は右片麻痺の設定です!

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(健側の肩から力を抜き反らしていた背骨を下ろします)

⑧ 最後に顔を正面に向けて顎を引いて終了です。

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腰の運動(腰椎の運動)

① 畳かベッドの上で仰向けに寝てなるべく体が真っ直ぐになる様にします。 背骨と足が斜めになっていない様に注意してください。

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② 枕に頭を乗せ顔をまっすぐ正面に向け顎を引きます。 両腕は組み合わせてお腹の上に乗せておきます。

③ 次に両膝を揃えて曲げます。

④ まずは両肩をしっかりとクッションに押し付けてから坐骨と尾骨(尾椎)を意識して、その坐骨と尾骨を下に押し付ける様にして、腰椎の後ろ側に力を入れて、ゆっくりと腰を反らします。 完全に腰を反らしたら、今度はゆっくりと力を抜いて、最初の姿勢に戻ります。 一旦全身の力を抜きます。  この動作を30回繰り返します。

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(開始姿勢)

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(両肩と骨盤を下に押し付けながら背骨を腰の位置で反らします)※ 今回の運動は右片麻痺の設定です!

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(両肩や腰から力を抜いて反らしていた背骨を降ろします)

※ この動作を30回繰り返します!

 

⑤ 次に揃えた両膝を右側に倒して斜め右を向きます。 左肩が少し浮き上がる様に、体が全体的に右を向くようにします。

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(麻痺側に向けて全身で横を向きます)※今回の運動は右片麻痺の設定です!

⑥ 右の足の骨盤への付け根の辺りを下に押し付ける様にして、腰椎の右斜め後ろ側に力を入れる様にして、ゆっくりと腰を斜め横に反らせる様にします。 完全に腰を反らしたら、今度はゆっくりと力を抜いて、最初の右を向いた姿勢に戻ります。 一旦全身の力を抜きます。  この動作を30回繰り返します。

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(開始姿勢)

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(麻痺側肩と麻痺側の腰を下に押し付けながら背骨を健側に反らします)※今回の運動は右片麻痺の設定です!

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(麻痺側の肩や腰から力を抜いて反らしていた背骨を降ろします)

 

⑦ 次に揃えた両膝を左側に倒して斜め左を向きます。 体が全体的に左を向くようにします。

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(健側に向けて全身で横を向きます)※今回の運動は右片麻痺の設定です!

⑧ 左の足の骨盤への付け根の辺りを下に押し付ける様にして、腰椎の左斜め後ろ側に力を入れる様にして、ゆっくりと腰を斜め横に反らせる様にします。 完全に腰を反らしたら、今度はゆっくりと力を抜いて、最初の左を向いた姿勢に戻ります。 一旦全身の力を抜きます。  この動作を30回繰り返します。

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(開始姿勢)

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(健側肩と麻痺側の腰を下に押し付けながら背骨を麻痺側に反らします)※今回の運動は右片麻痺の設定です!

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(健側の肩や腰から力を抜いて反らしていた背骨を降ろします)

⑨ 最後に両膝を揃えて正面に戻し、正面を向いて終了です。

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以上で背骨の周囲の脊柱起立筋群を整える運動は終了です。

 

 

次回は
「肩甲骨の周囲の筋肉のコンディションを整えて痛みをとるマッサージ」
についてご説明します。

 

最後までお読みいただきありがとうございます

 

注意事項!

この運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。

 

 

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脳卒中手の機能テキスト02

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