はじめに
前回の「脳卒中片麻痺の大脳基底核と視床の働きを改善して歩行を良くすること!」において、大脳基底核と視床の運動コントロールを改善して歩行を良くするためには、腕の振りや、足の振り出し、体重移動やステップの踏み出し方を運動の型として繰り返し練習することでリラックスした上手な歩行を獲得できるとの解説をしました。
今回は脳卒中の運動麻痺がどうして起きるのか、それにどんな問題があって、どう解決すれば良いのかについて、もう一度整理してから、初級~上級の型練習に入りたいと思います。
脳卒中の片麻痺で運動機能がオカシクなる原因について!
先ずは下の図をごらんください!
大脳基底核と関連する神経核を下から見た状態です。
この図を見ながらご説明したいと思います。 先ずは皆さんがトイレに行こうと考えたとします。
大脳皮質でベッドから起きて立ち上がろうと考えます。
すると赤色で示された視床がその命令に対してベッドのマットの硬さや手すりの位置などを、体性感覚や視覚などの情報から分析して、幾つかの起き上がり方を提案します。
腹筋をつかって跳ね起きるのか、先ずは横向きに寝返って手すりを使って起きるのかなどです。
それらの中から、青色で示された大脳基底核の線条体と水色の淡蒼球が最適な動作を選択して、行動を起こすように視床に指示を出します。
この指示を出すための神経伝達物質は黒色で示された黒質からのドーパミンです。
視床は大脳基底核で選択された動作を大脳皮質の運動野に戻します。 視床から連絡を受けた大脳皮質の運動野は選択された動作を脊髄以下の神経を通じて筋肉に伝えます。
このとき線条体(被殻+尾状核)と視床の間にくの字型の黄色で示された内包(後脚)を運動ニューロンが通過して脳幹部から脊髄に向かいます。
運動コントロールの経路
大脳皮質で運動の動機付けが起きる: トイレに行きたい など
→ 大脳皮質から命令された運動と視覚や体性感覚や空間識などの情報とを視床で統合
→ 視床で作られた幾つかの運動パターンから大脳基底核で適切なものを選択
→ 大脳基底核から視床に指示
→ 視床から大脳皮質に情報を戻す
→ 大脳皮質から内包後脚を通って脊髄から末梢神経さらに筋肉に指示がいく
→ 運動が実行される!
ここで脳卒中の運動機能を障害する幾つかの原因を見てみましょう!
-
視床出血や視床梗塞で視床の機能が障害されている場合
-
被殻出血や線条体の梗塞により大脳基底核の機能が障害されている場合
-
被殻出血や視床出血などの影響で内包(後脚)の運動ニューロンが切断されている場合
-
大脳皮質の梗塞で運動野が障害されている場合
-
大脳皮質の梗塞で前頭前野が障害されている場合
視床の機能が障害されている場合
この場合は視床の機能としての大脳皮質の運動関連領域からの命令と視覚や体性感覚との統合による運動パターンが的確に作成されないことになります。 ですからとっさの動作に混乱が生じてしまい、例えば廊下の角を曲がるなどの動作のときに、スムースに手足が動かなくなったり、歩いていて近くの椅子に座るなどの動作が上手に行えなくなります。 また運動をうまく統合できなくて、ぎこちない力んだ動作になりやすくなることが考えられます。
この場合はそれらの動作の中で重要度の高い動作を選んで繰り返しの練習をすることで、視床に必要な運動パターンを熟練させるためのアプローチを行います。
大脳基底核の機能が障害されている場合
この場合は大脳基底核の機能として、視床で準備された幾つかの運動パターンの中から、適切な運動を選択することが出来なくなり、動作に混乱が生じてしまいます。
この場合は、まずは幾つもの動作パターンを熟練させておき、それらを素早く選択するための練習を行います。
内包後脚の運動ニューロンが障害されている場合
これが本来の脳出血の片麻痺の原因となります。 運動ニューロンが切断されることで、麻痺側の手足の痙性麻痺が出現しています。
この場合のアプローチとしては、可能な限りの手足の筋肉や関節のコンディションを改善したのち、できる限りリラックスして力を入れすぎない動作で、たとえ完全に手足が動かせ無かったとしても、その状態での歩行や手の振りの運動を無意識で自然に行えるように練習することが必要になってきます。 どうしても痙性麻痺があると、筋肉の強張りを無理やり動かそうとして力んだ動きになってしまいます。 そうすると動作を意識するあまり、変な癖がついたまま歩行を行うことになり、後々に腰痛や膝関節痛や円背などの問題を引き起こします。 それに杖を使う歩行パターンも適切に動けるように練習しなくてはなりません。
大脳皮質の運動野が障害されている場合
この場合はハナから適切な運動が出来ない可能性があります。 しかしこの大脳皮質の運動野は練習を繰り返して運動パターンを再獲得する可能性が残されている部分でもあると思われます。
この場合も現状の麻痺や身体状況に合わせた、適切な運動パターンを選択して、繰り返し練習にて動作パターンを熟練していくことが重要になります。 また適切な動作パターンを選択するためには、その動作が治療的に意味があり、現状よりも改善した目標上にある動作であり、かつ十分に実行が可能になることが期待できる動作パターンでなければなりません。
大脳皮質の前頭前野が障害されている場合
いわゆる前頭葉の機能で、前頭連合野とも呼ばれ、高度な情報処理を行なっており、視床やヂア脳基底核とも密接に連携しています。 ここが障害されると、歩行能力に対する影響としてはワーキングメモリーの障害があり、歩行動作において次に何を行うべきかの記憶が保たれなくなり、また複雑な課題を解決しながら目的を達成することが難しくなるため、普通に歩けても、複雑な経路を通って目的の場所に行くことが困難となります。
この問題に対しては、日常で必要な移動経路に対して予想できる運動パターンをあらかじめ練習して、状況に応じてパターン化する練習を繰り返すことで、慣れ親しんだ環境下では安定した動作の遂行を可能にすることができます。
今回の在宅リハビリテーションでの歩行練習をどのように進めるか!
今回の在宅リハビリテーションでの歩行練習では最も一般的で普遍的と思われる、立位・歩行動作パターンのリラックスした状態での型練習を選択して、およそ全ての脳卒中片麻痺の歩行練習の型に有効であろうと思われるパターンを選んで練習を行なっていきます。
はじめは基本的な動作パターンから、徐々に高度な身体のコントロールを練習していき、最終的な上級編では生活動作の中での応用的な歩行動作を練習していきます。
次回から初級編・中級編・上級編として解説していきますのでよろしくお願いいたします。
次回は
を解説いたします。
最後までお読みいただきありがとうございます
注意事項!
この運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。
脳卒中片麻痺の自主トレテキストを作りました!
まずは第一弾として皆様からご要望の多かった、麻痺側の手を動かせるようにしたいとの声にお応えするために、手のリハビリテキストを作りました。
手の機能を改善させるための、ご自宅の自主トレで世界の最先端リハビリ手法を、手軽に実践する方法を解説しています。
超音波療法や振動セラピー、EMS療法による神経促通など、一般病院ではまず受けられないような、最新のリハビリアプローチが自宅で実行できます。
現在の日本国内で、このレベルの在宅リハビリは他にはないと思います。
そしてこのプログラムは施設での実施にて、すでに結果が認められています。
あとは皆さんの継続力だけですね。
テキストは電子書籍になっており、インフォトップと言う電子書籍の販売ASPからのダウンロードになります。
全180ページに数百点の写真と3D画像などで分かりやすく解説しています。
コピーが容易な電子書籍の性格上、少し受注の管理やコピーガードなどが厳しくなっていますが、安全にご利用いただくためですの、ご容赦くださいね。
ぜひ一度お試しください。
関連ページ
1. 脳卒中片麻痺の歩行能力を改善してより良い歩行を獲得するための5つの課題
2. 体幹と手足(健側、麻痺側ともに)の筋肉や関節の機能を高めること
3. 体幹と手足からの体性感覚のフィードバックを高めること
4. 脳卒中片麻痺の大脳基底核と視床の働きを改善して歩行を良くすること!
5. 最新の脳卒中片麻痺に対する歩行リハビリテーション
6. 最新の脳卒中片麻痺に対する歩行リハビリの実技(初級編)
7. 最新の脳卒中片麻痺に対する歩行リハビリの実技(中級編)
8. 最新の脳卒中片麻痺に対する歩行リハビリの実技(上級編)
9. 最新の脳卒中片麻痺に対する歩行リハビリの実技(応用編)