呼吸ケア

呼吸ケアの基礎 1 動脈血酸素分圧と呼吸不全

呼吸ケアの基礎 1 動脈血酸素分圧と呼吸不全

 

※ このコーナーは呼吸ケアを学ぶ看護師・理学療法士などを対象に書かれています!

 

呼吸不全の定義

吸引

あなたは呼吸不全の定義についてご存知ですか?

 

呼吸不全とは

「動脈血ガスが異常な値を示し、それがために生体が正常な機能を営みえない状態」

と定義されています。

 

具体的には

「室内気吸入時の動脈血酸素分圧(PaO2)が60Torr以下となる呼吸器系の機能障害、またはそれに相当する異常状態を指し、これを呼吸不全と診断する(厚生省特定疾患「呼吸不全」調査研究班昭和56年度報告書)。」

とされています。

 

つまりは肺が酸素を取り入れる能力が低下して、生体の生命活動に必要な酸素が全身に行き渡らなくなった状態を「呼吸不全」と定義されているのです。

これではここで「呼吸不全」の定義の基準値とされている「動脈血酸素分圧(PaO2)」とはなんなのか考えていきましょう。

 

 

「動脈血酸素分圧(PaO2)」ってどういうもの?

 

あなたは動脈血酸素分圧とはどういうものかご存知ですか?

 

動脈血酸素分圧はその単位を mmHg あるいは torr で表しますので、何らかの圧を表したものであるコトが分かります。

 

そして分圧というからには分けない圧が存在するわけで、その分けない圧とは何かと言うと、それは大気圧(1気圧)となります。

 

大気圧(1気圧) = 760 mmHg ( torr )

 

ではこの大気中の酸素分圧はどうなるのでしょう?

大気中の酸素濃度が約20.95%ですから、大気中の酸素分圧は海抜 0 mで大気中に水分が全くない状態(ドライエア)と考えると

760 mmHg × 20.95% = 159.2 mmHg ( torr )

となります。

大気圧 酸素分圧1

実際は皆さんのいる場所は、海抜より高いところにありますし、湿気もあるので、実際の大気中の酸素分圧はもう少し低くなります。

ようするにこの場合の酸素分圧とは、大気中に含まれる酸素濃度に対する、酸素の圧の割合ということになります。

 

だいたい大気中のそれぞれの気体の割合は以下のようになります。

乾燥大気の成分

大気組成と分圧1

酸素 : 20.95%  : 159.2 mmHg ( torr )

窒素 : 78.1% : 593.6 mmHg ( torr )

アルゴン : 0.9% : 6.8 mmHg ( torr )

CO2 : 0.04% : 0.3 mmHg ( torr )

この場合に大気中のアルゴンと二酸化炭素の分圧は非常に小さいので、今回は無視します。 ですから大気中の分圧のほとんどは酸素と窒素の分圧であることがわかります。

これに対して動脈血酸素分圧とは、動脈血中に物理的に溶け込んでいる酸素濃度に対する、酸素の圧と言うことになります。

 

あなたは動脈血酸素分圧の正常値を知っていますか?

 

動脈血酸素分圧の正常値: 80 ~ 100 mmHg ( torr )

 

大気中の酸素分圧が約160 mmHg ですから、それに比べると動脈血酸素分圧は随分と低くなりますね。

 

これはどうしてなのでしょうか?

  1. まずは鼻から息を吸い込むと、大気は鼻の中で温められ100%まで加湿されます。(加温加湿) ですからこの時に吸い込んだ大気の中に水蒸気分圧が加わります。この時の酸素分圧を吸入気酸素分圧(PI02)と呼びます。
    1. 体温37℃に温められた空気に含まれる水蒸気量は 43.91g/㎥でその分圧は 47.1 mmHg ( torr )になります。
    2. 鼻の中での気体の分圧
      1. 酸素分圧:  149.4 mmHg (吸入気酸素分圧: PIO2)
      2. 窒素分圧:  556.8 mmHg
      3. 水蒸気分圧: 47.1 mmHg
      4. その他:   6.7 mmHg
  2. 次に吸い込んだ空気は気管支を通って肺胞に至ります。 この時に肺胞を包む毛細血管から二酸化炭素が肺胞内に移ってきます。
    1. この時の二酸化炭素分圧を 35 mmHg(正常値:  35 ~ 45 mmHg )とします。
    2. この時の酸素分圧を肺胞気酸素分圧(PAO2)と呼び以下の計算式で求めます。
      1. PAO2 = PIO2 – PaCO2 ÷ 0.8    ※ 0.8は呼吸商
      2. PAO2:  105.7 mmHg 
  3. 最後に肺胞の中の酸素が動脈血の中に移動して、動脈血中に物理的に溶け込んで動脈血酸素分圧となります。
    1. 動脈血酸素分圧(PaO2): 80 ~ 100 mmHg (正常値)

このように酸素分圧は大気中から肺胞に至る過程で、徐々に低下していきます。 これを酸素カスケードと呼びます。

そしてこの時に肺胞気から肺胞の毛細血管の血液に酸素が移動する現象を『拡散』と呼びます。

 

『拡散』とは!

肺胞に送り込まれた空気から酸素が肺胞の周囲の毛細血管内の血液に移動して静脈血を動脈血化する現象を「拡散」と呼びます。

この「拡散」とは書いて字のごとく、酸素の分子が拡がって散らばることを意味します。

つまりは気体の分子は、濃度の濃いところから(分圧の高いところから)薄いところ(分圧の低いところ)に移動する性質があり、これを「拡散」と呼びます。

拡散1

 

肺胞から肺毛細血管への酸素分子の拡散

肺胞から周囲の毛細血管に酸素が移動する「拡散」については、肺胞気の酸素分圧(PAO2)はおよそ 105 mmHg で、毛細血管に流れてくる血液は静脈血ですから、その静脈血酸素分圧(PvO2)はおよそ 60 mmHg となります。

 

ですから酸素の分子は酸素分圧の高い肺胞から酸素分圧の低い毛細血管内の静脈血に「拡散」していくのです。

 

そして酸素分子を受け取った毛細血管内の静脈血の酸素分圧は、肺胞気の酸素分圧とほぼ同じくらいの 100 mmHg となります。

酸素分圧が 100 mmHg となった血液は、これは既に動脈血ですね。 これが肺胞での静脈血の酸素化による動脈血化となります。

肺胞での拡散1

 

肺胞気動脈血酸素分圧格差(A-aDO2)を考える!

しかしこの時に肺胞気の酸素分圧と周囲の毛細血管の動脈血の酸素分圧は、完全にはイコールではありません。

肺胞気の酸素分圧(PAO2)に対して、周囲の毛細血管の動脈血酸素分圧(PaO2)は常に低い値を示します。

 

これは肺胞気から毛細血管の血液に対する拡散が、肺胞の膜である肺胞上皮細胞(Type Ⅰ cell)と毛細血管の膜である血管内皮細胞の2枚の膜を通して行われために、この2枚の膜を通過する際にロスが生じているのです。

 

このロスを肺胞気の酸素分圧((PAO2)と動脈血の酸素分圧(PaO2)の差で示した数値が『肺胞気動脈血酸素分圧格差(A-aDO2)』と言われる数値になります。

A-aDO2 1

 

『肺胞気動脈血酸素分圧格差(A-aDO2)』の計算式

A-aDO2 = PAO2 – PaO2    (単位: mmHg )

PAO2 = (760-47)×0.21-PaCO2/0.8

 

そしてこの『肺胞気動脈血酸素分圧格差(a-ADO2)』が大きくなることを『拡散障害』と呼びます。

『拡散障害』が進行することは、肺から酸素を取り入れる能力が低下しており酸素吸入などの治療が必要となります。

 

『肺胞気動脈血酸素分圧格差(a-ADO2)』の正常値

A-aDO2: 5 ~ 15 mmHg (正常値)

 

『肺胞気動脈血酸素分圧格差(a-ADO2)』の計算式の考え方!

まずは肺胞気の酸素分圧を求めるために、大気圧(1気圧)が 760 mmHg ですから、そこから体温 37℃ での 100% 加湿された場合の水蒸気分圧 47 mmHg を引きます。残った気体の分圧 713 mmHg に対しての酸素濃度 21%(0.21)をかけて酸素分圧を求めますが、ここからさらに肺胞気内の二酸化炭素分圧を引いた値が肺胞気の酸素分圧(PAO2)になります。ですが人間の体は酸素の消費に対して二酸化炭素の排出量が多いため、これを呼吸商 0.8 として肺胞気内の二酸化炭素分圧を多目に計算します。

A-aDO2 = PAO2 – PaO2    (単位: mmHg )

PAO2 = (760-47)×0.21-PaCO2/0.8

 

実は肺が酸素を取り入れる能力が低下する原因については、『拡散障害』の他に『肺内シャントの増加』『換気血流比不均等分布』が挙げられます。

それぞれに対して呼吸ケアの方法が全く異なってきますので、これらの違いを理解することはとても大切です。

 

また今回の章では述べませんでしたが、『呼吸不全』には「Ⅰ型呼吸不全」「Ⅱ型呼吸不全」があり、この違いは動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の違いから定義されます。

 

一般的に酸素を体内に取り入れる能力は肺のコンディションを反映しており、二酸化炭素を体外に排出する能力は換気能力、つまりは呼吸筋の出力や疲労を反映しています。

 

今後の章でこれらの考え方や実際のケアの方法について詳しくご説明していきます。

 

 

次回は

「呼吸ケアの基礎2  低酸素血症の原因と対策を考える!(拡散障害)」

について解説いたします。

 

注意

この『呼吸ケア』カテゴリの投稿は一般の方でなく理学療法士などの専門職に向けて書かれておりますので、一般の方には少し難しい内容になっております。

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