脳卒中片麻痺に伴うパーキンソン症状のリハビリ方法
はじめに
脳卒中片麻痺になると、場合によっては麻痺側の手足の痙性麻痺だけでなく、パーキンソン病的な症状、いわゆるパーキンソン症状が出現する場合があります。
この脳卒中片麻痺のパーキンソン症状については、歩行時の「すくみ足」や歩幅が極端に小さくなるなどの症状が一般的にはよくみられています。
また椅子に向かって歩いて行って座ろうとした時に、椅子の前で正面を向いた状態のまま腰を降ろそうとする動作をする場合などの現象がみられる場合もあります。
また大変なケースでは、お風呂に入ろうとして浴槽の中で腰を下ろそうとして途中で止まってしまい、にっちもさっちも行かなくなってしまう様なケースも稀に見受けられます。
これらの現象はみんなパーキンソン症状の原因となる「大脳基底核」の機能障害によって引き起こされていると考えられます。
今回は脳卒中片麻痺に合併するパーキンソン症状についてご紹介しながら、そのリハビリテーション方法について解説してみたいと思います。
どうぞ宜しくお願いいたします。
脳卒中のパーキンソン症状について!
脳卒中片麻痺では運動神経系の障害による痙性麻痺に加えて、パーキンソン症状が出現する場合があります。
このパーキンソン症状とは、一般的にはパーキンソン病と呼ばれる神経難病疾患と症状が似ているために、パーキンソン症状(パーキンソニズム)と呼ばれています。
ですが症状は似ていても、実際のパーキンソン病とは違います。
パーキンソン症状とは、あくまでもパーキンソン病に似た症状であって、パーキンソン病様症状と言う意味です。
実際の脳卒中のパーキンソン症状について!
では実際の脳卒中におけるパーキンソン症状とはどんなものでしょう?
「すくみ足」と「歩行リズム」の障害
特によく見かける症状としては「すくみ足」が挙げられます。
これは足を踏み出そうとする時に、うまく一歩目が振り出せなくて、歩き方がギクシャクしてしまう症状です。
また歩き出してからも、歩くリズムをうまくつかめなくて、途中から足の振り出しが止まってしまう場合もあります。
こう行った症状が出ている場合には、両手で交互にリズムに乗って膝を叩いてもらう様にすると、上手に叩けなくて左右の手がバラバラに動いてしまうのでよく分かります。
これはパーキンソン症状によって運動のリズム感が障害されていることが原因で起こっています。
動作の実行障害
またその他によく見かけるパーキンソン症状に、椅子に座ろうとして、キチンとお尻を椅子の方に向ける前に、腰を下ろし始めてしまい、ちゃんと椅子に座ることが出来ないというものがあります。
また入浴しようとして、浴槽の中でしゃがもうとして腰を下ろす途中でナゼだか動作が止まってしまい、中途半端に腰をかがめたままにっちもさっちも行かなくなるなんていう場合も稀にあります。
これらの症状の原因としては、パーキンソン症状による、動作の自動化の障害によって「無意識的に行う動作が無意識には行えなくなること」が考えられます。
パーキンソン症状の原因は「大脳基底核」の障害です!
ではこれらの症状はどうして起こるのでしょうか?
その原因について考えてみたいと思います。
実はこれらの脳卒中片麻痺に合併するパーキンソン症状は「大脳基底核」の障害が原因で起こっています。
それはどういう風に障害されてこんな症状が出るのでしょうか?
「すくみ足」や「歩行リズム障害」の原因
すくみ足や歩行リズムの障害は大脳基底核の特に淡蒼球と呼ばれる神経核が障害されて起こると考えられます。
この淡蒼球は被殻の内側にあって、視床のすぐ脇に位置しています。
そして視床が行う運動制御に対して、アクセルとブレーキをかける働きをしています。
もう少し詳しく説明すると、視床には一次運動野や大脳基底核からの運動制御に関する情報と、視覚や聴覚や運動覚などの感覚情報が集まって来ています。
そして視床ではそれらの情報を統合して動作を制御しているのです。
例えば突然背後で大きな音がしたら、びっくりして振り返るか、慌ててしゃがみこむなどの動作をしますよね。
また目の前に何かが飛び出してきたら、とっさに手で顔を守ろうとしたりします。
これらの動作は特に深く考えることなくとっさに行われます。
「大きな音がしたから振り返って確認しよう」とか考えてから動くのではなく、反射的に動いていますね。
こういう動作に視床が関与していると考えられています。
そして歩く時にも、左右の足の振り出しなどをリズムよく動かすために、この大脳基底核と視床が関与しています。
そしてその動作のリズムを作り出す働きの1つに淡蒼球のアクセルとブレーキの働きがあるのです。
自動車の運転の時のアクセルとブレーキを考えると分かりやすいと思います。
車を運転する時に、アクセルとブレーキを上手に使い分けないと、ギクシャクしてとても乗り心地の悪い運転になります。
脳卒中のすくみ足や歩行リズムの障害の場合には、まさにこの淡蒼球によるアクセルとブレーキの働きが上手に出来なくなって、ギクシャクした状態になっています。
動作の実行障害
動作の実行障害の場合には、大脳基底核と視床による動作の自動化のシステム自体が障害されています。
この大脳基底核での動作の自動化とは、例えばあなたがテーブルの上のグラスの水を飲もうとした時に、そう考えただけで、自然と手がグラスに伸びて上手に口元に運ぶことが出来ますね。
これはどういう事かと言うと、これらの普段からよく行う動作は、大脳皮質で意識しなくとも、その下の大脳基底核で自動的に動作を行う仕組みが作られているのです。
ですからあなたは普段から慣れた動作を行う場合、特に細かな手足の動きを意識しなくても、上手に目的とする動作を行うことができるのです。
そしてこの大脳基底核の動作の自動化のシステムが障害されると、目的とする動作を正しく実行することが出来なくなってしまうのです。
そして目の前に椅子が見えた途端、間違って自動的に腰を下ろす動作を始めてしまったりします。
また浴槽にしゃがみ込もうとしている時に、足元が滑るために緊張して、手すりに力一杯つかまったりすると、その手の動きをポンコツの大脳基底核が、身体を引き上げようとする動作を勘違いして、上半身は体を引き上げようと動かしてしまいます。
この時に下半身はしゃがみ込もうとしているので、上半身と下半身の動作がケンカしてしまい、上にも下にも行けなくなって立ち往生してしまいます。
パーキンソン症状に対するリハビリテーション方法
これらのパーキンソン症状には皆さん苦戦しておられるようですね。
普通の日常生活動作練習ではなかなか良くなりません。
ではこれらの問題に対する良いリハビリテーション方法はないものでしょうか?
今回はこの2種類のパーキンソン症状に対する効果的なリハビリテーション方法について、あなただけにコッソリお教えしますね。
「すくみ足」と「歩行リズムの障害」に対するリハビリテーション方法
実はこの「すくみ足」と「歩行リズムの障害」については、患者さんの隣に立ってイッチにイッチにと掛け声をかけてやると結構皆さん上手に歩き出すのです。
つまりこれらの障害の問題であるリズムを改善してやれば問題は解決していきます。
さらにリズム障害と同時にそれに合わせた左右の足への体重移動も障害されています。
ですからリハビリ方法としては、リズム感の良い音楽に合わせて、左右に腰を振る運動をお勧めしています。
この場合のリズム感の良い音楽とはズバリ行進曲ですね。
間違っても演歌なんか聞いてはいけません。
「万朶の桜」や「軍艦マーチ」がお勧めです。
美空ひばりは諦めてくださいwww
これらのリズム感の良い音楽に合わせて鏡を見ながら腰を左右に振るだけです。
左右への腰の振り幅は、鏡を見ながら左右均等になるように練習してくださいね。
メニューとしてはこれだけです。
簡単でしょう!
でも効果が出るまで毎日ずっと継続して行うのは、そんなに簡単ではありませんよ。
頑張ってくださいね。
「動作の実行障害」に対するリハビリテーション方法
動作の実行障害がある場合のリハビリテーション方法はもう少し複雑になります。
ここで上手く出来なくなった動作をできるようにするために、一次運動野のコントロールを活用したリハビリテーションを行います。
これはどういう事かと言うと、大脳基底核での動作の制御は、一次運動野によって上位支配を受けています。
つまり無意識に行おうとすると、大脳基底核が不調なために、動作がギクシャクして止まってしまいます。
でも一次運動野で意識的に動作をする機能は保たれています。
ではどうやって一次運動野での動作をコントロールでパーキンソン症状を改善するのでしょうか?
それは言語コマンドによる動作制御を行います。
具体的には動作を細かく言葉で指示する事で、大脳皮質で強く意識した動作を行います。
そうすると今までやろうとして出来なかった動作が出来るようになるのです。
そして大脳皮質の一次運動野からは常に大脳基底核に運動信号が伝えられていますから、一次運動野での運動制御を続けていると、大脳基底核の機能も少しずつ回復してくるのです。
もっと具体的な動作の練習方法については次回の記事でご紹介したいと思います。
もう少しお待ちくださいね。
まとめ
今回は脳卒中片麻痺に合併するパーキンソン症状について、その原因とリハビリテーション方法について解説しました。
大脳基底核は脳出血ではよく障害される部位ですし、脳梗塞でもラクナ梗塞などでは特に良く障害されます。
ですからパーキンソン症状は脳卒中では結構メジャーな問題になっています。
今回ご紹介した方法は臨床でとても効果が高い方法です。
ぜひパーキンソン症状の改善方法を試して見てくださいね。
最後までお読みいただきありがとうございます。
注意事項!
このサイトでご紹介している運動は、あなたの身体状態を評価した上で処方されたものではありません。 ご自身の主治医あるいはリハビリ担当者にご相談の上自己責任にて行ってくださるようお願い申し上げます。